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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
73/682

61手目 高校生男子の部A4回戦 魚住vs古谷(2)

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)

 

 さーて、本命がきたね。7四歩は利かないから……。

「5一歩成」

 まずは、成り捨てる。

「なるほどね、堅さを頼みにした、駒損覚悟の攻めなんだ」

 さすがは兎丸(うさまる)くん、読みが速い。でも、おいらは行くよ。

 同角、5五銀、同銀、同角。

 さあ、ここで同金なら、同飛で2枚換え。しかも角当たりの先手。

「これは取れないね……6七銀」


挿絵(By みてみん)


「と言っても、魚住(うおずみ)くんなら、読み筋かな」

 兎丸くんは、慎重にチェスクロを押した。

 もちろん、読み筋。

「5七飛」

 6五桂、6七飛、5五金。角銀交換。

 おいらは、取った銀を持ち駒に加えずに、ぱしりと盤上に打ち直した。


挿絵(By みてみん)


「ん、そこに打つの?」

 これには、兎丸くんもすこし表情を険しくした。

 2枚穴熊だからね、絡むよ、そりゃ。


 ピッ

 

 おっと、兎丸くんが30秒将棋になった。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 7六角、9七飛、7三角。この覗きも確かに痛いんだけど、ここで6七銀。


挿絵(By みてみん)


 角を殺す。おいらも30秒将棋。

 4六金には、同金としないで、7六銀、4七金、6五銀、3八金、同金、8六飛、5四角で、なんとかならないかな。うーん、ダメかな。4六金、7六銀、3七金、同金、4五桂も気になる。これがあるなら、4六金、同金のほうが安全な可能性も……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 ん? 5六歩? これは……桂馬の活用か。

 盛り返せる気がする。おいらは、勢いよく7六銀とした。

 同歩、7五角、5四飛、4一銀不成、3一金。

「穴熊攻略の常套手段ッ! 同角成ッ!」


挿絵(By みてみん)


 角より金の法則。

「同銀」

「3二金」

 兎の巣穴は目前だ。

「飛車角が、自陣に利いてないわけか」

 兎丸くんは、やれやれと言った感じだ。

 おたがいに30秒将棋のなか、真剣に読みふける。

「負けました」

「ありがとうございました」

 お、御城(ごじょう)のあんちゃん、連敗で本気出してきたね。1勝。

 兎丸くんは、2番席に期待していなかったのか、表情を変えなかった。

「とりあえず、受けるよ。2二銀打」

 3一金、同銀、4三銀。

「2枚の攻めは繋がらない。5三飛」

 3二銀引不成、同銀、同銀成、2二金、同成銀、同玉。


挿絵(By みてみん)


 よしッ! 兎が出てきたッ!

 おいらは5四歩と打つ。同飛なら4三銀で決まりだ。

「いったん撤退するね。同金」

 5六金と、歩を払って……ここからが難しい。

 おいらの囲いは無傷だけど、ほんとに金銀だけで繋がるかどうか。

「負けました」

「ありがとうございました」

 捨神(すてがみ)のあんちゃんが勝ち名乗りッ! 2−0!

「さあ、おいらたちの勝ちだよ、兎丸くん。諦めてちょーだいな」

 兎丸くんは、今度も1番席のほうを気にせずに、さっきと同じ笑い方をした。

「ハハハ、いやだなあ、それじゃあ、魚住くんたちの優勝が確定しちゃうだろう」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「3一銀」


挿絵(By みてみん)


 ぐッ……受けてきた。さすがに、チーム負けじゃ動揺してくれないか。

「実はね、(すばる)くんに言われたんだ。君たちが3−0なら、優勝が決まる。2−1なら、まだ昴くんたちにも芽がある、ってね。だったら、お祭りモードで行かせてもらうよ。最終ラウンドまで、おあずけにしようか」

 昴ぅ! また余計なことをッ!

「さあ、魚住くん、2枚でどうやって攻めるの?」

「よ、4一金」

「単調だね……4二銀打」

「7四銀」


挿絵(By みてみん)


 攻め駒を攻める。困ったときには格言。

「それは、ここが急所、8四角」

 美濃の一番イヤなところを覗かれた。

「けど、6五金ッ!」

 同金、5四歩、同飛、6五銀。飛車に当てながら位置変えだ。

「これで、おいらの陣地には成れないよ」

「成る必要なし。3九角打」


挿絵(By みてみん)


 これは取れない。取ったら同角成、同玉、5九飛成で大惨事だ。

「2七玉」

 2八金、1六玉。重たいんじゃないかな?

 兎丸くんの手も止まった。寄せ間違えた?

「これで決まってるかな……5五飛」

 銀に当ててきた。おいらは、6四銀と縦に逃げる。

「4八角行成」

「ッ!?」


挿絵(By みてみん)


 飛車を逃げな……あッ! 5五銀は、4九馬が詰めろかッ!

 しまった……途中下車の成りをうっかりした……。

「兎丸くんの王様は詰まない……おいらの負けだよ」

「ありがとうございました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 チームは勝ったけど、この負けは痛い。

 兎の巣穴かと思ったら、狼だったパターン。

「最後、おいらの攻めが完全に切れちゃったね。ムリ攻めだった?」

「どうかな。他の駒も絡めたら、行けそうだった気がするよ」

「2五桂とできないから、絡みようがないんだよね」

 2五桂は、4六金〜4七金が王手になるから、無視できなくなる。

 もうちょっと早く桂馬を入手できていれば、2五桂打ちがあったのに。

「6三歩とひねらずに、5五銀、同銀、同角は?」

 おいらたちは、局面を中盤までもどした。

 

挿絵(By みてみん)


「いや、これはおいらがダメだよ。5七歩、同飛、6五桂で」

「5九飛、7七桂成、5四銀で? 駒割りは、本譜の角銀交換が、角金交換になっただけだから、損してないよね。こっちは角の位置が変だから、むしろ5五同銀と一回取って、同角に6七銀じゃないかな? 6筋に歩を打っていないから、本譜からは離れるけど」

「5七歩、同飛、6五桂、5九飛、5四銀に7六角がない?」

「それは6三銀成がそっぽにみえて、実はそうでもないと思うよ……魚住くん、駒持ってないよね?」

 兎丸くんは、おいらの手元をじろじろと眺めた。

 やっぱり根に持ってるじゃないかッ!

「持ってないよ……でもさ、5五銀、同銀、同角、6七銀以下の変化は、兎丸くんも歩切れになってないし、あんまり飛び込みたくないかなあ。6七銀、5七飛、6五桂、6七飛、5五金以下、おいらはどうすればいいのさ?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「うーん……5二銀と打てないんだね。じゃあ、4一銀〜5二銀成?」

 4一銀、3一金、5二銀成、6四角……4三銀と打っても、なにもなさそう。

「4一銀、3一金、5二銀成、6四角、5六歩、4六金?」

「そこで単純に同金とするか、それとも5五銀と止めるのかな」

 兎丸くんとおいらは、駒を動かさずに、頭のなかで考えた。

 んー……5五銀、4七金には、同飛で次に4四飛の飛び出しがある。

 単に4六同金とするよりも、こっちのほうが良さげ。

「5五銀以下を選択したほうが、よかったかな」

「まあ、むずかしいよね。途中の変化も多そうだし」

 時間の使いどころを間違えたかな、おいら。

 兎丸くん相手だと、どうしても後半寄りに時間を残したくなっていけない。

「おーい、魚住、そっちはどうなった?」

 げッ、御城のあんちゃん。

「ご、ごめん、負けた」

「そうか。じゃあ2−1だな」

 御城のあんちゃんは、あいかわらずあっさりとしていた。

「ほかは、どうなってるの?」

「分からん。が、昴のところが3−0でも、優勝の芽は残ってるぞ」

 そっか、だったらオッケーだね。

 ただ、3−0しそう……相手が、駒桜(こまざくら)の3年生チーム……。

 昴くんは、順当に勝つだろうし、(とおる)くんは、もうだれにも止められないし、3番席にいる大文字(だいもんじ)のあんちゃんが負けるくらいしか、2−1になるパターンが見当たらない。

「プレアデスが3−0だったら、うちの優勝条件は?」

「2−1だ。『先に連勝が止まったチームの負け』だからな」

 なるほど、じゃあ、プレアデスが2−1でも、条件は変わらずか。

 おいらと御城のあんちゃんが話しているうちに、なんと昴くんがやってきた。

 うわさをすれば影だね。

「御城先輩、そちらは、どうなりましたか?」

「2−1だ」

「僕たちも2−1です。最終ラウンドで、決着をつけましょう」

 こういうところが、昴くんの強みだよね。KYとも言うけど。

 あとで掲示されるのに、わざわざライバルチームに訊くなんてさ。

 そして、昴くんは、さらにKYな質問を重ねた。

「ところで、先輩、どうしてチームを優勝経験者で固めたんですか?」

「ん、ああ、俺の家のパソコン、調子が悪くてな」

 おっと、御城のあんちゃん、捨神のあんちゃんをかばう。

「……ほんとうに、それだけですか?」

「ああ、それだけだぞ。なんで疑問に思う?」

「いそがしい捨神先輩が参加してるのは、なんか変だな、と」

 昴くん、いい勘してるねえ。カードゲームで鍛えてるのかな?

 ここは、御城先輩のごまかしテクニックを拝見させてもらうよ。

「捨神はな、ピアノのレッスンが突然キャンセルになって、暇だから参加してる」

「締め切りは1週間前でしたよ? 飛び入りはできませんよね? 1週間以上前に予定が空いたら、普通はべつの調整の仕方をすると思うんですが」

「捨神の性格を考えてみろ。1週間前にスケジュールが空いて、ほいほい他から声がかかると思うか? 実際、俺たちはギリギリで応募してるぞ。疑うなら運営に訊け」

 御城のあんちゃん、さらりとひどいこと言ってるね。

 昴くんは、疑問が解けたのか、それとも裏がとれないと思ったのか、追及をやめた。

「そうですか……いずれにせよ、最終戦、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、お手柔らかにな」

 昴くんは、そのまま自分のチームへ帰って行った。セーフ。

 おいらは、兎丸くんのほうへ向き直った。

「ごめん、雑談してた」

「いいよ、続きを読んでたから」

 おいらも続きを……あ、待ってよ。兎丸くんは、駒桜市だったね。

「ねえ、兎丸くん、ひとつ質問しても、いいかな?」

「え? 僕の許可が要るの? 感想戦なのに?」

「将棋の話じゃないんだよね」

 兎丸くんは、かるく首をひねってから、こくりとうなずいた。

「あのさ、あそこにいる、おとなしそうな女子、知ってる?」

 おいらは、御城のあんちゃんに教えてもらった子を指差した。

 兎丸くんはそちらに視線をむけて、なんだ、というような顔をした。

「ああ、飛瀬(とびせ)先輩ね。彼女が、どうかしたの?」

「駒桜のひと?」

「そうだよ」

 やっぱりね。捨神のあんちゃんのことだから、同市内だと思ったよ。

「あのひと、中学のときは、見かけなかったけど?」

「僕もよく知らない。高校から引っ越してきたってうわさだよ」

 ああ、そういう……うわさ? うわさってなに?

 引っ越してきたかどうかなんて、うわさじゃないと思うんだけどなあ。

「どこから引っ越してきたの?」

「宇宙」

 うちゅう……知らないな。国内かな? 国外かな?

 多分、後者だね。帰国子女みたいな言い方だったし。

「あ、ひとつだけ忠告しとくけど、狙わないほうがいいよ」

「いや、おいら、狙ってるわけじゃ……」

「さらわれて血を抜かれるかもね。あるいは、標本にされるとか」

 うわぁ……ヤンデレ? ヤンデレなの?

 捨神のあんちゃん、ヤバいよ……事故物件だよ……。

《開始から70分が経過しました。これより、5分切れ負けになります》

 あ、そろそろ終了だね。

 おいらたちは、おたがいに顔を見合わせた。

「最終ラウンドもあるし、感想戦は、ここまでかな」

「そうだね。ちょっとおいらが冴えなかったよ。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生男子の部Aクラス 4回戦

先手:魚住 太郎

後手:古谷 兎丸

戦型:先手四間飛車vs後手居飛車穴熊


▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲6八飛 △6二銀

▲3八銀 △5四歩 ▲7八銀 △4二玉 ▲1六歩 △3二玉

▲1五歩 △5二金右 ▲6七銀 △5三銀 ▲5八金左 △8五歩

▲7七角 △3三角 ▲4六歩 △2二玉 ▲3六歩 △4四歩

▲3七桂 △4三金 ▲6五歩 △3二金 ▲6六銀 △7四歩

▲4八玉 △1二香 ▲3九玉 △1一玉 ▲4七金 △2二銀

▲5六歩 △4二角 ▲2八玉 △9四歩 ▲9六歩 △7三桂

▲2六歩 △6四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲6五歩 △5三銀

▲7五歩 △8四飛 ▲5五歩 △6四歩 ▲同 歩 △同 銀

▲5四歩 △8六歩 ▲同 歩 △5四金 ▲5八飛 △5五歩

▲6三歩 △6一歩 ▲5二歩 △7五歩 ▲5一歩成 △同 角

▲5五銀 △同 銀 ▲同 角 △6七銀 ▲5七飛 △6五桂

▲6七飛 △5五金 ▲5二銀 △7六角 ▲9七飛 △7三角

▲6七銀 △5六歩 ▲7六銀 △同 歩 ▲7五角 △5四飛

▲4一銀不成△3一金 ▲同角成 △同 銀 ▲3二金 △2二銀打

▲3一金 △同 銀 ▲4三銀 △5三飛 ▲3二銀引不成△同 銀

▲同銀成 △2二金 ▲同成銀 △同 玉 ▲5四歩 △同 金

▲5六金 △3一銀 ▲4一金 △4二銀打 ▲7四銀 △8四角

▲6五金 △同 金 ▲5四歩 △同 飛 ▲6五銀 △3九角打

▲2七玉 △2八金 ▲1六玉 △5五飛 ▲6四銀 △4八角上成


まで120手で古谷の勝ち

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