670手目 みんなでわいわい、将棋でデカスロン3
準決勝は、2局同時に開催。
負けたチームは、すでに観戦席へあがっていた。
なんだかよくわからないCMが流れてるけど、これは割愛。
スクリーンに映った順位をみて、私は驚いた。
桜川48が、ひとつも競技をせずに勝っていたからだ。
もしかして、必勝法を編み出したとか?
ちょうど五見くんがそばに来たから、私は、
「さっきの試合、どうだった?」
と訊いた。
五見くんは、メガネのフレームを中指で持ち上げた。
レンズがキラーンと光る。
ま、まさか、ほんとうに必勝法が発見された?
「僕たちが競技に弱すぎました」
みんなずっこける。
話を聞いてみたら、ボウリングはガーター、ストラックアウトは自駒をぶち抜いて、ビーチフラッグスも挑戦負け、ダーツは明後日の方向へ飛んで、ビリヤードは不発、シック・ボーも当たらなくて、駒損のまま押し込まれて投了したらしい。
五見くんは、
「とはいえ、敵失に賭けるのも戦術ですから、桜川48が見事だったとしか言いようがないですね。競技全般が苦手なチームはもう残っていないので、同じ手は使えないと思います」
と締めくくった。
なるほど、そうかもしれない。
とりあえず、私たちは観戦をすることになった。
葉山さんからアナウンス。
《それでは、準決勝をおこないます。準備はよろしいですか? ……では、始めッ!》
対局が始まった。
私は、3位の桜川48と、2位のレッツゴー3人娘の対局に注目した。
先手はレッツゴー3人娘。
トップバッターは、高崎さん。
「いくぜッ! ストラックアウト!」
いきなりの競技宣言。
パネルが登場した。
私は、
「佐伯くんたちも、初手で宣言してきたのよね」
とつぶやいた。
すると、五見くんは、
「ボウリングとストラックアウトは、初手が安定だと思います」
と反応した。
「え、どうして?」
「シック・ボーで無効化できないからです」
……あ、そういうことか。
シック・ボーは、前の手番に戻す、というルールだ。前の手番がない1手目と2手目では使えない。これも気づいてなかった。
高崎さんは、ボールを手のひらで軽く垂直に投げして、調整。
ふりかぶった。
スパン
さ、さすがバスケ部のエース。
あっさり抜いてきた。
「ボウリング」
もういちど宣言。
ピンとレールがあらわれた。
高崎さんは、慣れた感じでフォームを構えた。
ためらいなく投げ込む。
ガラガラガラン
1本だけ残った。
高崎さんは、軽く舌打ちをしたあと、
「2六歩、2五歩、2四歩、2三歩成」
と成り込んだ。
うわあ、うちがやられたのと似た流れになった。
対局相手の箕辺さんも、険しい表情。
五見くんは、
「フィジカルエリートのトップバッターはきついな」
という感想をもらした。
とはいえ、角取りは確定じゃない。
ダンス対決で2手指しすれば、角は逃がせる。
箕辺さんはまず、
「ボウリング!」
と宣言した。
再びレーンがあらわれる。
慎重に狙って──
ガラガラガラン
ストライク。
「よっしッ! 8四歩、8五歩、8六歩、8七歩不成、8八歩成」
角を取り返した──けど、高崎さんは即座にレスポンス。
「ビーチフラッグス」
砂場があらわれて、旗が立った。
ふたりとも着替えて、砂に横たわる。
ピーッ
高崎さんの高速ヘッドスライディングで、あっさり奪取。
「角をもらうぜッ!」
せっかくの角を取り返されてしまった。
このようすを見ながら、葛城くんは、
「いいよいいよぉ、どんどん使ってねぇ」
と喜んでいた。
そっか、81Boysは、まだ暫定首位。
怖いのは、2位以下が大量に得点を積み上げるケースだ。
未プレイ競技につき10点だから、プレイ合戦になってもらうほうが助かる。
高崎さんは、8八銀と取った。
その瞬間、箕辺さんは、
「夏希先輩、チェンジ!」
と叫んで、交代した。
塚さんが颯爽と登場。
「ダンス」
いきなりダンス勝負を仕掛けた。
「高崎先輩、よろしくお願いします」
「くっそ、ダンスは苦手なんだよ」
音楽が始まった。
ジャズっぽい
高崎さんは、でたらめに体を動かし始めた。
素人目に見ても、微妙。
一方、塚さんは──タップダンス! しかも激ウマ!
《採点デース》
塚 93
高崎 57
桜川48、連続手番を獲得。
「3四歩、4四角」
角が助かった。
これは高崎さんにとって、誤算だったはず。
「しゃあねえ、2二歩」
手筋で重ねた。
と金を愚直に突っ込むよりも厳しい。
五見くんは、
「角が助かっても、後手敗勢ですね」
と、辛口の評価。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3三桂」
んー……同と、同角なら、と金が消えるってことか。
でも、苦し紛れに見える。
高崎さんも、気にせずに同と、同角を受け入れてから、2一歩成。
4二銀、2二とで、塚さんは、パチリと指を鳴らした。
「ビリヤード」
羅紗をしいたテーブルがあらわれる。
テーブルサイドにうまく体を乗せて、塚さんはひとつの球を狙った。
キューを2、3度動かす。
……カコン カン カン カン
連鎖して……2が落ちた。
塚さんは、ととのった眉をひそめた。
微妙? と金か飛車しか動かせない。
違う番号を狙っていたようにみえる。
けど、10秒のカウントは始まってしまった。
塚さんは背筋を伸ばし、ギリギリまで考えた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2四飛」
これは……まだ意味がある。2三とを牽制した。
高崎さんは、頭をかいた。
「んー……2三飛成」
「8七歩」
「どうすっかなあ。全部相手しなくても、いいんだが……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同銀」
「8八歩」
このやりとりのあいだ、観客席のほうでは、葛城くんが、
「これ、後手はどうするのかなぁ。内木さんにバトンタッチしても、ダメっぽいようなぁ」
と首をひねっていた。
すると、五見くんは、
「バトンタッチは、高崎さんのボクシングで終了になると思います」
と指摘した。
そうだ、塚さんは、ここからずっと指し続けるしかない。
いずれにせよ、8八歩は対処できないから、高崎さんも攻めた。
「3二と」
「ダーツ」
ダーツボードがあらわれた──雰囲気が一変する。
最初に、あッ、という表情を浮かべたのは、レッツゴーの春日川さんだった。
塚さんは、右足と左足をX次にクロスさせて、姿勢を固定した。
なんとも均整なポーズ。経験者オーラ。
……ストン
龍が取られたッ!
「かーッ、バカしたな、これ。3三と」
同銀、4五桂、4四銀、6六角。
こじ開けにきた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5四飛」
「そりゃ悪手だろッ! 7六角ッ!」
「ストラックアウト」
地面からパネルがせり上がった。
……………………
……………………
…………………
………………あッ、これ、間接王手だ。
高崎さんも青くなった。
「やっべ」
塚さんは、粛々とボールをとる。
とはいえ、やや緊張しているようにも見えた。
ダーツのときとは違って、慣れていない印象を受ける。
高崎さんの、
「外せぇええええええええええッ!」
という絶叫に、林家さんの、
「邪魔しちゃダメでがすよッ!」
という声がかぶった。
ふりかぶって──投げた。
スパン
この瞬間、葉山さんの、
《当たったぁあああああああああッ!》
という興奮のアナウンスが響き渡った。
塚さんは、
「では、失礼して……5九飛成」
と指してから、一礼した。
観戦席から拍手。
高崎さんは、その場で頭をかかえた。
「こんなのありかよぉ」
いや、競技の暴力を振るっていたのは、高崎さんなわけでして、はい。
五見くんは、
「このパネル抜き王手は、前から狙ってたっぽいですね。3三桂、同と、同角の流れも、1五角で似た筋を追っていたのかも」
と解釈した。
観客席が沸くなか、もうひとつの対局も終わった。
スーパー歩夢くんの勝ち。
どうやら、壮絶なボクシング対決があったようだ。
あとで聞いてみよう。
《さあ、続いて決勝戦ですッ! いったん休憩ターイム!》
【勝敗】
●マジシャンズ vs スーパー歩夢くん○
スーパー歩夢くんの未プレイ競技 ④⑤⑨
●レッツゴー3人娘がゆく vs 桜川48○
桜川48の未プレイ競技 ③④⑦⑨⑩
【暫定順位】
1位 桜川48 352ポイント ↑2
2位 81Boys 320ポイント ↓1
3位 レッツゴー3人娘がゆく 304ポイント ↓1
4位 マジシャンズチェックメイト 255ポイント →
4位 スーパー歩夢くん 255ポイント ↑3
6位 千駄ヶ谷棋面組 246ポイント ↓1
7位 剣ちゃんず 224ポイント ↓1
8位 チーム駒北 207ポイント →




