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少年忍者の挑戦

お兄ちゃんに文化祭公演で急に役がついた次の日の朝。

「世話が焼けるんだから! お兄ちゃん!」

 あたしは中等部のセーラー服をまとって、家の玄関を飛び出す。

 郊外の静かな早朝に、住宅地をまっすぐに貫くアスファルトの道を駆け抜ける。

 これがあたしの日課だ。

 凄まじい風圧があたしのセーラー服を引っつかむ。

 膝がきちんと隠れるスカートをはいても、裾はひっきりなしに大きく閃く。

 ……恥ずかしい!

 部活の早朝練習に向かう高校生。

 早めに登校する途中の中学生。 

 すれ違って振り向こうもんなら。

 追い抜いた相手が目を凝らそうもんなら。

 ……見える。

 だが、それは有り得ない。

 あたしの全力疾走は、目に見えないのだ。

 思い思いの方向を向いている視線をかいくぐる。

 そのステップは1秒間に約20回。

 あたしは、音1つ立てずに思いのままに足を踏みかえることができるのだ。

 そのままの勢いで、90度回転。

 身体ひとつ入るぐらいの小さな路地へ滑りこむ。

 地面を蹴る。

 左右のブロック塀の上に跳び上がると、足場はせいぜい10センチ幅。

 スピードを上げて一直線に駆け抜ける。

 だけど、あたしの姿に気づく者はない。

 目にもとまらぬ速さ、と言っちゃえばそれまで。

 だけど、それだけじゃない。

 塀の上を疾走するセーラー服の女の子。

 信じられる?

 そんなの、一瞬目撃したところで、寝ぼけたんだとしか思えないでしょ?

 こんな芸当ができるあたしは、ただの女子中学生なわけがない。

 これは、忍術。

 一夜の内に千里を駆けると伝えられるその技を、あたしは受け継いでいた。

 飛燕九天直覇流奇門遁甲殺到法(ひえんきゅうてんちょくはりゅうきもんとんこうさっとうほう)。

 あたしは吉祥蓮のひとり。

 すなわち男たちを見守り、世に泰平をもたらす女。

 これは、あたしたちの先祖が歴史の闇の中で磨き上げてきた忍術なのだ。

 だけど。

 常にあたしの日課を妨げる不届き者がいた。

「よお、お早う」

 路地ひとつ挟んだ塀の上を走る奴が、もう一人いる。

 背は、高い。

 すらりと伸びたしなやかな手足。

 ちょっと、テレビの中のエイジ君ぽい。

 鞄を抱えて、あたしと同じ速さで走る。

 でも、ペースは割とゆったり。

 白堂玉三郎はくどうたまさぶろう

 こいつは、あたしが入学してから、横にぴったりついて走るようになった。

 人には見えないはずの疾走に。

 実はこいつ、あたしと同じ倫堂学園中等部1年生。

 もちろん、普通の人間じゃない。

 玉三郎もまた、忍術を操る一族なのだ。。

 その名も、鳩摩羅くまら衆。

 歴史の陰に潜み、争乱の種を蒔く厄介な男たち。

 その上で、自分でその仲裁をして荒稼ぎをしてきたセコい男たち。

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