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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第53局 感想戦後の感想戦(H島県)(2015年8月20日木曜)
631/682

619手目 わくわく

※ここからは、葉山はやまさん視点です。

 というわけで、日日にちにち杯の総括だーッ!

 アフターケアもばっちりの、葉山新聞社ですよ。

 今回も近いところから、順番に回っていこう。

 まずは、H島市のソールズベリー女学院に集合。

 いざ、インタビュー、というところで、早乙女さおとめさんの第一声は、

「H島県の代表者を、H島市に集合させる……F山差別ですね」

 だった。

 これを聞いた西野辺にしのべさんは、

「県庁所在地だから、しょうがなくない?」

 と、意地の悪い笑みを浮かべた。

 早乙女さんは、

「その傲慢さが、他県からヘイトを買っているのでは?」

 と煽り返した。

 県内抗争をしないで。

 仲良くいこう。

 一方、桐野きりの先輩は、

「ふえぇ、ソールズの部室、かわいいものがなんにもないのですぅ」

 と、テンションが下がっていた。

 テンション上げていこう。

 とりあえず、テーブルをひとつ囲んで、4人で座った。

 私は出入り口を背にして、正面に窓をのぞんだ。校庭が見える。対面に西野辺さん、左に桐野先輩、右に早乙女さん。

 私はボイスレコーダーをとりだして、テーブルに置いた。

「えー、それでは、録音させていただきます」

 西野辺さんは、

「え? 録音する必要ある?」

 と牽制してきた。

「今日は犬井いぬいくんがいないので、むずかしい局面の話は、あとでまとめようかな……と」

 別件で不在らしい。

 こっちのスケジュールのほうが、先だったと思うんだけどなあ。

 西野辺さんは、うーんとうなったあと、

「記憶頼りに書かれても困るし、そんなもんか。じゃ、おはなおねぇ、どうぞ」

 と振った。

「ふえ? お花からですかぁ?」

「上級生だからね」

 理由になってなくない?

 まあ、始まってくれれば、それでいい。

 私は、左に座っている桐野先輩へ向きなおった。

「では、事前にメールをさしあげた通り、1局を選んで、振り返ってください」

「お花は、素子もとこちゃんとの対局にしまぁす」

 いきなりきたぁ。

 その場にいるメンバーの負け棋譜をあげるひと。

 西野辺さんは、

「おねぇ、マジで忖度しないね」

 と毒づいた。

「ソンタクってなんですかぁ?」

「他人の都合を考えて行動する、ってことだよ」

「将棋にそんなものはありませぇん」

 勝負ごとだもんね。

 早乙女さんも、

「私が負けたのはただの事実ですし、かまいません」

 と返した。

 というわけで、桐野先輩は棋譜を並べ始めた。

 私もスマホで棋譜を見ながら、手伝う。

「まずは、お花流ほんわか向かい飛車にしまぁす」


【先手:桐野花 後手:早乙女素子 16手目】

挿絵(By みてみん)


 西野辺さんは、

都成となり流じゃん」

 とつっこみを入れた。

「ほんわか向かい飛車ですぅ」

 どのあたりがほんわかしてるのか、謎過ぎる。

 桐野先輩はまた駒を動かして、

「でぇ、こうしてこうしてこうしてぇ」

 と、どんどん進めた。

 私は、待ったをかけた。

「すみません、解説してください」

「ふえ? これ解説会なんですかぁ?」

 そういうわけじゃないけど、うーん、なんだろ。

「印象に残ったこととか、なにを考えて指したとか、そのあたりもお願いします」

「うにゅ、注文の多い料理店ですぅ」

 ここで、早乙女さんが助け舟を出してくれた。

「私から質問するかたちでも、いいですか? 感想戦の続きのようなものですし、あのときは議論できなかったことが、いくつかありますので」

 はい、よろしくお願いします。

 早乙女さんは、棋譜が全部頭に入っているらしく、すぐに質問した。

「まず、23手目、7五歩の早仕掛けが、成立していたかどうかです。この手は63秒で指しましたが、じっくりと駒組みするほうが、良かったかもしれません」


【23手目】

挿絵(By みてみん)


 桐野先輩は、

「7五歩は、ぶっちゃけアリだと思いまぁす」

 という返事だった。

 早乙女さんは、

「あのとき候補手に入ってましたか?」

 と念押しした。

「お花は候補手とか考えませぇん」

 だろうなあ、完全に直感で指してそうだもん、このひと。

 私は、ちょっと切り口を変えて、

「驚いたとか、感心したとか、そういうのってありました?」

 と、感情面からさぐりを入れてみた。

「大胆でセクシーな手だと思いましたぁ」

 早乙女さんは、うしろ髪をなでながら、

「私はセクシー担当大臣ではありません」

 と反論した。

 いや、そのまえに、発言の意味がわからん。

「セクシーって、どういう意味でセクシーなんですか?」

「セクシーはセクシーでぇす」

 んー……記事にするには、NGワードっぽいかな。

 あんまり深く訊いても、しょうがなさそう。

 私は次をうながした。

 早乙女さんは、

「以下、同歩、6五角で、馬を作る展開になりました。後手の陣形を崩せたと思ったのですが、7二飛が機敏でした」

 と続けた。


【36手目】

挿絵(By みてみん)


 ここから7七銀のパターンと、4八馬のパターンを考えて、後者を選んだとのこと。以下、6五歩、3六歩、6四金で、後手が盛り返す流れになった。

 私はメモを取りながら、

「後手が盛り返した、ってことは、ここまでは先手が良かったわけですか?」

 とたずねた。

「いえ、評価値はずっと互角です」

「脳内で? AIで?」

「両方です」

 そうなのか、じゃあ、盛り返したっていうのは、どういう意味なんだろ。

 詳しく訊いてみると、どうやら陣形の話っぽかった。

 出しゃばっていた馬が引っ込んだ、ってことかな。

 このやりとりを見た西野辺さんは、

「これもう、素子ちゃんのインタビューになってない?」

 と首をかしげた。

 否定できない。

 私がうまく聞き出すしかないか。腕の見せどころ。

「このあと陣形整理が進んで、6筋と7筋を取り返しましたね。そのあたりまで、並べていただけますか?」

 ちょっと長くなるけど、6四金以下、3七桂、3二金、5八金、4二玉、2九飛、7六歩、7七歩、同歩成、同金、7五歩、7八金、7六歩、7七歩、同歩成、同金、7五歩、7八金、7六歩で、千日手模様に。

 桐野先輩は、

「千日手は歓迎しまぁす」

 とコメントした。

 早乙女さんは、

「千日手でも良かったのですが、6九玉~7七銀~6八銀の評価値が互角だったので、そちらを選択しました。一日目から疲れる必要もありませんし、指し直しが後手ということもありました」

 と補足した。

 裏でいろいろ考えてるんだな、というのが分かる。

 桐野先輩は、そこから5四銀と出て、さらに4三銀と組み替えた。


【70手目】

挿絵(By みてみん)


 なんというか、独特の感性。

 バラバラだった陣形が、いつの間にかそれっぽくなっている。

 西野辺さんも、

「あそこから銀矢倉にできるのか、さすがだねぇ」

 と感心していた。

 ただ、早乙女さんによると、これでも全然互角らしい。

 なので、動揺はしなかった、とのこと。

 以下、5八玉、7四飛と整備が終わって、1五歩から開戦。

 この端攻めについて、桐野さんは、

「これはムリ攻めだと思いましたぁ」

 と、初めて形勢判断に触れた。

 私は敏感に反応する。

「どうしてそう思いました?」

「お花のセンサーにビンビン来たのですぅ」

 うーむ、どう書こう……桐野さんは、この端攻めをみて、直感的にいなせると判断した、と。これくらいの書き換えは、許されるっしょ。

 その後の応酬も、具体的に解説してもらった。

 要約すると、同歩、1四歩、同香、4五歩、同歩、同桂、4四銀左、4六馬に、6三角が重厚な反撃だったらしい。


【82手目】

挿絵(By みてみん)


 この手の意味は、私にも分かった。

 なにもしないなら4五銀で、桂馬のタダ取りだ。

 早乙女さんは、

「5三桂不成でイケると思いました」

 と説明した。

 以下、同銀、7五歩、8四飛、2四歩、5四桂、5七馬。


【89手目】

挿絵(By みてみん)


 桐野先輩は、

「これよりも、5三桂不成、同銀、2四歩、5四桂、6四馬とばっちんこして、同銀、4四歩のほうが困りましたぁ」

 と言った。

 早乙女さんも、これは認めた。

「そうなのですよね。銀矢倉に組まれたのですから、矢倉戦の基本を採用しなければなりませんでした。駒の損得よりも、陣形を先に崩したほうが勝ち、というわけです。その日の夜に気づきました」

 たしかに、このあとは4六歩と打たれて、押され気味になってる。

 先手は2三歩成と攻め合ったけど、同金、4六銀、同桂で銀桂交換になって、同馬、4五歩、3七馬、2五歩、2六歩、4六銀打、2八馬、9六歩。


【102手目】

挿絵(By みてみん)


 攻守逆転だ。

 桐野先輩は、

「ただぁ、お花もこのあと、ちょっちミスったのですぅ。9七香不成じゃなくて、6六歩、同歩、8五角でチラ見したほうが、良かったですぅ」

 と、自分も間違えたことを認めた。


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 早乙女さんは、

「それでもまだ互角とは思います。マイナス200くらいですね」

 と、具体的な数字を挙げた。

 本譜は9六同歩、同香、9七歩、9七香不成、同桂、9六歩で、端の突破を図ったものの、ねじり合いになった。8六香と飛車先を遮断されて、けっきょく先手の2五歩が間に合う結果に。120手台には、先手が盛り返し始めた。桐野先輩が、まただんだんと受ける展開に。


【130手目】

挿絵(By みてみん)


 早乙女さんは、

「この次が致命傷でした。6五馬と寄るのではなく、9五歩と叩くか、あるいは単に7四歩でした。本譜はこれ以降、ジリ貧です」

 と反省した。

 桐野先輩も、

「ここからは、どちゃんこ指しやすかったですぅ」

 と同意した。

 そうなの?

 私は進めてみてもらった。

 6五馬、5四香、7四銀、4一角、2三金、4二玉、1三金、3七桂、2八飛、3六桂、2六飛、7七銀。


【142手目】

挿絵(By みてみん)


 桐野先輩によると、

「7八銀成が、もう防げませぇん」

 とのこと。

 理由をたずねたところ、6八金打、7八銀成、同金のあと、4八金と逆から打つのが成立しちゃってるから、らしい。だから、6八金打とせずに3六飛とするしかなくて、その瞬間に7八銀成。ボロっと侵入されてしまう。

 西野辺さんは、

「あ、そっか、これ7八銀成のあと、1三の金を助けたら、7四角で先手寄っちゃうね」

 と指摘した。


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 なるほどなるほど、1三の金も、取られるしかないのか。

 後手優勢なことが、私にもわかった。メモメモ。

 桐野先輩は、

「というわけで、お花の勝ちですぅ」

 とまとめた。

 じつはまだ20手くらいあるんだけど、先手が自然と寄ってるみたい。

 私は、

「全体を通して、いかがでしたか?」

 と感想を求めた。

「なんだかんだで、この将棋が一番わくわくしましたぁ」

 桐野先輩らしい基準だね。

 私はメモを終えて、今度は西野辺さんに向きなおろうとした。

 すると、桐野先輩は、

「ところでぇ、こんな怖い企画しちゃっても、いいんですかぁ?」

 と訊いてきた。

「え……怖いですか?」

ひかるちゃん→お花→茉白ましろちゃん→素子ちゃん→つっくん→すばるくんのあと、7人目が現れて、めちゃんこ怖いことが起きまぁす」

 これは学校の怪談じゃなーいッ!

場所:第10回日日杯 1日目 女子の部 5回戦

先手:早乙女 素子

後手:桐野 花

戦型:後手ダイレクト向かい飛車


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △9四歩 ▲2五歩 △9五歩

▲6八玉 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀 ▲3八銀 △3三銀

▲7八金 △4四歩 ▲4六歩 △2二飛 ▲6五角 △7四角

▲同 角 △同 歩 ▲1六歩 △1四歩 ▲7五歩 △同 歩

▲6五角 △7二銀 ▲4三角成 △6二金 ▲6五馬 △7三金

▲7五馬 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀 ▲5六歩 △7二飛

▲4八馬 △6五歩 ▲3六歩 △6四金 ▲3七桂 △3二金

▲5八金 △4二玉 ▲2九飛 △7六歩 ▲7七歩 △同歩成

▲同 金 △7五歩 ▲7八金 △7六歩 ▲7七歩 △同歩成

▲同 金 △7五歩 ▲7八金 △7六歩 ▲6九玉 △5四銀

▲7七歩 △同歩成 ▲同 銀 △7六歩 ▲6八銀 △3一玉

▲5七馬 △2二玉 ▲4八金 △4三銀 ▲5八玉 △7四飛

▲1五歩 △同 歩 ▲1四歩 △同 香 ▲4五歩 △同 歩

▲同 桂 △4四銀左 ▲4六馬 △6三角 ▲5三桂不成△同 銀

▲7五歩 △8四飛 ▲2四歩 △5四桂 ▲5七馬 △4六歩

▲2三歩成 △同 金 ▲4六銀 △同 桂 ▲同 馬 △4五歩

▲3七馬 △2五歩 ▲2六歩 △4六銀 ▲2八馬 △9六歩

▲同 歩 △同 香 ▲9七歩 △同香不成 ▲同 桂 △9六歩

▲8六香 △5七歩 ▲同 銀 △9四飛 ▲8五桂 △8四歩

▲2五歩 △2七歩 ▲同 馬 △8五歩 ▲2四歩 △1三金

▲4七歩 △5七銀成 ▲同 金 △3二玉 ▲3七馬 △8六歩

▲5五桂 △同 金 ▲同 馬 △4四桂 ▲6五馬 △5四香

▲7四銀 △4一角 ▲2三金 △4二玉 ▲1三金 △3七桂

▲2八飛 △3六桂 ▲2六飛 △7七銀 ▲3六飛 △7八銀成

▲4八玉 △1三桂 ▲5八金 △4九金 ▲5七玉 △6四金

▲6六馬 △5五歩 ▲4六歩 △5六歩 ▲4七玉 △5五金

▲同 馬 △同 香 ▲2三歩成 △6九角 ▲5九歩 △同 金

▲3七玉 △5八角成 ▲4七桂 △5七歩成


まで166手で桐野の勝ち

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