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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第54局 再来!秋の個人戦(1日目・2015年9月6日日曜)
642/682

630手目 女子の部2回戦 飛瀬〔市立〕vs不破〔天堂〕(1)

※ここからは、飛瀬とびせさん視点です。女子の部2回戦開始時に戻ります。

 1回戦はシード。

 というわけで、不破ふわさんと対局します。

「おーす、宇宙人」

 不破さんは椅子を荒っぽく引くと、そのまま座った。

「腹減ってきた。ちゃっちゃと指すか」

「いつもの飴は……?」

「在庫がない」

 そういうこともあるよね。

 私の宇宙船も、非常食のストックがない。

 あとで資材課にクレームを入れておこう。

「宇宙人、振るか?」

「不破さんがどうぞ……」

「よし」

 カシャカシャカシャ──表が1枚。不破さんの後手。

 あとは待ち時間。

 不破さんは靴底をパタパタさせて、リズムを踏んでいた。

「準備はいいですかぁ?」

 オッケーです。

「それでは、始めてくださぁい」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 不破さんは颯爽とチェスクロを押した。

 私は7六歩と指す。

 3四歩、2六歩、5四歩、2五歩、5二飛。


【先手:飛瀬カンナ(市立いちりつ) 後手:不破ふわかえで天堂てんどう)】

挿絵(By みてみん)


 予想通り。

 最近の不破さんは、穴熊をしないみたい。普通のゴキゲンになりそう。

 とりあえず、序盤は適度に。

 6八玉、5五歩、7八玉、3三角、4八銀、6二玉、5八金右、7二玉。

 超速……の気配を感じない。

 不破さんに用意がある?

 なさそう。私相手に作戦とか練ってこなさそうだから。

 3六歩、4二銀、3七銀、5六歩、同歩、同飛、6八銀、8八角成。

「同玉……」

「ほい、3二金」


挿絵(By みてみん)


 空中戦を希望?

 角打ちに気をつける展開になった。

 私は7七銀と上がる。

 9四歩、4六銀、5一飛、9六歩、8二玉。

 2筋を突いても、だいじょうぶそう。

 2四歩、同歩、同飛、4四歩。

 ここで角打ち。


挿絵(By みてみん)


 不破さんは、

「ん?」

 と言って、表情を変えた。

 一応考えはあるつもりです。

「……4三角」

 同角成、同銀としてから、2三歩。

 3三銀を阻止して、2筋を攻めやすくする算段。

 不破さんは、

「ひねり過ぎだろ。4五歩」

 と、銀を圧迫してきた。

 5七銀、3三角、2五飛。


挿絵(By みてみん)


 いい感じ。

 後手は角を手放した。

 不破さんも面白くないと思ったのか、ちょっと考えた。

 それから4四角と出た。

 6六銀右、3三桂、2四飛、2一歩。

 右は収まった……かな。

 ここからはじっくり。

「7五歩……」

 一転して駒組み再開。

「押し引きのつもりか? あんまり舐めんなよ。7二銀」

 いえ、舐めてないから工夫してるわけでありまして。

 5五歩で、抑え込みを図る。

 6四歩、7六角。

「そりゃ駒を置いてるだけだぜ。5四歩ッ!」


挿絵(By みてみん)


 うッ……反撃してきた。

 同歩、6三銀、5三歩成、同飛、5六歩と打ち直す。

「ムダだぜぇ」

 5四銀右、同角、同銀、5五銀打、同銀、同銀、同角、同歩、同飛。


挿絵(By みてみん)


 はわわわ、バリケードが崩壊してしまった。

 私はここで長考。

 不破さんはうしろに椅子を傾けて、持ち駒を手のひらで放り上げた。

 そんなに差はないはず。冷静に。

 最初に思いつくのは4一角。


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 4二金、6三角成、5七銀の攻め合いになりそう。

 先に7四歩を入れてもいいかな。

 4四角と、こちらから打つのもアリ。

 5六飛、3四飛、4三金、3三角成で、突破できる。

 あるいは、単に3四飛と回って、6四飛を目指す。

 色々比較してみる。

 結論として、3四飛~6四飛の瞬間、7二銀と打てない、ということに。

 そのときは6二銀、6三歩、6一銀不成でイケる。


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 6四歩なら7二銀成、同玉、4四角が炸裂する。

 これが一番厳しそう。

「3四飛……」

 不破さんは、ほーん、という表情で、読み始めた。

 1分ほどして、6二銀が指される。

 あ、完全に先回りされた。

 でも、後手が守勢になったと思う。

 6四飛、2八角。

 2八角? 消せるよね。

 3七角、同角成、同桂、6三銀打。


挿絵(By みてみん)


 マズい……意図が読めない。

 棋力差のせいなのか、それとも──悲観的にならないでおこう。

 私は2四飛と寄った。

 4六歩、同歩、5七歩。

 銀2枚を守備に使っても、これで繋がるっていう読みなのかな。

 6八金寄、4七角、5九歩。

 私も固めた。

 3六角成で、いったん小康状態に。

 また選択の時間。

 飛車2枚と馬が接近してるから、慎重に読まないといけない。

 まず、2二歩成を考える。


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 同歩としてくる……かどうかが、すでにわからない。

 同歩、2一角は、3一歩で封鎖されてしまう。

 だから同歩もありそう。

 攻め合うなら5八歩成。これを3二と、6九とと取り合うのはありえないから、もちろん同歩、あるいは2二同金。

 そもそも2二歩成としないなら……4四銀?


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 ……これ、いい手かも。

 パッと思いついた手だけど、けっこう厳しい。

 狙いは単純で、5一飛と撤退させたあと、3四飛と寄る。

 すると馬当たりになるから、3筋を受けるヒマがない。

 あ、でも、5一飛としなければいいのか。

 4六馬が飛車当たりになる。


挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)


 これぞ空中戦、みたいな盤面。

 5五銀、2四馬と取り合って……うーん、どっちともいえない。

 それに、5五銀じゃなくて、ここで2二歩成もありそう。

 私はチェスクロを確認。

 残り時間は、先手が8分、後手が13分。

 だいぶ差ができちゃった。

 1分使う、と決めて読もう。

 読み読み。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………4四銀で、いっか。

 私は銀を打った。

 不破さんは表情を変えなかったから、読み筋だったっぽい。

 すぐに4六馬と対応された。

 5五銀、2四馬に、4一飛と打つ。


挿絵(By みてみん)


 6二銀の欠点を突く。金に紐がついてない。

「5一飛」

 私は4四飛成と撤退して、後手は3四歩。

 うーん、決定打が出せない。

 3四歩じゃなくて2三馬なら、こっちから3四歩の予定だった。

 まあ、4一飛は決めに行った手じゃないから、困ってるわけでもない。

「6六銀引で……」

 不破さんは5三銀と出てきた。

 また駒組み。

 4八龍、5四銀直、5七銀、7二金、7八金上、3五馬。

 手を作りにくい。

 8六歩、4五歩、5八歩、4四馬、8五歩。

 不破さんは、ここで3五歩と伸ばしてきた。


挿絵(By みてみん)


 ゆっくりとした桂頭攻め。

 慎重というよりは、これでイケる、という感じの指し方なんだよね。

 一手一手が早いし、そこまで考えていなさそうな雰囲気がある。

 私はさらに5分消費していて、残り2分になっていた。

 次の手に賭ける。

「4六歩……」

 桂跳ねの拠点を作る。

 不破さんは、あっさり3六歩と伸ばした。

 4五桂、4三金、6六歩。


挿絵(By みてみん)


 不破さんはこのとき初めて、

「ん、そっちか」

 と、意外そうなコメントをした。

 いい感じ。

 不破さんは2分使って、4五桂と跳ねた。

 同歩、同銀。

 ここで端攻めに転じる。

 9五歩と突いた。

 同歩、9四歩。

「そいつは乗るぜ。7四歩だ」


挿絵(By みてみん)


 うわ、玉頭戦か。それは読んでなかった。

 

 ピッ


 しかも一分将棋。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 私は9五香と走った。

 7五歩、9三歩成、同桂。

 同香成としたいけど、同香のあと困りそう。

 7筋の傷が大きい。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「はわわわ……」

 私は6五桂と打った。


挿絵(By みてみん)


 び……みょう。

 とりあえず打ちました感しかない。

 不破さんもそれを察知したのか、腰を落とした。

「……」

 圧がかかる。

 まちがえてください。

 不破さんは少し背筋を戻して、それからもう一度盤面を凝視した。

 さらに10秒考える。

「……こうだな。9四歩」

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