664手目 ひっちゃかめっちゃか、大逆転リレー将棋1
ちょっと疲れてきた。
配られたスポーツドリンクで回復……マズぅい。
さてと、次の競技は、なにかしら。
葉山さんは、司会を再開した。
《それでは、第4競技の発表ですッ!》
モニターに文字が浮かんだ。
大逆転リレー将棋
……あれ? リレー将棋?
松平は、
「リレー将棋って、前回は最後じゃなかったか?」
と首をかしげた。
そうだ、たしか最後だった。
飛瀬さんから補足が入った。
《前回の大逆転将棋と、リレー将棋を組み合わせた競技です……大逆転将棋では、ほとんどのチームに点が入らなかったので、改善しました……》
そういうことかぁ。
あのときは、ほいじゃまかが強過ぎて、どうにもならなかった感。
《ルールを説明します……各チームからひとりずつ、第1グループ、第2グループ、第3グループにふりわけます……各グループに、各チームの代表が、ひとりずついる状態です……》
え、ってことは、8人でリレー将棋?
多くない?
《さらに、お邪魔虫チームが、各グループにひとりずつ参加します……葉山さん、どうぞ……》
《はーい、今回のお邪魔虫チームを紹介だぁッ!》
地面から、カーテン付きのボックスが登場。
シルエットからして、3人いる。
だけど、体格がほいじゃまかっぽくなかった。
《百獣のプリンシーズ、入場ッ!》
カーテンがひらいた。
「面白そうなことやってんじゃねーか」
「このような子どもっぽい夢は、ひさしぶりだ」
「い、石鉄烈です。よろしくお願いします」
吉良くんッ! 囃子原くんッ! 石鉄くんッ!
吉良くんはアルパカのかぶりものを、囃子原くんはライオンのかぶりものを、石鉄くんは狼のかぶりものを、それぞれつけていた。
吉良くんは、
「って、なんで俺だけアルパカなんだよ。百獣でもなんでもないだろ」
と言って、ぷるぷる震えていた。
アルパカ、かわいくていいじゃないですか。
一方、選手たちはざわついていた。
松平は、
「おいおい、強すぎるだろ」
と嘆息した。
た、たしかに……いや、でも、役割を教えてもらってないし、リレー将棋だから、この3人と直接勝負でもない……はず。
あせる選手たちをよそに、飛瀬さんの説明は続いた。
《お邪魔虫チームも入れて、各グループ9人のリレー将棋です……これがなにを意味するのかは、お分かりいただけると思います……》
先後固定じゃない、と。
だったら、ポイントはどうやって分配するのかしら。
これも、次に説明された。
《配点はやや複雑なので、よーくお聞きください……まず、お邪魔虫チーム以外の各人が、20ポイントずつ、最初に持っています……したがって、各グループに160ポイントのプールがあります……》
ふむふむ?
《10秒将棋で、最初の36手までは、普通に将棋をします……37手目からが特殊ルール……悪手を指した選手は10ポイントを失い、お邪魔虫がいるあいだは、お邪魔虫に移転します……悪手とは、先手番の場合、プラスだった評価値を0未満にする手……後手番だった場合、マイナスだった評価値を1以上にする手を意味します……》
【悪手の例】
先手番 +500 → -100
後手番 -500 → +100
《評価値は、着手から3秒後に判定されるので、次のひとは3秒以内には指せません……この待ち時間は、初手から適用されます……同じ選手が2回目の悪手を指したときは、ゲーム脱落……グループから除外されます……お邪魔虫が2回目の悪手を指した場合も脱落し、プールしていたポイントを、残っているメンバーに均等に分割……端数は切り捨て……こうしてポイントが推移したあと、詰みが発生した時点で、各自が持っているポイントが、獲得ポイントになります……なお、長時間対局にならないようにするため、千日手は1度でも成立した時点で終了……持将棋はなしで、160手で終了……さらに、対局者がひとりきりになったときも終了し、ポイント確定とします》
ん? ちょっと待って。
だいぶ複雑だ。整理しましょ。
【通常パート 1~36手目】
普通の将棋
【脱落パート 37~160手目】
〔選手〕
悪手を指した選手は、10点減点
2回目の悪手を指した場合は、ゲームから脱落
〔お邪魔虫〕
減点されたポイントを獲得し、プールしていく
2回目の悪手を指した場合は脱落し、自身が持っているポイントを対局中の選手に等分
【ポイント確定タイム】
〔条件〕
1、王様が詰んだ
2、千日手が成立した
3、160手目が指された
4、対局者がひとりになった
〔配点〕
条件が充足された時点で、自身が持っているポイントをそのまま獲得
こうかしら?
ここで、葛城くんは、
「プラスのまま脱落したら、どうなるのぉ?」
と訊いた。
飛瀬さんは、
《それもポイント獲得対象です……》
と答えた。
ん、そっか、お邪魔虫からポイントを分けてもらったあとに脱落したら、プラスのまま終われるかもしれないのか。2回で脱落だから、最大マイナス20ポイントまでしかペナルティはない。
葉山さんのアナウンスが入った。
《それでは、グループ分けの時間を10分取ります。相談してください》
私たちは、すぐにミーティングを始めた。
私の第一声は、
「この相談タイム、ただのチーム分けじゃないわね」
だった。
松平は、
「チーム分けに、10分もいらないからな。ルールを理解してるかどうかのチェック、ということも考えられるが、おそらくは方針決めだ」
と言って、他のチームを盗み見た。
さっきより遠巻きに散っていて、みんなひそひそ話をしている。
ポーンさんは、
「と言いますと?」
と訊いてきた。
私が説明する。
「今回のゲーム、将棋の勝敗自体は、そんなに重要じゃないの。大切なのは、最後に何ポイント持ってるか、よ」
「Ja、それはわかりますが、けっきょくは最善手を指す、という結論になるのでは?」
「例えば、だれも悪手を指さないまま、詰みが発生したとするわよね。だったら、状況はこう」
選手A 20 選手B 20 選手C 20
選手D 20 選手E 20 選手F 20
選手G 20 選手H 20 お邪魔虫 0
「これって、チームの順位に影響がなくない?」
ポーンさんは、吃驚した。
「Aha, verstanden! 対局した意味がないですわ」
んー、意味がないかどうかは、微妙。
例えば、81Boysに160点追加で入るくらいなら、こっちのほうがいい、ということもありえる。ようするに私が言いたいのは、ポイントを偏らせるように努力するのか、するとすれば、どうやってやるのか、ということだ。
理想的には、他の選手が悪手を指しまくって、お邪魔虫が全部それをプール、さらにお邪魔虫と自分だけが残って、お邪魔虫も最後に脱落。これで160ポイント丸々獲得。
《最高獲得ポイントの出し方》
自分以外の選手が全失点する
※自分が失点していてもいい
=お邪魔虫に140ポイント以上入る
↓
自分以外の選手が脱落し、お邪魔虫と1対1になる
↓
お邪魔虫が脱落する
↓
160ポイント獲得
このルート、手順前後が許されない。
もしお邪魔虫が途中で脱落したら、こうはならないからだ。
3人で、雁首揃えて考える。
棋力の低そうなひとを狙うとか、お邪魔虫をむしろサポートして延命させるとか、いろんな案が出た。けど、なんか微妙な気がする。
さらに、お邪魔虫を脱落させないと、獲得ポイントは20ポイント以下、ということにも途中で気づいて、その点も議論した。決定打になりそうなアイデアは出なかった。
残り時間も少なくなったところで、ポーンさんは、
「このゲーム、逆転さえしなければ、悪手ではないのですよね?」
と確認してきた。
私は、
「ええ、そうよ。+3000から+100になっても、悪手じゃ……」
と言いかけて、口を閉ざした。
……………………
……………………
…………………
………………この定義、なにか意味があるのでは?
《残り1分です》
っと、メンバー分けをしてなかった。
私は、
「どうする?」
と尋ねた。
松平は、
「メンツ次第ではクセがあって、有利不利もありそうだが、事前にわかんないからな。じゃんけん任せにするか」
と提案した。
たしかに……半ば、運ゲーの続き。
じゃんけんをして、第1グループがポーンさん、第2グループが私、第3グループが松平になった。
おたがいに頑張りましょう、と言って、私たちは分かれた。
それぞれのグループ用に、9個の小さなテーブルが、円形に並べられていた。近づくと、その上にタブレットが見えた。
お邪魔虫は、第1グループが石鉄くん、第2グループが囃子原くん、第3グループが吉良くん。
囃子原くんとかぁ。
囃子原くんは、私たちのグループに加わって、
「よろしく」
とだけあいさつした。
ライオンのかぶりものが、かわいい。
《では、ルーレットで指す順番を決めまーす》
スクリーンがぐるぐる回った。
【第1グループ】
ポーン→五見→葛城→高崎→駒込
→石鉄→辻→横溝→内木
【第2グループ】
箕辺(兄)→裏見→囃子原→蔵持→不破
→塚→獅子戸→春日川→大場
【第3グループ】
林家→鞘谷→佐伯→吉良→捨神
→松平→津山→箕辺(妹)→曲田
うーん、いいのかどうか、よくわからない。
《それでは、1番と書かれたタブレットから、順番に並んでください》
私たちは、円形にぐるりと並んだ。
タブレットは勝手に起動して、将棋盤が表示された。
これに入力していく方式のようだ。
《対局準備はよろしいですか?》
特に返事はなかった。
みんな思案中という表情。
《3、2、1、始めッ!》
箕辺くんは、初手を指そうとした。
「ん? 動かないぞ?」
《3秒以内は指せません》
「あ、そっか、すまん」
そのあと、ようやく初手が着手された。
7六歩。
私は3秒待って、3四歩。
戦型をどうするかは、ひとりじゃ決められない。
次の囃子原くんの手は、重要。
囃子原くんは、腕組みをほどいて、盤に入力した。
……………………
……………………
…………………
………………は?
唖然とする私たちをよそに、囃子原くんは笑った。
「160手、ぞんぶんに楽しもう。さあ、次のひと、指したまえ」




