美少女忍者の決断
あたしは腕時計を見た。
12時を過ぎている。
おなかすいた。
腹を押さえてみても、それは治まらない。
……食い物の恨みは高くつくからね、お兄ちゃん。
どこからか、ガヤガヤという声が聞こえてくる。
いくら空腹といっても、幻聴が聞こえるほどじゃない。
腹が鳴る音に邪魔されないように、耳を澄ましてみる。
天井からだった。
ひょいと上を見ると、そこには排気ダクトがある。
察するに、講堂での説明が終わり、生徒と母さんたち保護者が席を立ったのだ。
でも、母さんはあたしが戻らなくても、それほど心配はしないだろう。
そこは吉祥蓮の忍者同士、阿吽の呼吸だ。
でも、何が起こっているかはたぶん、分かっていない。
「こういうときのためにスマホ持たせてよ……」
ぼやいてみたけど、それはたぶん通らない。
スマホはおろかガラケーですら、あたしもお兄ちゃんも使わせてもらえない。
自分のことは自分で片づけろ、が母さんのモットーなのだ。
そんなわけで、あたしは自力でここを脱出しなければならなかった。
まず、大声を上げるのはNG。
排気ダクトの反響で講堂まで届くかどうか。
だいいち、倉庫の表扉の外に聞こえてしまう。
そもそも、人知れず行動するのが忍者だ。
だから、方法は一つしかない。
幸い、天井ダクトの穴は、あたしが十分通れる大きさがある。
今、保護者と生徒は出て行った。
ということは、宣誓式が始まるまで講堂は空になる。
それまでにこのダクトを通って講堂に潜み、入ってきたお兄ちゃんに生徒手帳を渡せばいい。
問題は、服装だ。
中等部のセーラー服じゃ目立ちすぎる。
入学早々、妹に生徒手帳の面倒を見てもらっていてはお兄ちゃんのメンツが立たない。
そこを支えてやるのも、吉祥蓮の忍者。
……あ~、くだらない。
でも、宿命を呪っても始まらない。
今までもちょくちょくそんなことはあったけど、そこで蘇るのは死んだ父さんの言葉だった。
……「弱い奴を助けてまだ余る力が、本当の力だ」
ふっ、と笑ってこめかみを掻く。
したくないことに腹を括ったとき、こうでもしないとやってられない。
「世話が焼けるんだから、お兄ちゃん……」
幸い、誰も入ってこない。
あたしは、暗がりの中で服を脱ぎ捨てた。




