62手目 高校生男子の部A5回戦 六連vs捨神(1)
※ここからは、捨神くん視点です。
【第5ラウンド】
81Boys (改) vs 将棋プレアデス星団
ピカピカの1年生 vs H市がなんぼのもんじゃ!
棋神ウォーリアーズ vs 剣ちゃんズ
北西ブロック連合 vs Shogi International
おらが将棋村 vs 思い出王手
アハッ、ついに最終ラウンドだよ。
「捨神くん、がんばってね……」
飛瀬さんが、わざわざ応援に来てくれるなんて……うれしいよ。
「こら、ここは女人禁制だ」
「御城くん、どうして飛瀬さんにからむの? へんだよ?」
「女をみると思考力が低下するのは、科学的に証明されている。今は対局前だ」
御城くんは、飛瀬さんのことが嫌いなのかな。みんな仲良くね。
「飛瀬さん、御城くんの言うことは、気にしなくていいからね」
「あんちゃんたち、そろそろオーダー出さないとマズいよ」
魚住くんは、麦わら帽子を脱いで、顔をあおいだ。
ちょっとそわそわしている。焦りは禁物。
「そうだ。最終ラウンドは変えてもいいんだったな」
御城くんは、本から顔をあげずに、そう答えた。でも、答えになってないよね。
「変えるの? 変えないの? おいらは、変えたほうがいいと思うけど」
「一回勝ってるんだから、変える必要はないだろう」
「でもさ、捨神のあんちゃんと通くんがあたるのは、ちょっとマズいから……」
魚住くんは、そこで言葉を濁した。
「並木のやつは、もう4連勝か……Rが3000を超えてるな……」
さすがの御城くんも、顔色がおもわしくない。
3000なら、まだなんとかなりそうだけどね。
「よし、正力、ちょっとこっちにこい」
御城くんは、なぜか1年生の正力さんを呼んだ。
並木くんと話していた正力さんは、怪訝そうにこちらへ来る。
「御城先輩、なんでしょうか?」
「並木のまえでひとつ脱いでくれ。たぶん棋力が下がる」
「あとで運営に通報しておきますね」
「御城のあんちゃん、マジメに考えてよ! なんでセクハラ三昧なのさ!」
「俺は女に興味がないからセクハラじゃないぞ」
どういう理屈なのかな。理解に苦しむよ。
「もう、じゃんけんでいいんじゃない? 相手もズラせるから、分かんないよね」
僕は、運試しな案を出した。
「えぇ、じゃんけんにするの? おいら、じゃんけん弱いんだけど」
「べつに勝ち負けを決めるわけじゃないから、いいだろう。俺は乗るぞ」
はい、決まり。勝った順から1〜3番席ね。じゃんけんぽん。ぽん。
「……捨神、魚住、俺だな」
「大丈夫かな? おいら、1番席に通くんが来ると思うよ」
「アハッ、じゃんけんのやり直しは、なしだよ。した意味がなくなるからね」
魚住くんは、しぶしぶそれで登録した。
《それでは、男子の部、最終ラウンドを始めます。着席してください》
じゃ、勝負に行こうか。
僕たちは、対局テーブルに向かった……って、人混みで通れないんだけど。
女子の部も終わったし、決勝テーブルにひとが流れ込んできたのかな。
「アハハ、ちょっと通してください」
「捨神、ひさしぶりだな」
あ、このおかっぱ貴公子は。
「囃子原くん、こんにちは」
「すごい人だかりだ。みんな、きみと六連くんの将棋を観にきている」
へぇ……1番席は、昴くんなんだ。
じゃんけんの神様は、この組み合わせを望んだんだね。
よくみると、他県の女子の代表もいた。
「囃子原くんは、偵察かな? それとも、スポンサーとして?」
「それは、どちらに取ってくれてもいい」
アハッ、間違いなく偵察だよね。
「スポンサーの囃子原家としては、よい将棋を指してもらいたいものだ」
「ご期待に添えるかどうかは分からないけど、がんばるよ」
飛瀬さんのために、ね。
観客のあいだを縫ってまえに出ると、昴くんは先に座って待っていた。
「ごめんね、遅くなって」
「いえ、構いません」
椅子を引いて、着席。のこりの面子を確認する。
……僕と昴くん、魚住くんと並木くん、御城くんと大文字くん。
「プレアデスは、席順を変えなかったんだね」
「そちらが変えてくると読みました。心配性な魚住くんあたりの提案で」
完全に読み切られてるね……さすがは、百戦錬磨のカードゲームプレイヤーだよ。
心理戦もお手の物、ってわけか。だったら、じゃんけんは正解だった。
僕らは、だまって駒を並べる。
《振り駒をしてください》
「捨神先輩、どうぞ」
「じゃあ、振らせてもらうね」
僕は適当にかき混ぜてから、歩を盤上に放った。
「……表が2枚、81Boys、偶数先」
「プレアデス、奇数先」
後手番を引いちゃったか……まあ、そこまで関係ないよ。
《対局準備のととのっていないところは、ありますか?》
会場内は、しんと静まり返る。
《それでは、対局を始めてください》
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
僕がチェスクロを押して、対局スタート。
7六歩、3四歩、2六歩。
「3五歩」
「いきなり3筋の押さえ込みですか」
角交換四間の対策は、されてるだろうからね。こっちもひねるよ。
昴くんは30秒ほど考えて、5六歩と突いた。
4二飛、2五歩、6二玉、6六歩。
「昴くんも、変わった出だしだね。対策済み?」
「それは、進めてみてから判断してください」
望むところだよ。
3三角、4八銀、4四歩、6八玉、4五歩、5七銀。
もしかして、ムリヤリ穴熊に組もうとしてるのかな?
それは許さないよ。
「4四飛」
飛車を浮く。これをみて、昴くんは一瞬だけ動きを止めた。
「……7八銀」
だよね。穴熊目指して7八玉なら、7四飛で歩をかすめ取れる。6七玉の顔面受けは、さすがにできない。それは、駒組みの段階で後手が優勢になるから。
3二金、6七銀、7二銀、7八玉、7一玉。
こちらも美濃にして、バランスを取る。
ここで、昴くんは小考した。ちょっとひねってきそうかな。
「……3八金」
なるほどね、棒金模様。僕は1分使って、4三金とあがった。
「3六歩」
「へぇ、いきなり仕掛けるんだ。過激だね」
「角交換型振り飛車自体、過激だと思いますが」
「アハハ、そんなことはないよ……3四飛」
開戦した筋に飛車。振り飛車の基本だね。
2七金、4四金、3八飛、4二銀、2六金。
枚数は足りてるから、特に不安はない。
3六歩、同金、3五歩、2六金、4三銀。
さてと……ギャラリーのみんなは、このかたちに、どう反応してるかな。
後手はバランスが悪い、って思われてるかも。このままだと先手の形がよくなるのは事実だし、ちょっと改善しないといけないね、慎重に。
「9六歩」
端を打診してきた。
「棺桶にはしないよ。9四歩」
「こちらが銀矢倉模様なのに、棺桶拒否……?」
昴くんは口元に手をあてて、じっと考え込む。
端攻めを考えてるね。ただ、こっちも2枚美濃にしておく気はないんだよ。5二銀の一手で、すぐ3枚になる。
「……6五歩」
昴くんは、急所の位を伸ばした。
僕は8二玉とあがって、6八金、1四歩、1六歩、1二香、7七角。
やっぱり端に目をつけてきたね……3九飛からの地下鉄飛車がありえる。
「4二角」
5四歩と組み合わせて、端を受けるよ。
「3九飛」
「アハッ、やっぱり地下鉄飛車だね」
「すぐには回れませんけどね」
そう、すぐには回れない。だから、細かくポイントを稼がなくちゃ。
まずは、5四歩。角道を開けて、9筋ににらみを利かせた。
「……6六銀右」
「5二銀」
これで、3枚美濃。互角。
「7五銀」
変わった受け方をしてきたね。守りは薄くなるけど、飛車回りを優先ってことか。
僕は5三銀として、さらなる組み替えを目指す。
「8六角」
これは、6筋を受けたのもあるけど、7七桂〜9八香〜9九飛の準備だね。あくまでも地下鉄飛車の方針を維持してるみたいだ。
「6二銀」
もうすこし堅くする。
7七角(?)、5三角、6六角(!)。
「それ、手損してるよね?」
「今のかたちにしてもらったほうが、助かるので」
……わざと手損して、6二銀の封じ込め狙いだったのかな。
まあ、三味線かもしれないし、あんまり気にしないでおこうか。8六角とあがってみたけれど、位置が悪いとみて、もどっただけかもしれない。なんとも言えない。
「3三桂」
攻めの体制を築く。
7七桂、4三金、9八香、4四角、9九飛。
おたがいに万全。いいかたちになった。
残り時間は、あとわずか。攻め倒す。殴り合いだ。
「4六歩」
ここで、僕が30秒将棋。
昴くんは、最後の小考を始めた。




