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少年忍者との邂逅

 あたしが玉三郎と初めて会ったのは、倫堂学園中等部の入学式の日だった。

 高等部入学式の次の日だから、母さんは2日続けて防虫剤臭い一張羅を切る羽目になったけど。

 あたしはあたしで大変だったのだ。

 原因は、お兄ちゃん。

 

 倫堂学園は歴史の古い学校で、しつけも校則も厳しい。

 そういうところにはまあ、それなりの生徒が入ってくる(あたしも含めて)。

 だから、別に息が詰まるとかそういうことはない。

 ちょっと面倒なのは、セレモニーがやたら多いこと。

 だから、朝のアレはいい加減やめてほしいんだけど。

 それはおいといて、ここのは結構、古風だ。

 体育祭でも文化祭でも、なにかにつけて上級生と下級生の結束が強調される。

 本当にあるかどうかは知らないけど。


 その最初が、入学式翌日の宣誓式。

 中等部でも高等部でも、新入生総代が生徒会入会にあたって校風を守ることを誓う。

 更に、上級生が学級別に新入生ひとりひとりと向き合って立ち、生徒手帳を交換して互いのメッセージを書くのだ。

 つまり、先輩からの励ましを胸に、生徒は3年間を送るわけ。

 ……なんか、それしんどいけど。

 それはそれとして。

 入学式では生徒手帳の携帯が徹底的に指導されることになる。

 で、こういうときに蹴つまずくのがお兄ちゃんなのだ。

 

 さすがに、この日ばかりは弁当を忘れることはなかった。

 でも、持ち慣れない生徒手帳は自宅に置き去りにされた。

 先に気づいたのは、あたし。

 もしかすると、お兄ちゃんは気づきもしなかったかもしれない。

 中等部の入学式が終わって、教室での最初のホームルームの後、あたしは母さんと講堂オリエンテーションに行った。

 そこで次の日の宣誓式の説明があって、生徒手帳の話が出たのだ。

 別に高等部の行事なんかどうでもよかった。

 ふと思い出して、出掛けに玄関で見たことを母さんに告げたまでだった。

「あれ、お兄ちゃんのだよね。何であんなところに?」

「昼から何か先輩に書いてもらうから忘れないようにって言ってたんだけど、いらないのかな」

 いらないわけがない。

 あたしは席を立つや、一言だけ母さんにに言い残した。

「あと聞いといて」

 ……世話が焼けるんだから、お兄ちゃん!

 そうつぶやいたのが、母さんに聞こえたかどうかは分からない。

 とにかく、あたしはその場で「気分を悪くした新入生」になった。

 ふらふらと、講堂の大扉に歩み寄る。

 でも、二つあるうちの一方を開けて出ると、あたしは音もなく走り出した。


 無人の廊下を全力疾走して向かう先は、もちろん、あたしん家だ。

 片道30分だから、往復1時間。

 お兄ちゃんが上級生にが「何か書いてもらう」のがいつかは分からないけど、まだ昼前だった。

 たぶん、大丈夫だとあたしは思った。

 宣誓式の行われる、あたしがさっきまでいた講堂は高等部と中等部の共有棟にある。

 螺旋状になっている広い階段を駆け下り、玄関を出る。

 左右対称の花壇をはさんだ広い道を抜ければ、もう正門だ。

 この日は、中等部が入学式で、高等部は最初の授業中。

 郊外の昼下がりに、校門の外を通る者は人っ子一人いない。

 だけど。

 敷地の外へ駆けてゆくその途中で、すぐ隣に追いすがった者がいた。

 ふ、とわざとらしく鼻で笑う。

 耳元で囁く声が、中2病っぽかった。

「その技……飛燕九天直覇流鬼門遁甲殺到法『旋風つむじ』だな!」

 ぎくっとした。

 こんなことができるのは忍者だけだ。

 横目で見ると、男の子だった。

 中等部の制服。

 ……え? この学校に?

 でも、足を止めることはなかった。

「アンタ……私が見えるの!」

 全く同じ速さで疾走しながら、少年は名乗る。

「覚えておけ! 鳩摩羅衆が一人、白堂獣志郎! 獣の志と書いてジュウシロウだ!」

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