662手目 めくって天国ひらいて地獄、ニュートランプ将棋3
K♧
空から悪魔の虎向くんが降りてきた。
「裏見先輩、お邪魔しまーす。5四歩」
ぐぅ、防御力低下。
2♣
「2六歩」
ジョーカー
よっしッ!
ここは慎重に考える必要あり。
10かクイーンだとは思う。
個人的に、6六の角が気になっている。
他に動かす駒が難しかったとはいえ、そんなにいい手とも思えない
私は残り15秒まで考えて、クイーンと交換。
もう1枚引く。
10♧
最高ッ!
つじーんは、
「いや、参りましたね」
と、困ったような顔。
「3四歩、6六角」
角を取る。
取り返されるのは6、10、ジョーカーだけ。
9♠
よしよし。
つじーんの9六歩に、6♡、これまた強い引き。
私は9九角成と成り込んだ。
《おっと、裏見vs辻、後手がかなりいいぞ》
葉山さんは、私たちの対局に目をつけたらしい。
助言禁止ですよ。
Q♠
つじーんも悪くない。
けど、次に引いたのが6♠で、あまり芳しくなくなった。
「受けますか。6八銀、5九銀」
攻守がくっきり分かれましたね、これは。
6二玉(5♡)、K♦で、兎丸くんが降臨。
「8九馬」
角桂香を拾いきった。
8四歩(8♢)、2五歩(2♥)、K♧、ぐッ。
虎向くん、再登場。
「これまた難しいなあ」
そんなに大ダメージになる手は、なさそう。
私が楽観視していると、
「じゃ、9五香で」
と、持ち駒を使われた。
し、しまった、そういうのもあるのか。
駒を打つシーンを見たことがなかったから、油断していた。
てっきり5三玉くらいかと。
虎向くんは、パタパタと去っていった。
つじーんは、
「その香車はほぼ死んでるとして……3♣ですか」
と、小考した。
3六歩は、指したくないんじゃないかな。3八飛は微妙。
でも、パスはできない。
だから3八銀か3八玉か3八金だろう。
ピッ、ピッ、ピッ
「3八銀」
Q♢
来い。
3♤
よし。
「3三桂、4五桂」
K♠
おけおけ。
虎向くんは、5六歩。
もうちょっとなにかあったような。
1♧
うーん……1五歩。
K♣
つじーん、さすがに動揺。
「れ、連続キング……」
虎向くん降臨。
やっちゃってください。
「5七玉」
王手の範囲に来た。
7♡
取り切れない。
けど、ここは冷静に寄せていく。
「7九馬」
ダブル王手。
10♦
つじーんもいい引き。
「4八玉です」
王手を解除されてしまった。
2♢
2筋? ……いかん、いい手がない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2二銀ッ!」
1八香(1♠)、7二銀(7♤)、1六歩(1♥)、4♧。
うーん、いい加減に5七桂成と、突っ込みたい気がする。
けど、それは焦ってる感じもする。
我慢我慢。
「4四桂」
控えて打つ。
7五歩(7♦)、1六歩(1♧)、5♥。
つじーんは、ここで6八銀と上がった。
馬を取りにきた。
2♧
いかん、また特に意味がない。
「3……三銀」
4♥
セーフ、でもない。
4六歩と突かれて、桂馬も危なくなった。
8♢
ぐぅ、悠長なカード。8五歩と突き越す。
2四歩(2♠)、Q♧。
頼む、いい手きて。
6♧
よしッ!
「6八馬、4六馬ッ!」
両方の王手を消して、さらに銀を取った。
8六歩(8♦)3五歩(3♤)、8五歩(8♠)、Q♡。
またきたッ!
9♧
だーッ、そんなによくない。
9六香→9七香成としておく。
5♠
つじーんは、思いのほかこの手に悩んだ。
意外と難しい? 5五歩は、反動があると読んでるのかしら。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
けっきょく5五歩。
9♤
あ、なんか成香が動いてきた。
8七成香と寄っておく。
Q♣
あー、ダメダメ。
2♥
いかーんッ!
「2三歩成、3三と」
飛車先が通るなんて、トランプ将棋らしくない。
次に飛車を成り込まれると、あやしくなってくる。
ジョーカー
よっしゃあああああッ!
と、慎重に。
こういうときにポカが出やすい。
クイーンは、あんまりよくないかも……ん? そうでもない?
クイーンのあと、3、4、5は王手にできる。
1か2でもいい。というか、1と2はかなり厳しい。
1七歩成→2八と、または、2七歩→2八歩成で、飛車を取れるから。
6から8までが微妙──いや、6もいい。
6九銀→5八銀成で、王手をかけることができる。
3分の2なら、賭ける価値あり。
「クイーン」
6♠
ナイス!
「6九銀、5八銀成」
お願い、煮詰まってください。
3♣
「3九玉ッ!」
それはそんなに痛くない。
K♧
これは痛いッ!
悪魔の虎向くん降臨。
「また難しいなあ、うーん」
間違えて、間違えて。
「変に動かすと、王手加速しそうだし……7一角」
か、角が死んだ。
5♦
「5八金」
成銀も取られた。
K♢
最悪ぅ!
天使の兎丸くんが舞い降りた。
「2二飛成」
涼しい顔をして、去って行った。ぶぅ。
4♠
「4三と」
ほ、ほんとに危なくなってきた。
7一も埋まってるし、逃げ場がない。
6♡
う……ぐ……6四歩?
いや、6三銀という賭けの一発を食らうかも。
だけど、パスはできないし──
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は5一金寄とした。
8四歩(8♥)、9四歩(9♢)、6♦。
つじーんは、
「6筋ですか……パスしたいくらですが……」
と言ったあと、6六歩と突いた。
私は9♡。9五歩。
10♣
うわぁ、出ちゃった。
「5二」
つじーんは、と金を取ろうとした。
けど、手を引っ込めた。
「……」
? なにを考えてるの?
ピッ、ピッ
「5三銀」
重ね打ち?
5♧
……ああッ! 取れないッ!
6一金は意味ないし、4一金も──
ピッ、ピッ、ピッ
5六桂と跳ねる。
1♠
つじーん、固まる。
1一龍の一手では? ……あ、王様が横利きから逸れるのか。
ピッ、ピッ、ピッ
「1六香」
指したあと、つじーんは軽く首をひねった。
とりあえず、こっちの王手を解除できるカードが欲しい。
8♧
ぐッ……今度はこっちが難しくなった。
普通なら8四飛。
でも、8三銀で、王様のふところを広くしたくもある。
ピッ、ピッ、ピッ
「8四飛ッ!」
8♠
結果オーライ。
8三銀だと死んでた。
「8二……いえ、8五歩です」
飛車取りに打ってきた。
6♡
「6一玉ッ!」
王手解除。
K♠
よしよしよし。
虎向くん登場。
「辻先輩、覚悟、4八玉」
王手になった。
8♢
飛車が助かっ……いや、8二角のほうが、いい?
王様を逃がすのが、先決のような。
ピッ、ピッ
「は、8五飛ッ!」
飛車厨になってしまった。
4♠
「ナイスですッ! 5二とッ!」
だーッ、逃げ場所がない。
4か5か6か7か10、4か5か6か7か10。
K♡
さーいーあーくぅ。
天使のような悪魔の兎丸くん、降臨。
今回は悩んだ。
兎丸くんは、王様を取れない。それはルールで禁止。
王様を逃げるか、6二とで金を取るか、微妙な選択。
「……6二金」
ギャンブルされた。
9二歩(9♥)、2一歩(2♢)、9一歩成(9♣)、J♧。
あ、これで王手解除……できないッ!
ピッ、ピッ、ピッ
「5七玉ッ!」
先手もダブル王手にする。
5♥
チーン
「6一と、僕の勝ちです」
「あ、ありがとうございました」
ガーン、あそこから負けるなんて、ショック。
しかも、ここが最後だったらしく、チームも負けていた。
がっかりしていると、つじーんは、
「いい勝負でしたね。そういえば、5三同玉と取らなかったのは、なんでですか?」
と尋ねた。
「え、どこ?」
「5三銀と打ったあとです」
【検討図】
「取れなくない?」
「王手放置可ですよ」
……あ、そっか。
私があっけに取られていると、つじーんは、
「まあ、こっちに4か5が出たら終わりなので、あんまり関係なかったかもしれませんが」
と付け加えた。
うーん……反省点は、他にもいろいろとあった気がする。
8のカードが出たときに、漫然と指したこととか。
とりあえず、休憩。
ブースに戻ると、他のふたりが待っていた。
「すまん、序盤に即死した」
「最後、王様を捕まえられませんでしたわ」
ふむ、しょうがない。
観戦席に回ったところで、アナウンスが入った。
《それでは、いよいよ決勝戦、マジシャンズチェックメイトvs千駄ヶ谷棋面組をお送りしますッ!》
場所:第2回将棋大運動会 ニュートランプ将棋の部 準決勝第2試合
先手:辻 竜馬 (千駄ヶ谷棋面組)
後手:裏見 香子 (剣ちゃんず)
7六歩→4八玉(Q♣→10♠) 5二金左(5♢) 5八金左(4♠) 1四歩(1♢)
6六角(6♦) 5四歩(K♧) 2六歩(2♣) 3四歩→6六角(ジョーカー→クイーン→10♧)
9六歩(9♠) 9九角成(6♡) 6八銀→5九銀(Q♠→6♠) 6二玉(5♡)
後手8九馬(K♦) 8四歩(8♢) 2五歩(2♥) 9五香(K♧)
3八銀(3♣) 3三桂→4五桂(Q♢→3♤) 5六歩(K♠) 1五歩(1♧)
5七玉(K♣) 7九馬(7♡) 4八玉(10♦) 2二銀(2♢)
1八香(1♠) 7二銀(7♤) 1六歩(1♥) 4四桂(4♧)
7五歩(7♦) 1六歩(1♧) 6八銀(5♥) 3三銀(2♧)
4六歩(4♥) 8五歩(8♢) 2四歩(2♠) 6八馬→4六馬(Q♧→6♧)
8六歩(8♦) 3五歩(3♤) 8五歩(8♠) 9六歩→9七香成(Q♡→9♧)
5五歩(5♠) 8七成香(9♤) 2三歩成→3三と(Q♣→2♥) 6九銀→5八成銀(ジョーカー→クイーン→6♠)
3九玉(3♣) 7一角(K♧) 5八金(5♦) 先手2二飛成(K♢)
4三と(4♠) 5一金寄(6♡) 8四歩(8♥) 9四歩(9♢)
6六歩(6♦) 9五歩(9♡) 5三銀(10♣) 5六桂(5♧)
1六香(1♠) 8四飛(8♧) 8五歩(8♠) 6一玉(6♡)
4八玉(K♠) 8四飛(8♢) 5二と(4♠) 先手6二金(K♡)
9二歩(9♥) 2一歩(2♢) 9一歩成(9♣) 先手5七玉(J♧)
6一と(5♥)
まで77手で辻の勝ち




