630手目 女子の部2回戦 飛瀬〔市立〕vs不破〔天堂〕(1)
※ここからは、飛瀬さん視点です。女子の部2回戦開始時に戻ります。
1回戦はシード。
というわけで、不破さんと対局します。
「おーす、宇宙人」
不破さんは椅子を荒っぽく引くと、そのまま座った。
「腹減ってきた。ちゃっちゃと指すか」
「いつもの飴は……?」
「在庫がない」
そういうこともあるよね。
私の宇宙船も、非常食のストックがない。
あとで資材課にクレームを入れておこう。
「宇宙人、振るか?」
「不破さんがどうぞ……」
「よし」
カシャカシャカシャ──表が1枚。不破さんの後手。
あとは待ち時間。
不破さんは靴底をパタパタさせて、リズムを踏んでいた。
「準備はいいですかぁ?」
オッケーです。
「それでは、始めてくださぁい」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
不破さんは颯爽とチェスクロを押した。
私は7六歩と指す。
3四歩、2六歩、5四歩、2五歩、5二飛。
【先手:飛瀬カンナ(市立) 後手:不破楓(天堂)】
予想通り。
最近の不破さんは、穴熊をしないみたい。普通のゴキゲンになりそう。
とりあえず、序盤は適度に。
6八玉、5五歩、7八玉、3三角、4八銀、6二玉、5八金右、7二玉。
超速……の気配を感じない。
不破さんに用意がある?
なさそう。私相手に作戦とか練ってこなさそうだから。
3六歩、4二銀、3七銀、5六歩、同歩、同飛、6八銀、8八角成。
「同玉……」
「ほい、3二金」
空中戦を希望?
角打ちに気をつける展開になった。
私は7七銀と上がる。
9四歩、4六銀、5一飛、9六歩、8二玉。
2筋を突いても、だいじょうぶそう。
2四歩、同歩、同飛、4四歩。
ここで角打ち。
不破さんは、
「ん?」
と言って、表情を変えた。
一応考えはあるつもりです。
「……4三角」
同角成、同銀としてから、2三歩。
3三銀を阻止して、2筋を攻めやすくする算段。
不破さんは、
「ひねり過ぎだろ。4五歩」
と、銀を圧迫してきた。
5七銀、3三角、2五飛。
いい感じ。
後手は角を手放した。
不破さんも面白くないと思ったのか、ちょっと考えた。
それから4四角と出た。
6六銀右、3三桂、2四飛、2一歩。
右は収まった……かな。
ここからはじっくり。
「7五歩……」
一転して駒組み再開。
「押し引きのつもりか? あんまり舐めんなよ。7二銀」
いえ、舐めてないから工夫してるわけでありまして。
5五歩で、抑え込みを図る。
6四歩、7六角。
「そりゃ駒を置いてるだけだぜ。5四歩ッ!」
うッ……反撃してきた。
同歩、6三銀、5三歩成、同飛、5六歩と打ち直す。
「ムダだぜぇ」
5四銀右、同角、同銀、5五銀打、同銀、同銀、同角、同歩、同飛。
はわわわ、バリケードが崩壊してしまった。
私はここで長考。
不破さんはうしろに椅子を傾けて、持ち駒を手のひらで放り上げた。
そんなに差はないはず。冷静に。
最初に思いつくのは4一角。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
4二金、6三角成、5七銀の攻め合いになりそう。
先に7四歩を入れてもいいかな。
4四角と、こちらから打つのもアリ。
5六飛、3四飛、4三金、3三角成で、突破できる。
あるいは、単に3四飛と回って、6四飛を目指す。
色々比較してみる。
結論として、3四飛~6四飛の瞬間、7二銀と打てない、ということに。
そのときは6二銀、6三歩、6一銀不成でイケる。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
6四歩なら7二銀成、同玉、4四角が炸裂する。
これが一番厳しそう。
「3四飛……」
不破さんは、ほーん、という表情で、読み始めた。
1分ほどして、6二銀が指される。
あ、完全に先回りされた。
でも、後手が守勢になったと思う。
6四飛、2八角。
2八角? 消せるよね。
3七角、同角成、同桂、6三銀打。
マズい……意図が読めない。
棋力差のせいなのか、それとも──悲観的にならないでおこう。
私は2四飛と寄った。
4六歩、同歩、5七歩。
銀2枚を守備に使っても、これで繋がるっていう読みなのかな。
6八金寄、4七角、5九歩。
私も固めた。
3六角成で、いったん小康状態に。
また選択の時間。
飛車2枚と馬が接近してるから、慎重に読まないといけない。
まず、2二歩成を考える。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
同歩としてくる……かどうかが、すでにわからない。
同歩、2一角は、3一歩で封鎖されてしまう。
だから同歩もありそう。
攻め合うなら5八歩成。これを3二と、6九とと取り合うのはありえないから、もちろん同歩、あるいは2二同金。
そもそも2二歩成としないなら……4四銀?
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
……これ、いい手かも。
パッと思いついた手だけど、けっこう厳しい。
狙いは単純で、5一飛と撤退させたあと、3四飛と寄る。
すると馬当たりになるから、3筋を受けるヒマがない。
あ、でも、5一飛としなければいいのか。
4六馬が飛車当たりになる。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
これぞ空中戦、みたいな盤面。
5五銀、2四馬と取り合って……うーん、どっちともいえない。
それに、5五銀じゃなくて、ここで2二歩成もありそう。
私はチェスクロを確認。
残り時間は、先手が8分、後手が13分。
だいぶ差ができちゃった。
1分使う、と決めて読もう。
読み読み。
……………………
……………………
…………………
………………4四銀で、いっか。
私は銀を打った。
不破さんは表情を変えなかったから、読み筋だったっぽい。
すぐに4六馬と対応された。
5五銀、2四馬に、4一飛と打つ。
6二銀の欠点を突く。金に紐がついてない。
「5一飛」
私は4四飛成と撤退して、後手は3四歩。
うーん、決定打が出せない。
3四歩じゃなくて2三馬なら、こっちから3四歩の予定だった。
まあ、4一飛は決めに行った手じゃないから、困ってるわけでもない。
「6六銀引で……」
不破さんは5三銀と出てきた。
また駒組み。
4八龍、5四銀直、5七銀、7二金、7八金上、3五馬。
手を作りにくい。
8六歩、4五歩、5八歩、4四馬、8五歩。
不破さんは、ここで3五歩と伸ばしてきた。
ゆっくりとした桂頭攻め。
慎重というよりは、これでイケる、という感じの指し方なんだよね。
一手一手が早いし、そこまで考えていなさそうな雰囲気がある。
私はさらに5分消費していて、残り2分になっていた。
次の手に賭ける。
「4六歩……」
桂跳ねの拠点を作る。
不破さんは、あっさり3六歩と伸ばした。
4五桂、4三金、6六歩。
不破さんはこのとき初めて、
「ん、そっちか」
と、意外そうなコメントをした。
いい感じ。
不破さんは2分使って、4五桂と跳ねた。
同歩、同銀。
ここで端攻めに転じる。
9五歩と突いた。
同歩、9四歩。
「そいつは乗るぜ。7四歩だ」
うわ、玉頭戦か。それは読んでなかった。
ピッ
しかも一分将棋。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は9五香と走った。
7五歩、9三歩成、同桂。
同香成としたいけど、同香のあと困りそう。
7筋の傷が大きい。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「はわわわ……」
私は6五桂と打った。
び……みょう。
とりあえず打ちました感しかない。
不破さんもそれを察知したのか、腰を落とした。
「……」
圧がかかる。
まちがえてください。
不破さんは少し背筋を戻して、それからもう一度盤面を凝視した。
さらに10秒考える。
「……こうだな。9四歩」




