666手目 ひっちゃかめっちゃか、大逆転リレー将棋3
※ここからは、吉良くん視点です。
【第3グループ】
林家→鞘谷→佐伯→吉良→捨神
→松平→津山→箕辺(妹)→曲田
さーて、やるか。
囃子原の野郎、なにか企んでるみたいだったが、俺には関係ない。
本気でいく。
俺は、左どなりの捨神を見た。
捨神も、こちらを見返した。
俺は、
「エンタメだからって、手抜くなよ」
と忠告した。
捨神は、
「アハッ、もちろん」
と返した。
ルールは把握してる。とんでもなく変則的だ。
が、あくまで将棋をやる。
いよいよ、葉山のアナウンスが入った。
《対局準備はよろしいですか? ……3、2、1、始めッ!》
初手の林家は、
「いやあ、どきどきしますなあ。7六歩」
と、普通に始めた。
8四歩(鞘谷)、2六歩(佐伯)、3二金(俺)、7八金(捨神)、8五歩(松平)。
さあ、居飛車になった。
7七角(津山)、3四歩(箕辺)、6八銀(曲田)。
これで一周。
序盤はみんな、わかりやすく妥協した。
林家は、
「角換わってもなあ。4四歩」
と雁木を見せた。
3八銀(鞘谷)、6二銀(佐伯)、1六歩(俺)、4二銀(捨神)。
松平先輩は2五歩で、攻めの姿勢。
次の津山先輩は、悩んだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4三銀」
雁木決め打ちか。
3三銀でもよかったと思うが。
次の箕辺は手が止まった。
俺と同じ考えで、3三銀を想定していたのかもしれない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
2四歩で開戦。
同歩(曲田)、同飛(林家)、2三歩(鞘谷)、2八飛(佐伯)。
俺の番。手が広い。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5四歩」
3一角を見せる。
6九玉(捨神)、3一角(松平)、7九玉(津山)、6四角(箕辺)。
6六歩を突かれてないから、余裕で覗けた。
曲田は、
「先手、構えが低すぎる気もするけど……」
とつぶやいてから、6六歩。
これで3周。
フリーで指せるのは、次が最後だ。
9四歩(林家)、2七銀(鞘谷)、3三桂(佐伯)、5八金(俺)。
捨神は、じっとこの局面を見つめた。
「これは……」
考えてることは、わかる。
フラットにし過ぎたってことだろ。
ほぼ互角、評価値的にはゼロ付近。
ようするに、ちょっと間違えたらプラマイが変わる。
たぶん、次の周回から阿鼻叫喚になる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
捨神は5二金と上がった。
2六銀(松平)、7四歩(津山)、9六歩(箕辺)。
曲田が7三桂と跳ねて、脱落パートへ突入。
トップバッターの林家は、
「さすがに緊張してきた。無難に6七銀」
と指した。
ブーッ
「は?」
次の鞘谷先輩も、え?、という表情だったが、同じく無難そうな1四歩。
こっちはセーフ。
問題は佐伯。ここの選択は難しい。
攻めるか、駒組みを続けるか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1五歩」
よし、攻めたな。そうこなくっちゃ。
同歩(俺)、同銀(捨神)、同香(松平)、同香(津山)。
箕辺のターン。
「ちょ、10秒将棋でこれはエグイって」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1六歩ッ!」
ブーッ
曲田のターン。
「1六歩が悪手……?」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2七飛」
こっちはセーフ。
林家のターン。
「やっべ、わかんね」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「8六歩ッ!」
ブーッ
「うっそだろッ!?」
林家は、地面に吸い込まれた。
あたりに緊迫感が漂う。
こうなると、AIが正しいかどうかすらわからない。
3秒後に出た数値で判定してるだけだ。
深く読ませた結果じゃない。
鞘谷先輩は同歩。
佐伯は9秒まで考えて、2五桂と跳ねた。
強いな、このひと。
俺は、参加選手の名前と学年だけを教えてもらっていた。
駒桜は、中堅層が厚い印象を受ける。
俺は1三香成。
さあ、捨神、こんなしょーもないところでまちがえるなよ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1七歩成」
この一手。
2五飛(松平)、2四銀(津山)、2六飛(箕辺)、1三銀(曲田)。
鞘谷先輩のターン。
「え、ちょっと待って」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4六歩ッ!」
ブーッ
今のは5九角でしたね、個人的に。
2四銀(佐伯)、1七桂(俺)、4五歩(捨神)。
ここも手が広い。
とはいえ、なにを指しても後手が若干良さそうだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
松平先輩は、3六桂と置いた。アリな手。
5三角(津山)、2九飛(箕辺)。
パッと見、難所。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
曲田は迷った挙句、3五銀と指した。
ブーッ
曲田は、
「しまッ……」
と言いかけて、口をつぐんだ。
次の鞘谷先輩も混乱していた。
「え、え、え、わかんない」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2五飛ッ!」
ブーッ
鞘谷先輩も穴へ落下。
100手もいかないうちに、ふたりが脱落した。
俺は、すでに50ポイント。
だが、そんなの関係ねえ。
佐伯は3六銀、俺は1五飛。
まだ互角の局面。
捨神は3七銀成で、攻め合いを選択した。
1一飛成(松平)、4一香(津山)。
箕辺の番。
「む、むず……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3三歩ッ!」
ブーッ
「あッ」
3人目のフェードアウト。
曲田の番。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4二金左」
ブザーは鳴らなかった。
佐伯は5九角で、角の活用を図った。
俺は3六成銀、捨神は2五桂。
松平先輩は、頭をかきむしった。
「待て待て、今度は俺が難しいぞ」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5五桂ッ!」
セーフ。
津山先輩も、いやあ、とうなった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5六銀」
これもセーフ。
曲田は4六成銀で、成銀の活用を図った。
佐伯のターン。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
パシリ
……意外と厳しいか?
後手有利に傾きつつあるとは思うが、後手玉も狭い。
俺はひとまず2四歩で、桂馬を狙った。
1三桂成(捨神)、5六成銀(松平)、同歩(津山)。
この松平って先輩も、めんどいな。実力があるっぽい。
難解な局面で、まちがえてない。
津山先輩はわかんねえ。難しい手が回ってきてない。
曲田はどうだ? 次の手は難しいぞ?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4六歩ッ!」
ブーッ
曲田、脱落。
綺麗に分かれた。
20ポイント残してるやつが4人、脱落したやつが4人。
俺は80ポイント持ち。
美味しく見えるか? 1ポイントも渡さないぜ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
5五歩(佐伯)、4七歩成(俺)、同金(捨神)、5八銀(松平)。
津山先輩は1五角。
以下、4七銀成(佐伯)、2四角(俺)、2五金(捨神)と進んだ。
松平先輩は、また頭をかいた。
「さっきから難しすぎるだろ」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5四歩ッ!」
ブーッ
よし、ワンミス。
津山先輩にも面倒な局面が回った。
「こ、これは……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「い、1七角成」
ブーッ
こっちもワンミス。
無傷は俺と捨神と佐伯だけになった。
佐伯、どうする。
2二成桂で馬を狙うか? それはあんまり良くないと思うぜ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3二歩成」
2四金(吉良)、4一と(捨神)、同金(松平)。
津山先輩は3三桂で、詰めろをかけた。
佐伯、タブレットを睨む。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3五馬」
ん? 王手?
疑問手だが……とっくに先手有利っぽいから、悪手判定されないのか。
俺は8八玉と上がった。
捨神は6一玉、松平先輩は4一桂成。
そこから5八成銀(津山)、5三香(佐伯)、6八成銀(俺)、同金(捨神)、同馬(松平)で、攻め合いになった。
津山先輩は、
「ど、どっちか寄りそう……?」
と焦った。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
5二香成。
なんだかんだで崩れないな。
佐伯は3秒後、サッと入力した。
……待て、それは詰むんじゃないか?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
くっそ、唐突過ぎて、一瞬混乱した。
俺は5一金と打った。
捨神も表情が変わった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同銀」
ここで松平先輩が、いきなり声をあげた。
「そういうことかッ! 津山、頼んだッ! 同成桂ッ!」
津山先輩は、
「え?」
と驚いた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「あ、そういう」
パシリ
……………………
……………………
…………………
………………マジかぁ、そりゃないだろ。
捨神も苦笑した。
「まあ、そうしますよね」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
佐伯は5三銀。
どうする? 捨神とふたりでめちゃくちゃ指せば、詰まないが──
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「しゃあねえな。3三玉」
捨神も受け入れているらしく、2二銀と打った。
同飛(松平)、同龍(津山)まで。
終了の合図とともに、俺はタメ息をついた。
「佐伯ぃ、この終わり方はどうなんだ?」
佐伯は、
「ごめん、捨神くんときみが先に脱落するイメージを、持てなかった」
と答えた。
悪いとは思ってなさそうな雰囲気だ。
まあ、悪くはないんだが。
捨神も、
「アハッ、もうちょっと早くだれかがやると思ってたんだけど、案外続いたね。佐伯くん的には、ベストタイミングだったでしょ」
と言った。
「そうだね。吉良くんを除けば、僕と捨神くんだけ20ポイント。チーム順位は上がった可能性が高い」
戦略的には、そう。
しかし、なんか釈然としない。
俺が不満そうな顔をしているのが伝わったのか、佐伯は、
「あんまり納得がいってないみたいだね。お詫びに、マジックを見せてあげるよ」
と言った。
「マジック?」
「手品だよ」
「手品? ……どういうことだ?」
「はい、僕の指を見て」
佐伯は右手を差し出した。
俺がじっと見ていると、
「3、2、1」
とカウントダウンして、パチンと指を鳴らした。
○
。
.
……ん? 俺は目を開けた。
暗い──って、俺の部屋じゃん。
布団の感触。
天井にはうっすらと、照明のカバーが見えた。
なんか変な夢を見たなあ。
ま、楽しかったからいいか。
夢のなかのみんな、がんばれよ、と。
Zzz……
場所:第2回将棋大運動会 大逆転リレー将棋の部 第3グループ
林家→鞘谷→佐伯→吉良→捨神→松平→津山→箕辺(妹)→曲田
7六歩(林家) 8四歩(鞘谷) 2六歩(佐伯) 3二金(吉良)
7八金(捨神) 8五歩(松平) 7七角(津山) 3四歩(箕辺)
6八銀(曲田) 4四歩(林家) 3八銀(鞘谷) 6二銀(佐伯)
1六歩(吉良) 4二銀(捨神) 2五歩(松平) 4三銀(津山)
2四歩(箕辺) 同歩(曲田) 同飛(林家) 2三歩(鞘谷)
2八飛(佐伯) 5四歩(吉良) 6九玉(捨神) 3一角(松平)
7九玉(津山) 6四角(箕辺) 6六歩(曲田) 9四歩(林家)
2七銀(鞘谷) 3三桂(佐伯) 5八金(吉良) 5二金(捨神)
2六銀(松平) 7四歩(津山) 9六歩(箕辺) 7三桂(曲田)
☆6七銀(林家) 1四歩(鞘谷) 1五歩(佐伯) 同歩(吉良)
同銀(捨神) 同香(松平) 同香(津山) ☆1六歩(箕辺)
2七飛(曲田) ★8六歩(林家) 同歩(鞘谷) 2五桂(佐伯)
1三香成(吉良) 1七歩成(捨神) 2五飛(松平) 2四銀(津山)
2六飛(箕辺) 1三銀(曲田) ☆4六歩(鞘谷) 2四銀(佐伯)
1七桂(吉良) 4五歩(捨神) 3六桂(松平) 5三角(津山)
2九飛(箕辺) ☆3五銀(曲田) ★2五飛(鞘谷) 3六銀(佐伯)
1五飛(吉良) 3七銀成(捨神) 1一飛成(松平) 4一香(津山)
★3三歩(箕辺) 4二金左(曲田) 5九角(佐伯) 3六成銀(吉良)
2五桂(捨神) 5五桂(松平) 5六銀(津山) 4六成銀(曲田)
8七香(佐伯) 2四歩(吉良) 1三桂成(捨神) 5六成銀(松平)
同歩(津山) ★4六歩(曲田) 5五歩(佐伯) 4七歩成(吉良)
同金(捨神) 5八銀(松平) 1五角(津山) 4七銀成(佐伯)
2四角(吉良) 2五金(捨神) ☆5四歩(松平) ☆1七角成(津山)
3二歩成(佐伯) 2四金(吉良) 4一と(捨神) 同金(松平)
3三桂(津山) 3五馬(佐伯) 8八玉(吉良) 6一玉(捨神)
4一桂成(松平) 5八成銀(津山) 5三香(佐伯) 6八成銀(吉良)
同金(捨神) 同馬(松平) 5二香成(津山) 同玉(佐伯)
5一金(吉良) 同銀(捨神) 同成桂(松平) 4二玉(津山)
5三銀(佐伯) 3三玉(吉良) 2二銀(捨神) 同飛(松平)
同龍(津山)
まで117手で先手の勝ち
☆は1回目の悪手、★は2回目の悪手
【獲得ポイント】
林家 0
鞘谷 0
佐伯 20
捨神 20
松平 10
津山 10
箕辺(妹) 0
曲田 0
【暫定順位】
1位 81Boys 299ポイント →
2位 剣ちゃんず 224ポイント ↑1
3位 千駄ヶ谷棋面組 215ポイント ↓1
4位 マジシャンズチェックメイト 205ポイント ↑1
5位 レッツゴー3人娘がゆく 203ポイント ↓1
6位 チーム駒北 186ポイント →
7位 桜川48 151ポイント →
8位 スーパー歩夢くん 144ポイント →




