少年忍者の種明かし
あたしは息を詰めて、低い声で尋ねた。
「……なんで分かったの?」
「鳩摩羅衆だぜ、俺は」
遠く背後から聞こえる微かな声が、得々と説明した。
「ここに、1人の入学生がいる」
もったいぶって。
あたしのことでしょ。
「入学式が終わって、全力疾走で校門を出ようとしている」
制服の校章を見ると、こいつも1年生だ。
じゃあ、ここにいるあんたは何なの。
「でも、まだ保護者は帰らない」
必要なことは母さんに聞いといてもらうしかない。
「保護者でなく生徒が全力疾走で取りに帰らなければならないものは何か」
大きなお世話。
「保護者と自分でなく、他の誰かにその場で足りないもの」
そばにいないはずの相手の冷ややかな声が、耳元でつぶやいた。
「世話が焼けるな」
あたしの、お兄ちゃんへの口癖。
イラッときた。
「誰が!」
挑発に乗るのは、忍者として下策だ。
分かっちゃいたけど、気が付いたら一瞬で間合いを詰めてしまっていた。
「……飛燕九天直覇流鬼門遁甲殺到法『間殺』……」
獣志郎は興味深げに笑う。
こいつ……あたしたちの技を知ってる!
焦りから、つい食ってかかった。
「別にアタシがドジったわけじゃないんだからね!」
「じゃあ、兄さん?」
白々しく天を仰ぐ。
釣られて見上げた、桜の花びらが舞い散る空は抜けるように青かった。
慌てて向き直ったとき、思わず叫んでしまった。
「何でそれを!」
おそらくは忍者同士にしか聞こえない。
あたしの叫びは、澄んだ空に吸い込まれていく。
どうでもいいけど、こいつは背が高い。
お兄ちゃんぐらいだから、中学生としては相当目立つ。
忍者としては、アウト。
だけど、こういうときはあたしが不利だ。
獣志郎は小柄なあたしを見下ろして、諭すように説いた。
「今日は中等部の入学式」
それはあんたもあたしも知ってる。
「高等部では生徒会入会のセレモニーがある」
つまり「宣誓式」ね。
「さて、この学園で中等部に入った吉祥蓮の忍者が術を使ってまで取りに帰らなければならないほどの緊急性があるとしたら……」
勿体つけんな中2病。
「それは、高等部にいる兄か姉が午後の宣誓式で使う生徒手帳ぐらいしかない」
はいはい、名推理でした。で
でも……。
そこであたしはツッコんだ。
「兄だって、何で断言できるの?」
このくらい、揚げ足とらなきゃ気が済まない。
「バカの相手は一人でたくさん」
ムカッときたが、あたしがこいつに言ったことだ。
獣志郎は皮肉っぽく口元を歪めた。
「姉妹ならほっとくかな、と、何となく」
あてずっぽうだったわけだ、結局。
当たってたけど。
中2病の謎解きは、延々と続いた。
「入学生が上級生と手帳を交換して、互いにメッセージを書く大事なイベントだからな。午後は高等部の購買は休みで手帳は買えないし……」
ああ、まどろっこしい!
みなまで言わないうちに、あたしは獣志郎の背中に飛びついた。
喉に腕を回して、鍼をつきつける。
「どうにかなるのね? どうするか言わないと……」
一瞬であたしの腕をすり抜けた獣志郎は嘲笑った。
「お前には無理だな」
考える間もなく、あたしは鉄拳を見舞っていた。
紙一重の差でかわされる。
獣志郎はキザったらしく、親指で学園講堂のある巨大な本棟をぐいと示した。
「俺にしか分からない。ついてこいよ」




