美少女忍者のお出迎えを受けた兄
いらっしゃい、と店のおじさんに声をかけられて、セーラー服の小柄な女の子が入ってきた。
中等部の制服だ。
胸の辺りを腕で覆ってモジモジしている女子に、ボブカットの白堂君は、親し気に手を挙げる。
「よお」
よく見れば、そこにいたのは瑞希だった。
……なるほど、いつの間にこんな男の子と。
中学生にしては背が高くて、眩しい笑顔は、テレビの歌番組でよく見る篠原エイジに似ている。
瑞希もなかなか隅に置けない。
そう思っていたら、妹は胸を抱えたまま、唸り声上げてツカツカツカッと歩み寄ってくる。
「たーまーさーぶーろー!」
……誰だって? 玉三郎?
確か彼は、獣志郎といったはずだけど。
本人も、そういうことを言い返した。
「俺の事は獣志郎と……」
「たまさぶろーをたまさぶろーといって何が……」
瑞希は、最後まで聞いてはいなかった。
他の客の目もはばかることなく、怒りに震えている。
理由は、さっぱり分からないけど。
でも、ここで間に入れるのは僕だけだ。
「知り合い?」
それはもう白堂君から聞いていたから、僕にとっては意味のない社交辞令だ。
でも、そうだと言ってくれないと困る。
僕のささやかな願いだった。
この険悪な雰囲気の中には、いたたまれない。
運がいいのか悪いのか、その願いは半分だけかなえられた。
「お兄ちゃん、なんでこいつと」
瑞希の怒りの矛先は、僕に向いた。
こうなると、確かになだめるのは面倒だ。でも、いつものことだ。
「いや、今日、帰りに芝居のことで話が盛り上がっちゃって。ああ、詳しいね、白堂君」
もう慣れているとはいえ、テンパってるなとは自分でも思う。
正直、何を言ってもムダなのだ。
いったんムキになると一気に押してくる瑞希には……。
「そこでいきなり道草食ってお好み焼き屋入る、フツー?」
そこで獣志郎君(玉三郎と言っていいのかどうかわからないけど)が割って入ってくれた。
「まあまあ、ここは仲良く豚玉でも」




