629手目 女子の部2回戦 ポーン〔藤花〕vs春日川〔藤花〕
※ここからは、ポーンさん視点です。
オーッホッホッホ、またまた出番ですわよ。
同校対決ですわ。
「容赦いたしませんことよ」
Frauカスガカワは、チェスクロの位置を確かめながら、
「ポーン先輩、なにかありましたか?」
と訊き返しました。
「い、いえ、なにもありません」
「お手数ですが、いつも通り符号をすべて言ってください」
「Verstanden」
部室でもそうしていますから、もーまんたいです。
そういえば、もーまんたいってなんなのでしょうか。
「準備はいいですかぁ?」
Ja.
「それでは、始めてくださ~い」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
Frauカスガカワは、チェスクロをポチリ。
7六歩、3四歩、2六歩、8四歩、7八金、3二金、2五歩、8五歩。
【先手:エリザベート・ポーン(藤花) 後手:春日川琴音(藤花)】
横歩です。
Frauカスカガワは、短期決戦がお好きなようで。
2四歩、同歩、同飛、5二玉、3四飛、3三角。
Hmm、どこまで研究範囲ですかしら。
5八玉、2二銀、1六歩、8六歩、同歩、同飛。
「9六歩です」
端を突いてみます。
1四歩、3八銀、2三銀。
あ、あまり見ないかたちになったような。
3六飛、5一金。
めちゃんこ研究っぽいStimmungを感じます。
えーと、どうすればよろしいのですかしら。
「……1七桂」
ノータイムで2四歩。無慈悲に早いです。
しかし、これはこじ開けられそうです。
2五歩としまして……8四飛とされました。
これ、2四歩、同飛、3三角成、同桂、6六角で暴れたら、どうなるのでしょうか。
4二金上で受けるくらいしか、ないように思います。
しかし、これをうっかりとも思えず……と言って回避するのも、変ですわね。
「乗りますわ。2四歩」
「同飛です」
3三角成、同桂、6六角、4二金上。
わたくしはいったん2六歩で、蓋をします。
「4四歩」
……手ごわいですわね。
8二歩、同銀、2五歩、3四飛、同飛、同銀で、飛車交換をする順はすぐに見えたもものの、取った飛車を打つ場所がありません。7二は6二飛、2一は7一飛で消されます。
とはいえ、似たような順で、よろしいのではないかと。
8二歩を省略したうえで、飛車を打つまえに2四歩といたしましょう。
「2五歩です」
3四飛、同飛、同銀、2四歩。
Frauカスガカワ、ここですこし考えました。
「……2七歩」
スジっぽいです。
「Aber、2三歩成です」
同銀に2九歩と打ちます。
これで不発になります。
「なるほど、お上手です」
「Ich weiß」
「ではもうひとつ」
パシリ
……同歩に6四角ですか。
取りません。
「2一飛です」
3一飛、同飛成、同金、8二歩、同銀と崩せるだけ崩して、4四角。
Frauカスガカワ、ここでめちゃんこ長考。
「……」
「……」
5分経ちました。
わたくしもアレコレ読みましたが、これ以上は相手の出方次第です。
Frauカスガカワは、スッと上を向き、しばらく放心したような表情。
危険です。読みが終わるまえのクセですわ。
パシリ
打ち返してきました。
「2五桂ですッ!」
これが作戦のZweckですのよ。
6四角は、読みに入っていました。覚悟してくださいまし。
「同桂」
「1一角成……と見せかけて、8五飛ですッ!」
「ポーン先輩、2つ手を言われると混乱するので、フェイントはご遠慮ください」
「はわわわ、Entschuldigung」
ともかーく、これは痛いはずです。激痛です。
銀桂両取り。
Frauカスガカワは、7四歩。
銀を助けました。当然です。
「では、桂馬をもらいます。2五飛」
これが歩と銀当たりです。
連続パンチ。
「3七歩成」
……………………
……………………
…………………
………………銀を捨てました。
錯覚ですか?
銀いらないのですか、と訊きたいところですが、ガマンしませう。
部室ならゼッタイ訊いてました。
「2三飛成です」
「4八歩」
銀を取らずに歩?
なんですの、これ?
同金、同と、同玉だと……Hmm? 3六桂? 詰みますか?
(※図はポーンさんの脳内イメージです。)
詰んで……ますわね。
同金とできない、ということですか。
では3九金? ……3九金で、大丈夫そうです。
以下、3八と、同金、4九銀、6八玉、3八銀成に、5五銀があります。
(※図はポーンさんの脳内イメージです。)
同角、同角が銀当たり、さらに3四龍は金と成銀の両当たり。
当たりまくりです。
「3九金です」
3八と、同金。
「4九歩成」
……………………
……………………
…………………
………………あ、詰めろ……ではないです。
びっくりしました。
しかし、放置もできませんわね。
5五銀は5九飛、6八玉、6五桂が詰めろです。
「同玉です」
「3七歩」
「……3九金です」
3八銀、5八玉、3九銀不成、6八玉、4八飛。
He, hm, ho……もう負けているのでは?
の、残り時間は、まだ10分あります。考えます。
……………………
……………………
…………………
………………ゼンゼンダメです。
攻める手もないですし、受ける手もないです。
かたちづくりへ。
7七玉、8六金、8八玉、8七歩、9八玉、9六金。
「負けました」
「ありがとうございました」
惨敗ですわ。残念です。
「どこがおかしかったですか?」
Frauカスガカワは、首をかしげてしばらく黙りました。
「……2三飛成は、疑問だったと思います。5六桂を読んでいました」
【検討図】
この手は、eine Secundeも読んでません。
「6四桂が王手ですのね」
「はい、なので3八と→4九とと連続では取れません。この場合は、3八と、6四桂、同歩、3八金に3四銀と出るか、あるいはそもそも5六桂に7三角と下がる予定でした」
「Hm……どちらでも、先手が悪そうです」
「この時点では、後手優勢かもしれません」
もうすこし別のところで悪くいたしましたわね。
「Frauカスガカワは、どこで良くなったとお思いで?」
「徐々に良くなった、というのが実感ですが……強いて言うなら、8五飛と打たれたところでしょうか」
【検討図】
Echt?
「これで悪いのですか?」
「いったん7二飛と打って、6二飛、同飛成、同玉とズラされるほうを心配しました。そこから8五飛、7四歩、2五飛だと、5四桂の王手金があります」
【検討図】
見落としましたわ~。
「たしかに、これなら先手指せます」
「3七歩成、5四桂、7二玉、4二桂成の攻め合いでも、まだ多少後手が良いように思いますが、本譜よりは断然怖いです」
空中戦の敗北です──と、このあたりにいたしましょう。
Frauカスガカワを疲れさせては、もうしわけございません。
「では、Pauseということで。Danke schön」
「ありがとうございました」
席を立ちまして……まだどこも終わってないですわね。
他の対局でも、観ましょうかしら。
うろうろしていると、Frauカネコに声をかけられました。
「あれ、エリーちゃん、もう終わったの?」
「Naja、負けてしまいましたわ」
「そっか、じゃあ美味しいものでも食べて、元気つけようね」
Bestimmt!
というわけにもいきません。
「まだみなさん終わってらっしゃいません」
「いいのいいの、席取りだ~」
Frauカネコは、わたくしの背を押して、出口へ。
あら~おあとがよろしいようで~。
場所:2015年度 秋季個人戦 女子の部 2回戦
先手:エリザベート ポーン
後手:春日川 琴音
戦型:横歩取り
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲7八金 △3二金
▲2五歩 △8五歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △5二玉
▲3四飛 △3三角 ▲5八玉 △2二銀 ▲1六歩 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲9六歩 △1四歩 ▲3八銀 △2三銀
▲3六飛 △5一金 ▲1七桂 △2四歩 ▲2五歩 △8四飛
▲2四歩 △同 飛 ▲3三角成 △同 桂 ▲6六角 △4二金上
▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3四飛 ▲同 飛 △同 銀
▲2四歩 △2七歩 ▲2三歩成 △同 銀 ▲2九歩 △3六歩
▲2一飛 △3一飛 ▲同飛成 △同 金 ▲8二歩 △同 銀
▲4四角 △6四角 ▲2五桂 △同 桂 ▲8五飛 △7四歩
▲2五飛 △3七歩成 ▲2三飛成 △4八歩 ▲3九金 △3八と
▲同 金 △4九歩成 ▲同 玉 △3七歩 ▲3九金 △3八銀
▲5八玉 △3九銀不成▲6八玉 △4八飛 ▲7七玉 △8六金
▲8八玉 △8七歩 ▲9八玉 △9六金
まで82手で春日川の勝ち




