655手目 ヒントでポンと、バラエティ将棋クイズ1
のどかな田園風景。
ヤツメヤギが、リヤカーで運ばれていく。
悲しそうな眼をして。
ヴェ~
8つの瞳から、涙があふれる。
ヴェ~
道の先には、近未来風の工場。
銀色の煙突から、白い煙が出ていた。
ヴェ~
ヤツメヤギは、とびらの向こうに消えた。
スクリーンが暗転する。
ダメ、絶対。食肉を目的とする輸出入は、宇宙条約で禁止されています。
CMが終わった。
っていうか、スポンサーがいないときの公共広告?
よくわからないうちに、次の競技が始まった。
飛瀬さんは小型UFOに乗って、上空からアナウンス。
《えー、それでは、第2競技、将棋ウルトラクイズ……》
あ、これも去年と同じだ。
《ではなく、ヒントでポンと詰将棋……》
みんなずっこける。
五見くんは、
「大場先輩から、次の競技はクイズだと聞きました。僕も多少は貢献できるかと、スタンバイしていたのですが。今回は純粋に棋力勝負なのですか?」
と、軽いクレームを入れた。
《名前とルールが変わっただけで、中身はクイズです……》
けっきょくクイズなんかーい。
とりあえず、ルールが変わったらしいので、みんな神妙に聞く。
《まずは、スクリーンをご覧ください……》
【第1問 9手詰(ルパンさん)】
※フェアリールールではない。
※駒箱と後手の持ち駒から盤面を推測できないように、非公開。
? 9手?
《このスクリーンには、詰将棋が隠れています……》
これを聞いた葛城くんは、
「隠れてるもなにも、盤上に駒がないよぉ?」
と言った。
《最初にクイズを出します……そのクイズに正解したチームは、将棋盤から3マス指定して、オープンさせることができます……指定されたマスに駒がある場合、それが現れます……》
ん? つまり? ……あ、なんとなくわかった。
五見くんは、
「なるほど、詰将棋を浮かび上がらせて、先に解いたチームが勝ち、ですか」
と解釈した。
《はい、だいたいそれで合ってます……詰将棋は全部で5問、クイズの形式は、毎回違います……第1問は、早押し……細かいルールは、次のようになります……》
【クイズパート】
1、将棋クイズが出される。早押し。
2、正解したチームに5ポイント。
3、不正解だった場合、そのチームはそのクイズの解答権を失い、再度早押し。
【詰将棋パート】
4、正解したチームは、将棋盤から3マス選択。パス可。
5、正解したチームにのみ、詰将棋の解答権。1分以内。パス可。
6、詰将棋も解けたときは、チームに50ポイント。
7、解けなかったとき、またはパスしたときは、1へもどる。
ふむふむ。
私が納得していると、不破さんは、
「詰将棋で50ポイントって、高過ぎねーか? さっきのは10ポイントだったろ」
と指摘した。
これに対して、五見くんは、
「そうでもないと思います。さっきのマラソンは、1位から5位までの総獲得ポイントが、260ポイント。これを5で割ると、だいたい50ポイントです」
と計算した。
やりますね。
不破さんは、
「んー、そううまくいくかあ?」
と言いつつも、重ねて反論はしなかった。
とはいえ、ちょっと物言いたげなメンツが、ちらほら。
私も、気になる点があった。
全問正解すると、250ポイント総取りなのよね。
さっきのマラソンは、どんなにぶっちぎっても、150ポイントは超えられなかった。
つまり、この競技、とんでもない差がつく可能性がある。
運営的には、ばらけるでしょ、ってことなんだろうけど。
一方、葛城くんは、
「チーム戦ってことは、3人で解くのぉ? 去年は代表者決めてたよねぇ?」
と訊いた。
《3人で解きます……早押しボタンを押すのは、チームメイトなら誰もいいです……選手のみなさんは、ステージへ上がってください……》
トラックの地面がひらいて、白い特設ステージが登場した。
クイズ番組によくある、解答者用の3人席があった。
チーム名は、そのデスクに表示してあった。
向かってひだりから、
レッツゴー3人娘がゆく
剣ちゃんず
81Boys
スーパー歩夢くん
マジシャンズチェックメイト
千駄ヶ谷棋面組
桜川48
チーム駒北
こういう並び。ようするに、現在の順位。
《葉山でーす。みなさん、スタンバイできましたか? それでは、第1問ッ!》
ジャジャン、という効果音が入った。
《糸谷哲郎、斎藤慎太郎、佐藤天彦の3人を、プロ入り時の年齢……》
ポーン
速過ぎィ!
まだ途中だったでしょ。
押したのは、五見くんだった。
「糸谷、佐藤、斎藤」
ピンポンピンポーン
《見切り発車にもかかわらず、正解ッ! 問題文は、糸谷哲郎、斎藤慎太郎、佐藤天彦の3人を、プロ入り時の年齢が若い順に並べなさい、です》
けっこうギャンブルだったのでは?
年齢が一番若いひとは、だったら、不正解だった。
ともかく、正解されてしまった。
《では、マスを指定してください》
「1一、2一、3一」
おおッ、歩が出てきた。
《さあ、マスも的中。幸先の良いスタートです》
ここで五見くんは、
「将棋盤の横で、カウントが始まっていますが、これはなんですか?」
と訊いた。
よくみると、43、42、41と、だんだん数字が減っていた。
葉山さんは、
《それは詰将棋の制限時間です。正解音から60秒以内に解いてください》
「無理では?」
《パスできますよ》
「パス可、というのは、そういう意味ですか。パスで」
《では、第2問、2014年度、第64期王将戦でタ……》
ポーン
内木さんが押した。
「郷田真隆」
ブッブーッ
《第64期王将戦で、タイトルを奪取した郷田真隆が更新……》
ポーン
五見くん。
「44歳」
ピンポンピンポーン
《郷田真隆が更新した、王将戦初獲得最年長の新記録は、何歳でしょうか、でした。マスをどうぞ》
「1二、1三、1四」
またヒットした。
右上に固まってる系の詰将棋かな。
王様は、まだ見えない。
五見くんは冷静に、
「詰将棋の解答はパスで」
と言った。
《チーム駒北、連続正解です。では、第3問、初代大橋宗桂が生まれたのは……》
ポーン
捨神くん。
「1555年」
ブッブーッ
《初代大橋宗桂が生まれたのは、元号で言うと……》
ポーン
五見くん。
「弘治元年」
ブッブーッ
五見くん、えッ、という表情。
《初代大橋宗桂が生まれたのは、元号で言うと弘治元年ですが、平成元年に史上最年少で……》
ポーン
つじーん。
「屋敷伸之」
ピンポンピンポーン
前半関係ないじゃないですかッ!
ひっかけ問題もあるのか。
早押しできればいいってもんじゃ、ないらしい。
つじーんは、4一、5一、6一を開けた。
これは全部はずれ。なにも表示されなかった。
《第4問、今年から始まった叡王戦、その主催者は?》
……あッ!
ポーン
歩夢くん。
「ドワンゴ」
ピンポンピンポーン
シンプルな問題。
ひっかけのあとだったから、騙された。
《マスをどうぞ》
「2二、2三、2四」
王様発見。
右どなりのほうから、林家さんの、
「ちょいと面倒な位置にいますね」
というコメントがあった。
たしかに、端にいてくれたほうが、よかったかも。
《さあ、面白くなってきました。第5問》
……………………
……………………
…………………
………………
捨神くんが第8問を当てて、この状況。
みんなで協力して、あぶりだしをしている感じ。
まだ詰まないかなあ。王様の上が、微妙に広い。
とはいえ、点差はすでに生じていた。
チーム駒北 3問正解 15点
81Boys 2問正解 10点
レッツゴー3人娘がゆく 1問正解 5点
スーパー歩夢くん 1問正解 5点
千駄ヶ谷棋面組 1問正解 5点
その他のチームは、ゼロ。
《第9問、次の盤面をご覧ください》
ポーン
はやーい。
五見くん。
「宗歩四間」
ピンポンピンポーン
《パネルをどうぞ》
「4二、5二、6二」
うーん、スカってる。
松平は、
「下は銀1枚で止めてるのか? だとすると、上になにかないといけないが」
と言った。
そうよね、4五か4六あたりに、なにかあるのでは。
《第9問、本将棋とは異なり、小将……》
ポーン
せめて最後まで聞かせてぇ。
押したのは捨神くんだった。
「酔象」
ピンポンピンポーン
飛瀬さんは、
《ひっかけがありうる問題でしたが、踏み込みましたね……》
とコメントした。
葉山さんは、
《さあ、それではマスの指定を》
と促した。
捨神くんは、
「4四、4五、4六」
と、私たちもめくりたかったところを指定した。
あ、やっぱり、拠点の歩がある。
私がそう思った瞬間、捨神くんは、
「これ、解いてもいいんだよね?」
と訊いた。
飛瀬さんは、
《はい、クイズに正解した時点で、解答権があります……クイズの正解音から、1分以内に解いてください……》
と答えた。
すでに10秒以上経過している。
捨神くんは、ひとさしゆびを額にあてて、じっと盤を見た。
20秒経過。
30秒経過。
40秒経過。
「……4五角、3二玉、4三銀、同金、2三角成、同玉、2二飛、3四玉、2四飛成」
ピンポンピンポーン
うそぉッ!?
これには、チームメイトの葛城くんもびっくり。
「ふえぇええ、すごい、どうやったのぉ? 金なんか見当たらないんだけどぉ?」
捨神くんは、
「かたちからして、収束は2四飛成っぽいよね。もし4三に駒があれば、2二飛、3四玉、2四飛成だし。でも手数が足りないから、4三を封鎖する問題かな、と思った。4五角、3四合駒は2二飛で詰みそうなのも、ヒント。3二に落とすのかな、って。3二に落としたあと、銀で有効な王手ができるのは、4三銀くらいだよね。まあ全部勘なんだけど、外れてもペナルティないし、冒険した」
葉山さんは、
《さすがですねぇ、それでは、正解図をどうぞ》
と言って、スクリーンを切り替えた。
……うーん、そうか、捨神くんの読み通りだ。
葉山さんのマイク音が、会場に響き渡る。
《第1問を制したのは、81Boys! 50ポイントゲットで、総合1位に躍り出ました。それでは、第2問、いってみよーッ!》
第1問 9手詰
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