モブキャラ3人の嫉妬の視線
「忘れ物」
振り向くと、そこには長身の目立つ中学生が立っていた。
……何しにきた、玉三郎。
9月の澄んだ秋空の下で爽やかに微笑む美少年サマを無言で睨みつけてやる。
もっとも、この鳩摩羅衆の忍者は悪びれた風もない。
そこで、視界の外からいささか険しい声があたしをたしなめた。
「あなたね」
向き直ると、今度はセンパイ方が眩しい笑顔で立ち上がっていた。
あたしも微笑み返した。
玉三郎が名前の通り千両役者のように微笑んだのは、なんとなく気配で分かった。
ただし、センパイ3人の表情は、まとめて強張っていた。
しばしの沈黙の後、そのうち1人が言った。
どのセンパイかなんて、もうどうでもいい。
まず何よりも、この空気を何とかすることのほうが問題だった。
……余計なことしやがって、玉三郎。
冷たい声が、あたしのもろいハートに突き刺さる。
「目の前の幸せを大事にしたほうがいいんじゃないかしら」
遠回しな言い方だけど、明らかにトゲがあった。
言いたいことは、わかる。
あたしは真っ向から否定した。
「ち、違います、こいつは……」
でも、こんなしどろもどろじゃ弁解にならない。
クリアに伝えても、それはそれで逆効果だったと思うけど。
「それじゃ」
センパイは、あたしたちに背を向けて去っていった。
もう1人は、無言であたしと玉三郎の間を通り過ぎた。
最後の1人はすれ違いざまに、あたしの肩を叩いて行った。
「ま、頑張って」
そう言い残したのを、玉三郎は手を振って見送る。




