表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第50局 狙われていなかった街(2015年8月8日土曜)
621/682

609手目 妖怪アパート

「ギニャー!」

 私たちは、玄関に駆けつけた。

 外装とはうらはらに、内部はそこそこ綺麗だった。もちろん、新築ってわけじゃない。だけど、住めるかどうかすらあやしい、という雰囲気はなかった。郵便受けがならんでいて、靴箱もあった。内廊下が見える。タマさんともうひとり、腰の曲がった小柄なおばあさんが、向かい合って立っていた。おばあさんは、手にほうきをもって、ぶんぶん振り回しながら、

「ペットは禁止ッ! 何度言ったらわかるんだいッ!」

 と怒鳴った。

 タマさんは、黒猫の美沙みさちゃんを抱いたまま、

「ペットじゃニャい。迷子の子猫ちゃんを、連れて来てあげたんじゃ」

 と反論した。

「動物をアパートに入れるんじゃないッ!」

「ここは動物園みたいなもんじゃろ。なんで猫ちゃんがダメなんじゃ」

 おばあさんは、箒でタマさんの頭を、バサバサやった。

亀成かめなりばあさん、耄碌もうろくしたか?」

「おまえさんもババアだろ」

「にゃはーッ! 言ってはニャらんことをッ! 八つ裂きじゃッ!」

 なぜか乱闘が始まった。

 傍観していると、私のすねに、ふさふさとしたものが当たった。

 見ると、美沙ちゃんが変身した黒猫だった。

「今のうちに潜入しましょう」

 了解。

 私たちはこそこそと、右の廊下を選択した。

 うーん、なんだか不気味。

 空間が歪んでいるのか、ふたり(2匹?)の罵声は、すぐに聞こえなくなった。

 しかも、廊下が異様に長い。

 どんどん奥へ進む。

 左手の壁に、ドアが見えてきた。まずは開けてみる。

「キャッ!」

 しずかちゃんが悲鳴をあげた。口もとを押さえる。

 部屋のなかには、十二単じゅうにひとえを着た女のひとが、丸まって横たわっていた。

 すそから、巨大な蛇のしっぽがのぞいている。

 美沙ちゃんは冷静に、

「蛇の妖怪さんですか」

 と言った。

 私は、

「シーッ」

 と注意した。

 美沙ちゃんは、

「寝てるみたいですよ」

 と言って、肉球で女の人をゆびさした。

 たしかに、寝息が聞こえる。

 邪魔にならないうちに、退散。

 ドアを閉めた。


 パタン


「次、行こう……」

 さらに奥へ奥へと進んでいく。

 ものすごく変な建物だ。

 外見よりも、内側の構造のほうが広い。

 次のドアを見つけるまで、すこし時間がかかった。

「じゃ、開けるね……」

 そーっと──あッ。

 和室の中央に、おじいさんがひとり、ぽつんと座っていた。

 丸坊主で、おでこがすごく盛り上がっていた。ひたいに深いしわがある。

 正座をして、手には湯呑みを持っていた。

 おじいさんは、まるで私たちの来室を、予期していたかのようだ。

 やわらかい笑顔で、

「ほっほっほ、これはめずらしい、妖怪でも人間でもないかたがたが、3人も……いや、おひとりは人間か。して、なんのご用ですか?」

 とたずねてきた。

 私が返事をしかけると、美沙ちゃんは、

「この妖怪、オーラがヤバいです。とんずらしましょう」

 と言って、猫の爪でスカートを引っ張った。

 はい、了解。ドアを閉める。


 パタン


 次のドアをさがす。

 突き当たりを右に曲がって、共同洗面台を通過。

 ようやく3つ目を発見。

 お邪魔します──あッ。

 ちっちゃい和室のすみっこに、飴玉お姉さんがいた。

 体操座りをして、立てたひざのあいだに、顔をうずめていた。

 赤い髪が、両サイドに流れている。

 静ちゃんは、

《なにか悲しいことでも、あったのかな?》

 と、テレパスを送ってきた。

 私は声を立てないように、テレパスで返す。

《イッポリト星人は、こうやって寝るのが普通……》

《カニさんのおねんね、ってわけか。どうする?》

 とりあえず、武装解除。

 私は持参した検知器で、室内をスキャンした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あれ?

 危険物の反応は、出なかった。

《カンナちゃん、どう?》

《凶器はないみたい……》

《そっか、じゃあ取り押さえて終わりだね。私のサイコキネシスでやる?》

《お願いします……》

 静ちゃんの体から、ふわっと圧が起きた。

 その瞬間、スーッと電灯が消えて──また明るくなった。

「あッ……」

 周囲の景色が変わった。

 ボロアパートの部屋は消失して、真っ白な壁を持つ、方形の空間になった。

 電灯がないのに、部屋のなかは明るい。

 私たちは、そのすみっこに立っていた。

 ドアもなくなって、脱出不能に。

 これは──部屋の中央に、ホログラムがあらわれた。

〈わっはっは、アホなシャートフ星人を捕まえたぜぇ〉

 飴玉お姉さんことイッポリト星人は、邪悪な笑みを浮かべていた。

「しまった……罠だったか……」

〈いや、ほんとに寝てた。おまえらがセキュリティに突っ込んできただけ〉

 ん? 罠じゃないのか。

 美沙ちゃんは、

「罠のほうがよかったですね。これじゃ、こっちがアホの子ですよ」

 と嘆息した。

〈火口に舞い降りた碧岩竜へきがんりゅうってやつだよなあ、こいつは〉

「はわわわ、ヤツメヤギにも死角はある、になっちゃった……」

 私たちの会話を聞いた美沙ちゃんは、

「宇宙ことわざごっこをしてる場合じゃありません。どこなんですか、ここは?」

 と息巻いた。

〈んー、そっちのふたりは、地球人だよな? あたしになんの用だ?〉

 私は代表して、

「麻薬の密売容疑で、逮捕します……」

 と告げた。

〈はぁ? 麻薬の密売? なに言ってんだ?〉

「ごまかしてもムダです……静先生、美沙先生、よろしくお願いします……」

 美沙ちゃんは猫からもどって、魔法のステッキをとりだした。

「宇宙人さん、もしかしてここは、宇宙船のなかですか?」

〈そうだぜぇ。このまま海に捨ててやるよ〉

「わかりました。では、Sta!」

 美沙ちゃんは、ステッキを振った。

 ガコンと、空間が揺れた。

 私たちは思わず転倒しかけた。

 静ちゃんは、

《じ、地震?》

 とあせった。

 美沙ちゃんは、

「すみません、UFOを止めた経験がないので、急ブレーキになってしまいました」

 と謝った。

 ホログラムも転倒していた。

 このようすだと、本人も転倒したっぽい。

 私はすかさず、

「静ちゃん、このまま宇宙船を、目立たない場所へ……」

 と指示した。

《目立たない場所って、どこ?》

「うーん……瀬戸内海の無人島とか……」

 すると美沙ちゃんは、

艶田つやだ市にある、私の館へ運んでください。あそこなら隠せます」

 と提案した。

 静ちゃんはうなずいた。

《りょーかい、レッカーしまーす》

 宇宙船が動き始めた。

 加速を感じる。

 イッポリト星人は、ようやく立ち上がって、おろおろした。

〈な、なんで操縦が効かねえんだ? おまえらなんかしてるだろッ!〉

 はい、それではボッシュート。

 いざ、艶田市へ。


 三〇分後、私たちは艶田市の山奥にいた。

 大きな洋館のまえ、舗装されていない敷地に、宇宙船を着陸させた。

 このカクカクしたデザインは、いかにもイッポリト星人好みだね。

 あきらかに安いモデルだけど。

 イッポリト星人は、静ちゃんのサイコキネシスで拘束済み。

 地面にあぐらをかいて、両腕を背中に固定されている。

「それでは、事情聴取を始めます……」

「くそぉ、なんでエスパーが辺境の星にいるんだよ」

「まずは名前を……」

「裁判所に訴えるぞッ!」

「静ちゃん、もうすこしきつく……」

 静ちゃんは出力をあげた。

 イッポリト星人の両腕が、急角度にねじれる。

「いでででッ!」

《甲殻類から進化しただけあって、人間より硬い感触がするなあ》

「静ちゃん、そのくらいで……」

 あんまり拷問すると、美沙ちゃんがうるさいからね。

 イッポリト星人は、ちょっとぐったりした。

「生物権侵害だぞッ! 生物権侵害ッ!」

「お名前を……」

 イッポリト星人は、しばらくそっぽを向いたあと、口をひらいた。

「……バルターナ・メトロノフ」

「地球で麻薬の密売をしているのは、なぜですか……?」

「してねーって」

 私は証拠写真を見せた。

「これはアメ配ってるだけだろ」

「この成分が宇宙麻薬に指定されていることは、知ってますか……?」

「知らね」

「じゃあなんで配ってましたか……?」

「あたしの星だと、みんな食べてる」

「みんな食べてる……?」

 あ、そっか、この薬物、イッポリト星人にも効かないんだった。

 耐性がある星では、地産地消を許可されている。

 でも、全体としてつじつまが合わなかった。

「あげたあいてが中毒になったどうか、確認してましたよね*……?」

「そりゃ中毒性はあるだろ」

「麻薬だって認識してるじゃん……」

「地球人だってコーヒーとか飲んでるだろッ!」

 ん? どういうこと?

 よくわかんなくなってきた。

 静ちゃんは、

《他の薬物をやってて、支離滅裂になってるんじゃない?》

 と推測した。

 ありえるし、それっぽいかな。

「宇宙IDを言ってください……」

「プライバシーだぞ、プライバシー」

「静ちゃん、もう一発……」

「あ~、言えばいいんだろ、言えば」

 イッポリト星人は、IDを言った。

 私は通信機をとりだして、局に連絡。

「もしもし……あ、おつかれさまです、カンナエア・トビセウスです……テラ系第三惑星で、犯罪者を捕まえました……はい、IDは……」

 かくかくしかじか。

「はい……え……? 家出……?」

*196手目 飴玉お姉さん、本気を出す

https://ncode.syosetu.com/n2363cp/208

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ