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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第57局 ぐぅぐぅ第2回将棋大運動会 (2015年9月18日金曜)
673/683

661手目 めくって天国ひらいて地獄、ニュートランプ将棋2

 カーテンが上がって、シルエットの正体が登場。

 なんと、兎丸うさまる虎向こなたくん。

 兎丸くんは天使のかっこうをしていて、背中に鳥の羽、頭に金の輪っか。

 虎向くんは悪魔のかっこうをしていて、背中にコウモリの羽、手に槍を持っていた。

《今回のおじゃま虫チームは、天使のウサギさんと悪魔のトラさんですッ!》

 葉山はやまさんの紹介が終わるやいなや、虎向くんは、

「なんで俺たちがチーム参加じゃないんだよッ! おかしいだろッ!」

 と怒っていた。

 飛瀬とびせさんは、

《もうしわけありません……枠が足りなくて……》

 と謝った。

 虎向くんは、

「というわけで、めちゃくちゃ邪魔してやる」

 といきり立ち、槍の柄で地面を叩いた。

 そう怒らないで。

 葉山さんは、先を続けた。

《ルールを説明します。前回、キングのカードは、相手の駒を取る効果でした。今回からは、次のように変更されます》


《KのハートまたはKのダイヤ》

・天使の兎丸くんが、敵の駒を敵に有利だと思われるように動かすか、または打つ。

・駒の動きは通常の将棋と同様。ただし、王様は取れない。

《KのスペードまたはKのクラブ》

・悪魔の虎向くんが、プレイヤーの駒をプレイヤーに不利だと思われるように動かすか、または打つ。

・駒の動きは通常の将棋と同様。反則負けはできない。


 うわぁ、まさに妨害プレイ。

 天使を引いてもデメリットなのか。

 飛瀬さんは、

《名付けて、kibitzのK、です……その後の展開次第では、動かした結果のメリット・デメリットが、逆転する可能性もあります……そこはご愛敬ということで……》

 と弁明した。

 すると、サーヤは、

「これ、複数人が同時に、同じ色のKを引いたら、どうなるの?」

 と訊いた。

《はい、そういう場合に備えて……分裂……》

 ポンと煙があがって、兎丸くんは複数のミニ兎丸くんに、虎向くんは複数のミニ虎向くんに分裂した。羽を使って飛び回る。かわいい。

 松平まつだいらは、

「兎丸と虎向の自我も、分裂してるのか……?」

 と首をかしげた。

 あんまり深く考えないことにしましょう。

 そもそも私の夢だし。

 葉山さんの司会が再開。

《さあ、ここからは1試合ごとにお送りします。準決勝第1試合は、桜川さくらがわ48vsマジシャンズチェックメイト!》

 わー、パチパチパチ。

 ポーンさんは、

「この隙に、対策を考えませう」

 と言った。

 他のチームの対局は、参考になりそう。特にKの効果を見たい。

 並びは、内木うちきvs不破ふわ箕辺みのべvs佐伯さえきつかvsよっしー。

 振り駒で、桜川48の奇数先。

《準備はよろしいですか? ……では、始めッ!》

 対局が始まった。

 3つとも、スクリーンに映されている。

ひとつに集中したい。

 と、ちょうど目を引くところがあった。

 内木vs不破で、一発目からK♦。

 空中から、天使のミニ兎丸くんが降りてきた。

《おっとッ! いきなり降臨だーッ!》

 ミニ兎丸くんは、3四歩と突いて、帰って行った。


挿絵(By みてみん)


 不破さんの手番。


 7♧


「よっしゃッ! 7七角成ッ!」


挿絵(By みてみん)


 積極策。

 悪魔のほうが痛いかと思ったけど、天使のほうも痛いわね。

 相手が10→もう一枚と、連続で引いてるのに近い。


 トランプの画面が回る。


 ジョーカー


 強いッ! 不破さんのアグレッシブさが、裏目に出た。

内木さん、すぐには指さない。どれに変えるのか、迷ってる。

 松平は、

「クイーンに変えて、もう一回引く手もあるぞ」

 と言った。

 過激に行くなら、そう。

 だけど、私は、

「クイーン→7とかクイーン→10なら最高だけど、ちょっと期待しすぎじゃない?」

 と指摘した。

 松平も、たしかに、と言った。

 内木さんは安全策で、10に変えて、7七同角とした。

《不破さん、いきなりの角損だ。飛瀬さん、いかがですか?》

《そうですね……まあ、日頃のおこないかと……》

「うるせーぞッ!」


 7♢


 あー、不破さん、さっきのが有効カードじゃなかったら、勝ってた。

「くそぉ、7四歩」

 それでも攻めの姿勢。


 2♠


 内木さん、2六角。上部を狙う。


 K♧


 不破さん、引きが悪い。

 今度はミニ虎向くんが、悪魔の羽をパタパタさせて降りてきた。

「ケケケケ、5四歩」


挿絵(By みてみん)


 痛いところを突かれた。

 トランプ将棋経験者なら、ここは突かれたくないところ。

 5三に放り込んでの王手は、ほんとに有効なのだ。


 10♥


 内木さん、運気爆発状態。

「これがアイドルパワーですよッ! 1一角成ッ!」

 次に5三香という王手があるから、やはり5四歩は痛打。

 7三桂(8♤)、2一馬(2♦)、1二馬(J♧)。

 馬を移動させられた。

 画面が回る。


 Q♥


 あッ。


 1♣


 微妙……でもないか。馬は逃げられる。

 葉山さんは、

《馬は助かりましたが、指し手が難しくないですか?》

 とコメントした。

 飛瀬さんも、

《そうですね……色々あるような……》

 と、対局者に配慮しつつ答えた。

 たしかに、連続で移動するコースが難しい。

 1一馬→3三馬の王手コースが、第一感。

 だけど、1三馬→3一馬みたいに突っ込んでもいいし、1一馬→8八馬の守備を選んでもいい。

 内木さんのこれまでの指し方的には──


 ピッ


「1一馬、3三馬」


挿絵(By みてみん)


 こっちよね。無難路線。


 10♧


 変に銀を取りに行かなくて正解。

 不破さんは4二銀と受けた。

 

 Q♦


 また鬼引き。

 

 1♠


 あんまり美味しくない。

 一応、1五馬→4二馬と、突っ込みなおすことはできる。

 内木さんは迷ったあと、1一馬→8八馬で、一回撤退した。

 葉山さんは、

《今のはどうでしょうか。少し消極的過ぎる気もしますが》

 と疑問を呈した。

 飛瀬さんは、

《1一に馬がいても、やることがないので、まあそんなものかな、と……ただ、こうなってくると、5四歩が逆に活きてきてますね……なければ5五馬があったので……》

 と返した。

 なるほど、5五馬は、急所になった可能性がある。

 9四歩(9♤)、7七桂(7♠)、3五歩(3♡)。


挿絵(By みてみん)


 不破さんも、あがいている。


 J♦


 内木さんは、3一銀と戻させた。

 5五歩も、あったような。

 というか、私なら7七桂とは指してなかった。


 5♤


 不破さんは6二玉と逃げた。

 ここに逃げられると、長引きそう。

 6六桂(6♥)、6五桂(6♧)、5四桂(5♥)。

 あ、そうでもなさそう?


 くるくるくる──K♤


 不破さんピンチ。

 悪魔虎向くん登場。

 虎向くんは、空中でパタパタしながら、盤を見つめた。

「……難しいな、これ」

 ですね。

 不利な手を指すように指示されてるけど、なにが不利なのか判断しづらい。

 私が指すなら──

「3六歩」


挿絵(By みてみん)


 私もこれかなあ。

 ダブル王手で、次に逃げられなければ、2、5、6、10、ジョーカーのどれかで勝ち。

 内木さん、勝負のカードめくり。


 J♠


 王様の取り切り、ならず。

 内木さんも、ここは慎重に考えた。

「……7二飛」


挿絵(By みてみん)


 狭くした。7三玉なら、6五桂狙い。

 画面が回る。


 ジョーカー


《おおっとッ! これは起死回生かッ!?》

 いや、どうだろ。ジョーカーは他のカードと交換できるだけで、大富豪の革命みたいな効果じゃない。とはいえ、最強カードではある。

 不破さん、慌てずに考える。

 こういうところは冷静なのよね。さすが将棋指しというか。

 松平は、

「10に変えて7三玉が、一番安全だ。クイーン勝負は危ない」

 と、今回は守勢を考えた。

 ただなあ、ジリ貧の可能性も。

「……クイーン」

 勝負に出た。

 

 1♧


 結果、最悪。

 1四歩→1五歩。

 内木さん、チャンス。


 4♣


 ならず。4八銀。

 

 5♧


 不破さんは、5一玉と引いた。

 あのダブル王手から、生還した。


 5♠


 一手遅い。

「6二……5三香ッ!」


挿絵(By みてみん)


 あ、この王手も厳しい。


 8♢


 8二飛。あまり受けになってない。


 6♠


 内木さんは、意気揚々と6五桂。


挿絵(By みてみん)


 じわじわ攻め。

 ぐだぐだ感はあるけど、不破さんの逆転の芽を潰している。

 

 5♢


「5二歩」


 8♠


 内木さんは、5五馬で、援軍を送った。


 K♡


《不破さん、またキング! 同級生からイビられまくっているッ!》

 天使の兎丸くん登場。

 7三馬と上がって、去って行った。


挿絵(By みてみん)


 7♦


 あッ。

「5一馬です」

「負けました」

 わーッと会場が沸いた。

《兎丸くんの一手が、勝利に繋がりましたッ!》

《極悪天使でしたね……》

 内木さんは、その場でガッツポーズ。

 不破さんは横転した。

「はい、クソゲー」

 そういう態度を取るから、運が悪くなるんじゃないですかね。

 いや、これはオカルトか。

 とりあえず、個人的に疑問だったのは、5一玉。

 ダブル王手の解除で、それ自体は合理的。

 だけど、ここまで窮してるなら、5七桂不成で突っ込むのもアリだった。


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 あ、でも、そのあとの勝敗に、影響ないわね。

 直後に内木さんは5♠を引いてるから、そこで終わり──むしろ、そっちのほうが結果論? 5を引く前提で反省したら、ダメな気がする。

 もうちょっと、確率的に考える必要があるかも。

 と、そんなこんなで、チーム全体の結果は──

《佐伯くん、横溝よこみぞさんの勝ちで、マジシャンズチェックメイトの勝利ッ!》

 桜川48、残念。

《では、準決勝第2試合、千駄ヶ谷棋面組vs剣ちゃんずをお送りします》

 いざ、出撃ッ!

 私たちは、事前に決めておいた順番に並んだ。

 ポーンvs曲田まがた、松平vs獅子戸ししど、私vsつじーん。

 つじーんは、

「裏見さん、お手柔らかに」

 とあいさつした。

 こちらこそ。

《振り駒をどうぞ》

 ポーンさんが振って、偶数先。

 私は後手。

《準備はよろしいですか? ……では、始めッ!》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 画面が回る。


 Q♣


 ぐッ、つじーん、出だしがいい。


 10♠


 うわッ!


 つじーんは、腕組みをして、

「不破さんの積極性、悪くはないんですが……対応カードが多すぎる……」

 とつぶやいた。

 そう、冷静になって考えてみれば、7六歩→3三角成のあと、王手を回避するカードは2(同角か同桂)、3(同角か同桂か4二銀)、4(4二銀か4二金か4二飛)、5(5二玉か6二玉)、6(6二玉)、8(4二飛)、10、J、ジョーカーで、9枚もある。しかも、そのうちの3つ(2、3、10)は、角のタダ取り。Qで助かる場合もある。ようするに、確率的には分が悪い賭けなのだ。もっとも、確率的に分が悪い、イコール、勝てない、じゃないから難しいんだけど。


 ピッ


「7六歩、4八玉」


挿絵(By みてみん)


 攻守を組み合わせた手。

 画面が回って、5♢。

 5二金左が無難かな。

 つじーんは、

「長引きそうですね」

 と言って、4♠に5八金左と上がった。

 つじーんは前回も参加してるから、慣れてる感がある。

 1四歩(1♢)、6六角(6♦)。

 くるくるくる──


 K♧


 げぇッ!?

場所:第2回将棋大運動会 ニュートランプ将棋の部 準決勝第1試合

先手:内木 檸檬 (桜川48)

後手:不破 楓  (マジシャンズチェックメイト)


後手3四歩(K♦) 7七角成(7♧) 7七同角(ジョーカー→10) 7四歩(7♢)

2六角(2♠) 5四歩(K♧) 1一角成(10♥) 7三桂(8♤)

2一馬(2♦) 先手1二馬(J♧) 1一馬→3三馬(Q♥→1♣) 4二銀(10♧)

1一馬→8八馬(Q♦→1♠) 9四歩(9♤) 7七桂(7♠) 3五歩(3♡)

3一銀(J♦) 6二玉(5♤) 6六桂(6♥) 6五桂(6♧)

5四桂(5♥) 後手3六歩(K♤) 後手7二飛(J♠) 1四歩→1五歩(ジョーカー→Q→1♧)

4八銀(4♣) 5一玉(5♧) 5三香(5♠) 8二飛(8♢)

6五桂(6♠) 5二歩(5♢) 5五馬(8♠) 先手7三馬(K♡)

5一馬(7♦)


まで36手で内木の勝ち

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