607手目 イッポリト星人
※ここからは、飛瀬さん視点です。
駒桜市の公園。
木陰の下で、私はベンチに腰をおろしていた。
ソバージュの女の子が、近くでぶらんこをこいでいる。
前空静ちゃん。
こいでいると言っても、サイコキネシスを使っている。怠惰。
私の右どなりには、黒いキャミソールを着た女の子。
黒木美沙ちゃん。
夏休みの女子会、もとい、Outsidersのミーティング。
「というわけで、捨神くんと楽しい時間を過ごした、飛瀬カンナです……」
私のセリフを聞いた静ちゃんは、呆れ顔で、
《はい、セクハラ》
と、テレパスを送ってきた。
「どこがセクハラ……? 捨神くんとした楽しいことって、なんだと思ってる……?」
《その質問がセクハラ》
私たちが揉めていると、美沙ちゃんは頬に手をそえて、
「じつは、私とダーリンも、昨日楽しいことをしまして」
と言い出した。
「美沙ちゃんのはマジモノなので、発言を禁止します……」
「は?」
とりあえず、話題を変える。
「みなさん、夏休みの宿題は、やりましたか……?」
《変わり過ぎでウケる》
「やりましたか……?」
静ちゃんは、やってなーい、と答えた。
そして、くるんと空中に飛びあがると、体操選手みたいに着地した。
10点満点。
「人生、それでいいんですか……?」
《獄門じゃ、やらない子多いよ》
美沙ちゃんは、
「獄門高校は脳筋ですからね」
と言った。
《ひどいなあ。そういう美沙ちゃんは、やったの? 魔法でパパッとじゃないよね?》
「ちゃんとやりました。何十年も学生をやってたら、コツを覚えます」
《それはそれで、イヤな人生》
「永遠の夏休みですよ? うらやましくないんですか?」
うらやましぃ。
私も捨神くんと、永遠の夏休みを過ごしたい。
《カンナちゃん、今、変なこと考えたでしょ?》
「いいえ……」
《で、カンナちゃんは、夏休みの宿題、やったの?》
「学校のは、やった……」
《学校のは? ほかになんかあるの? 塾? 将棋部?》
私は、これを相談するかどうか、迷った。
迷ったというか、ここ数日くらい、ずっと迷っていた。
「ここから話すことは、オフレコで……」
かくかくしかじか。
話を聞いた美沙ちゃんは、おどろいた顔で、
「この街に、宇宙人がもうひとりいる? ほんとうですか?」
とたずねた。
「確実にいる……このまえ出くわしたし*……」
《え? これ宇宙人がいるって設定の会話? まあいいや、乗っちゃお。その宇宙人って、カンナちゃんの同類?》
「同類とは……?」
《同じ星の出身?》
ちがう、と私は答えた。
「イッポリト星人という、残忍な凶悪宇宙人です……」
《カンナちゃんは、何星人だっけ?》
「シャートフ星人……いいかげんに覚えてください……」
《具体的に、どう残忍なの?》
「シャートフ星に戦争をしかけて、植民地にしようとしてた……」
《それもしかして、『隣接してる国は仲が悪い』っていう話の宇宙版?》
「宇宙慣習法違反だよ……」
美沙ちゃんは、パンパンと手をたたいた。
「私たちは部外者なので、もうちょっと基礎から教えてください」
了解。
シャートフ星とイッポリト星は、宇宙連合の加盟惑星。
ほぼ同時に加盟している。シャートフ星のほうが、10年早い。
星系もいっしょ。というか、5光年くらいしか離れていない。
でも、違うところは多い。
シャートフ星は、地球に近い温暖な星で、農業と牧畜がメイン。
もちろん、地球よりはずっとオートメーション。
名産品はヤツメヤギのミルク。
イッポリト星は、住環境が過酷。火山帯が多くて、高温。
地球に喩えると、夏が90度、冬が60度くらい。
だから、イッポリト星人の体組織は、けっこう特殊。
火山活動でできた鉱物資源が豊かで、これを輸出して生計を立てている。
「そして好戦的……ここ重要……」
《ほんとかなあ》
信じてください。
美沙ちゃんは、
「で、そのイッポリト星人は、駒桜市で、なにをしてるんですか?」
とたずねた。
「宇宙麻薬の密売……」
《え、マジヤバじゃん》
「なんだけど、この麻薬、地球人には効かないんだよね……」
私は成分を説明した。
化学的なところは伝わらなかったみたいなので、
「ようするに、ハッカ飴のハッカ……」
とつけくわえた。
ちなみに、シャートフ星人にも効かない。
美沙ちゃんは、
「それ、なにかウラがあるんじゃないですか?」
と疑った。
「このイッポリト星人が、アホなだけだと思います……」
「いえいえ、そういうのは怪しいですよ」
「美沙ちゃん、けっこう疑り深いんだね……」
「日頃から悪魔とつきあってるんです。あたりまえです」
そういう問題かな。
もちろん、この容疑者が、飴玉お姉さんとかいう、よくわかんないキャラを演じてる点は、気になっていた。地球人を油断させる作戦かもしれないし、武器を携行していたら、危ない。
いずれにせよ、宇宙連合職員としては、通報せざるをえなかった。この作業に、すごい時間を取られた。図書館に缶詰。結果、まずは犯行現場を押さえてくれ、という返信。お役所仕事。
そのあたりも説明したうえで、本題を切り出した。
「というわけで、万が一のときのために、助っ人が欲しいな、と……」
美沙ちゃんは、眉間にしわをよせて、
「魔法とESPで撃退できるんですか?」
と訊き返した。
「そこはおふたりの戦力次第かな、と……」
「飛瀬さんも参加するんですよね?」
「私は、しがない宇宙公務員なので、銃器のあつかいは、ちょっと……」
美沙ちゃんは、大きくタメ息をついた。
「ガキの使いじゃないんですよ」
「もちろん、強制はしない……静ちゃんは、どう……?」
静ちゃんは、んー、と言ってから、
《イッポリト星人って、体組織が特殊なんだよね? 硬い?》
と訊いた。
「ちょっと硬め……」
《そっかあ、人体をパーンなら、簡単にできるんだけど、硬さによるか》
……………………
……………………
…………………
………………え?
「人体をパーンって……破裂させられる、ってこと……?」
《じっさいにはやったことないけど、楽勝だよ》
このエスパー、危険個体なのでは。
連合に通報して、収容してもらおうかな。
《どうしたの?》
「ん、なんでもない……美沙ちゃんは、どう……?」
美沙ちゃんは空中から、魔法のステッキをとりだした。
ペン回しみたいに、器用にくるくると回す。
「上級魔法なら、一区画くらいは消滅させられるので、おそらく仕留められます」
……………………
……………………
…………………
………………え?
「一区画、とは……?」
「半径50メートルくらいですね。あ、ダーリンと協力して、ファイナルメテオを落とせば、駒桜市ごと消滅させられます」
消滅させないでください。
《うわー、美沙ちゃん、すごーい、私は全力サイコキネシスでも、3階建てのビルを潰せるくらいかな》
「ふふふ、だてに300年生きていません」
過剰戦力な気がしてきた。
私はあわてて、
「あの……いくらイッポリト星人でも、殺すのはマズいので……もっと穏便に……」
と説得した。
「穏便とは?」
「ようするに……銃で撃たれたら、シャートフ星人は死んでしまう……だから、武器をなんとかして、そのあいだに捕獲するというか……」
美沙ちゃんは腕組みをして、
「盾役ということですか?」
と、目つきを鋭くした。
「え~、地球語では、そういう言い方もありまして……」
静ちゃんは、
《だったら報酬をよこせ~》
と言い出した。
「え~、宇宙連合の予算にも、限りがあるわけでありまして……」
《高級カフェでスイーツおごって》
私がきょとんとしていると、美沙ちゃんも、
「あ、いいですね。メニュー表で一番高いやつですよ」
と言った。
友だち価格。
「じゃ、よろしくお願いします……まずは作戦会議を……」
*418手目 辻竜馬の夏休み
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