652手目 走って読んで、詰め将棋マラソン2
【第2問 安南詰(9手) 作者:尾形さん】
むむむ、安南はルールを知ってるくらいで、ほぼ解いたことがない。
ポーンさんは、
「下の駒の動きを、上の駒がトレースする、でよろしかったですかしら?」
と確認してきた。
そう、ルール自体は、ひとことで言い表せる。
具体例も簡単。
例えば、
こういう場合、5三銀の一手詰めが正解。
5二の角が、真下の銀と同じ動きになる。
だから詰んでいる、という寸法。
で、この問題なわけですが──まったくわからない。
ポーンさんは、
「Hm? 2三角、1三玉、2四銀打の3手詰めでは?」
と言った。
「それは同歩」
【参考図】
「Ups!! 考えが追いつきません」
こういうトリッキーな現象が起きる。
だから、3手先を読むのも難しい。見落としが多発する。
私が四苦八苦していると、ゲートのほうから、
「裏見、フェアリーだったか?」
という松平の声が聞こえた。
「ええ、安南」
「安南か。そういうときは……」
《そこ、走者と会話しないでください……》
ぐッ、注意された。
ガチャン
しかも、どこかひらいたぁ。
「フェアリーの鬼と呼んでくだせえ」
「あとでコーラおごってやんぜ」
「夢のなかでおごられてもなあ」
3人娘だ。
今回のゲーム、林家さんの得意分野だったっぽい。
ガチャン
「アハッ、ごめん、遅れちゃった」
「数秒差だ。追うぞ」
「高崎さんは足速いから、ムリしないでねぇ」
81Boysも出た。
一方、私はとっかかりすら不明な状態。
詰むかたちが見えないと、どうしようもない。
ポーンさんは、
「やはり、2三角、1三玉、2四銀打、同歩が基本なのでは? それ以外は、3四からすり抜けられてしまいます」
と言った──そうかもしれない。
「そのあとの王手は、限られてるわよね?」
「Genau、2五桂、1二角成、1四角成、2二銀不成、2二銀成、2四銀成oder2四銀不成だけです」
【参考図】
だけです、とはいえ、まだ多い。
私は、
「この中で、桂馬を活かせそうなのは?」
と尋ねた。
「それ以前に、すべてタダ捨てでは?」
「タダ捨てでも、桂馬と組み合わせたら詰むんじゃない?」
ふたりで考える。
枝刈りしましょう。
2五桂は、まずないでしょ。
1二角成と1四角成もない。
ガチャン
サーヤの、
「歩夢くん、ナイス!」
という声が聞こえた。
「安南はコツがあるんですよ」
順位がかなり変わった。
っていうか、コツ? コツなんてあるの?
いやいや、三味線かもしれない。
盤面に集中。
2四銀成と不成もない。
歩は入手できるけど、王様が上へひらけすぎている。
2二銀成と不成は、同玉で、下にひらけすぎ……ん?
ちょっと待って。
「これ、2二玉だと、王様は桂馬になるわよね?」
ポーンさんは、数秒考えて、
「Ja」
と答えた。
イエス、っていう意味かな。
桂馬……そっか、歩夢くんが言ってたコツって、これかも。
王様の動きを縛るんだ。
でも、桂馬になったからって、詰まな……詰むッ!
ポーンさんも気づいた。
「2二銀成、同玉に、1四桂、同香、1二角成ですわッ!」
ピンポーン ガチャン
松平は、
「お、やったなッ!」
と言って、走り出した。
私たちも、自走キックボードを動かした。
これで順位は維持できた。
3位のスーパー歩夢くんを追いかける。
私は松平に、
「次、交代する?」
と尋ねた。
「ハァ、ハァ……もう1回は……いける……ラスト2本……ハァ、ハァ……頼む……」
オッケー、私は4キロを全力、ね。
なだらかな丘を降りて、住宅街(?)に入った。
「なんだか変わったおうちが多いですわね」
言われてみれば。
丸いドーム状で、しかも全部1階建てだった。
ひとつひとつの家(?)の間隔は、そこそこある。十数メートルおきくらい。
庭があったり、妙な乗り物があったりして、そこは地球のマイホームっぽかった。
《シャートフ星人は、地下に部屋を作る伝統があります……》
さいですか。
なんとものどかな感じで、マラソンは続いた。
「ハァ、ハァ、うしろ、来てるか?」
「全体の順位は、まだ考えなくていいわよ」
とはいえ、振り返って確認。
数百メートル先に、箕辺さんの姿が見えた。
あっちはあっちで、苦戦したみたい。
ここでアナウンスが入った。
《リポーターの葉山でーす。ただいま、第2チェックポイントにいます。先頭の高崎さんが見えてきました。そのうしろに81Boys、スーパー歩夢くん、剣ちゃんず、桜川48と続いています。81Boysは、道中で少し離されました。ほぼ同時に出ましたが、現在は約1分差です》
やっぱり、高崎さんが速い。
ポーンさんは、
「追いつく作戦を考えませんと」
と言った。
いや、それは危ない。
あんまりネガティブなことは言えないけど、アスリートの高崎さんと、変則詰将棋が得意な林家さん、この組み合わせに、追いつこうとしないほうがいい。ペースがおかしくなって、かえって順位を下げる恐れがあった。
けど、この状況は利用できるかも。
私は松平に、
「返事しなくていいから、聞いて。他のチームと差が広がったり、追い抜かれそうになったりしても、ペースは維持」
と指示した。
うしろから無謀なランをかけてくるのは、歓迎。
《さあ、81Boysも到着。他のチームは、ここからどう出るのでしょうか》
よしよし、そうやって煽ってくれるのも歓迎。
そうこうしているうちに、第2チェックポイントが見えてきた。
視界の先で、スーパー歩夢くんがチェックイン。
くららんも、体力を活かしてきてる。用心。
さらに3分遅れで、私たちもチェックインした。
【安南詰9手 作者:尾形さん】
また安南か。
さっきと違って、入玉形だ。
難易度が上がってるかも。
……………………
……………………
…………………
………………む、むずかしい。
「Sehr schwierig」
なにをすればいいのかが、わからない。
とりあえず、ヒントを探す。
「……持ち駒が4枚、手数が9手だから、駒を動かすのは1回だけね」
ポーンさんも同意した。
「初手1六龍はなさそうなので、なにかを打つ必要があるかと」
そこは確定。
「ってことは、1七金か2九金しか、なくない?」
「しかし、どちらもありそうで、なさそうです」
タダ捨てなのよね、両方。
「どっちが詰みそうとか、ある?」
「1九の銀が王様なので、2九金には同銀ですが、これはもう詰まないと思います」
たしかに、ということは、1七金だ。
1七金、同玉。
【参考図】
ここから7手、持ち駒3枚。
有力な王手は、ふたつくらい?
ひとつは、2七金、同金とさせて、2九桂あるいは3九角。
もうひとつは、2九桂と打って、同金に2七金。
ポーンさんは、
「2九桂、同金、2七金、1八玉、1六龍は詰みですが、角が余ります」
と指摘した。
たしかに──ん?
「それは詰まなくない? 1六龍に同歩があるから」
【参考図】
「Aua!! まちがえました」
これが詰まないとなると──よくわかんなくなってきた。
ガチャン
「捨神、ふたば、ナイス!」
「アハッ、逆転だね」
「たっちゃん、がんばれぇ」
今度は81Boysがリードした。
チェックポイントごとに、入れ替わりが激しい。
ガチャン
「コーラおごったとたんに手抜くなよ」
「変化が詰むと思わなかったんでがすよ」
「笑魅さん、お静かに」
3人はがやがや言いながら、遠ざかって行った。
今の……口が滑った感。
途中変化があるってことよね。
しかも、1七金、同玉は必然でしょ。
ってことは……現局面で悩んでる私たち、正しいのでは。
……………………
……………………
…………………
………………あッ!
「これ、2六龍って捨てたら、詰むんじゃない?」
「Wie so?」
返事の意味はわからなかったけど、私は解決を確信した。
詰む。
2六龍に同歩とできない。2五の歩は角だ。
同玉オンリーで、このとき王様は歩になる。
だから──
【参考図】
この金1枚で詰む。
「Wow、ほんとうです」
林家さんが気づかなかったの、この手なのでは?
憶測だけど、一気に視界がひらけてきた。
2九桂に同金は、2六龍以下の7手、駒余り。
2九桂に1八玉と上がるしかない。
【参考図】
なんというか……最初に戻っただけのような……。
ポーンさんは、
「1七金、2九玉のあと、角かと思いますが……」
と、煮え切らない言い方をした。
なるほど、王様は金になってるから、斜めうしろに弱い。
そこへ角を……ダメだ、詰まない。
というか、詰んでないという確信が持てない。
これが、一番気持ち悪い。
さっきの金1枚の詰みも、最初は詰んでないと思ってた。
《さあ、詰将棋は渋滞中。どこが続くのでしょうか》
葉山さん、煽らない。
タイマーは、残り3分になった。
ガチャン
ゲートがひらいた。サーヤの、
「ごめん、冬馬、解けなかった」
という声が聞こえた。
あっちはタイムオーバーだったっぽい。
とりあえず、落ち着く。
ここまでの読みで、おかしなところがないかチェック。
特になし。
あやしい変化もあるし、作者の意図も汲めていると思う。
だったら、ここから3手詰めのはず。
つまり、ここで角を打つか、それとも次に角を打つか。
ここで打っても詰まない。
ってことは……龍で一回王手?
「……あ、そっかッ!」
3八龍、同金に1八角だッ!
金が角になるから、3九まで利いてる。
ピンポーン ガチャン
ダッシュ、と思った瞬間、別のゲートもひらいた。
ガチャン
佐伯くんたちが飛び出す。
並ばれたッ!
第3問 安南詰9手
https://tsumeshogi.com/problems/ibziqsb7rp
次回は香子ちゃんがランナーなので、松平くんとポーンさんが解く問題を、先に載せておきます。
第4問 ネコネコ鮮協力詰5手
https://tsumeshogi.com/problems/mxmwhfjfwd
※ネコネコ鮮のルールは、リンク先にあります。
第5問 ネコネコ鮮協力詰?手
https://tsumeshogi.com/problems/gawgo_0uks
※この問題は、選手には手数が明かされません。




