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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第57局 ぐぅぐぅ第2回将棋大運動会 (2015年9月18日金曜)
665/683

653手目 走って読んで、詰め将棋マラソン3

《さあ、3位争いはデッドヒート。スーパー歩夢あゆむくん、けんちゃんず、マジシャンズチェックメイトが、ほぼ並走しています。ここからは、カンナちゃんのUFOに同乗して、上空から中継します》

 うおおおお、チャンスでもあり、ピンチでもあり。

 私が思案していると、となりにキックボードが割り込んできた。

 不破ふわさんだった。

 不破さんは、片手でキックボードを操作しながら、うしろにのけぞった。

「へっへー、ポニテの姉ちゃん、並んだぜぇ」

 ぐぅ、マジシャンズ、詰将棋が瞬殺だったっぽい。

 さっきまで、だいぶうしろにいたもの。

 とはいえ、困ったのはそこじゃなかった。

 詰将棋は逆転要素なんだし、解けなかったのは私の責任でもある。

 問題なのは、指示を出しにくくなったことだ。

 ラストスパートをかけないで、と伝えたい。

 全力疾走したら、次の詰将棋に影響が出てしまう。たぶん。

 でもここで、「全力疾走しなくていい」と叫んだら、丸聞こえに──あ、そっか、言い方を調整すればいいんだ。

「松平、このコースも同じでいいからね」

 よし、これならわからないはず。

 そうこうしているあいだも、佐伯さえきくんと松平まつだいらの並走は続いた。

 ポーンさんは、

「Herrサエキ、ひかえてらっしゃいませんこと?」

 と小声で言った。

「ひかえる?」

「全力でないと言いますか」

 あー、セーブしてるってことか。

 私は、佐伯くんを観察した──たしかに、それっぽい。マイペース……いや、もうちょっと抑えている印象があった。その証拠に、息は松平のほうが上がっている。

 ってことは、佐伯くん、10キロ全部走るつもり?

 私は、くららんも確認したくなった。

 ちょっと前のほうにいて、背中しか見えない。

 私は、

「ポーンさんは、ここで待ってて」

 と言って、キックボードを加速させた。

 松平と佐伯くんを抜いて、さらに駒込こまごめくんとサーヤも抜いた。

 くららんの横につける。

 ジーッ

 くららんは私の存在に気づいて、一瞬、エッ、という表情になった。

 けど、すぐに前を向いた。

 んー……わからん。剣道部だから、体力はある。

 10キロ走っても、おかしくないような──と思った瞬間、うしろからサーヤの、

「こらぁ、私の冬馬とうまの顔を、ジロジロ見るなぁ」

 という声が聞こえた。

 おっとっと。

 私はキックボードを減速して、うしろにつけなおした。

「Frauウラミ、なにをなさっていたので?」

 私は声を落とす。

「私の最初の推測、間違ってたかも」

「Worin?」

「選手交代しないチームのほうが、多そう」

 となれば……逆にチャンスなのでは?

 このあとのマラソンパートは、疲れてるメンバーvs私でしょ。

 ライバルは、高崎たかさきさんとくららん(orサーヤの可能性)に絞ればよくなった。

 と、そろそろ第3チェックポイントだ。


挿絵(By みてみん)


「Wow、ヤギさんがいっぱいです」

 ほんとだ。左右に牧場がひらけてきた。

 ポーンさんは、キックボードで柵に近づこうとした。

 こらこら、競技中ですよ。

 注意しようと思った矢先、ポーンさんは、

「Naaaa!?」

 と叫んで、急ブレーキをかけた。

 そのまま転倒。

 私は、あわてて走り寄った。

 松平も立ち止まった。

「松平、先に行ってッ!」

「いや、さすがに手伝うぞ」

 私たちはふたりで、ポーンさんの安否を確認──ケガはない。

「や、ヤギさんにびっくりしてしまいました」

 ヤギに? ……うわッ!

 縦に並んだ目が、左右に4つ、合計8つ、こちらを見ていた。

《シャートフ星の固有種、ヤツメヤギちゃんです……かわいいでしょ……》

「ヴェー」

 こ、怖い。

 って、こんなことしてる場合じゃないッ!

「松平、マラソンに戻って」

「オッケー、ダッシュだ」

「ダッシュしなくていいから、とりあえず先に行って」

 私は、ポーンさんのキックボードを立てた。

 そこへ、一台のロボットがやってきた。

 足の部分が車輪になっていて、右のアームを差し出しながら、

「オケガハアリマセンカ?」

 と訊いてきた。

「Danke, es ist okey」

「ドウゾオキヲツケテ」

 私たちはキックボードで再走。

 ちょっと差がついた。

 ポーンさんは、

「もうしわけございません」

 と謝った。

 こういうのはチーム戦あるあるだから、しょうがない。

 とりあえず、第3チェックポイントは目前。

 葉山はやまさんの声がさっきから聞こえていて、4位まではチェックイン済み、まだどこも解けていない、ということはわかった。

《さあさあ、第3チェックポイントは、またまた大渋滞。先頭の3人娘も、足止めを食らっています》

 よしよし、チャンスだ。

 私たちもチェックインラインを通過。

 私はキックボードを飛び降りて、

「じゃ、松平、頼んだわよ」

 と言い、走者のゲートへ入った。

 松平とポーンさんは、詰将棋のブースに飛び込む。

 まずはストレッチ。

 ここでトップに……は、無理かなあ。

 10分経つと、ゲートが自動的にひらく。

 高崎さんたちは、そろそろ出るはず。

 目標としては、81Boysを追い抜きたい。


【詰将棋(読者用) ネコネコ鮮協力詰5手(占魚亭さん)】

挿絵(By みてみん)


【ネコネコ鮮ルール】

駒が縦に連結している場合、上からn番目の駒は、下からn番目の駒である。

例1:現局面の3六のと金(上から1番目)は、銀(下から1番目)である。逆に、3七の銀(上から2番目)は、と金(下から2番目)である。

例2:2七金と打った場合、2五の銀は金になる。逆に、打った2七の金は銀になる。


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………1分経過。

 やっぱり、難易度が高いのか。

 ブースでなにを議論しているのかは、まったく聞こえなかった。


 ガチャン


「おい、どうしたんだよッ!」

「ルールが初見だったでがす」

「道中で議論しましょう。次の問題が同じだと困ります」

 高崎さんたちは、がやがやと走り去った。

 ルールが初見?

 協力とか安南あんなんじゃないってこと?


 ガチャン


 ッ!?

 葛城かつらぎくんの、

「やったぁ、正解だぁ」

 という声が聞こえた。

 箕辺くんたちが走り去る。

 81Boysが出ちゃった。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………残り5分を切った。

《3人娘は時間切れ、81Boysは正解という結果でしたが、順位は変わらず。ここまでをどう見ますか、解説の飛瀬とびせさん》

《そうですね……マラソンパートの高崎さんが好成績なので……2位以下は、詰将棋パートを有効活用するしかないかな、という感じですが……81Boysには、捨神すてがみくんがいます……》

 贔屓解説はNG。


 ガチャン


 うわ、スーパー歩夢くんも出た。

 けど、時間切れだったっぽい。

 こっちも残り時間は1分未満。


 ガチャン


 マジシャンズも出走。ここもたぶん時間切れ。

 あっちこっちがギブアップ状態。

 私は、スタートのフォームを取った。


 5 4 3 2 1


 ガチャン


 ゲートと詰将棋ブースが、同時にひらいた。

「すまん、裏見、解けなかった」

「とりあえず走りましょ」

 私はそのまま加速。

 松平はキックボードの操作が初めてで、少し手間取ったみたい。

 私の横につけたのは、1分ほど経ってからだった。

「裏見、さっきの詰将棋の説明、いるか?」

 私は手で、ノーサンキュー、と返答した。

 もう私が解くことはない。走るのに集中。

 松平は、ポーンさんと議論を始めた。

《3人娘は、そろそろ第4チェックポイントに到着しそうです。そこからだいぶ離れて、81Boysの箕辺選手。ちょっと足がもたついているか》

 もう、3人娘は目標にしない。

 ほぼ1コース差がついている。

 現実的なのは、へろへろになってきた箕辺くんを抜くこと。

 残りチェックポイントは、ひとつ。

 そこで難問が出たら、詰将棋パートで逆転は不可能。

 となれば、マラソンパートで追うしかない。

 というわけで、裏見うらみ香子きょうこ、全速前進。

 4キロなら余裕。

 うらうらうらうらうらうらうらうらうらぁ!

 しばらくして、マジシャンズとスーパー歩夢くんが見えてきた。

 どっちも並走している。

 私の追撃に、サーヤが気づいた。

 くららんに、なにか指示を出している。

 それにつられて、マジシャンズの不破さんも、うしろをふりかえった。

 チッ、というような感じで、同じく佐伯くんに声をかけていた。

 ムダムダムダぁ。

 葉山さんも、

《おーと、ここにきて、剣ちゃんずの猛追だぁ》

 と、興奮気味に実況した。

 飛瀬さんは、

《選手交代が活きましたね……マジシャンズはしょうがないですが、スーパー歩夢くんは、鞘谷さやたに選手に代わったほうが、よかったのでは……》

 と、冷静な解説。

 どんどん距離が縮まる。

 最後尾にいた、よっしーのキックボードに追いついた。

「ふえええん、怖いよお……」

 怖くないから。

 追い抜いて、さらに不破さんも追い抜く。

 佐伯くんに並んだ。

 佐伯くんは、いつものクールな表情を崩さなかった。

 けど、明らかに息が上がっていた。

 そこからくららんまでは、50メートルほど。

 このままぶっちぎらせてもらいますッ!

第4問 ネコネコ鮮協力詰5手

https://tsumeshogi.com/problems/mxmwhfjfwd

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