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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
70/682

58手目 高校生女子の部A4回戦 正力vs吉備

※ここからは、吉備きびさん視点です。

 さてさて、1回戦負けから、まさかの決勝卓。意外な展開になりました。3回戦で裏見(うらみ)さんのところに勝てたのは、大きかったですね。首の皮一枚というやつです。私は南海(なんかい)さんにリベンジされてしまいましたが……まあ、いいでしょう。

 あ、自己紹介が遅れました。吉備(きび)丸子(まるこ)です。

 本榧(ほんがや)市出身、県立本榧(ほんがや)高校3年生。尊敬する棋士は……木村(きむら)一基(かずき)プロですかね。将棋は受けなんですよ、受け。外交においては被動者たるべしと、小村(こむら)壽太郎(じゅたろう)も言ってます。

「吉備先輩、よろしくお願いします」

 3番席のお相手は、正力(しょうりき)さんですか。

 神崎(かんざき)さんの勘が、クリーンヒットしたみたいです。

「よろしくお願いします」

 眼鏡を拭きまして……。

「すみません、チェスクロは、もうちょっとこっち側に置いてもらえませんか?」

「どうぞ」

 腕が届かないんですよね。もっと高い椅子が欲しいです。

《振り駒をしてください》

 私としては、先手後手、どちらでも構いません。

「……歩が1枚、お花と愉快な仲間たち、偶数先ですぅ」

「インコンパチブル、奇数先ッ!」

 後手になりましたか……正力さん相手なら、横歩の可能性が高いですね。

《対局準備のととのっていないところはありますか? ……では、始めてください》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 チェスクロをポチっと。

 7六歩、3四歩、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、7八金、3二金。

 まあ、予想通りですね。

 2四歩、同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛。

「2六飛」


挿絵(By みてみん)


「ほぉ……縦歩取りですか。これまた、どういう心境で?」

「吉備先輩なら、横歩はかなり研究してると思ったので」

 んー、それはあまり感心しませんね。研究外しは、消極的な作戦。決勝卓で慎重になりすぎな印象を受けます。インコンパチブルのほうは、ひとりでも勝てば優勝ですし、安全策を取りたがるのも分かるのですが。

 それに、受験勉強をほっぽらかして横歩の研究はさすがにしませんよ。

 策士、策におぼれる、というやつです。

「8五飛と引きます」

 7七桂(即当てですか)、8二飛、9六歩、6二銀、7五歩。

 ふむふむ、できるだけ攻めの姿勢をみせるわけですか。これも、私対策ですね。受け将棋の本領を発揮させないように、空中戦に持ち込む、と。

 しかし、受け将棋というのは、ガチガチに固めることにあらず。空中戦でも受けられるということを、ご覧にいれましょう。

「4一玉」

 まずは囲います。

 8五歩、4二銀、4八玉、3一玉、3八玉、6四歩、6八銀、6三銀。

「7六飛」


挿絵(By みてみん)


 おどしをかけてきましたね。でも、すぐには開戦できません。

 陣形整備です。

「1四歩」

 きちんと端を突いておきまして……。

 5六歩(受けませんでしたか)、3三角、5七銀、4四歩、3六歩。

「なかなか、危ないところを突いてきますね」

「そうでしょうか?」

 金銀が出遅れているので、圧迫できそうです。

「4五歩」


挿絵(By みてみん)


 なるべく、窮屈にさせましょう。

 2八玉、4三銀、3八銀、1五歩。

「吉備先輩が、攻めに出ている……?」

 いえいえ、攻めてるんじゃないですよ。

 攻めを誘発してるんです。

 先手は、動かないとじり貧になりますから。

「……7九角」

 動くならそこですか。

「4四銀と受けます」

 4八銀、5二金、3七銀左、4三金右、2六銀。

 2五銀に2四歩と打てない狙いですか。打つと同角でムダです。

「4二角」

 引いて受けます。

「3七桂」

「2四歩」


挿絵(By みてみん)


 一目、後手のほうがバランス取れてますよね?

 個人的に、正力さんの2六銀の構想は疑問です。

「8六飛」

「8三歩」

 全部受けますよ。

「うッ……手がない……」

 さあ、どうしますか。

「……2七銀」

 それは、私の眼鏡が光ります。

「7四歩」


挿絵(By みてみん)


 4九の金が浮いてます。今がチャンス。

 7四同歩、同銀。

 ここで正力さんは、口もとに手をあてて、首をひねりました。

「これは受かってるような……」

「受かってると思うなら、どうぞ」

「……5七角」

 なるほど、それで受かってるようにみえますね。

 しかし、外観と実質は違うのですよ。

「4六歩」

 まずは、ここを一本入れます。同歩なら、7二飛、4五歩、3三銀、4六角、7五銀、8九飛、7六歩、6五桂、5四歩。同角なら、7五銀、8九飛、7六歩、6五桂、5四歩。

 4五歩の位を大きいとみるか、後手の飛車を回らせないのが得策とみるか、正力さんの形勢判断次第ですね。

 ……ピッ。正力さんが30秒将棋です。

 10秒……20秒……ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

挿絵(By みてみん)


 そちらですか。正力さんっぽいと言えば、ぽいですね。

 7五銀、8九飛、7六歩、6五桂、5四歩。

「7四歩」

 おっと、回らせてくれますか。

 先手も桂馬を助けないといけませんし、妥当です。

「7二飛」

 7三歩成、同桂、同桂成、同飛、3八金。

 私も30秒将棋になりました。

 最後の3八金は……なんとなく、誘いの隙にみえますね。

 注意しましょう。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6五桂」

 6八角、7七歩成、同金。


挿絵(By みてみん)


 ん? なんですか、これは?

 7七桂成、同角、7六銀がモロに……あ、9五角ですね。

 7二飛、7九飛、9四歩、7三歩、5二飛、7六飛、9五歩……これでも指せそうではありますが……7七の金をすぐに取る必要もありませんし……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「2五歩」

「!?」

 先手の左辺は、飛車角金が悪形ですからね。玉頭を乱しましょう。

「これは……?」

「取ってみれば分かりますよ」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 当たり前ですが、取りましたね。

「3三桂」


挿絵(By みてみん)


「……ッ!」

 さあ、銀が死にましたよ。

「でもこれはチャンス……7四歩」

 同飛、2四桂、2五桂、3二桂成、同玉、2五桂。

「当然に受けますよ。2四歩」

 7六歩、同銀、同金、同飛、5二銀。

「もう1枚受けます。5三金打」

 4三銀成、同金、5二金、7八飛成、4二金、同金、2四角。

 うっかりじゃありませんよ。この角出を待ってました。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「2三金」


挿絵(By みてみん)


「受けてくれるなら、いい勝負ですッ! 7九飛ッ!」

「いえ、これもう終わってます」

 

 3 七 銀


挿絵(By みてみん)


「銀捨て? 2六にスペースがあるから詰ま……ッ!?」

 ええ、詰まないですね。

 同玉、4五桂、2六玉、2四金で、詰めろ飛車取りにはなりますが。

「しまった……てっきり受けただけかと……」

 守りつつ攻める。これぞ受けの神髄です。

  

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 同玉。チーム戦ですから、最後まで指しますか。

 4五桂、2六玉、2四金、7八飛、3五銀打、同歩、同銀。

「……負けました」

「ありがとうございました」

 ふぅ……ひさしぶりに、いい受け将棋を指せた気がします。

 第4ラウンドで、勘がもどってきたんでしょうか。

 正力さんは、さすがに意気消沈といった感じです。

「……ちょっと、私が冴えなかったですね」

「2六銀が、前のめりだったのでは?」

「そうですね……普通に2七銀〜3八金だったかもしれません」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「なるほど、後手は、5四歩〜4二角のような感じですか」

「ただ、この形でも、私の王様は窮屈。端を素直に受けておいたほうが、よかったかもしれません。あそこは、ちょっとだけ悩んだんですけど……この金銀の形で1六歩と突いていれば、かなりゆとりがあるので」

「しかし、その一手の代償を、どこで支払うかですね。私のほうは、もっと早く5四歩が入るので、さらに先攻できたかもしれません」

 本譜とは、まったく違った将棋になりそうです。

「4六歩の対応も、よく分かりませんでした。同歩のほうが良かったですか?」

「そこは、なんとも言えないですね。正力さんの同角も、一局だと思います。個人的には、4六歩、同歩、7二飛、4五歩、3三銀、4六角、7五銀、8九飛、7六歩、6五桂、5四歩で、飛車の位置が重要かと思ったのですが、本譜でも寄ってますからね。このあたりは、私の大局観も微妙でした」

「そこで7三歩と打ったら、桂交換に応じていただけますか?」

「んー、そこまで読んでませんね……」

 すこし、局面をもどしますか。

 

挿絵(By みてみん)


「難しいですね、第一感の同桂、同桂成、同飛には、4四桂の反撃があります」

 2二金は形が悪いうえに、5二桂成を防げないので、私のほうがマズそうです。

「かと言って、7一飛も、あんまりやりたくありませんね。8四歩、同歩、8三歩、6五歩と取っても、8二歩成、6一飛、7二歩成、6三飛。これは自信なしです。7一飛に代えて8二飛の寄りには、じっと9五歩と伸ばして、6五歩、7二歩成、同飛、9一角成ですか」

「では、同桂の一択で?」

「ただ、後者は、9一角成以下、8六銀、8一馬、7四飛で、そのままさばければ、私のほうも十分に勝負形です。4九の金が浮いてる分、私はこっちを選択しますね」

「それで一局ですか……納得しました。ところで最後、粘る順はありましたか?」

 また局面を変えまして……。

 

挿絵(By みてみん)


「この局面は、もうムリじゃないでしょうか。私が間違えて、2四角に8九龍と取るくらいしかないように思いますね。そこで正力さんが4五桂と打って、同銀、3三金、2一玉、2二歩、1二玉、1三角成の頓死筋はありますか」

 意外と毒饅頭が落ちてますね。

「いっそのこと、7九に金を打とうかと思ったんですが」

「それは同龍、同金、4九飛と打って……」

「丸子ちゃん、お疲れさまなのですぅ」

 あ、桐野(きりの)さんが来ましたね。

 っていうか、決勝卓だけあって、ギャラリーが集まってましたか。

 気づきませんでした。

「桐野さんは、もう終わったんですか?」

「終わりましたぁ」

「結果は?」

「勝ちましたぁ」

 ということは、3−0条件のうち、2−0までクリアですか。

 これは、だいぶ光がみえてきましたね。

「これが投了図ですかぁ?」

「いえ、このあと、2四角、2三金、7九飛、3七銀と進んでます」

「お局さまによる、新入社員イジメのような局面なのですぅ」

 桐野さんは、なにを言ってるんですかね。

「私はそんなに性格悪くありませんよ。ねえ、ギャラリーのみなさん?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 な、なんで、だれも賛同してくれないんですか。まったく。

 と、こんなことしてる場合じゃありません。

「正力さん、となりを応援に行っても、いいですか?」

「もちろんです」

「では、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生女子の部Aクラス 4回戦

先手:正力 安奈

後手:吉備 丸子

戦型:縦歩取り


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲2六飛 △8五飛 ▲7七桂 △8二飛

▲9六歩 △6二銀 ▲7五歩 △4一玉 ▲8五歩 △4二銀

▲4八玉 △3一玉 ▲3八玉 △6四歩 ▲6八銀 △6三銀

▲7六飛 △1四歩 ▲5六歩 △3三角 ▲5七銀 △4四歩

▲3六歩 △4五歩 ▲2八玉 △4三銀 ▲3八銀 △1五歩

▲7九角 △4四銀 ▲4八銀 △5二金 ▲3七銀左 △4三金右

▲2六銀 △4二角 ▲3七桂 △2四歩 ▲8六飛 △8三歩

▲2七銀 △7四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲5七角 △4六歩

▲同 角 △7五銀 ▲8九飛 △7六歩 ▲6五桂 △5四歩

▲7四歩 △7二飛 ▲7三歩成 △同 桂 ▲同桂成 △同 飛

▲3八金 △6五桂 ▲6八角 △7七歩成 ▲同 金 △2五歩

▲同 銀 △3三桂 ▲7四歩 △同 飛 ▲2四桂 △2五桂

▲3二桂成 △同 玉 ▲2五桂 △2四歩 ▲7六歩 △同 銀

▲同 金 △同 飛 ▲5二銀 △5三金打 ▲4三銀成 △同 金

▲5二金 △7八飛成 ▲4二金 △同 金 ▲2四角 △2三金

▲7九飛 △3七銀 ▲同 玉 △4五桂 ▲2六玉 △2四金

▲7八飛 △3五銀打 ▲同 歩 △同 銀


まで112手で吉備の勝ち

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