トラック異世界転移
どうもトラックです。
住宅資材を取り扱う会社に所属する何の変哲もない普通のトラックです。
異世界に人を送り込む悪名高きトラックとイメージが付いてますが
こういった事故を起こしたトラックというのは解体されるか廃車にされて
人でいうところの「死」を迎える事になるので
トラックとしてもそんな目には遭いたくないですし遭わせたくもないのです。
そんなトラックの間では異世界転移は都市伝説として噂されていて
先輩トラックに
「事故起こして異世界転移なんてさせるんじゃねえぞ」
と、冗談まじりに言われて
「自分で運転してるわけじゃないです」
「そうなったらドライバーのせいです」
などと返すのが出発する時の挨拶代わりとなっていました。
いつもと変わらずいくつかの住宅建築現場に資材を配達して回り
夕やけ空から夜へ差し掛かる街並みのなか、会社の車庫へと帰る途中
突然
「俺は異世界転移してやるんだ」といきなり人が飛び出してきて
「危ない」とブレーキを踏まれたんだけど間に合わず当たる寸前
光に包まれました。
車庫での冗談が本当になってしまった。
あーこれで終わった。
工場でトラックとしての「生」を受け
会社に入った右も左もわからない新人のトラックに
先輩トラックの方々は優しく受け入れてくれて嬉しかったこと。
激しい雨の日にはワイパーを動かしながら雨どいを運び
暑い日差しが降り注ぐ日には窓サッシを運び
冷たい雪の日にはタイヤチェーンを履き断熱ボードを運び
不景気になった時には中古トラックとして売られそうになったり
それでも頑張って働いてきたこと。
今までの出来事が浮かんでは消えていきました。
光が収まっていくと
そこには先ほどの街並みはどこへやら
草原と舗装されていない道が伸びていました。
まさか飛び出した人の方ではなく
トラックの方が異世界転移するとは思いませんでした。