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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第50局 狙われていなかった街(2015年8月8日土曜)
617/682

605手目 カツアゲ

 てれってれん(謎のBGM)

 というわけで、福留ふくどめあずさ赤井あかいもみじ、捨神すてがみ先輩を尾行中。

 もみじちゃんの家を出て、こっそりとあとをついていく。

 狭い路地だから、慎重に。

 ブロック塀の角からのぞいていると、もみじちゃんが話しかけてきた。

「やっぱりマズくないですか?」

飛瀬とびせ先輩が犯罪にまきこまれてたら、どうするの?」

「ストーキングのほうが、よっぽど犯罪ですよね。飛瀬先輩のMINEに連絡すればいいじゃないですか」

 甘いッ! それはさっきやったんだよ。

 でも、既読がつかなかった。

 ますますあやしい。

 捨神先輩の行動も、なんだか変。

 1分おきに立ち止まって、スマホをさわっていた。

 一度なんか、明らかに電話をしているっぽかった。

 けど、相手が出なかったみたいで、くもった表情をしていた。

 事件の匂いがする。

 私は、

「飛瀬先輩が、行方不明になってるんじゃないかな」

 と推理した。

 もみじちゃんは、

「だったら、警察に連絡しましょう」

 と言った。

「あ、いや、そこまでは……」

「あずささ~ん、本気で解決する気、あります?」

 もみじちゃん、今日は圧が強いってば──あッ!

 捨神先輩が動いた。

 スマホを右手に、日傘を左手に持ったまま、ゆっくりと歩く。

 気がそぞろになっているのか、ときどき傘が傾いた。

 ここから大通りまでは、ほとんど隠れる場所がない。

 振り向かないことを祈る。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 よし、路地を出て、大通りへ。

 ひとの往来が激しいから、隠れやすくなった。

 ウィンドウショッピングの客にまぎれる。

 遊んでいるこどもたちにまぎれる。

 部活帰りの女子高生にまぎれる。

 あれこれ工夫しながら、尾行を続けた。

 捨神先輩は、何度もスマホをさわっていた。

 私はポストのうしろに隠れつつ、

「飛瀬先輩が行方不明なのは、確実っぽい」

 とつぶやいた。

「ポストのうしろに隠れるのは、忍術学校だとNGなのですが……」

「ん、もみじちゃん、なんか言った?」

「いえ、なにも。こうなったら、何食わぬ顔で出て、事情を聴きませんか?」

「さっき家で会ったのに、変じゃない?」

 あのあと出かけて、たまたま出くわした、という設定を提案された。

 まあ、それもアリか。

 あたしたちは、ポストのうしろから出て、捨神先輩に接近した。

 そこへ横やりが入った。

 箕辺みのべ先輩が、いきなり別方向から現れたのだ。

 そのまま捨神先輩に話しかけて、気さくな笑顔を見せていた。

 ところが、急に表情を変えた。なにかに驚いたっぽい。

 ポケットからスマホをとりだして、電話をかけ始めた。

 繋がらないみたいで、捨神先輩は、ほらね、という顔。

 それを見たあたしは、

「やっぱり事件だよ」

 と言った。

 さすがのもみじちゃんも、

「緊急事態みたいですね」

 と返した。

 あたしたちも加勢しないと。

 というわけで、出動ッ!

 先輩たちに接近して、声をかけた。

「箕辺せんぱ~い」

 同高おなこうに声をかける。自然。

 でも、箕辺先輩は振り向かなかった。

 スマホをさわり続けている。

「箕辺せんぱ~いッ!」

 あたしが声を大きくすると、先輩はびくりと肩をすくめた。

 あせったような表情で、ようやくこちらに顔をむけた。

「ふ、福留か、どうした?」

「先輩たち、どうしたんですか? なにかありました?」

「いや、なにもないぞ」

 箕辺先輩は、笑顔で答えた。

 頬が引きつってるんですが。

「なにか困ったことがあれば、手伝いますよ?」

「いや、ほんとになんでもない……捨神、ちょっと用事を思い出した。またあとでな」

 箕辺先輩はそう言って、駆け去ってしまった。

 ちょ、どういうことなの。

 あたしは捨神先輩に、

「なにかあったんですか?」

 とたずねた。

「んー……僕もよくわかんない」

 嘘でしょ、と思ったけど、捨神先輩は捨神先輩で、困惑しているようだった。

 箕辺先輩が立ち去ったのは、予定外だったみたい。

 念のため、

「なにか困ったことがあるなら、あたしたちも手伝いますよ?」

 と告げた。

「アハッ、だいじょうぶだよ」

 こっちの笑顔は、嘘くさい。

 嘘をつかれているタイミングが、よくわからなかった。

 しかも、捨神先輩は、

「ごめん、僕も用事があるから、また今度ね」

 と言って、立ち去ってしまった。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………。

 あたしが混乱していると、もみじちゃんは、

「徹底的に尾行しましょう」

 と言い出した。

 さっきまで逆の立場だったじゃん。

 とはいえ、揉めてる場合じゃない。

「どっちにする?」

 と尋ねた。

 その質問には、意味がなくなっていた。

 箕辺先輩は、もう見当たらない。

 捨神先輩にするしかない。

 あたしたちは、また尾行を始めた。

 捨神先輩の足取りからして、目的地があるっぽい。

 お店の前で立ち止まったりは、まったくしなかった。

 そのまま直行した先は──え、銀行?

 捨神先輩は日傘をたたむと、自動ドアをくぐった。

 あたしは、

「こ、これは、身代金目的の誘拐ッ!?」

 と青くなった。

「さすがにそれはないと思います」

「だとすれば……イジメでカツアゲ?」

「び、びみょうにいやらしい可能性を突いてきますね」

 捨神先輩は、わりとすぐに出てきた。

 お財布をポケットに入れているところからして、ATMを使ったっぽい。

 天堂てんどうの不良グループが、飛瀬先輩を脅迫していて、間接的に捨神先輩と箕辺先輩が、助けようとしている? ありうる。

 ここは助太刀だ。

 と思った瞬間、見知った顔があらわれた。

 来島くるしま先輩だった。

 来島先輩は、捨神先輩に声をかけた。

 ふたりは、なにやら話を始めた。

 捨神先輩の顔が、見る見るくもった。

 そのタイミングで来島先輩は、ゆびを3本立てた。

 なにかを渡すように催促する仕草をした。

 すると、捨神先輩は財布をとりだして、お札をさし出した。

 来島先輩、なにやってんのッ!?

「あわわわ……来島先輩、カワイイ顔して不良の元締めだっていう噂は、本当だったんだぁ……」

「た、たしかに、カタギとは思えないガンの飛ばし方をしてましたが、即断はよくないですよ」

 そ、その通り。

 ここは真相を解明しよう。

 とかなんとか思ってるうちに、先輩たちは別々の方向に去った。

 あたしたちは、捨神先輩と来島先輩の、どちらを尾行するか迷った。

 二手に分かれることに。あたしが来島先輩、もみじちゃんが捨神先輩。

 来島先輩は、大通りからそれて、すこし細い道に入った。

 トラックは通れるけど、二車線になってないくらいの道。

 こそこそと、電柱の影に隠れながら追跡──あれ?

 十字路で、見失ってしまった。

 さっきまで、前を歩いてたはずなんだけど。

「福留さん」

「うわぁッ!?」

 ふりかえると、来島先輩が立っていた。

 キャラクターフードの下から、じっとこちらを見ている。

 ど、どこに隠れてたの?

「福留さん、さっきから私のあと、つけてなかった?」

「つけてませんッ!」

「ふーん……」

 めっちゃ睨まれてる。

 命だけはご勘弁を。

「ところで、夏休みの練習会、どうなってる?」

「え……あ、はい、調整中です」

「今からじゃ間に合わないと思うよ?」

 わ、話題は変わったけど、なんだか詰められてる。

 あたしが言葉に困っていると、来島先輩は、

「カンナちゃんに、一回相談したほうが、よくない?」

 と言った。

 あ、ここはチャンス。

「と、飛瀬先輩、どこにいます?」

「……それ私に訊いても意味なくない?」

「もしかしたら知ってるかな……と」

「……缶詰かんづめにでもなってるんじゃない?」

 ひぃいいいいいいいいいいッ!

 ミンチにしたってことですかぁああああああああッ!

「あわわわ……」

 あたしはその場で失神した。

真相編に続く・・・

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