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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第52局 盆踊るひとびと(2015年8月15日土曜)
627/683

615手目 Bon Odori

※ここからは、ポーンさん視点です。

 Endlich!! ついにこの季節がやってまいりました。

 今日は喫茶店ゲシュマックで、2年生の集まりです。

 テーブルを囲んで、お茶をたしなんでおります。

 さっそく提案いたしましょう。

「盆踊りをするのですわ」

 みなさん、ぽかーん。

 Warum?

 Herrミノベは、

「ど、どうしたんだ、急に?」

 とたずねてまいりました。

「どうしたもこうしたもありません。盆踊りの季節です」

「た、たしかにそうだが……盆踊りが、どうかしたのか?」

 まったくもって共感性に欠けるコメントです。

 わたくしはHerrサエキに、

「Herrサエキ、盆踊りはいかがですか?」

 とたずねました。

「盆踊り……あれは異教のお祭りだよね」

 な、なにをおっしゃっているのでしょうか。

 Herrミノベも、

「べ、べつに悪魔を召喚したりする儀式じゃないぞ?」

 と困惑してらっしゃいます。

「日本では、死者が帰ってくる時期なんだよね? キリスト教では、そういうことは起こらないんだよ。だから、死者が帰ってくる前提で踊るのは、異教のお祭りだと思う」

 Herrミノベは、

「そ、そんなにむずかしく考えなくても、いいぞ」

 と返しました。

 そうです、あれはダンスの一種ですわ。

 けれども、Herrサエキは、

「異文化をエンターテイメントで消費するのは、よくないと思うんだ。僕が盆踊りの会場にいきなり十字架を立てて、メタルを弾き始めたらイヤだろう?」

 と言いました。

「めたる? めたるってなんだ?」

「ヘヴィメタル音楽だよ」

「十字架よりも、佐伯さえきのヘヴィメタに驚くと思う」

 Bestimmt!! 同意です。

 音楽の話題になったので、Herrステガミは、

「佐伯くん、メタルやるの?」

 とご質問。

「ううん、あくまでも例だよ」

「ポーランドでは流行ってる?」

「どうだろう……北では流行ってるらしい」

「あ、それは僕も聞いたことある。スウェーデンとかフィンランドだよね」

 今度は、Herrミノベが反応。

捨神すてがみ、ロック聴くのか?」

「参考になるかな、と思って聴くことはあったけど、あんまり」

「じゃあなんで知ってるんだ?」

「ピアノ友だちの二階堂にかいどうくんは、けっこう聴いてるらしくて、いろいろ教えてもらった」

 ニカイドウって、どなたですかしら。

 おたがいのFreundeを把握しているわけではないので、わかりません。

 ここで、Frauオオバは、

すみちゃん、そういうのに興味あるっス」

 とわりこんできました。

 Herrミノベは、

大場おおば、ヘヴィメタ趣味なのか?」

 と返しました。

「そこじゃなくて、国と国でいろいろちがう点っス。着物はヨーロッパでは発明されなかったっスよね。逆に、ウェディングドレスはアジアでは発明されなかったっス。ここにデザインのヒントあると思うっス」

 Herrステガミは、なるほどね、とおっしゃってから、

「僕の又聞きだと、北欧は日照時間が短いから、屋外ミュージックはあんまり発達しなかったらしいんだよね。言われてみると、気候的なものもあるかな、と思った。クラシックの楽器だって、極端に寒かったりすると、保管がむずかしくなるよ」

 とお答えになりました。

 ふむふむ、勉強になります……話題が変わり過ぎです。

「Damen und Herrn、今は盆踊りのお話ですのよ」

 Herrミノベは、

「あ、すまん。で、盆踊りが、どうしたんだ?」

 とキドウシュウセイ。

「どうしたもこうしたもありません。このメンバーで踊るのです」

「盆踊りのお誘いか。去年もみんなで行ったな」

 Nein、記憶は正確に。

 あれはたまたまです。

 会場へ行ってみたら、なぜか全員そろったのです。

 今年はきちんと予約いたします。

「というわけで、待ち合わせいたしましょう」

 Herrカツラギは、

「たっちゃん、つっくん、カンナちゃんとはもうその予定だったけど、増えても問題ないよぉ」

 とのこと。

 すると、Frauクルシマは、

「私も含めた5人で約束したよね?」

 と、ドスの利いた声で訂正いたしました。

「あれぇ、そうだったかなぁ」

 なんだか不穏になってまいりましたが、エリザベートは負けません。

 Lassen uns tanzen!!


  ○

   。

    .


 というわけで、いざ、盆踊りフェスへ。

 去年は洋装でしたが、今年こそは浴衣ゆかたを。

 いそうろうしているFrauヒメノのおうちで、お着換えです。

 かわいらしいピンクにしてみました。

 Hm!! Hm!!

 帯がしまりませんことよッ!

 結び目がむずかしすぎますッ!

「ヴォナ子さん、ヴォナ子さん」

 メイド姿の女性があらわれました。

 姫野重工とPon Programmentwicklungが開発したAIロボット*です。

「ヴォナ子さん、帯を締めてくださいまし」

「了解です」

 ヴォナ子さんはうしろに回って──

「Naaaaain!! Stoppen!! Stoppen!!」

 キツ過ぎですッ!

「どうかなさいましたか?」

「内臓出るかと思いましたわ」

「着つけのプログラムは入っていないので、これ以上はうまくできません」

 やはり将棋専用AIにしたのは失敗でした。

 こうなったら、強力な助っ人をお呼びします。

 部屋を出て、Frauヒメノのお部屋へ。


 コンコンコン


「はい」

「ポーンです。すこしお時間をいただけませんでしょうか?」

 ドアがひらいて、Frauヒメノが顔をお出しになりました。

「なにかご用ですか?」

「浴衣の帯を締めていただけませんか?」

 Frauヒメノは、サクッと結んでくださいました。

「Vielen Dank」

「どちらへ行かれるのですか?」

「盆踊りにまいります」

 これを聞いたFrauヒメノは、

「コミュニケーション不足でした。わたくしもこれからまいります」

 とのこと。

「Echt? 今からお着換えですか?」

「はい、少々お待ちください」

 しばらくして、Frauヒメノも浴衣姿でご登場。

 黒にお花柄とは、高貴ですわね。さすがはFrauヒメノ。

 それでは、会場へ。


  ○

   。

    .


 待ち合わせは、駒桜こまざくら市で一番大きい公園の、入り口でした。

 高校生が大勢集まっているので、すぐに見つかりました。

「Guten Abent」

「こんばんわっス。あ、姫野ひめの先輩といっしょっスか?」

「オホホホ、セレブ出勤ですわよ」

「庶民のみんな、集まったっスか? ふたりは置いて出発するっス」

 冗談の通じないかたです。

「Das ist ein Scherz」

「エリーちゃん、マジで日本語でオッケーっス」

「ジョークです」

「ほんとっスか? 悪意をビンビンに感じるっス」

 今気づきましたが、Frauオオバ、とんでもない浴衣を着てらっしゃいますわね。

 ピーマン柄ですかしら。

 一方、Frauヒメノはごあいさつだけして、どこかへ行ってしまいました。

 おそらくOGのかたとお会いになられるのでしょう。

 わたくしは、

「それでは、盆踊るのですわ」

 と言いました。

 Herrミノベは、

「いや、まだ早いぞ。いろいろ回ってからにしよう」

 とおっしゃいました。

 パーティーの始まりです。

 去年は食べてばかりだったので、ゆっくりと。

 まずはゲームをいたしましょう。

 Frauオオバは、カタヌキに挑戦するとおっしゃいました。

 カタヌキってなんですの? ……ふむ、クッキーのようなものが出てきました。

 それに針を刺して??? あ、ラインにそって切るのですか。

 きれいに切り取ったFrauオオバは、自慢顔で、プレゼントをもらいました。

 めちゃんこeinfachではありませんこと?

「わたくしもやりますわ」

 目のまえに、クッキーが……クッキーとは香りが異なりますわね。

 なんというか……なんでしょう。

 ひとまず、針を持って……Ups!! いきなり割れてしまいましたッ!

「イヒヒヒ、これめちゃんこムズイっスよ~」

 先におっしゃってくださいましぃ。

 もう一回、と思いましたが、みなさんの足を止めても悪いので、移動いたします。

 お次は……ライフル競技ですか?

 おもちゃのライフルで、的を撃つゲームのようです。

 当てた的はもらえるみたいですわね。

 まずは、Herrミノベが挑戦──失敗してしまいました。

 一番大きなぬいぐるみを狙って、当たったのですが、当たっただけではダメみたいです。

 Herrステガミも挑戦──また失敗です。

 わたくしはHerrサエキに、こっそり、

「試してみませんこと?」

 と訊いてみました。

 ところが、Herrサエキは、

「やめたほうがいいかも」

 と答えました。

「Warum?」

「Man kann jenen Kuscheltier nicht mit dem Gewicht des Korkens umwerfen, zumindest ist es sehr schwierig」

 Echt? ……インチキですの?

 わたくしは、そばにいたFrauクルシマに、

「Herrサエキは、インチキだとおっしゃってますが……」

 と小声で伝えました。

「おっきい景品が客寄せなのは、よくあるかも」

「キャクヨセとは?」

「罠みたいなもの。置いてあるけど、ゲットはできないの」

 それでよろしいんですのッ!?

「戦う民主主義ですわッ! 抗議してまいります」

 Frauクルシマは、

「あー、うーん、めんどくさくなってきた」

 とおっしゃってから、Herrステガミに、

「私もやってみたいよ?」

 と話しかけました。

「もちろん、どうぞ」

 Herrステガミからライフルを受け取って、Frauクルシマは台へ。

 な、なんだか妙にキマってらっしゃいますわね。


 パン


 ぬいぐるみに当たって──倒れました。Wow!!

 Herrミノベは、

「お、すごいな」

 とスマイルスマイル。

 Frauクルシマは、びっくりしたおじさんにライフルを返しながら、

「箕辺くんと捨神くんが、倒れやすくしてくれたおかげだと思うよ?」

 と謙遜いたしました。

 なんだかよくわかりませんが、一件落着です。

 次はわたくしもできるゲームがいいですわね。Dann los!!

*233手目 近未来な少女

https://ncode.syosetu.com/n8275bv/266/

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