枷(5)挑戦
推測は混じるが、松田サキエは自分の剣の腕も生き方も、女のくせに、女なんだから、という枷に囚われて生きる事を余儀なくされたが、それがいたく不満だったようだ。そして墓から解放されて、その象徴のような実家の宝刀の所へ向かったということらしい。
その途中、「女のくせに」「男のくせに」という発言が耳に入ったのだろう。それで怒りを呼び起こされ、その発言をした者を斬ったのだろうと思われる。
頂上公園で凜達のそばにいた時はギョッとしたが、何も起こらなかったのでよかった。
その事はわざわざ告げないつもりだし、凜を見たとも言わないで、遠足の話を聞こうと思う。
そうして予定通りに定時で帰ると、凜が嬉しそうに玄関まで走って来て飛びついて来た。そして、お弁当がきれいで美味しかった事、ケーブルカーから見た山がきれいだった事、みんなでハンカチ落としとだるまさんが転んだをして遊んだ事などを報告してくれた。
「楽しかったみたいだな。いいなあ」
手を洗い、着替え、凜をまとわりつかせながらリビングへ入ると、凜は今度はリビングのローテーブルの上に置かれた箱を開ける。
「ん!お父さんとお母さんにも、見せてあげる!お弁当とおんなじ!」
きれいな小石と真っ赤な紅葉、どんぐりがたくさん入っていた。
「お、きれいだな」
「いっぱい集めたのね」
僕と美里はそう言いながら、そう言えば敬もこのくらいの時に葉っぱや小石を集めて見せてくれたな、と懐かしく思った。
「お父さん。今度はぼくもお弁当作ってみたい」
凜が言い出す。
「お、いいぞ。そうだなあ。じゃあバラの花を手伝ってもらおうか」
ハムを重ねてくるくる巻けばいいのだが、幼稚園児ならそのくらいが適当だろう。
「ん、がんばる」
凜がやる気になっているのを見ながら、男だろうが女だろうが、やりたい事にチャレンジできるのはいい事だと思った。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




