表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/150

美少女忍者の静観

 そんなわけで、あたしのお兄ちゃん静観生活が始まった。

 成り行きに干渉しないで、事態の推移を見守るのだ。

 手遅れになる前に悪い癖を止めないと、被害は当事者だけでなく、あたしたちにも及ぶ。

 図書館の窓から見た高等部の教室で、お兄ちゃんをうっとりさせていた黒髪の少女。

 それを発見した翌日、つまり水曜日の朝から、あたしは隠密行動を起こしていた。


 その日も、お兄ちゃんはやっぱり朝が早かった。

 7時前に起きて身支度を始めるのが、部屋の壁越しにも分かった。

 あたしがぬくぬくしたベッドの中でもぞもぞやってるうちに母さんは起き出したみたいだ。

 下の階から、ハムエッグの匂いがしてくる。

 あたしも起きようかなと思ったけど、一緒に朝ごはんを食べるわけにはいかないのだ、この場合。

 ……と言い訳して、きっちり二度寝を決め込む。

 で、がばっと跳ね起きて時計見て、慌てて制服に着替えて朝ごはんを食べにいくと、母さんが呆れたような笑い顔で、弁当箱の包みを指さした。

 早く起きた割に、やっぱり忘れていった、お兄ちゃんの弁当だ。

 あたしは朝ごはんもそこそこに、眠い目をこすりながら、お兄ちゃんを追って家を出た。

 早い話が、尾行だ。


 ほとんどの小学生は、まだ登校しない時間帯だった。

 部活の早朝練習に行く近所の中高生も、一人か二人しかいない。

 あたしは今、誰からも見られていないということだ。

 だから、隠れる必要もない。

 つまり、この日ばかりは疾走する必要がないってことだ。

 ……こんな朝は何年ぶりだろうか。

 お兄ちゃんが倫堂学園ここの中等部入ってからだから……3年ぶり?

 なぜか給食がなくて、弁当持参の私立中学に昼食忘れていくからこういうことになるんだけど。

 あたしが。

 そりゃ、いつもこのペースで起きて登校すれば済むかも知れない。

 でも、あのバカ兄貴のためにそこまでしてやる義理はない。

 女の子の睡眠はむしろ、バカな少年の空腹を犠牲にするだけの価値があるのだ。

 もっとも、そんなことを母さんに言ったらこっぴどく叱られる。

 どんな男にもそんな思いをさせないのが、吉祥蓮だからだ。


 だから、あたしはこんな格好までして恋するお兄ちゃんを尾行する。

 二度と、バカな振られ方をしないように。

 ダメならダメで、最初から関わらせないように。

 それも、バレないように誘導しなければならない。

 だからあたしは、やむなく一大決心をしたのだ。


 私服に黄色い帽子、赤いランドセル。

 半年前までの、小学生スタイル……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ