661手目 めくって天国ひらいて地獄、ニュートランプ将棋2
カーテンが上がって、シルエットの正体が登場。
なんと、兎丸と虎向くん。
兎丸くんは天使のかっこうをしていて、背中に鳥の羽、頭に金の輪っか。
虎向くんは悪魔のかっこうをしていて、背中にコウモリの羽、手に槍を持っていた。
《今回のおじゃま虫チームは、天使のウサギさんと悪魔のトラさんですッ!》
葉山さんの紹介が終わるやいなや、虎向くんは、
「なんで俺たちがチーム参加じゃないんだよッ! おかしいだろッ!」
と怒っていた。
飛瀬さんは、
《もうしわけありません……枠が足りなくて……》
と謝った。
虎向くんは、
「というわけで、めちゃくちゃ邪魔してやる」
といきり立ち、槍の柄で地面を叩いた。
そう怒らないで。
葉山さんは、先を続けた。
《ルールを説明します。前回、キングのカードは、相手の駒を取る効果でした。今回からは、次のように変更されます》
《KのハートまたはKのダイヤ》
・天使の兎丸くんが、敵の駒を敵に有利だと思われるように動かすか、または打つ。
・駒の動きは通常の将棋と同様。ただし、王様は取れない。
《KのスペードまたはKのクラブ》
・悪魔の虎向くんが、プレイヤーの駒をプレイヤーに不利だと思われるように動かすか、または打つ。
・駒の動きは通常の将棋と同様。反則負けはできない。
うわぁ、まさに妨害プレイ。
天使を引いてもデメリットなのか。
飛瀬さんは、
《名付けて、kibitzのK、です……その後の展開次第では、動かした結果のメリット・デメリットが、逆転する可能性もあります……そこはご愛敬ということで……》
と弁明した。
すると、サーヤは、
「これ、複数人が同時に、同じ色のKを引いたら、どうなるの?」
と訊いた。
《はい、そういう場合に備えて……分裂……》
ポンと煙があがって、兎丸くんは複数のミニ兎丸くんに、虎向くんは複数のミニ虎向くんに分裂した。羽を使って飛び回る。かわいい。
松平は、
「兎丸と虎向の自我も、分裂してるのか……?」
と首をかしげた。
あんまり深く考えないことにしましょう。
そもそも私の夢だし。
葉山さんの司会が再開。
《さあ、ここからは1試合ごとにお送りします。準決勝第1試合は、桜川48vsマジシャンズチェックメイト!》
わー、パチパチパチ。
ポーンさんは、
「この隙に、対策を考えませう」
と言った。
他のチームの対局は、参考になりそう。特にKの効果を見たい。
並びは、内木vs不破、箕辺vs佐伯、塚vsよっしー。
振り駒で、桜川48の奇数先。
《準備はよろしいですか? ……では、始めッ!》
対局が始まった。
3つとも、スクリーンに映されている。
ひとつに集中したい。
と、ちょうど目を引くところがあった。
内木vs不破で、一発目からK♦。
空中から、天使のミニ兎丸くんが降りてきた。
《おっとッ! いきなり降臨だーッ!》
ミニ兎丸くんは、3四歩と突いて、帰って行った。
不破さんの手番。
7♧
「よっしゃッ! 7七角成ッ!」
積極策。
悪魔のほうが痛いかと思ったけど、天使のほうも痛いわね。
相手が10→もう一枚と、連続で引いてるのに近い。
トランプの画面が回る。
ジョーカー
強いッ! 不破さんのアグレッシブさが、裏目に出た。
内木さん、すぐには指さない。どれに変えるのか、迷ってる。
松平は、
「クイーンに変えて、もう一回引く手もあるぞ」
と言った。
過激に行くなら、そう。
だけど、私は、
「クイーン→7とかクイーン→10なら最高だけど、ちょっと期待しすぎじゃない?」
と指摘した。
松平も、たしかに、と言った。
内木さんは安全策で、10に変えて、7七同角とした。
《不破さん、いきなりの角損だ。飛瀬さん、いかがですか?》
《そうですね……まあ、日頃のおこないかと……》
「うるせーぞッ!」
7♢
あー、不破さん、さっきのが有効カードじゃなかったら、勝ってた。
「くそぉ、7四歩」
それでも攻めの姿勢。
2♠
内木さん、2六角。上部を狙う。
K♧
不破さん、引きが悪い。
今度はミニ虎向くんが、悪魔の羽をパタパタさせて降りてきた。
「ケケケケ、5四歩」
痛いところを突かれた。
トランプ将棋経験者なら、ここは突かれたくないところ。
5三に放り込んでの王手は、ほんとに有効なのだ。
10♥
内木さん、運気爆発状態。
「これがアイドルパワーですよッ! 1一角成ッ!」
次に5三香という王手があるから、やはり5四歩は痛打。
7三桂(8♤)、2一馬(2♦)、1二馬(J♧)。
馬を移動させられた。
画面が回る。
Q♥
あッ。
1♣
微妙……でもないか。馬は逃げられる。
葉山さんは、
《馬は助かりましたが、指し手が難しくないですか?》
とコメントした。
飛瀬さんも、
《そうですね……色々あるような……》
と、対局者に配慮しつつ答えた。
たしかに、連続で移動するコースが難しい。
1一馬→3三馬の王手コースが、第一感。
だけど、1三馬→3一馬みたいに突っ込んでもいいし、1一馬→8八馬の守備を選んでもいい。
内木さんのこれまでの指し方的には──
ピッ
「1一馬、3三馬」
こっちよね。無難路線。
10♧
変に銀を取りに行かなくて正解。
不破さんは4二銀と受けた。
Q♦
また鬼引き。
1♠
あんまり美味しくない。
一応、1五馬→4二馬と、突っ込みなおすことはできる。
内木さんは迷ったあと、1一馬→8八馬で、一回撤退した。
葉山さんは、
《今のはどうでしょうか。少し消極的過ぎる気もしますが》
と疑問を呈した。
飛瀬さんは、
《1一に馬がいても、やることがないので、まあそんなものかな、と……ただ、こうなってくると、5四歩が逆に活きてきてますね……なければ5五馬があったので……》
と返した。
なるほど、5五馬は、急所になった可能性がある。
9四歩(9♤)、7七桂(7♠)、3五歩(3♡)。
不破さんも、あがいている。
J♦
内木さんは、3一銀と戻させた。
5五歩も、あったような。
というか、私なら7七桂とは指してなかった。
5♤
不破さんは6二玉と逃げた。
ここに逃げられると、長引きそう。
6六桂(6♥)、6五桂(6♧)、5四桂(5♥)。
あ、そうでもなさそう?
くるくるくる──K♤
不破さんピンチ。
悪魔虎向くん登場。
虎向くんは、空中でパタパタしながら、盤を見つめた。
「……難しいな、これ」
ですね。
不利な手を指すように指示されてるけど、なにが不利なのか判断しづらい。
私が指すなら──
「3六歩」
私もこれかなあ。
ダブル王手で、次に逃げられなければ、2、5、6、10、ジョーカーのどれかで勝ち。
内木さん、勝負のカードめくり。
J♠
王様の取り切り、ならず。
内木さんも、ここは慎重に考えた。
「……7二飛」
狭くした。7三玉なら、6五桂狙い。
画面が回る。
ジョーカー
《おおっとッ! これは起死回生かッ!?》
いや、どうだろ。ジョーカーは他のカードと交換できるだけで、大富豪の革命みたいな効果じゃない。とはいえ、最強カードではある。
不破さん、慌てずに考える。
こういうところは冷静なのよね。さすが将棋指しというか。
松平は、
「10に変えて7三玉が、一番安全だ。クイーン勝負は危ない」
と、今回は守勢を考えた。
ただなあ、ジリ貧の可能性も。
「……クイーン」
勝負に出た。
1♧
結果、最悪。
1四歩→1五歩。
内木さん、チャンス。
4♣
ならず。4八銀。
5♧
不破さんは、5一玉と引いた。
あのダブル王手から、生還した。
5♠
一手遅い。
「6二……5三香ッ!」
あ、この王手も厳しい。
8♢
8二飛。あまり受けになってない。
6♠
内木さんは、意気揚々と6五桂。
じわじわ攻め。
ぐだぐだ感はあるけど、不破さんの逆転の芽を潰している。
5♢
「5二歩」
8♠
内木さんは、5五馬で、援軍を送った。
K♡
《不破さん、またキング! 同級生からイビられまくっているッ!》
天使の兎丸くん登場。
7三馬と上がって、去って行った。
7♦
あッ。
「5一馬です」
「負けました」
わーッと会場が沸いた。
《兎丸くんの一手が、勝利に繋がりましたッ!》
《極悪天使でしたね……》
内木さんは、その場でガッツポーズ。
不破さんは横転した。
「はい、クソゲー」
そういう態度を取るから、運が悪くなるんじゃないですかね。
いや、これはオカルトか。
とりあえず、個人的に疑問だったのは、5一玉。
ダブル王手の解除で、それ自体は合理的。
だけど、ここまで窮してるなら、5七桂不成で突っ込むのもアリだった。
【参考図】
あ、でも、そのあとの勝敗に、影響ないわね。
直後に内木さんは5♠を引いてるから、そこで終わり──むしろ、そっちのほうが結果論? 5を引く前提で反省したら、ダメな気がする。
もうちょっと、確率的に考える必要があるかも。
と、そんなこんなで、チーム全体の結果は──
《佐伯くん、横溝さんの勝ちで、マジシャンズチェックメイトの勝利ッ!》
桜川48、残念。
《では、準決勝第2試合、千駄ヶ谷棋面組vs剣ちゃんずをお送りします》
いざ、出撃ッ!
私たちは、事前に決めておいた順番に並んだ。
ポーンvs曲田、松平vs獅子戸、私vsつじーん。
つじーんは、
「裏見さん、お手柔らかに」
とあいさつした。
こちらこそ。
《振り駒をどうぞ》
ポーンさんが振って、偶数先。
私は後手。
《準備はよろしいですか? ……では、始めッ!》
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
画面が回る。
Q♣
ぐッ、つじーん、出だしがいい。
10♠
うわッ!
つじーんは、腕組みをして、
「不破さんの積極性、悪くはないんですが……対応カードが多すぎる……」
とつぶやいた。
そう、冷静になって考えてみれば、7六歩→3三角成のあと、王手を回避するカードは2(同角か同桂)、3(同角か同桂か4二銀)、4(4二銀か4二金か4二飛)、5(5二玉か6二玉)、6(6二玉)、8(4二飛)、10、J、ジョーカーで、9枚もある。しかも、そのうちの3つ(2、3、10)は、角のタダ取り。Qで助かる場合もある。ようするに、確率的には分が悪い賭けなのだ。もっとも、確率的に分が悪い、イコール、勝てない、じゃないから難しいんだけど。
ピッ
「7六歩、4八玉」
攻守を組み合わせた手。
画面が回って、5♢。
5二金左が無難かな。
つじーんは、
「長引きそうですね」
と言って、4♠に5八金左と上がった。
つじーんは前回も参加してるから、慣れてる感がある。
1四歩(1♢)、6六角(6♦)。
くるくるくる──
K♧
げぇッ!?
場所:第2回将棋大運動会 ニュートランプ将棋の部 準決勝第1試合
先手:内木 檸檬 (桜川48)
後手:不破 楓 (マジシャンズチェックメイト)
後手3四歩(K♦) 7七角成(7♧) 7七同角(ジョーカー→10) 7四歩(7♢)
2六角(2♠) 5四歩(K♧) 1一角成(10♥) 7三桂(8♤)
2一馬(2♦) 先手1二馬(J♧) 1一馬→3三馬(Q♥→1♣) 4二銀(10♧)
1一馬→8八馬(Q♦→1♠) 9四歩(9♤) 7七桂(7♠) 3五歩(3♡)
3一銀(J♦) 6二玉(5♤) 6六桂(6♥) 6五桂(6♧)
5四桂(5♥) 後手3六歩(K♤) 後手7二飛(J♠) 1四歩→1五歩(ジョーカー→Q→1♧)
4八銀(4♣) 5一玉(5♧) 5三香(5♠) 8二飛(8♢)
6五桂(6♠) 5二歩(5♢) 5五馬(8♠) 先手7三馬(K♡)
5一馬(7♦)
まで36手で内木の勝ち




