ヨルムンガンド(1)ドライブ
暖かな日差しがそそぎ、楽器の音や会話する声が入り乱れている。その一角で、僕達は昼ご飯を食べようとしていた。
「いい天気だなあ」
御崎 怜、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「気分はピクニックだねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「ああ、腹減ったあ」
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、彼は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
「さあ、食べようか」
シエル・ヨハンセン。穏やかで人当たりのいい、金髪碧眼のハンサムだ。留学生で、日本語は読むのも書くのも堪能だ。
弁当箱の蓋をとる。ペンネペスカトーレ、チキンサラダ、りんごとさつま芋の包み揚げ、いんげんの胡麻和え、大豆ひじき煮、野菜と小がんもの炊き合わせ、青ジソしょうがごはん。
包み揚げは、包む時にしっかりと周りを閉じる事が肝心だ。そしてチキンサラダは、裂いた蒸し鶏を生野菜の上に乗せただけだが、チキンの下味でドレッシングがいらないので、弁当向きだ。
「弁当は世界で広がっている日本文化のひとつで、フランスでは辞典にBENTOUが乗ってるし、キャラ弁も流行ってるけど、やっぱり日本の弁当には敵わないね。わざわざ作り込まなくとも、日本の弁当はきれいだ」
「しかも、安い。特に最近のスーパーの弁当。採算取れてんのか、思うわ」
シエルの言葉に智史は返し、スーパーで買って来た弁当に箸を入れる。
「智史は自炊だろ?」
訊くと、智史は唐揚げをモグモグとやりながら、
「ん、まあな。主に金銭的なアレでなあ。せやけど、買った方が安いんちゃうか、思うわ」
「宅配の体に安心シリーズも結構安いよね。カロリー制限とか塩分制限とか色々あって、レンジでチンするだけの手軽さ。日本は弁当大国だと、本当に思うよ」
「まあ、弁当の歴史は凄いもんねえ。根付いてるんだよねえ、生活に」
話しながら食べていると、上級生が寄って来る。
「食事中にごめん。演劇サークルなんだけど、アクションができる人を探してて」
「ああ、すみません。ちょっと」
「料理研究部なんだけど」
「あ……サークル活動には興味がないので」
すごすごと帰って行く。
「よう来んなあ」
「面倒臭いからサークルに入る気は無いって言ってるのにな」
サークルの勧誘が多くて、それをずっと断り続けているのだ。
「ん?ニュース速報や。またテロやて。自爆テロ」
スマホに入って来たニュース速報に、智史が気付く。
「何か頻繁すぎて、初め程驚かなくなってきたな。恐ろしい事に」
「そうだねえ。まあ、まだ日本ではないから、日本で起きたら流石に皆大騒ぎだろうねえ」
「宗教に命かけるいうんが、ピンと来んわ」
「日本人の宗教観は、大らかだからねえ」
シエルは苦笑して、話題を変えた。
「それより、気候もいいし、ドライブにでも行かないか。テレビで見た、山全体がピンク色になるのを見てみたいよ」
「山桜か。ええなあ。免許も取った事やしな」
「行くか」
「いいねえ」
ニュースの事はコロッと忘れて、ドライブの予定を立て始めたのだった。
当日は晴天で、レンタカーを借り、意気揚々と出発した。
が、山中で見たものは、山桜ではなく、霊の起こしたトンネル崩落だった。
 




