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お兄ちゃん中3の大冒険

 2人で傘を差して帰る夜の道。

 あたしは結構、ぷんぷんしてるんだけどお兄ちゃんは悪びれたふうもない。

 ……ちょうど1年前も、こんなことがあったっけ。


 お兄ちゃんは倫堂学園中等部3年生だった。

 公立ならそろそろ受験の心配しなくちゃいけないんだけどね、と母さんが言ってた。

 あたしはというと、その中等部を受ける準備で結構、母さんに絞られてた覚えがある。

 実の娘にこの扱いは何だと思ったものだ。

 義理の息子が余裕で毎日をのほほんと過ごしてるのは放っておいて……。

 それが過ぎたのか、ある日曜日、事件は起こった。

 無言で家を出たお兄ちゃんは、日が沈んでも帰って来なかったのだ。

 母さんのうろたえようと言ったら、そりゃあなかった。

「どうしよう! どうしよう!どうしよう!」

 家の中を上がったり下がったり、お兄ちゃんの部屋に入ってみたり。

 あたしの部屋に入ってきたときは、さすがにツッコんだ。

「お兄ちゃん入れるなって言ったの母さんでしょ!」

 だいたい、誰が入れるかっての。

 でも、母さんは豊かな胸を抱えて身もだえした。

「だって、だって、だって、こんな暗いし」

「だから携帯とかスマホとか」

 中学になったら持ってもいいかなって思ってたんだけど、そこはダメが出た。

「だって、父さんと話し合って決めたんだから」

 へいへい、冬獅郎さんとね。ご立派な教育方針で……なにうろたえてんの母さんは。

「吉祥蓮のネットワーク!」

「あ、そうか」

 母さんはやっと気付いたという感じで、階段をばたばた降りていった。

 とてもベテランの忍者とは思えなかったが、それでもやがて情報は入ってきた。

「分かった、冬彦くんがいるの!」

 自分はしっかり使ってる携帯を片手に階段を上がってきた母さんの知らせに、あたしは呆れた。

「他県の山奥?」

「大学のキャンパスがあって、そこで見たって」

 母さんはよそ行きに着替えもしないであたふたと出かけようとした。

 たいていの忍者なら、そこそこの隠し装備は持っていくところだ。

 もっとも、母さんにはいらない。

 拳と蹴りと組打ちこそが武器だからだ。

 でも、あたしは止めた。

「迎えに行ってくる」

 それまでの行動パターンから、何が起こったのか察しがついたからだ。

 ……何らかの事情で女子大生に惚れた。

 ……会いに行ったけど、広いキャンパスでは無理だった。

 ……帰る手段も失って途方に暮れている。

「いけません」

 でも、うろたえるだけうろたえたせいか、母さんはきっぱりと止めた。

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