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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第56局 一発!秋の個人戦(2日目・2015年9月13日日曜)
660/681

648手目 攻攻

※ここからは、不破ふわさん視点です。決勝戦開始前に戻ります。

 おいーす。

 教室に入ると、もう先客が集まっていた。

 暇人だなあ。

 っと、師匠がいた。あいさつする。

 あたしは椅子に座って、大きくあくびをした。

 とっとと始めようぜぇ──始まんねぇなあ。

 琴音ことねが来ない。逃げたか?

 まあそんなわけはない。

 5分ほど遅れて、いつもの3人で入ってきた。

 バスが送れたとかなんとか。

 さてと、やるかあ。

 対局席につく。

 琴音は、白杖を笑魅えみに渡して、静かに座った。

 あたしは舐め終わった飴玉のスティックを、ティッシュにくるむ。

「振り駒は?」

かえでさんが、どうぞ」

「んじゃ、遠慮なく」

 歩を放ると、表が3枚。

「あたしの先手だ」

「どなたか、チェスクロの固定をお願いします」

 辰吉たつきちがやって、完了。

 琴音は何度か腕を動かして、距離を測った。

「けっこうです」

 辰吉は、あたしのテーブルと、師匠のテーブルとのあいだに立った。

「準備はよろしいでしょうか?」

 いいぜ~。

「それでは、始めてください」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 琴音がチェスクロを押して、対局開始。

 あたしはノータイムで7六歩。

 8四歩、5六歩、3四歩、5八飛、8八角成。


【先手:不破楓(天堂てんどう) 後手:春日川かすがかわ琴音ことね藤花ふじはな)】

挿絵(By みてみん)


 だいたい予想通り。

 序盤から、かっとばす。

 同飛、1四歩、1六歩、3三角、7七角、6二銀。

 どうすっかな。

 序盤の角交換は、あると思ってた。

 が、具体的な方針を決めてない。

 しばらくはノリで指す。

 6八銀、4二玉、4八玉、5二金右、3八玉、8五歩。

 熊はしてこないだろ、たぶん。

 すなおに組む。

 2八玉、3二銀、5七銀、7四歩、3八銀、3一玉。


挿絵(By みてみん)


 超速でもないんだよなあ。

 あたしは腕組みをして、2本目の飴玉を取り出した。

 すぐに頬張る。リンゴ味。

「……3六歩」

 方針決定。

 5四歩、6六銀、6四歩、3七桂。

 あたしだけ、見慣れたかたちにしていく。

 後手超速じゃないけど先手超速カウンター、みたいな?

 琴音は、ここで少し考えた。

 7三桂と6三銀で迷ってる感じか?

「……6三銀」

「2六歩」

「4四歩」

 んー、次に6五歩っぽい。

 同銀は7三桂で死ぬから、取れない、と。

 だったら、6六の銀は仕事終了だ。

「5七銀」


挿絵(By みてみん)


 下がって組み替える。

 琴音は、それでも6五歩。まあ当然の一手。

 4六歩、6四銀。

「4八飛」

 攻めに回る──が、琴音、長考。

 こりゃ琴音から攻めて来るな。

 タイミングとクセ。

 7五歩か?

 同歩、同銀で、前に来そうだ。そこでカウンターを狙う。

「……7五歩」

 ほい、同歩。

 同銀に4五歩。

 攻め合い。

 琴音はこれを無視して、6六歩、同銀、7六銀と入ってきた。

「角は逃げないぜ。4四歩」


挿絵(By みてみん)


 どうだ? 

 7七銀成なら、同桂、8六歩に4三銀で押し切る。

 琴音、また少し考える。

 本命から外れたくさい。

「……3五歩」

 対応してきたか。

 これはけっこうめんどい。

 8八角、2四角、4五桂でも、いいんだが──


挿絵(By みてみん)


 (※図は不破さんの脳内イメージです。)


 複雑にし過ぎか?

 そもそも、8八角に2四角の保証もないしな。

 3五同歩を選択。

 当然に3六歩と打たれる。

 5八金左、3七歩成、同銀、7七銀不成、同桂、4二金上。


挿絵(By みてみん)


 ん? いったん受けた? ……あやしい。

 まだ20分あるし、腰を落とす──なんかの攻める準備か?

 単に受けた、とも考えられるが……こっちは4三銀と打てなくなったし、3四歩や3四銀も意味はない……が、琴音の棋風からして、この局面で単に受ける、とは思えない。

 ま、あたしの手番だし、あたしから攻めりゃいい話だ。

「6五桂」

 左桂を活用する。

 ここから8六歩の攻め合いが本線。

「1五歩」

 そっちかよ。

 8筋を入れないとは、大胆だね。

 取るイチ。同歩。

 琴音は同香。

 これは取らない。1六歩。

「2四桂」


挿絵(By みてみん)


 マジで玉頭戦。

 これがダメなら8六歩、ってことなのかね。

 2五銀で切らせにかかる。

 1六香、同香、3六歩、同銀、同桂、同銀。


挿絵(By みてみん)


 ほれほれ、切れてきたんじゃないか。

 琴音、また時間を使う。

 ここで8六歩は、間に合わないぜぇ。

 琴音は、残り時間15分のうち1分使って、6四歩と打った。

 桂馬は助からない……が、6五歩はめんどうだ。

 7三桂成で捨てる。

 同桂に2七玉と上がって、2四桂を先受けした。

 琴音はそれでも2四桂。

 さて、考えどころ。手が広い。

 2五銀でまた受けるか、7四歩で桂馬を責めるか、あるいは4六香で、4筋の攻めを再開するか。3四桂もある……いや、微妙。さっきの3択。

 2五銀は、これまでの方針の維持。両取り逃げるべからず。1六桂が王手にならない、っていうのがポイント。これが2七玉の効果。

 7四歩は、桂馬を取る、プラス、と金を作るのが目標。7筋に拠点ができれば、3四桂くらいで先手指しやすい。

 4六香は、攻めとしては魅力。ただ、3六桂が飛車当たりなんだよね。一直線の攻めにはならない。というわけで、候補としてはあんまない。

 あたしは、飴を舌のうえで転がしながら、さらに考えた。

 んー、7四歩、3六桂、同玉かね。

 琴音がそこでなにを指してくるか、見る。

「7四歩」

 チェスクロを押すのと同時に、琴音は指し返した。

 3六桂、同玉。

「1九角」


挿絵(By みてみん)


 絶対攻めるガール。

 5三金上くらいだったろ、今のところ。

 まあ読みやすくていい。

 あたしは3九香と受けた。

 6五歩、7五銀。

 琴音、1分考えて、5三金直。

 さすがに受けたッ!

 あたしは1八飛と回った。2八銀を強要する。

「4四金」

「!?」


挿絵(By みてみん)


 攻めた……?

 5三金が攻めだったってことか?

 そんなアホな……いや、成り立ってる。

 ここからのあたしは、1九飛しかすることがない。

 そこで2八銀、1八飛、1七銀打とされたら、飛車が死ぬ。

 ただ……飛車と角銀交換。後手は駒損。

 つーことは、4四の金に賭けるわけか。

 受けて立とうじゃねーか。

「1九飛」

 2八銀に1八飛と立つ。

 1七銀打、同飛、同銀成、7三歩成。


挿絵(By みてみん)


 琴音は10秒ほど考えて、1六成銀と引いた。

 あたしは8二とで、飛車を取った。

「4五金」

 これが厄介。

 同玉は4四飛と打たれちまう。

 つーわけで、3七玉。

 琴音は、軽く息をついた。

 うつむいて、時間を使う。

 いったんネタ切れか。

 琴音は、決めた手数まで攻めを考える→実行→決めた手数まで攻めを考える→実行の、繰り返しっぽいんだよね。

 他の連中も、これに気づいてると思う。口には出さないが。

 琴音はたっぷり3分使って、腕を上げた。

「4七歩」


挿絵(By みてみん)


 ……チッ、いい手だ。

 同金は4六香、同金、1七飛でオワコン。

 あたしも応手を考える。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………単に受けるか、6一飛と打つか、この2択。

 単に受けるなら、1九桂。

 攻めを絡めるなら、6一飛、4一銀、1九桂。


挿絵(By みてみん)


 (※図は不破さんの脳内イメージです。)


 直近で、差は出ない。

 進めてみないと、なんとも言えない。

 6一飛、4一銀、1九桂には、3六香だろ。

 2八玉と下がって、2六成銀と寄ってくる。

 こっちはかなり狭い。

 3四桂の反撃は、無視して3五金がきつい。

 4二桂成、同角の瞬間、先手は詰めろだ。


挿絵(By みてみん)


 (※図は不破さんの脳内イメージです。)


 6一の飛車も、働いてないんだよなあ。

 思ったより、受けのニーズが高いぜ、こりゃ。

「1九桂」

 単に受け。

 琴音は3六香で、案の定の王手。

 2八玉、2六成銀。

 けっきょく打つしかない。

「6一飛」

「4一銀」


挿絵(By みてみん)


 あたしは、気合いを入れなおした。

 歯のあいだで、飴玉が壊れた。

 口のなかに、リンゴの香りが広がる。

 局面は互角。

 おもしろくなってきたんじゃないか。

「反撃だ。4三歩」

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