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元白鳥の十一王子は、極度のシスコンである。

作者: 古坂意之

~三行で分かる!「野の白鳥」~

継母の呪いで十一人の王子は白鳥にされ、姫は捨てられました。

兄と再会した姫は、一言も話さず刺草で鎖帷子を織る事で解呪に挑みます。

姫は王に拾われ、一度は処刑されかけるも、兄達が人に戻り結婚しました。

  僕は「不幸な人生送ってるね」と言われる事が多い。事実、あのクソア……失礼、ハハウエサマのせいでかなり理不尽な目にも遭っているのは確かだ。

  しかし、僕自身はかなり恵まれていると思っている。

  何故なら――僕の妹であるエリサは、宇宙一可愛い天使であるからだ。


  経歴について話せば長くなる。僕は元々そこそこ大きな国の王子だった。そして追放された。兄共々。別に何かしたという事ではない。継母にあたるハハウエサマが人間として屑であった、それだけだ。まああの女を後妻にして言う事を鵜呑みにしていた父上にも文句はあるが、それはこの際置いておく。無事王位は一番上の兄さんが継いだので問題は無い。

  その後あの女の呪いで白鳥にされたり、可愛い可愛いエリサと再会したり、天使にして聖女たるエリサのお陰で人間に戻ったりしたが、この辺は割愛する。

  エリサは実によく出来た子だ。「我が王国の至宝」と言われていた。白い肌に薔薇色の頬。長くて美しい金髪に、澄んだ緑の瞳。顔はまるで天使か人形のような可愛らしさ。神に愛されたような愛らしい見た目にも関わらず、驕らない。いつも神に感謝を捧げ、人と分け隔てなく接する。いつも「兄さん兄さん」とちょこまか僕らに付いて来ては、にこにこと笑う。その上、大変真面目で辛抱強く、絵本が好きなんていう女の子らしい趣味の持ち主。なんだただの天使か。

  そして、僕は最近本当に不機嫌だ。何せ、可愛い可愛いうちのエリサが、大僧正に押し切られてエリサを処刑しかけるようなヘタレ野郎の嫁に行ったからである。


  僕の姿を見ると、エリサはこちらへ駆けてきた。うん、可愛い。


「フェーダ兄さん!」


「やあ、僕の可愛いエリサ。元気だったかい?」


「もう、兄さんってば。いっつも会う度に可愛いなんて言われたら、調子に乗ってしまうでしょう?」


「いいんだよ、エリサはそれ位可愛いんだから」


「やめてよ、もう……」


  エリサは顔を真っ赤にして照れている。やっぱり可愛い。


「どうしたんだいエリサ……あっ」


「おやおやどうしたのかいトバイアス君。義兄に顔を出されるのがそんなに嫌?今なら義兄さんと呼んでいいよ……いつまで大丈夫かは分からないけどね」


「義兄さん……エリサの事は、大切にしますから……」


「んー、何か言った?言ってないよね。そうだよねぇ、エリサを処刑しかけて今更都合のいい事なんて言えないよねぇ」


「……兄さん、いい加減にしてあげて?私にも思う所がない訳ではないけれど……トビーはね、私が大好きなの。私も、だけど」


「エリサ、君の願いは何でも叶えてあげたいけれど、兄には譲れない時があるんだよ」


「むぅ……フェーダ兄さん以外は、皆祝福してくれたのよ?」


「そうだろうね」


  僕には十人兄がいて、僕は十一男だ。そして、一番年が近いのもあって、僕は自他ともに認める兄弟一のシスコンである。だからこそ、兄としてここは譲れない。


「義兄さん、誠に申し訳ございませんでした!」


「そんな謝罪で許すとでも?エリサ、行こっか」


「え、ちょっと兄さん……!?」


「よいしょっと」


  僕らをエリサから引き離し、彼女に苦労を強いたあの女は大っっ嫌いだが、一つだけ感謝出来る事がある。

  エリサが呪いを解く為に編んでくれた鎖帷子は、僕の分だけ仕上がったのがぎりぎりだったので左袖が無かった。未だにそれを謝ってくるのがいじらしくて本当に可愛い……おっと。

  その為、僕の左腕は白鳥の羽根のままだ。しかしそれ故に、それこそ白鳥の姿だった時程の距離や速さは出せないが、僕は空が飛べる。

  お陰で、必死に馬を駆るしか出来ない義弟を撒くこと位は朝飯前なのだ。


「兄さん、本当にそろそろ許してあげてよね?」


「可愛い可愛いエリサを、簡単に娶らせるのは癪なんだ」


「うぅ……」


  頬を膨らませて僕をぽかぽかと殴るエリサ。威力は精々肌にへこみが出来る位しかない。ああ、眼福……


「さて、ちょっと掴まっていてね」


  すっと港に降下すると、用意していた二枚のチケットを見せて僕らの国へ向かう船に乗った。流石にこの海を飛んで渡り切るのは無理だ。ここと国が船で結ばれるようになったのはエリサが結婚したからだというのは悔しいが、仕方ない。


「やっぱり船って、何回乗っても落ち着かないわ。けど、眺めが良くて、とっても楽しいの」


「だよねぇ」


  エリサが可愛い。はしゃいでいるけれど攫われてきたので建前上それを隠そうとするエリサ可愛い。

  周りからの目は若干生温い。普通に不敬だが、まあこれは僕の責任もあるので大目に見ておく。お忍びだしね。

  こうして僕らは故郷に帰り、僕はしばらくエリサを甘やかしていた。怒っているので素直になれないけどなんだかんだいって嬉しそうなエリサを見られる貴重なチャンスである。

  そしてそれから三日後。


「はぁ……義兄さん……」


  そろそろだろうと思った所だ。飛べる僕ならともかく、常人としては有り得ない早さでお迎えが来た。馬を走らせ船に乗り、また馬を駆って来たのだろう、肩が上下に動いている。まあ、及第点だ。


「義兄さん……大変身勝手である事は承知の上ですが!妹さんを僕に下さい!」


「エリサは?」


「天使です!」


「傷つける者は?」


「即排除します!」


「どこが好き?」


「全てです!」


「エリサの為なら?」


「死ねます!」


「いいだろう!持ってけこの泥棒!」


「ありがとうございます!」


「……兄さんってば、これ何回やるの?三ヶ月に二回、もうこれで十回目よ?結婚して一年以上経つのに……船の船員さんも、街の人も、『あっ、いつものか』みたいな目で見てたわよ?」


「いいかいエリサ、兄には譲れない時があるんだよ」


「兄さん、いつもそれで逃げて……」


「いいんだよエリサ。僕はエリサに酷い事をしたんだ、これで許されているだけ義兄さんはお優しい」


「トビーがいいならそれでいいけど……この茶番の為に王なのにお忍びで国を出て船で往復する羽目になるトビーの事も考えてあげてよ!」


「まあ、善処はしてみるよ」


  まあ、僕としてもこの義弟(トバイアス)はそこそこ気に入っている。

  精々エリサの夫としてちゃんと頑張ってくれ。……次は、向こうの国に別荘でも買って、そこで待ってやろう。うん。

実は最初トバイアスとどっち主役にするか迷いました。

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