吉祥蓮のお仕事
ちょうど半年ほど前だった。
私は隣町に住む吉祥蓮の仲間から、近所のファミレスに呼び出された。
これも、吉祥蓮のネットワークだ。
カバーする範囲には地域差があるが、だいたい町内から市区町村までだ。
主に、情報交換や相互扶助を行っている。
私たちも同年代で子持ちなので、お互い気安く連絡を取る間柄だ。
しかも、がっしりした体格はとても忍者には見えない。
だから、頼みごとをするときも、堂々と話す。
「ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」
吉祥蓮の「教える」は、「調べる」を意味する。
つまりこれは、何か男性に関わる問題がネットワークに引っかかったということなのだ。
「この人なんだけど」
丁寧に磨かれたテーブルの上に置かれた証明写真。
これといって取り柄のなさそうな、会社員風の若い男が写っている。
証明写真ですら隠せない、人の好さそうな表情。
私も吉祥連の端くれだから、を見たら分かる。
頼まれたら、いやといえないタイプだ。
たとえば、冬獅郎さんみたいな。
力になってあげたいな、と思った。
「どこの人?」
隣町の人かどうかを確かめたのだが、出身地を聞いたと取れるから、便利な言葉だ。
「そこ」
この町からみれば、隣町は「そこ」だ。
じゃあ、と私は「教える」ふりをして聞いてみた。
「まず、ギャンブルはしないわね」
へえ、という答えが返ってきた。
その通り、という意味だ。
「酒は飲まない」
鼻息一つで視線をそらされる。
当たらずとも遠からず、といったところ。
付き合い程度ということか。
「帰りは遅い」
「今日はおごるわ」
脈絡のない一言で、残業代なしと見た。
因みに、割り勘は吉祥蓮の暗黙ルールだ。
「女性関係なし」
不機嫌そうにそっぽを向かれた。
交際経験はおろか職場で口を利くこともないレベルということだろう。
結論。
酒とバクチと女、つまり、男の人生を破滅させる要素は皆無だ。
コンニャク問答終わり。
今度は仲間が顔を近づけて囁く。
「ご両親は一緒じゃないの?」
これは、私の容姿だからできる情報提供だ。
ちょっと聞けば、10代の女の子に対する挨拶程度の質問だろう。
だが、これは「両親と同居」だということだ。
さらに、親切なお愛想が返ってくる。
「お返しは結構です、と伝えといてね」
くどいようだが、割り勘だ。
これは、両親に内緒で借金をしていることを意味すると見ていい。
まじめな人ほど、ハマりやすいものだ。
そう考えると、吉祥蓮としての答えは1つ。
真面目な青年が、悪い女に捕まってしまったのだ。




