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美少女忍者の本音

 言われなくたって、入る気なんかない。

 そんな暇があったら、あたしは1分1秒でも早く寝る。

 だって、お兄ちゃんは朝が早いから。

 毎朝忘れていく弁当を全力疾走で届けるために、あたしは少しでも早く起きなくちゃいけない。

 その割に、お兄ちゃんはあたしが寝てからも机に向かっている。

 だから成績いいんだけど、その努力を弁当忘れない工夫に傾けてほしいと心底思う。

 次元の違う努力なんだろうな、きっと。

 あたしたちが同じ小学校に通ってた1年間は、まだよかった。

 お兄ちゃんはまた朝寝坊だったけど、昼は給食があったから。

 赤いランドセル背負って「お兄ちゃん遅いな」で済んでいたのだ。

 ところが中学に入ってからは、朝寝坊で忘れていく弁当を届ける羽目になった。

 それに加えて、兄の色恋沙汰の面倒まで……。

 こればっかりは、お兄ちゃんの努力でどうなるもんでもない。

 しかも、失恋は毎年やってきた。


 1年生で陸上部の先輩に惚れたときは、まだその身の程知らずに呆れて済んだ。

 あたしの我慢が限界に達したのは、2回目に起こった引きこもり事件のとき。

 落ち込んだお兄ちゃんを、慣れないセーラー服着て倫堂学園の中等部まで送る情けなさ。

 帰り道では、「更衣遁走術」で私服に着替えてランドセルを背負う毎日。

 すれ違う人の視界の死角を突きながらセーラー服を脱ぐのは、めちゃくちゃ恥ずかった。

 たしかに、走りながらの着替えを人に見られない術だけど、そういう問題じゃない。

 今だって、たとえ一瞬でも身体のどこかが裸になるのは、いたたまれないものがある。

 それを毎日やらされたあの時は、さすがに吉祥蓮と母さんを恨んだ。

 もっとも、1週間くらい続けたら、お兄ちゃんの見送りをしなくてよくなったんだけど。

 母さんからそれを伝えられたときのことは、はっきりと覚えている。

 胸の奥が痛くなるけど……。

 お兄ちゃんよりも先に帰って、リビングでそれを聞いたあたしは一気に感情を爆発させたのだ。。

「あたし、もうイヤ!」

 実はちょっとうろたえ気味になだめて欲しかったんだけど、母さんは落ち着いたものだった。

「そうでしょうね。そう感じてくれてよかった」

 叱られたわけでも無視されたわけでもないのに、あたしは余計にカッとなった。

 本当なら言っちゃいけないことだってことくらい分かってた。

 だって、あたしは吉祥蓮だから。

 母さんの娘だから。

 それなのに、あたしに教えてきたことを自分で完全否定する母さんが信じられなかった。

 生まれて初めて食ってかかったときは、金切り声だったような気がする。

「言ってること全然分かんない!」

「分からなくて当然。それが女の子だから」

 間髪入れずにあたしの目を見て語りかける母さんに、一瞬怯んだ。

 初めて逆らったことで、頭の中は真っ白になっている。

 心の中で固く思い込んだことを引っ込める余裕なんかなかった。

 怒りに任せて、口が勝手に動く。

「だったら!」

 あたしはそこで、ようやく言葉を呑み込んだ。

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