オクテ青年のアプローチ
若者とは、携帯電話の番号を交換してあった。
無論、この電話はこの仕事用のダミーである。
私は基本的に、固定電話と留守番電話しか使わない。
吉祥蓮は、それで用が足りるのだ。
連絡手段が手軽になれば、確かに仕事は楽になる。
だが、その分、隙と気の緩みが生じるものだ。
迦哩衆が、間違いなく動いている。
歴史の闇で男たちを食い物にしてきた女忍者集団だ。
携帯電話での会話は、どこで聞かれているか分からない。
戦闘になれば、あるいは人混みの中に入れば、奪われないよう守るものが増える。
そんなわけで、瑞希にも与えるつもりはない。
ダミーの電話は、万が一の場合を最低限に抑えるための知恵だ。
しばらく経って、その携帯電話に控えめな声で連絡が入った。
「先日はありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
自分でも応対がオバサンだなと思う。
若者が丁寧に報告する。
「職場の女性と、ようやく話せるようになりました」
だいたい2週間……。
意外に早かった。
時間稼ぎのつもりだったのだ。
仲間からの話を聞く限り、この若者がまともに女性と話せるわけがなかった。
それができるようになるまで、彼にちょっかい出してきた女との関わりを阻めると思ったのだ。
戦略を変えなければならない。
「でも、条件にかなう人が見つからないと……」
午年の午の月、午の日生まれ。
確率的に、かなり難しいはずだ。
少しでも、迦哩衆との接触を先延ばしできる。
その間にしびれを切らして動き出せば、こっちのものだ。
姿を現したときが、忍者の命取りなのだ。
だが、若者はあっさりと答えた。
「いました」
何という強運……。
人間、何か一つ取り柄があるものだ。
冬獅郎さんや冬彦さんはどうだろうか。
優しさとかナイーブさとかそういうんじゃなくて……。
お金になりそうな。
いかんいかん、鳩摩羅衆みたいなことを考えてしまった。
そこはやっぱり、主婦だから……。
我に返って気を取り直し、私は若者に告げた。
「では、明日、同じ時間に同じ場所で」




