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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第50局 狙われていなかった街(2015年8月8日土曜)
618/681

606手目 ケティちゃん

※ここからは、捨神すてがみくん視点です。

《ただいま、大変混雑しております。順番にお繋ぎしておりますので、しばらく経ってから、おかけなおしください》

 通話は切れた。

 僕はタメ息をつく。

 まいったな。全然繋がらない。

 赤井あかいさんの家に寄ってから、何回もかけ直している。

 毎回同じ機械音声が流れた。

 スマホの時計を見る。

 発売開始から、30分以上経っていた。

 Web予約も、混雑中の表示が出るだけだった。

 真夏の太陽のしたで、僕は途方にくれた。

 大通りに出たところで、ちょっと考える。

 どうしようかな、不破ふわさんなら詳しいかも。

 不破さんの電話番号は──

「おーい、捨神ぃ」

 ふりむくと、箕辺みのべくんが手を振っていた。

「アハッ、箕辺くん、おはよ」

「日傘に歩きスマホは危ないぞ」

「今度さ、ケティちゃんの記念グッズが出るって話、おぼえてる?」

「ああ、40周年のやつか。来島くるしまが言ってた」

「今日から予約開始なんだけど、繋がらないんだよね」

 箕辺くんの表情が変わった。

 えッ、という顔。

「開始は明日だろ?」

「今日からだよ」

 箕辺くんは、じぶんのスマホをチェックした。

 口もとに手をあてて、青くなる。

「ヤバ……」

 箕辺くんも、買う予定があったのかな。

「まだ開始30分くらいだからね、だいじょうぶだよ」

「いや……もう売り切れてると思うぞ」

 こんどは、僕がおどろいた。

「え、ほんと?」

「こういうのは、10分くらいで完売する」

 そうなんだ──しまったな。

 クラシックのチケットとは、全然ちがうわけか。

 読みまちがえた。

 とはいえ、箕辺くんの焦りかたも、よくわからなかった。

 箕辺くん、ケティちゃんグッズは、集めてないよね。

 持ってるところ、見たことないし。

 あ、もしかして、妹のかおるちゃん用?

 とりあえず、対応を相談しよう。

 と思ったところで、女の子の声が聞こえた。

 福留ふくどめさんだった。

「箕辺せんぱ~い」

 箕辺くんは、すぐには気づかなかった。

 スマホをいじりながら、ぶつぶつ言っている。

「箕辺せんぱ~いッ!」

 箕辺くんは、ようやく顔をあげた。

「ふ、福留か、どうした?」

「先輩たち、どうしたんですか? なにかありました?」

「いや、なにもないぞ」

 え、あるんじゃない?

 福留さんに相談するチャンスだよ。

 赤井さんもいる。

 だけど、箕辺くんはヘルプを頼まなかった。

 福留さんは、

「なにか困ったことがあれば、手伝いますよ?」

 と、念押ししてきた。

「いや、ほんとになんでもない……捨神、ちょっと用事を思い出した。またあとでな」

 箕辺くんはそう言うと、立ち去ってしまった。

 なんで?

 福留さんも変に思ったみたいで、

「なにかあったんですか?」

 と、こっちにたずねてきた。

「んー……僕もよくわかんない」

「なにか困ったことがあるなら、あたしたちも手伝いますよ?」

 福留さんに頼んだら、解決するかも。

 僕は、ちょっと口をひらきかけた。

 でも、こんなプライベートなこと、お願いしていいのかな。

 箕辺くんがどっかへ行っちゃったのは、福留さんたちにメイワクをかけたくなかったからかも。グッズを探すのを手伝って、って言ってるのに近いし。

「アハッ、だいじょうぶだよ」

 福留さんは、小首をかしげた。

 あやしまれたかも。

 悪いことしてるわけじゃないから、いいよね。

 僕は福留さんたちと別れて、どうするか考えた。

 善後策を練る。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あッ、そうだ。

 天堂てんどうに、いろんなレアグッズを売ってる女の子がいた。

 あれ、どうやって入手してるんだろ。

 ちょっと高かった記憶がある。

 僕は、その子の連絡先を知らないから、どうしたらいいのかわからなかった。

 けど、お金が必要そうなのは、わかった。

 たしか、現金払いオンリー。

 お財布には、カードしか入ってない。

 とりあえず銀行かな。

 最寄りの支店は、この近くだ。

 僕は銀行へ直行した。

 自動ドアをくぐると、冷気に包まれた。

 ATMに並んで、10万円ほどおろす。

 いくらいるんだろ。

 次は、不破さんに連絡を──あ、来島さんだ。

 来島さんは、ポ○モンのキャラクターフード付きの、長袖シャツを着ていた。

 僕といっしょで、日焼け防止みたい。

 来島さんは、フードの中から覗き込むようなかっこうで、

「捨神くん、こんにちは」

 とあいさつした。

「アハッ、こんにちは」

「なんだかゲンキないね?」

 僕は事情を話した。

 すると、

「ふーん……融通できなくもないよ」

 と返ってきた。

「え、ほんと?」

「ただし、転売になっちゃうけど」

 来島さんの話では、あるルートから転売してもらえるかも、ということだった。

「いくらくらいになりそう?」

 来島さんはすこし考えて、ゆびを3本立てた。

「3万円?」

「高めに見積もって、それくらい。たぶんもうちょっと安い」

 うーん、どうしよっか。

 来島さんから買うか、天堂の女子から買うか。

 天堂の女の子は、話したことがなかった。

 つまり、知り合いから買うか、そうじゃないひとから買うか。

 むずかしいね。

 信頼できるのは前者、あとくされがなさそうなのは後者。

「……ごめん、来島さんにお願いしても、いい?」

「他にアテがあるなら、そっちを検討するのも、アリだと思うよ?」

「夏休みだから、その子と連絡がつくかどうか、わかんないんだよね」

「了解。差額はあとで精算ね」

 僕は財布をとりだして、3万円を来島さんに渡した。

「じゃ、よろしく。ダメだったら連絡して」

「うん」

 僕は来島さんと別れた。

 ホッとひと息。

 それじゃ、そろそろ飛瀬とびせさんに、連絡しよっか。

 赤井さんの家に寄ったみたいだから、まだこのあたりにいるかも。

 電話する。


 プルルル プルルル


 あれ? 出ない。

 どこに行ったんだろ。


 プルルル プルルル


 うーん、出ない。

 僕が困惑していると、ピロンとMINEが鳴った。


 カンナ 。o O(ごめん、今図書館)


 あ、そうなんだ。


 つくも 。o O(ごめん、邪魔しちゃったね。何時くらいに終わりそう?)


 カンナ 。o O(報告書書いてるから、夕方までかかりそう)


 そっか、缶詰状態なんだね。

 このまえの2年生会でも、最近すごく忙しいって言ってた。


 つくも 。o O(ゆっくりしてね。マンションの鍵はだいじょうぶ?)


 カンナ 。o O(ありがと。だいじょうぶ)


 僕はメッセージに「いいね」をして、中断した。

 あとは、夕飯の買い物と──ん?

 また箕辺くんだ。

 なんか、お店から出て来た。

 こんどは僕のほうから声をかける。

「箕辺くん、どうしたの?」

「お、捨神もか」

「なにが?」

「ケティちゃん人形がないか、調べてるんだろ?」

 あ、そういうことか。

 箕辺くんが出てきたのは、おもちゃ屋さんだった。

「ごめん、来島さんに、箕辺くんの分も頼めばよかった」

「ゆ……来島が、どうかしたのか?」

 僕は、さっきのできごとを話した。

 すると箕辺くんは、すごく複雑な表情になった。

「ケティちゃん人形を転売してもらえる? 来島から?」

「うん」

 箕辺くんは、視線をそらして、

「ケティちゃんは、もう持ってるのか……?」

 と、ひとりごとをつぶやいた。

「だれが?」

「な、なんでもない」

 さっきから、どうも会話が噛み合わない。

「薫ちゃんのプレゼントじゃないの? 来島さんに、2つ目も頼んでみたら?」

「いや、それはマズい」

「どうして?」

 箕辺くんは、一瞬口ごもって、

「俺は転売が嫌いだからだ」

 と答えた。

「どうして? 仲介業だよね?」

「ああいうのは、買い占めとか万引きとか、そういうのが裏にあるからだ」

「え、そうなの? まさか、来島さんが不正に入手してるってこと?」

「そんなわけないだろッ!」

 箕辺くん、いきなり怒らないで。

遊子ゆうこに限ってそんなことはない。俺は信じてるぞ」

 な、なんだかよくわからないけど、この話題は、やめたほうがよさそう。

 箕辺くんが転売嫌いなら、薫ちゃんも嫌いな可能性がある。

 そういうプレゼントをもらっても、喜ばないかもしれない。

「僕はこのあと用事があるから、このくらいで失礼するよ」

「ああ、怒鳴って悪かった」

 それじゃ、夕飯の買い物に行こう。

 ケーキも買おうかな。

 飛瀬さんとふたりきりで、楽しいことをいっぱいしようね。

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