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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
62/681

50手目 高校生男子の部A3回戦 御城vs並木(2)

 4三金引、3五歩、同歩、2四歩、同銀。

「7三歩成」


挿絵(By みてみん)


 あれ? 歩の成り捨て? ……あ、7五銀の阻止だね。

 でも、これは……ピッ。30秒将棋になっちゃった。

 ちゃんと29秒まで読んで……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同銀」

 3五銀、3六歩、同金、3五銀、同角。

「6四角ですッ!」


挿絵(By みてみん)


 7三同銀で、この飛び出しができるんだ。

 7一角成が怖いけど、8四飛で耐えてるよ。7五銀打なら、同角、同銀、5四飛のスライドを追跡できなくて、後手が優勢なはず。

 ピッ。ここで御城(ごじょう)先輩も30秒将棋。

「いったん受けるか……5五歩」

 すごい。これは角道を止めてるだけじゃなくて、さっきの8四飛〜5四飛を消した手だ。さすがは御城先輩。勝てるかどうか分からない。勢いで踏み込むよ。

「5七歩ッ!」

 同角なら7一角成が消える。同銀なら7七歩成、同桂、同桂成、同金、6五桂。ここで7一角成とされても、7七桂不成が王手だから、なんとかなる。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4四歩」

 攻め合いだね。受けて立つよ。

 3三金寄、4五桂、4七銀。金を逃げ回っても、しょうがない。

「一応は勝負形か……3三桂成」

 御城先輩も、踏み込んできた。僕のほうが危ないかもしれない。

「これは同……」

 ん、待ってよ。

 同金、5七角、3六銀成、4三歩成、同金、2三飛成、3二金、2八龍。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は並木(なみき)くんの脳内イメージです。)


 こ、これは僕が切れてるような……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「5八歩成ッ!」

 さきに歩を清算しよう。

 同飛。取ってくれた。ここで手を戻す。3三金。

 2八飛と戻ったら、3六銀成、4三歩成、同金、2三飛成、3二金、2八龍。

 一見、さっきと同じにみえるけど、角が3五にいるから3五成銀とできる。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3四歩」

 飛車を見捨てたね。3二金、4三銀。これも厳しい。

 取ったら泥沼だから、5八銀成、同玉、3八飛。

 寄せの速度問題になってきた。

「本格的にマズいな……」

 御城先輩は無表情に、4七玉とあがった。

 今のは、ブラフかな? 入玉が怖いんだけど。

「7八飛成」

 とにかく、金を回収しておこう。時間がない。

 3二銀成、同玉、3三銀、同桂、4三金。

 3三歩成の変化も気になったね。

 4一玉、3三歩成、3八銀、5六玉、5八龍、4五玉。


挿絵(By みてみん)


 きちんと寄せられるかな……6四の角が退くと、4二金打で僕が詰んじゃう。

 うまい寄せ……上下から圧殺したい……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「よ、4八龍」

 とりあえず王手。30秒じゃ読み切れないよ。

「止まったか? 4六桂」

 うッ……止まった気がする。

 適切な王手がない。

 困惑した僕は、持ち駒に指を這わせた。

 受けないといけない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

挿絵(By みてみん)


 ああ、打っちゃった。これ、大丈夫かな?

 同金、同角、同となら問題ないけど、4三歩成は危ない。間違えたかも。

「同金」

「同角」

「並木の意図が読めないな……4三歩成」

 うぅ、そうだよね。歩を成ってくるよね。

 これはもう、と金と角を交換するしかないよ。

「3三角」

 と金を取ると、御城先輩は口元に手をそえて、しばらく考え込んだ。

「俺に寄りがあるのか?」

 ないよ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同と」

 4二金、4三金。

 このままだと、千日手もみえる。4三同金、同と、4二金、3三金とか。

 (すばる)くん勝ちを見込んで、引き分けにしようかな。開始から30分経ってるし。

「4三同金」

 御城先輩は、黙って同とと取った。

 4二金、3三金、同金、同と、4二金、4三金。

 このあいだも、真剣に考える。

 さっきから読んでるのは、同金、同との瞬間に、4四歩。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は並木くんの脳内イメージです。)

 

 これが効かないかな?

 同角で無意味かと思ったけど、そうでもないんだよね。例えば、4四同角、4二金、3三角成、同金、同とのとき、5三角か5三桂と打てる。どっちも先手が怪しい。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「4三同金」

「同と」

「4四歩」

 僕は、試しに打ってみた。

 御城先輩は、大きく息を吸い込む。両肘をテーブルに乗せた。

「千日手にしないのか?」

 同角のあとでも、千日手コースはあると思う。ギリギリまで粘りたい。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 え? 同玉?

 これは、4二金、3三金、同金、同と、5二桂があるから、ダメなような……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4二金ッ!」

「1六角」


挿絵(By みてみん)


「!?」

 そ、そんな手があるの? 凡人の僕にはみえなかったよ。

 混乱した僕は、一瞬、頭のなかが真っ白になってしまう。

 よ、4三金、同角成、4二金は、入玉されちゃうかな?


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「さ、3二桂ッ!」

 僕は、さきに桂馬を打った。

 4五玉、4四歩。これには、同としかないはず。

「ミスったか……同と」

「同桂」

 これが王手じゃないから、ちょっと不安だ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4三金」

 これは同金とできない。同角成で寄らなくなる。

 3四玉も防がないといけないから……3三金打かな?

「3三金打」

「……4四角」

 あ、これは。

 僕は、29秒ギリギリまで読み直した。

「5六銀」


挿絵(By みてみん)


 同玉なら4七銀不成、6五玉は、4三金寄が詰めろのはず、4五玉は3六銀不成、同玉、3七金、2六玉、4六龍、1五玉、2四金の即詰みだね。

「ここまでか……俺の負けだ」

「ありがとうございました」

 うわ、御城先輩に勝っちゃったよ。金星。

 御城先輩は前髪をなでて、それから感想戦を始めた。

「4四歩に同角だったかもしれないな」

 御城先輩と僕は、すぐに局面を戻した。


挿絵(By みてみん)


「3三金もありそうですね」

「それは即座に5六銀と打たれて、ダメなんじゃないか?」

 5六銀……あ、そっか、ちょっと形が違うだけで、さっきの寄り筋と合流するね。

「即詰みかどうか、イマイチ分からなかったです」

「即詰みじゃないか? 同玉、4七銀不成、6五玉、6四銀。ここで5四玉は、6二桂、6三玉、7三金まで。5四玉に代えて7六玉は、7五歩、同銀、6五金、8六玉、8八龍、8七合駒、7五金、9五玉、9四歩までだな」

 なるほど、詰んでるんだね。こっちの分岐は、御城先輩のほうが深く読んでたみたいだ。この変化はダメと踏んで、僕の深く読んでるほうへ来てくれたっぽい。

「だから、やるとしたら3三角成だったんだが、同金とくるだろう?」

「はい、その予定でした。同金、同と、5三桂かな、と」

「5四玉は8四飛で即死するから……4四玉だな」

 御城先輩は局面をかえて、王様をまっすぐに立った。


挿絵(By みてみん)


 ……意外と手がないね。

「これは、ダメみたいです。5三角のほうが……」

「そうだな。5三角のほうが厳しそうだ」

 僕は、桂馬と角を交換した。

 

挿絵(By みてみん)


「並木のほうに即詰みはない。これは俺の負けだろう」

「5三角って、詰めろになってますか?」

「なってるな。4四金と打って、5六玉、4七銀不成、6五玉、6四銀。ここで7四玉と上に逃げるのは、7三銀打、6三玉、6二飛で詰む。7六玉と逃げても、7五歩、同銀、6五銀打、8六玉、8八龍、8七合駒、7五銀、9五玉、9四歩。最初の7五歩に8六玉と逃げるのは、8八龍、8七合駒に7四桂だ」

「だったら、4三金で、詰めろ解除ですね」

「いや、それは解除になってない。5六銀といきなり捨てて、同玉、4七銀不成以下、結局詰むからな。3四玉と逃げても、2四金がある」

「……あ、これ、2通りの詰み筋が発生してるんですね」

 4四金からの詰みと5六銀からの詰みを同時に消すのは、ムリだね。

「というわけで、4四同玉を選んでみたんだが、これもダメだったな」

 御城先輩は、角をパシリと打ち付けて、3五の位置にもどした。

 僕は、次の検討局面に悩む。いろいろ訊きたいことはあるんだけど──

「負けました」

「ありがとうございました」

 大文字(だいもんじ)先輩が投了した。

「あっちは、さすがに魚住(うおずみ)勝ちか……となると……」

 御城(ごじょう)先輩は、席を立った。僕も1番席を観にいく。

 

【先手:六連(むつむら)(すばる) 後手:捨神(すてがみ)九十九(つくも)

挿絵(By みてみん)


 あれ……これって……。

「今、どっちの手番?」

 僕は、近くにいた白鳥(しらとり)くんにたずねた。

 白鳥くんはメガネをなおしながら、こっちを振り返る。

「並木、いたのか」

「どっちの手番?」

捨神(すてがみ)先輩だ」

 あ……ってことは……。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7八飛成」

 昴くんは、ノータイムで同玉。

 捨神先輩は、うっすらと笑みを漏らして、持ち駒の角に指を伸ばした。

「ほんとにギリギリの戦いだったよ……6九角」


挿絵(By みてみん)


 ……やっぱり詰んでる。

「13手詰めだったな」

 と白鳥くん。

 昴くんは、じっと角を見つめていた。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「負けました」

「ありがとうございました」

 ギャラリーから、歓声が漏れた。僕は、嘆息。

 それからしばらくのあいだ、沈黙がおとずれた。

「……8七の地点に駒を打たなくても詰むのは、意外でした」

 昴くんの発声で、感想戦が始まった。

「アハッ、それは僕も意外だったよ。角と桂馬が利いてて、詰まないと思ったから。こっちはもう受けようがないし、どこかで7四角か7四桂が入ってたら、僕の負けだったね」

《これより、5分切れ負けになります。スタッフの指示にしたがってください》

 ふたりが感想戦を続けるなか、会場にアナウンスが入った。

 捨神先輩は、にっこりと笑う。

「ちょっと内容が難し過ぎたから、休憩にしてもいいかな?」

「はい、後日、ネットで検討しましょう」

 ふたりは一礼して、席を立つ。

 将棋盤に背を向けた昴くんと、僕の目が合った。

「ごめん、負けてしまった」

「あ、うん、お疲れさま」

「チームは?」

「残念だけど、負けたよ」

「0−3? 1−2?」

「1−2」

 僕が答えると、昴くんはホッとしたような顔をした。

「よかった。並木くんが勝ったんだね。0−3だと終わるところだった」

「え? どうして?」

 昴くんは、トーナメント表を遠目に見やる。

「そのときは、チームの勝数だけでなく、勝ち星差でも逆転されるから」

 勝ち星差? ……そっか、第3ラウンドで、僕らと81Boysは勝ち星7。並んでる。さっきの試合で僕らが0−3負けだと、あっちは勝ち星8、こっちは勝ち星6。81Boysが0−3負けなんてしないだろうから、優勝は絶望的になっちゃってた。首の皮一枚で残った格好だ。

「のこり2ラウンドを2−1、2−1で凌げば、優勝できるかもしれない。第5ラウンドで、81Boysと再戦になる可能性が高い」

「そうだね」

 僕は、確信をもってうなずき返した。

 このあたりの計算は、カードゲームの大会で活躍してる昴くんの得意分野だ。

「ただ、こうなると心配なのは、兎丸(うさまる)くんたちのチームだ」

 そう言えば、ピカピカの1年生も2連勝してたね。

 僕らは、会場内で兎丸くんたちの姿をさがした。

「あそこにいるよ」

 僕は、会場のすみっこを指差した。根津(ねづ)くんと椎名(しいな)くんの姿もみえる。

「兎丸くんのところが勝ってたら、僕らは暫定3位……確認しに行こう」

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生男子の部Aクラス 3回戦

先手:御城 悟

後手:並木 通

戦型:ムリヤリ矢倉


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二銀

▲2五歩 △3三銀 ▲5六歩 △5二金右 ▲6八銀 △5四歩

▲7八金 △4三金 ▲6九玉 △6二銀 ▲3六歩 △3二金

▲4六歩 △4一玉 ▲3七桂 △8四歩 ▲5八金 △8五歩

▲7七銀 △7四歩 ▲4七銀 △3一角 ▲9六歩 △7三銀

▲6六銀 △6四銀 ▲5五歩 △7五歩 ▲4五歩 △7六歩

▲5四歩 △同 金 ▲4六銀 △8六歩 ▲同 歩 △8五歩

▲同 歩 △8六歩 ▲7九角 △7三桂 ▲7四歩 △8五桂

▲8八歩 △4二角 ▲4七金 △3一玉 ▲4四歩 △同 金

▲4五歩 △4三金引 ▲3五歩 △同 歩 ▲2四歩 △同 銀

▲7三歩成 △同 銀 ▲3五銀 △3六歩 ▲同 金 △3五銀

▲同 角 △6四角 ▲5五歩 △5七歩 ▲4四歩 △3三金寄

▲4五桂 △4七銀 ▲3三桂成 △5八歩成 ▲同 飛 △3三金

▲3四歩 △3二金 ▲4三銀 △5八銀成 ▲同 玉 △3八飛

▲4七玉 △7八飛成 ▲3二銀成 △同 玉 ▲3三銀 △同 桂

▲4三金 △4一玉 ▲3三歩成 △3八銀 ▲5六玉 △5八龍

▲4五玉 △4八龍 ▲4六桂 △4二歩 ▲同 金 △同 角

▲4三歩成 △3三角 ▲同 と △4二金 ▲4三金 △同 金

▲同 と △4二金 ▲3三金 △同 金 ▲同 と △4二金

▲4三金 △同 金 ▲同 と △4四歩 ▲同 玉 △4二金

▲1六角 △3二桂 ▲4五玉 △4四歩 ▲同 と △同 桂

▲4三金 △3三金打 ▲4四角 △5六銀


まで130手で並木の勝ち

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