表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第57局 ぐぅぐぅ第2回将棋大運動会 (2015年9月18日金曜)
672/682

660手目 めくって天国ひらいて地獄、ニュートランプ将棋1

 スタジアムに、葉山はやまさんのアナウンスが鳴り響く。

《それでは、第3ゲーム、ニュートランプ将棋を始めますッ!》

 わー、パフパフ。

飛瀬とびせさん、解説をどうぞ》

《知力、体力、時の運……ということで、3番目は運勝負です……去年のルールに、若干変更を加えたものを採用します……》


【用意するもの】

・ジョーカーの入った53枚のトランプ。

・コンピュータでランダムに出力するため、シャッフルはない。


【手順】

・プレイヤーは毎ターン、カードを1枚引く。

《1~9だった場合》

・カードの数字と同じ「筋の駒を動かす」か、その数字の「筋へ駒を動かす」か、あるいはその「筋に駒を打つ」ことができる。それ以外の手は指せない。

《1~9以外だった場合》

 それぞれ以下の効果を持つ。

 10 1~9のいずれかひとつを選び、その数字と同じ効果。

  J 敵の駒をひとつ動かせる。

  Q 1~9が出るまでもういちど引きなおし、出たカードを2回分行使できる。

    例:Q→1 1を2回連続で引いた状態。

    1回目と2回目で、異なる操作をしてもよい。

    例:Q→2 2筋の歩を突き、2筋に飛車を打つ

    ただし、Qの効果で敵の王様を取ることはできない。

  K 盤面上で合法手により現在取れる敵駒が1枚以上ある場合、その中から価値が最も安い駒を実際に取る。

    敵の駒ひとつに対して当たっている自駒が複数ある場合、どの自駒で取るかは、プレイヤーがひとつ選ぶ。

    王様は対象外。

    同価な敵駒が複数の場合、どの敵駒を取るかは、プレイヤーがひとつ選ぶ。

    価値の序列:歩<香<桂<銀<金=と金=成香=成桂=成銀<角<飛<馬<龍

  ジョーカー 好きなカードをひとつ選び、それとして扱える。

・トランプが確定してから、1手30秒。


【特殊ルール】

・反則にならない限り、必ず手を指さなければならない。反則をしなければ手を指せない場合は、パスする。

・勝利条件は、相手の王様を取ること。詰みは勝利条件にならない。

・王様を敵の駒の利きに移動させてもよい。王手放置をしてもよい。


【配点】

・全チーム、1人勝利するごとに10ポイント獲得。

・チームが勝った場合は、追加で20ポイント獲得。


 ふむ……前回より、若干ルールが複雑。

 飛瀬さんは、

《調整とかしていないので、ぐだぐだになる可能性もあり、即終了になる可能性もあり……そこも含めて運ゲーということで、ひとつ……それでは、トーナメント表の発表です……》


挿絵(By みてみん)


 駒北こまきたとぶつかった。

 松平まつだいらは、

「前回は、使ったカードが山から消えてたよな。今回はランダム表示か。ってことは、残り枚数も関係ないし、運要素が上がってる」

 と考察した。

 一方で、ポーンさんは、

「Queenで王様を詰ませやすくするなど、テヒニッヒがありそうですわ」

 と、反対に考えた。

 どちらも一理ある。

 個人的には、ポーンさん寄り。

 特殊なカード、つまり10、J、Q、K、ジョーカーの使い方がポイントになりそう。

 とはいえ、やってみないことには、なんとも。

 葉山さんは司会を再開した。

《それでは、各チーム、対戦台の前に並んでくださいッ!》

 クイズの舞台の正面に、真っ白なテーブルがせり上がってきた。

 光沢があって、素材はよくわからない。

 そのうえに将棋盤がある。ようするに対局席だ。

 盤は、各テーブルに3つずつ。

 つまり、全員参加の3vs3。

《1番席から3番席までを決めてください。1回戦ごとに変更できます》

 んー、と言われても。

 松平は、

「じゃんけんでよくないか?」

 と提案した。

 異議なし。

 運勝負だから、席順も運にしましょ。

 勝ったひとから先頭。

 じゃんけんぽん。

 並びは私→ポーンさん→松平になった。

《では、対局準備をお願いします》

 盤の前に立つ──相手は津山つやまくんだった。

 津山くんは、

「あ、よろしく」

 とあいさつした。

「よろしく」

裏見うらみさんと将棋指すの、ひさしぶりだね」

 しかも、普通の将棋じゃないし。

 ポーンさんは大場おおばさんと、松平は五見いつみくんと当たっていた。

《1番席は、じゃんけんで先後を決めてください。2番席と3番席は、市大会と同じルールです》

 はい、またじゃんけんぽん。

 私の先手。奇数先。

《よろしいですか? ……では、対局開始ッ!》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 トランプは現物じゃなくて、駒台の右に表示されていた。

 秒読みも同じ画面にあった。

 くるくると絵柄が変わって、10の♣。

 うーん、いきなりどこでも指せるのか。

「7六歩」


挿絵(By みてみん)


 私が指すと、津山くんの画面がくるくる回った。


 2♤


「んー……2四歩」

 そこしかないですね、はい。

 また画面がくるくる回って、Q♦。

 連続で特殊カードだ。

 もう一回画面が回る。


 3♣


 私が悩ましくなった。

「……3六歩、3七桂」


挿絵(By みてみん)


 桂馬の高跳びは、このルールだとアリ。

 桂頭の歩になっても、適切なカードが出ない限り、取られないから。


 Q♧


 津山くんもクイーン。


 10♤


 あッ……マズい予感が。

 津山くんは、腕組みをして考え込んだ。

 気づかないでください。

「……こういうのもできるのか。3四歩、7七角成」


挿絵(By みてみん)


 うおおおおお、さっそくピンチになった。

 た、頼むから好カード


 K♦


 やったッ!

「7七同角ッ!」

 津山くんは、しまった、という顔。

「か、角損」

 とはいえ、さっきのが悪手とも言えない。

 私が1とか引いて、津山くんが5か7か10を引いてたら、終わっていた。

 無情に画面は回る。


 6♡


「いきなり背水の陣だね。6二玉」

 これは……3三角成の王手を避けたっぽい手。


 Q♥


 はいはい、ノッてきたぁ。


 8♦


 惜しい──いや、惜しくない。

「8八角、1一角成」


挿絵(By みてみん)


 芸術的な閃きでは?

「裏見さん、うまいなあ」


 J♧


 げげッ。

 これはまだ出てないうえに、使い道が広い。

 津山くん、また考え込む。

「うーん……2二馬」

 取られそうなところへ移動させられてしまった。


 8♥


 よしッ。

「8八馬」

 ちょっと消極的だけど、いいでしょう。

 相手の角損を最大限に活かす。


 K♤


 ほら、危なかった。

「動かせないね。パス」


 J♠


「5一玉」

 王様を強制的に戻す。

 津山くんは1♧で、1四歩と突いた。

 4八玉(5♠)、4四歩(4♢)、5四歩(J♦)、パス(K♡)、5九金右(4♠)、7四歩(7♤)。


挿絵(By みてみん)



 くるくるくる──5♣

 うーん、低調になってきた。

 さっきの4♠で、4四馬と出たほうが、よかったかなあ。

「5八金直」

 金をうろうろ。

 9四歩(9♡)、3五歩(3♠)。

 もう強欲に行く。

 3三桂(2♡)、5六香(5♥)、2二飛(2♧)、9六歩(9♦)、3八玉(J♡)。


挿絵(By みてみん)


 3八玉? ……4五桂~3七桂成の王手飛車狙いかな。

 6八金上(6♠)、6二玉(5♧)、10♦。


挿絵(By みてみん)


 分岐点。

 この勝負、早く終わらせるなら、ひたすら王手をかけて、次のカード運に賭ける、という作戦もある。慎重に行くなら、1一角で、飛車狙いかしら。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 私は4四馬と出た。


 1♡


 津山くん、あせる。

「ま、マズい……1五歩」


 7♥


 惜しい。

 7三角でダブル王手? ……いや、同玉のとき、めちゃくちゃ困る。

「7七桂」

 援軍を送る。


 7♢


 危なッ!

「7二玉」


 6♦


 一手遅い。

「6五桂」

 9♧で、津山くんは9三桂と跳ねた。


挿絵(By みてみん)


 ぐぅ、ここで端歩が効いてくるとは。

 3三馬(3♥)、5二金左(5♢)、Q♠!

 連続になる数字は──


 4♣


 む、難しい。

 色々考えられる。

 4二馬→3一馬で銀を取ってもいいし、4四馬→7一馬と勝負してもいい。

 あるいは、4四馬→2二馬で、飛車を取る。

 ただなあ、この飛車は働いてないし、放置でもいいような。


 ピッ


「4四馬、7一馬ッ!」


挿絵(By みてみん)


 6と7はダメ。


 8♤


 あ、マズ……くないッ!

 そばの数字だから、一瞬あせった。

 津山くんは、頭をかかえた。

「えぇ……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「8四歩ッ!」

 7来い、7。


 3♦


 ダメだ。3四歩。

 1六歩(1♤)、同歩(1♦)、4二飛(4♡)。


挿絵(By みてみん)


 うむむ、私の王様も、いきなり危なくなってきた。


 10♥


 ……あッ、勝った。

「7二馬」


挿絵(By みてみん)


 うらっしゃあああああああッ!

「ま、負けました」

 津山くんは頭をかいたあと、

「どこが悪かった?」

 と、律儀に感想戦を始めた。

 私の運が良かっただけじゃないですかね。

 とはいえ、津山くんの指し方には、ちょっと危ないところがあった。

「このゲーム、王様を囲えるときは、囲ったほうがいいと思う」

「そうなの?」

「タダ捨ての王手をかけられるでしょ。取られないほうに賭けてもいいわけだし。だったら、王様の周りにスペースを作るのは、危ないんじゃないかしら」

 津山くんは納得した。

「あー、そうか、王様周りの空きスペースは、隙になるんだね」

 そうそう、だから持ち駒で王手がかかる限り、一発逆転がありうる。

 今回だって、私が圧勝に見えるけど、もし馬を渡したら、2九角→3八角成で即負けする可能性が、あったわけだ。だから、4四馬→7一馬はギャンブルだった。

 そうこうしているうちに、他の対局も決着がついた。

 ポーンさん勝ち、松平負け。

 津山くんは、

「負けちゃったか……とりあえず、おめでとう。次もがんばってね」

 と言って、解散になった。

 私たちはちょっと移動して、ミーティング。

 ポーンさんは、

「オホホホ、快勝でしたわ」

 と笑った。

 松平は、

「すまん、最後は成駒3枚に囲まれて、どうしようもなくなった」

 と言ったあと、

「カードの強さが、第一印象とちょっと違ってるな。あくまでも俺基準で、だが。思ったよりキングが使えない」

 と分析した。

 私は、

「キングって、10の劣化版よね。10でも同じことができるんだし」

 と返した。

「裏見の言う通りだ。反対に、ジャックはかなり使える。クイーンは、追加で引くカード次第では強いが、2連続移動で王様を取れない。これはけっこう痛い」

 他のチームも終了し、トーナメント表が更新された。


挿絵(By みてみん)


 あ、81Boysが脱落してくれた。助かる。

《それでは、2回戦に移ります。と、そのまえに、おじゃま虫チームをご紹介ッ!》

 スタジアムの地面がひらいて、ゲートのようなものが現れた。

 白い幕がかかっていて、そこにシルエットが見える。

 桐野きりのさんたち、忙しいわね──あれ? ふたりしかいない?


場所:第2回将棋大運動会 ニュートランプ将棋の部 1回戦

先手:裏見 香子

後手:津山 武


7六歩(10♣) 2四歩(2♤) 3六歩+3七桂(Q♦+3♣) 3四歩+7七角成(Q♧+10♤) 

7七同角(K♦) 6二玉(6♡)

8八角+1一角成(Q♥+8♦) 先手2二馬(J♧) 8八馬(8♥) パス(K♤) 後手5一玉(J♠) 1四歩(1♧)

4八玉(5♠) 4四歩(4♢) 5四歩(J♦) パス(K♡) 5九金右(4♠) 7四歩(7♤)

5八金直(5♣) 9四歩(9♡) 3五歩(3♠) 3三桂(2♡) 5六香(5♥) 2二飛(2♧)

9六歩(9♦) 先手3八玉(J♡) 6八金上(6♠) 6二玉(5♧) 4四馬(10♦) 1五歩(1♡)

7七桂(7♥) 7二玉(7♢) 6五桂(6♦) 9三桂(9♧) 3三馬(3三♥) 5二金左(5♢)

4四馬+7一馬(Q♠+4♣) 8四歩(8♤) 3四歩(3♦) 1六歩(1♤) 同歩(1♦) 4二飛(4♡)

7二馬(10♦)


まで45手で裏見の勝ち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ