枷(1)遠足日和
きれいに詰め終わった弁当を眺める。
小さなお弁当箱の下の方に弧を描くようにチキンライスを入れ、その上にチーズハンバーグを置く。いい感じにトロリと溶けたチーズの上に、細く切ったのりで窓を作り、カニカマで飾りを入れると、かわいいケーブルカーになった。そして周囲には、ブロッコリー、太陽に見立てた卵焼き、さつまいもをイチョウ型に抜いて甘く炊いたもの、人参を紅葉型に抜いて甘く炊いたもの、ウインナーで作ったどんぐり、ハムをカップにしてポテトサラダを入れた花、ちくわとチーズとのりを巻いた渦巻き、うさぎりんご。
幼稚園児の遠足の日のお弁当のできあがりだ。今日は凜達の通うたんぽぽ幼稚園の遠足で、近くの山にバスで行き、ケーブルカーで山頂の公園へ行ってお弁当を食べて帰って来る、という予定だ。
「喜んでくれるかな」
僕は凜の顔を思い浮かべながら、ふたを閉めた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
小さな子供用のお弁当箱と箸入れをきんちゃく袋に入れ、水筒を準備すると、おやつの袋と一緒にリビングのローテーブルに並べた。
天気もいいし、紅葉もきれいに見えるだろう。
窓の外の空を見上げ、僕は楽しい遠足になる事を願った。
「おやつにバナナが入らないと聞いて、大きいの、ひと房持って来た奴もいたよねえ」
直が思い出して笑う。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「それでバナナでお腹いっぱいになってたな」
「バカだよねえ」
僕達は昼食を終え、陰陽部の窓際で外を見ながら話をしていた。
「まあ、今日は天気もいいし、遠足日和だな」
「ああ、ボク達も遠足に行きたいねえ」
「チチィー」
アオも一緒に並んで、青空と紅葉を想像する。
しかし、勤め人としてはそうはいかない。せいぜい、子供達の土産話を楽しみにしていよう。
そんなのんびりとした空気は、飛び込んで来た仕事によっていとも簡単に消え去った。
「墓が倒れて中から何かが飛び出して、周囲のものを切り裂いて飛んで行ったそうです」
「課長、かまいたちですか!?それとも先祖の呪い!?」
一部はワクワクとしているが、封じていた先祖か何かが飛び出したとなると、簡単には収まらない事もある。
「被害が大きくならないように早く手を打たないと大変だな」
「行先を追えるといいんだけどねえ。急いで行こうよお」
「そうしよう。ああ、面倒臭い事にならないで欲しいな。今日は定時で帰りたいのに」
「ホントだよう」
僕と直は、ボソリとそう呟いて、詳しい内容に目を通し始めた。
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