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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第57局 ぐぅぐぅ第2回将棋大運動会 (2015年9月18日金曜)
676/682

664手目 ひっちゃかめっちゃか、大逆転リレー将棋1

 ちょっと疲れてきた。

 配られたスポーツドリンクで回復……マズぅい。

 さてと、次の競技は、なにかしら。

 葉山はやまさんは、司会を再開した。

《それでは、第4競技の発表ですッ!》

 モニターに文字が浮かんだ。


 大逆転リレー将棋


 ……あれ? リレー将棋?

 松平まつだいらは、

「リレー将棋って、前回は最後じゃなかったか?」

 と首をかしげた。

 そうだ、たしか最後だった。

 飛瀬とびせさんから補足が入った。

《前回の大逆転将棋と、リレー将棋を組み合わせた競技です……大逆転将棋では、ほとんどのチームに点が入らなかったので、改善しました……》

 そういうことかぁ。

 あのときは、ほいじゃまかが強過ぎて、どうにもならなかった感。

《ルールを説明します……各チームからひとりずつ、第1グループ、第2グループ、第3グループにふりわけます……各グループに、各チームの代表が、ひとりずついる状態です……》

 え、ってことは、8人でリレー将棋?

 多くない?

《さらに、お邪魔虫チームが、各グループにひとりずつ参加します……葉山はやまさん、どうぞ……》

《はーい、今回のお邪魔虫チームを紹介だぁッ!》

 地面から、カーテン付きのボックスが登場。

 シルエットからして、3人いる。

 だけど、体格がほいじゃまかっぽくなかった。

《百獣のプリンシーズ、入場ッ!》

 カーテンがひらいた。

「面白そうなことやってんじゃねーか」

「このような子どもっぽい夢は、ひさしぶりだ」

「い、石鉄いしづちれつです。よろしくお願いします」

 吉良きらくんッ! 囃子原はやしばらくんッ! 石鉄くんッ!

 吉良くんはアルパカのかぶりものを、囃子原くんはライオンのかぶりものを、石鉄くんは狼のかぶりものを、それぞれつけていた。

 吉良くんは、

「って、なんで俺だけアルパカなんだよ。百獣でもなんでもないだろ」

 と言って、ぷるぷる震えていた。

 アルパカ、かわいくていいじゃないですか。

 一方、選手たちはざわついていた。

 松平は、

「おいおい、強すぎるだろ」

 と嘆息した。

 た、たしかに……いや、でも、役割を教えてもらってないし、リレー将棋だから、この3人と直接勝負でもない……はず。

 あせる選手たちをよそに、飛瀬さんの説明は続いた。

《お邪魔虫チームも入れて、各グループ9人のリレー将棋です……これがなにを意味するのかは、お分かりいただけると思います……》

 先後固定じゃない、と。

 だったら、ポイントはどうやって分配するのかしら。

 これも、次に説明された。

《配点はやや複雑なので、よーくお聞きください……まず、お邪魔虫チーム以外の各人が、20ポイントずつ、最初に持っています……したがって、各グループに160ポイントのプールがあります……》

 ふむふむ?

《10秒将棋で、最初の36手までは、普通に将棋をします……37手目からが特殊ルール……悪手を指した選手は10ポイントを失い、お邪魔虫がいるあいだは、お邪魔虫に移転します……悪手とは、先手番の場合、プラスだった評価値を0未満にする手……後手番だった場合、マイナスだった評価値を1以上にする手を意味します……》


 【悪手の例】

 先手番 +500 → -100

 後手番 -500 → +100


《評価値は、着手から3秒後に判定されるので、次のひとは3秒以内には指せません……この待ち時間は、初手から適用されます……同じ選手が2回目の悪手を指したときは、ゲーム脱落……グループから除外されます……お邪魔虫が2回目の悪手を指した場合も脱落し、プールしていたポイントを、残っているメンバーに均等に分割……端数は切り捨て……こうしてポイントが推移したあと、詰みが発生した時点で、各自が持っているポイントが、獲得ポイントになります……なお、長時間対局にならないようにするため、千日手は1度でも成立した時点で終了……持将棋はなしで、160手で終了……さらに、対局者がひとりきりになったときも終了し、ポイント確定とします》

 ん? ちょっと待って。

 だいぶ複雑だ。整理しましょ。


【通常パート 1~36手目】

普通の将棋


【脱落パート 37~160手目】

〔選手〕

悪手を指した選手は、10点減点

2回目の悪手を指した場合は、ゲームから脱落

〔お邪魔虫〕

減点されたポイントを獲得し、プールしていく

2回目の悪手を指した場合は脱落し、自身が持っているポイントを対局中の選手に等分


【ポイント確定タイム】

〔条件〕

1、王様が詰んだ

2、千日手が成立した

3、160手目が指された

4、対局者がひとりになった

〔配点〕

条件が充足された時点で、自身が持っているポイントをそのまま獲得


 こうかしら?

 ここで、葛城くんは、

「プラスのまま脱落したら、どうなるのぉ?」

 と訊いた。

 飛瀬さんは、

《それもポイント獲得対象です……》

 と答えた。

 ん、そっか、お邪魔虫からポイントを分けてもらったあとに脱落したら、プラスのまま終われるかもしれないのか。2回で脱落だから、最大マイナス20ポイントまでしかペナルティはない。

 葉山さんのアナウンスが入った。

《それでは、グループ分けの時間を10分取ります。相談してください》

 私たちは、すぐにミーティングを始めた。

 私の第一声は、

「この相談タイム、ただのチーム分けじゃないわね」

 だった。

 松平は、

「チーム分けに、10分もいらないからな。ルールを理解してるかどうかのチェック、ということも考えられるが、おそらくは方針決めだ」

 と言って、他のチームを盗み見た。

 さっきより遠巻きに散っていて、みんなひそひそ話をしている。

 ポーンさんは、

「と言いますと?」

 と訊いてきた。

 私が説明する。

「今回のゲーム、将棋の勝敗自体は、そんなに重要じゃないの。大切なのは、最後に何ポイント持ってるか、よ」

「Ja、それはわかりますが、けっきょくは最善手を指す、という結論になるのでは?」

「例えば、だれも悪手を指さないまま、詰みが発生したとするわよね。だったら、状況はこう」


 選手A 20 選手B 20 選手C 20

 選手D 20 選手E 20 選手F 20

 選手G 20 選手H 20 お邪魔虫 0


「これって、チームの順位に影響がなくない?」

 ポーンさんは、吃驚した。

「Aha, verstanden! 対局した意味がないですわ」

 んー、意味がないかどうかは、微妙。

 例えば、81Boysに160点追加で入るくらいなら、こっちのほうがいい、ということもありえる。ようするに私が言いたいのは、ポイントを偏らせるように努力するのか、するとすれば、どうやってやるのか、ということだ。

 理想的には、他の選手が悪手を指しまくって、お邪魔虫が全部それをプール、さらにお邪魔虫と自分だけが残って、お邪魔虫も最後に脱落。これで160ポイント丸々獲得。


《最高獲得ポイントの出し方》

自分以外の選手が全失点する

※自分が失点していてもいい

=お邪魔虫に140ポイント以上入る

自分以外の選手が脱落し、お邪魔虫と1対1になる

お邪魔虫が脱落する

160ポイント獲得


 このルート、手順前後が許されない。

 もしお邪魔虫が途中で脱落したら、こうはならないからだ。

 3人で、雁首揃えて考える。

 棋力の低そうなひとを狙うとか、お邪魔虫をむしろサポートして延命させるとか、いろんな案が出た。けど、なんか微妙な気がする。

 さらに、お邪魔虫を脱落させないと、獲得ポイントは20ポイント以下、ということにも途中で気づいて、その点も議論した。決定打になりそうなアイデアは出なかった。

 残り時間も少なくなったところで、ポーンさんは、

「このゲーム、逆転さえしなければ、悪手ではないのですよね?」

 と確認してきた。

 私は、

「ええ、そうよ。+3000から+100になっても、悪手じゃ……」

 と言いかけて、口を閉ざした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………この定義、なにか意味があるのでは?

《残り1分です》

 っと、メンバー分けをしてなかった。

 私は、

「どうする?」

 と尋ねた。

 松平は、

「メンツ次第ではクセがあって、有利不利もありそうだが、事前にわかんないからな。じゃんけん任せにするか」

 と提案した。

 たしかに……半ば、運ゲーの続き。

 じゃんけんをして、第1グループがポーンさん、第2グループが私、第3グループが松平になった。

 おたがいに頑張りましょう、と言って、私たちは分かれた。

 それぞれのグループ用に、9個の小さなテーブルが、円形に並べられていた。近づくと、その上にタブレットが見えた。

 お邪魔虫は、第1グループが石鉄くん、第2グループが囃子原くん、第3グループが吉良くん。

 囃子原くんとかぁ。

 囃子原くんは、私たちのグループに加わって、

「よろしく」

 とだけあいさつした。

 ライオンのかぶりものが、かわいい。

《では、ルーレットで指す順番を決めまーす》

 スクリーンがぐるぐる回った。


【第1グループ】

 ポーン→五見→葛城→高崎→駒込

 →石鉄→辻→横溝→内木


【第2グループ】

 箕辺(兄)→裏見→囃子原→蔵持→不破

 →塚→獅子戸→春日川→大場


【第3グループ】

 林家→鞘谷→佐伯→吉良→捨神

 →松平→津山→箕辺(妹)→曲田


 うーん、いいのかどうか、よくわからない。

《それでは、1番と書かれたタブレットから、順番に並んでください》

 私たちは、円形にぐるりと並んだ。

 タブレットは勝手に起動して、将棋盤が表示された。

 これに入力していく方式のようだ。

《対局準備はよろしいですか?》

 特に返事はなかった。

 みんな思案中という表情。

《3、2、1、始めッ!》

 箕辺くんは、初手を指そうとした。

「ん? 動かないぞ?」

《3秒以内は指せません》

「あ、そっか、すまん」

 そのあと、ようやく初手が着手された。

 7六歩。

 私は3秒待って、3四歩。

 戦型をどうするかは、ひとりじゃ決められない。

 次の囃子原くんの手は、重要。

 囃子原くんは、腕組みをほどいて、盤に入力した。


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

 唖然とする私たちをよそに、囃子原くんは笑った。

「160手、ぞんぶんに楽しもう。さあ、次のひと、指したまえ」

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