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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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再びの出会い(2)ユキの結婚祝賀会

 七美は、せっかく入社した会社だったが、行くのが嫌で嫌でたまらなかった。

 あろうことか、和奈と同じ課に配属になってしまったのだ。

「いやあ、藤里さんは明るいし素直だしいいね!」

「ありがとうございます!」

 ニコニコと笑う和奈と上司や先輩達を見る度に、七美は何度も叫び出しそうになった。中学の時と、同じ顔で、和奈が笑っていたからだ。

 周囲の人間を味方につけて、コレと選んだ人間を孤立させる。次に、悪い噂やイメージをばらまいて、信用を無くさせる。そうなったら、本格的ないじめが始まる。

 訴えても、悪い噂やイメージを植え付けられているので、誰もが和奈の言い分を信用するのだ。

 取り巻きに囲まれて笑い、七美を蔑んだような目で見る和奈に、七美は恐怖心と怒りと焦りが混然となったような思いを抱いた。


 すっかりと課内での立場を作り上げた和奈は、輪の外でビクビクしている七美を見て鼻で嗤った。

 和奈はすっかり忘れていたというのに、七美のビクビク、オドオドとした顔付きを見て、思い出した。いつまでも昔の事にこだわって鬱陶しい。子供の頃のちょっとした遊びなのに。そう思う。

 なので、ちょっと憂さ晴らしに、

「久しぶりよねえ、本当に。

 そうそう。何かと物入りで、ピンチなのよね。ちょっと貸してくれないかしら?」

と言ったら、面白いくらいに顔色を青くして、ひきつけを起こしそうになったのだ。

 笑えたので、写真を撮っておいた。

 ロッカーに書類をしまい、和奈は、目の端に映った七美を見た。

 バカみたい。そう思い、視線を慌てて逸らす七美を嗤う。

 その時、キイ、という音がして、何気なくそちらへ――ロッカーの方へ目をやった。

「え?キャアア!!」

 書類の詰まった重いロッカーが、グラリと和奈の方へと倒れて来ていた。

 自然と飛びのいていたらしいと、ロッカーが大きな音を立てて倒れたのを呆然と見つめながら、和奈は他人事のように思った。


 グラスを掲げて乾杯し、食事をしながら馴れ初めや昔のエピソードを話す。

 今日はレストランの個室で、ユキの結婚を祝っていたところだった。

「職場結婚ですか。いいなあ。羨ましい」

 楓太郎がそう言う。

 高槻楓太郎(たかつきふうたろう)。高校、大学時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。大手保険会社に勤めている。

「楓太郎のところも、女性社員は多いだろ?」

 訊くと、楓太郎は苦笑を浮かべた。

「パートの既婚のおばちゃんが多いんです。独身の女性社員は、モテるタイプのところに集中してますよ」

「へえ。宗は?」

「忙しくて、そんな余裕がないですね」

 宗は嘆息した。

 水無瀬宗(みなせそう)。高校、大学時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。高校の教師をしている。

 宗も楓太郎もいいやつだから、きっといい人とその内出会うだろう。

「まあ、こういうのは焦る必要はないしな」

「そうだねえ。何か2人共、ある日突然決まりそうな気もするよねえ」

 直が言うと、皆で一斉に「するする」と首を振った。

「でも、ユキが協会の職員とねえ。しかも電撃婚」

 エリカが笑う。

 美保(みほ)エリカ、高校で同じ心霊研究部を創部した仲間だ。オカルト好きで、日々、心霊写真が撮りたいと熱望している。陰陽課の刑事である美保と意気投合し、結婚した。

「ふふふ。時間とか子供の頃の漠然とした夢とか、そういうのって関係なくなるのね」

 ユキはおかしそうに笑った。

 天野――いや、宮野優希(みやのゆき)、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。病院で事務員をした後、霊能師協会に心理カウンセラーとして転職していた。

「俺も、ユキって密かに人気だから、急いだ方がいいかなって思って」

 新郎の宮野がそう言って、ユキと2人で恥ずかしそうに目を合わせた。

 この宮野は協会で事務員をしている普通の人で、とにかく真面目そうだ。

「とにかくおめでとう」

 美里がもう一度グラスを掲げ、皆で乾杯をした。

 と、チリ、と、気配がした。

「……ちょっと、電話」

 僕と直はチラリと目を見交わして立ち上がった。

「すぐに戻るからねえ」

 そして、廊下に出て嘆息した。

「めでたい日に面倒臭いのは困るぞ」

「どこかねえ、全く」

 言いながら、気配を辿った。

 すると、別の個室に辿り着いた。

「ここか」

「だねえ」

 何と言って中に入ろうか。そう考えたのもつかの間、部屋の中から悲鳴が響き渡った。









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