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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 春の団体戦オーダー会議(2015年5月7日木曜)
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77手目 団体戦オーダー会議(駒桜市立)

※ここからは来島くるしまさん視点です。

「えー、というわけで、捨神(すてがみ)くんと両想いになりました、飛瀬(とびせ)カンナです……」

 あのさぁ……連休明け早々にのろけ話は、さすがにキレるよ?

「これも、遊子(ゆうこ)ちゃんのおかげかと思います……ありがとうございました……」

「そう、よかったね」

 私は、適当に返した。

「どうしたの……さっきから、機嫌悪くない……?」

「悪くないよ」

「ほんとに悪くないの……?」

「ほんとに悪かったら、カンナちゃんはもう息してないよ」

「え……どういうこと……?」

 そのままの意味だから、解説はしないよ。

「そろそろ、未開地生命保険に入っとこうかな……」

「次に宇宙人ネタを出したら、頭カチ割るよ?」

「あ、はい……」

 なんでカンナちゃんの恋愛に協力したら、私と箕辺(みのべ)くんの仲がこじれるかな?

 おかしくない? アタリーに連れて行ったのが、すべての元凶……いや、悪いのは、葛城(かつらぎ)くんか……そろそろ、あの子と決着をつけないとね。うふふ。

 私が復讐の手段をあれこれ考えていると、部室のドアがひらいた。

「こんにちはぁ!」

 元気よく入って来たのは、1年生の福留(ふくどめ)さん。

 それに続いて、馬下(こまさげ)さんと赤井(あかい)さんも入室。

「あれ? なんか空気悪くないですか? 窓開けてもいいです?」

「いいよ」

 福留さんは私の許可をもらって、窓を開けた。

「では、失礼します」

 馬下さんはひとこと断ってから、ドアの近くにあるパイプ椅子に腰掛けた。

「あいかわらず、狭いなあ」

 福留さんは、椅子の位置に四苦八苦していた。

 そう。部室の件は、まったく解決していない。

「カンナちゃん、生徒会に申請はしたんだよね?」

「もちろん……ゴールデンウィークの前に……締め切り厳守……」

「で、返事は?」

「まだなにも……決まるのは、夏休みあたりだって……」

「ふぅん……」

 そろそろ、かちこみかな?

 部室を決めるのに、夏休みまで掛かるわけないでしょ。おかしいよ。

「申し訳ございません。草薙(くさなぎ)(ともえ)、遅くなりました」

 あ、巴ちゃんが来たね。

 巴ちゃんが入室すると、馬下さんと赤井さんは、ちょっと堅くなった。

「よ、巴ちゃん、待ってました」

 空気の読めない福留さんだけ、巴ちゃんに話しかけた。

「なにしてたの? 手洗い?」

「私用だ。貴様、馴れ馴れしくするな」

「馴れ馴れしいもなにも、同じクラスじゃん。もっと仲良くしようよ」

 巴ちゃんは福留さんを無視して、ドカッと席についた。

「それに、なんだこれは。狭すぎるだろう。間引くぞ」

「間引くなら、巴ちゃんからだよ」

 福留さん、結構怖い物知らずだね。社会から間引かれちゃうよ。

「なぜだ? なぜ私からなのだ?」

「だって将棋が一番弱いじゃん。今日はオーダー会議なんだからさ」

「オーダーとはなんだ? ()る順番でも決めるのか?」

「そうそう、やる順番を決めるんだよ」

「なに? ……本気か? 得物はあるのだろうな?」

「当たり前じゃん。獲物は決まり。藤女(ふじじょ)ね、藤女をぶったおさないと」

「女同士の抗争か。おもしろい。で、だれを殺る?」

 はいはい、そこ、話が噛み合ってないよ。

「福留さん、巴ちゃん、おしゃべりはそれくらいにね?」

「はーい。っていうか、来島(くるしま)部長、あたしはなんで上の名前なんですか?」

「気分」

 それじゃ、雑談はここまで。

 私はホワイトボードに向かう。

「オーダー会議を始めるよ? カンナちゃん、案は用意してきたかな?」

「あッ……すっかり忘れてた……」

 いてこますぞワレ……あ、素が出ちゃった。

「カンナちゃん、主将だよね?」

「定期報告書の作成に時間がかかって……反省します……」

 どうせ捨神くんとのデートで舞い上がってたんでしょ。

 もしかして、一気にウルトラCまで決めちゃったとか?

「遊子ちゃんは、なにかないの……?」

「ごめん、用意してない」

 箕辺くんと仲直りする計画で、頭がいっぱいだったんだよ? 不可抗力だよね?

「大丈夫なんでしょうか、この上級生は」

 馬下さん、聞こえてるよ。私、地獄耳だから。

「馬下さんは、なにかある?」

「そうですね……こういうのは、いかがでしょうか」

 馬下さんは、ポケットから紙切れを取り出した。どれどれ。


 大将 副将 三将 四将 五将 六将 七将 八将

 草薙 馬下 福留 赤井 飛瀬 来島 裏見 葉山

 

「ふぅん……カンナちゃん、これって、どうなの?」

「どうなんだろうね……強弱のペアで並べてるのかな……?」

「先輩方、ほんとに大丈夫ですか?」

 ぶっちゃけると、私は去年入ったばっかりで、よく分からないんだよね。

 飛瀬さんも高校からだし……うーん。

「ごめん、私たちは高校からで、馬下さんのほうが経験はあると思うよ?」

「そ、そうですか……では、説明させていただきます。まず、男子を入れるかどうかなのですが、男子が勝っても勝ち星になりません。今年の藤女は、かなり稼いでくると思うので、男子は入れないほうがいいはずです。というわけで、女子だけで頑張ります」

 馬下さんは、ここでひと息ついた。

「今、部にいるのは8人だけです。藤女もそこまで多くはありませんが、層はあちらのほうが上。というわけで、奇をてらいたくなるのですが、一発勝負ではありませんから、それもムダなあがきだと思います。偏ったチームを作って、ほかのチームに負けては、意味がありません。ここはオーソドックスに、すべてのメンバーをずらせるよう、弱いひとと強いひとを、ペアで並べてみました」

 ふんふん、なるほどね。カンナちゃんの分析で、だいたい合ってたわけか。

「強弱で並べるのはいいとして……この順番がベストなのかな……?」

 カンナちゃんは、かるく首をひねった。

「そこは、あまり自信がありません。5人制は、初めてなので」

「そっか……中学は、3人制なんだよね……」

 私とカンナちゃんは3人制を経験してないし、どこが違うのか分からなかった。

「うーん……裏見(うらみ)先輩を、さすがに呼べばよかったかも……」

「あ、それ意味ないと思うよ? このまえ、裏見先輩のところへ聞きに行ったら、卒業した傍目(はため)先輩に丸投げしてたって、白状したもん」

「え……なにそれは……もしかして、5人制オーダーの知識があるひとゼロ……?」

 かもね。

「参りましたね。オーダーで藤女に上回られると、勝てないのですが」

 馬下さんは、顔には出してなくても、ちょっと心配そうだった。

「参謀役がいないんだよね……だれか、適当に誘拐できないかな……?」

「あのさ、マジメに考えないと、ダメだと思うよ?」

「思い切って、傍目先輩に尋ねてみるのは?」

 馬下さんは、OGに頼る案を出した。

「どうでしょうか。いつまでもおんぶにだっこだと、OGも困るのでは」

 それまで静かだった赤井さんが、牽制球を投げた。

「それもそうか……じゃあ、頑張って考えよう……」

 私たちは、ホワイトボードにオーダーを写して、それとにらめっこした。


 大将 副将 三将 四将 五将 六将 七将 八将

 草薙 馬下 福留 赤井 飛瀬 来島 裏見 葉山


「……大将が巴ちゃんだと、出したとき負け確になるんじゃないかな?」

「遊子お姉様、私を過小評価してもらっては困ります」

「じゃあ、どうやって勝つの?」

「まずトイレで待ち伏せして……」

「はいはい、巴ちゃんは負け確ね」

 巴ちゃんは、ムスッとしてしまった。殺し合いじゃないから、これ。将棋だから。

「大将が負け確だと、まずいんですか?」

 と福留さん。

「5人制だと、大将をずらすかどうかは、読まれやすいんだよね……当て馬対決を制するなら、遊子ちゃん、福留さん、赤井さんのほうが、安定してないかな……」

「そうですね、飛瀬先輩のおっしゃるとおりです。大将は福留さんにしますか」

「え? あたしなの? もみじちゃんでも来島先輩でもよくない?」

「どうなんだろ……昔のデータと比較したほうがいいのかな……?」

 カンナちゃんと私は、手分けして昔のファイルを探し出した。

「あったあった」

 私は古いオーダー表を書き写した。

 

 《2013年 秋 総合4位》

 挿絵(By みてみん)

 《2014年 春 総合2位》

 挿絵(By みてみん)

 《2014年 秋 総合2位》

 挿絵(By みてみん)


「馬下さんの構想に近いのは……2013年の秋かな……?」

「そうですね。この年は一番上と下に、比較的弱い面子を置いています」

「ねぇ、だったら、これって良くないんじゃない?」

 私は口を挟んだ。

「なんで……?」

「2013年の秋って、べつに好成績じゃないよね?」

「たしかに……この3つのなかで、一番成績が悪いかも……」

「お言葉ですが、それは面子の問題ではないのですか?」

 馬下さんは、自説を維持した。

 なるほどね、2013年のときは、カンナちゃんも男子もいないわけか。

「それに、2014年の秋は、いくら十将が冴島(さえじま)先輩とはいえ、一回も出ていません」

「実質的に遊子ちゃんが端……じゃあ、これを真似してみる……?」

 カンナちゃんは水性ペンを持って、第2案を書き出した。

 

 大将 副将 三将 四将 五将 六将 七将 八将

 福留 裏見 草薙 赤井 飛瀬 葉山 馬下 来島

 

 これは、2014年秋に、かなり似てる気がするよ。

「上下のバランスがよさそうですね」

 と赤井さん。

「主戦力は……福留さん、裏見先輩、赤井さん、私、馬下さんかな……? それとも、福留さん、裏見先輩、私、馬下さん、遊子ちゃん……? どっち……?」

 私と赤井さんは、ちらりとお互いを見合った。

「どっちが勝ち越してたっけ?」

「いい勝負じゃないでしょうか?」

 たしかに、勝ったり負けたりなんだよね。私も、すこしは強くなったんだよ。

「主戦力は多ければ多いほどいいのですから、そこは悩まなくてよいのでは?」

 馬下さんの、もっともなご意見。

「そうだね……裏見先輩、私、馬下さんを主軸にして、残りは臨機応変に……」

「うわーん、あたし、外されてるよ」

「あずささんは、仕方がないと思いますよ。その3人とは差がありますから」

 馬下さんは、福留さんを慰めた。

 福留さんも、本気で嘆いてるわけじゃなさそうだった。

「これで決まりかな……?」

「ほかのチームも予想して、微調整しませんか?」

 またまた馬下さんの意見が通った。

「藤女は、どう組んできそうかな……?」

「むずかしいですね。正確には分かりませんが……」

 馬下さんは、ホワイトボードに向かって、しばらく考え込んだ。

「私が藤女の主将なら、こう並べます」


 大将 副将  三将 四将  五将 六将 七将 八将 九将 十将

 横溝 ポーン 金子 春日川 補欠 高崎 補欠 林家 鞘谷 補欠

 

「宇宙人もびっくりな強さ……笑える……」

 頭カチ割られたいのかな?

「ここに勝つのが目標ですから、頑張りましょう」

 馬下さんは、ちょっと意気込み過ぎじゃないかな。

 戦力強化をしないと、どうしようもない気がするよ。

「でもさ、こんなに補欠いるかな? なんちゃって将棋部員が多いんでしょ、あそこ」

 と福留さん。

「そう言われれば、そうですね。過去にも、10人全員は出していないようです」

 と馬下さん。

「藤女なら、3人くらいは用意できるんじゃないでしょうか?」

 赤井さんは、ほかのふたりに釘を刺した。

 カンナちゃんと私は、藤女の過去のオーダーをチェックした。

「うん……補欠は、毎回3人くらい用意できてる……」

「少なくとも杉本(すぎもと)っていうひとは、補欠で来そうだね」

 私は、2014年秋のオーダーを見ながら、そう付け加えた。

 杉本さんは今年で3年生だから、まだいる。去年の秋は4回も出ていた。

「ってことは、マジで10人出してきそう」

 福留さんは、パイプ椅子を傾けた。危ないよ、それ。やめようね。

「藤女は進学校だから……3年生が出ない可能性もあるんだよね……」

「それは楽観的過ぎます。春はさすがに出てくるでしょう」

 馬下さんは、カンナちゃんの期待をばっさりと切り捨てた。やるね。

「次の日曜日からだし、どうしようもないか……さっきのオーダーでいくね……」

「分かりました。1年生4名、全力を尽くします」

 それじゃ、オーダー会議は終わり。練習しようか。

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