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奇策

作者: 松尾甚七

 男たちは机上の地図に視線を下ろしている。この場は沈黙に支配されていた。

 或青年は俄に顔を上げ、「私に妙策があります。」と口火を切った。

 彼は若い傭兵である。普通ならこのような男の話す策に軍人は耳を傾けない。しかし、数百の兵でもって数千の魔物の軍勢を撃退しなければならないという絶望的な状況にあった彼らは藁にもすがる思いで青年の言葉を待った。 

 青年は地図を再び見、それに書かれたとある高地を指差し、「まずここに我が軍の主力があると思わせます。さすれば敵はこれを攻撃するために○○高地へと向かうでしょう。そうなると」青年は指先をある谷に向け、「敵軍はこの谷底を通らざるおえません。」とこの場の最上級者である壮年の男を見つめて言った。

 「このような狭隘に於いては戦力の集中ができません。ですから奇襲をかければあるいは敵将の首を討ち取れやもしれません。」青年の目は未だ壮年の男を捉えている。

 しかしそれはと青年は口ごもった。「十の内一と言ったところでしょう。」彼は自分の髭を撫でている。

 「故に私はもう一つの策を考えました。」それはと青年は地図に書かれた谷の東に位する一つの森を指差し、その後にそれと向かい合っている森林に指先を向けた。「この二つの森に非戦闘員配置し、彼らに数多の旗を上げさせるのです。上手く行けは敵は二つ大軍に挟まれていると錯覚するでしょう。」彼は自信満々

である。

 「そんなものは机上の空論である。」或若い軍人は机を叩き、叫ぶ。

 青年は冷静に「ではあなたは何か策をお持ちですか。」と反論した。

 若い軍人は押し黙る。「寡兵もって大軍を制するには伸るか反るかの賭けをせねばなりません。」青年の声には力が込められていた。

 果たして敵軍は谷底を進軍した。それを見た青年は我勝てりと一人ごちる。彼の口角は上がっていた。

 「火矢を放て」この軍の最高指揮官が号令する。その刹那、数百の光が弧を描く。不意の攻撃に魔物軍勢は恐慌した。

 次の瞬間谷の東と西にある二つの森にて、合わせて数百の旗が上がった。

 谷底の軍勢の将は怯えている。軍隊に於いて、旗といのは一個の小部隊につき一つあるものである。故に其々の軍旗の元に士卒が数十人ずつあると信じた彼は数万の大軍に挟撃されていると錯覚していた。

 彼の首級を上げんと兵たちが殺到する。将は最早勝目なしと判断し、全軍に退却を命じた。

 かくして危機は去ったのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の雰囲気や、描きたいものがどういったものかはよく伝わってきます。創りたいと思っているもののイメージがハッキリしていることは、それだけで強みになることもあるので良いと思いました。 [気にな…
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