母さんの語る忍者団の正体
玉三郎との出会いから今までのことを、お兄ちゃんや葛城亜矢の名前をださないで喋るのは随分と骨が折れた。
仕方ない。自分に都合のいい話をするのも、忍術のうちだ。
母さんはあたしの話に笑顔で相槌を打っていたけど、こういうときがいちばん怖い。言葉の端々から、どんなことを読まれているかわかったもんじゃないからだ。
とりあえず、今日のお好み焼き屋の一件を話したところで、あたしは自分の話をした。
「ねえ、あの玉三郎がお兄ちゃんにちょっかいだしてんのよ、あたしもう心配で心配で……」
自分でもわざとらしいと思うけど、玉三郎やお兄ちゃんから話をそらすには、あたしの気持ちを訴えるしかない。さすがに小さな(サイズの問題じゃなくて)胸を痛める娘が無視されることはないはずだ。
でも、その読みは外れた。
母さんは笑った。爽やかに笑った。
そりゃ、一芝居打ったのはあたしだけど、このリアクションは割とショックだった。
しばらく言葉も出なかったあたしの気持ちを察したのか、母さんはぎゅっと抱きしめてきた。
気まずいことがあったときのフォローは、いつもこうだ。
胸に顔が埋まって、苦しい。
「……母さん?」
あたしがもがもがやると、母さんは慌てて解放してくれた。ぜーはーいうのが収まるのを待ってから、話しはじめる。
「鳩摩羅衆は大丈夫よ」
そう言われても、信じられない。だいたい、金のためなら手段を選ばない荒稼ぎ男の集まりだって教えてくれたのは、母さんだ。
それなのに、真逆のことを言ってる。
「内乱や政争を煽りはするけど、自ら人を傷つけたりはしないわ」
褒めてるのか、けなしてるのか。その答えは、最後に出た。
「ただ、見殺しにすることはあるから、注意してね」
最悪だった。そういうヤツだとは思ってたけど、やっぱり玉三郎は中2なだけじゃないってことだ。
でも、話はまだ終わらなかった。
「むしろ……」
母さんの表情は急に険しくなった。
「むしろ、いちばん警戒しなくちゃいけないのは、迦哩衆」
あたしが今まで母さんから聞かされてきた忍者団は、2つしかない。
吉祥蓮……つまり、あたしたち。
飛燕九天直覇流奇門遁甲殺到法を受け継ぐ、女ばかりの忍者集団。
天下泰平を保つため、世の中を支える普通の何でもない男たちを日夜支えている。
鳩摩羅衆……つまり玉三郎たち。
せこい金儲けを繰り返す、暑苦しい男たちの集団。
玉三郎の話じゃ1200年くらい前にはあったらしい。どうでもいいけど。
でも、この名前は初めて聞いた。
「迦哩衆?」
聞き返しただけなのに、母さんの口調は一転して厳しくなった。
「私たち吉祥蓮が、1000年の間ずっと闘ってきた相手」
その声と同じくらい冷たい微笑みが、口元に浮かぶ。
あたしはそれから1時間、母さんが感情抜きに語る怖い話を聞かされる羽目になった。
……男がなに長湯してんのよ、お兄ちゃん! 世話が焼けるんだから!




