605手目 カツアゲ
てれってれん(謎のBGM)
というわけで、福留梓、赤井もみじ、捨神先輩を尾行中。
もみじちゃんの家を出て、こっそりとあとをついていく。
狭い路地だから、慎重に。
ブロック塀の角からのぞいていると、もみじちゃんが話しかけてきた。
「やっぱりマズくないですか?」
「飛瀬先輩が犯罪にまきこまれてたら、どうするの?」
「ストーキングのほうが、よっぽど犯罪ですよね。飛瀬先輩のMINEに連絡すればいいじゃないですか」
甘いッ! それはさっきやったんだよ。
でも、既読がつかなかった。
ますますあやしい。
捨神先輩の行動も、なんだか変。
1分おきに立ち止まって、スマホをさわっていた。
一度なんか、明らかに電話をしているっぽかった。
けど、相手が出なかったみたいで、くもった表情をしていた。
事件の匂いがする。
私は、
「飛瀬先輩が、行方不明になってるんじゃないかな」
と推理した。
もみじちゃんは、
「だったら、警察に連絡しましょう」
と言った。
「あ、いや、そこまでは……」
「あずささ~ん、本気で解決する気、あります?」
もみじちゃん、今日は圧が強いってば──あッ!
捨神先輩が動いた。
スマホを右手に、日傘を左手に持ったまま、ゆっくりと歩く。
気がそぞろになっているのか、ときどき傘が傾いた。
ここから大通りまでは、ほとんど隠れる場所がない。
振り向かないことを祈る。
……………………
……………………
…………………
………………
よし、路地を出て、大通りへ。
ひとの往来が激しいから、隠れやすくなった。
ウィンドウショッピングの客にまぎれる。
遊んでいるこどもたちにまぎれる。
部活帰りの女子高生にまぎれる。
あれこれ工夫しながら、尾行を続けた。
捨神先輩は、何度もスマホをさわっていた。
私はポストのうしろに隠れつつ、
「飛瀬先輩が行方不明なのは、確実っぽい」
とつぶやいた。
「ポストのうしろに隠れるのは、忍術学校だとNGなのですが……」
「ん、もみじちゃん、なんか言った?」
「いえ、なにも。こうなったら、何食わぬ顔で出て、事情を聴きませんか?」
「さっき家で会ったのに、変じゃない?」
あのあと出かけて、たまたま出くわした、という設定を提案された。
まあ、それもアリか。
あたしたちは、ポストのうしろから出て、捨神先輩に接近した。
そこへ横やりが入った。
箕辺先輩が、いきなり別方向から現れたのだ。
そのまま捨神先輩に話しかけて、気さくな笑顔を見せていた。
ところが、急に表情を変えた。なにかに驚いたっぽい。
ポケットからスマホをとりだして、電話をかけ始めた。
繋がらないみたいで、捨神先輩は、ほらね、という顔。
それを見たあたしは、
「やっぱり事件だよ」
と言った。
さすがのもみじちゃんも、
「緊急事態みたいですね」
と返した。
あたしたちも加勢しないと。
というわけで、出動ッ!
先輩たちに接近して、声をかけた。
「箕辺せんぱ~い」
同高に声をかける。自然。
でも、箕辺先輩は振り向かなかった。
スマホをさわり続けている。
「箕辺せんぱ~いッ!」
あたしが声を大きくすると、先輩はびくりと肩をすくめた。
あせったような表情で、ようやくこちらに顔をむけた。
「ふ、福留か、どうした?」
「先輩たち、どうしたんですか? なにかありました?」
「いや、なにもないぞ」
箕辺先輩は、笑顔で答えた。
頬が引きつってるんですが。
「なにか困ったことがあれば、手伝いますよ?」
「いや、ほんとになんでもない……捨神、ちょっと用事を思い出した。またあとでな」
箕辺先輩はそう言って、駆け去ってしまった。
ちょ、どういうことなの。
あたしは捨神先輩に、
「なにかあったんですか?」
とたずねた。
「んー……僕もよくわかんない」
嘘でしょ、と思ったけど、捨神先輩は捨神先輩で、困惑しているようだった。
箕辺先輩が立ち去ったのは、予定外だったみたい。
念のため、
「なにか困ったことがあるなら、あたしたちも手伝いますよ?」
と告げた。
「アハッ、だいじょうぶだよ」
こっちの笑顔は、嘘くさい。
嘘をつかれているタイミングが、よくわからなかった。
しかも、捨神先輩は、
「ごめん、僕も用事があるから、また今度ね」
と言って、立ち去ってしまった。
……………………
……………………
…………………
………………。
あたしが混乱していると、もみじちゃんは、
「徹底的に尾行しましょう」
と言い出した。
さっきまで逆の立場だったじゃん。
とはいえ、揉めてる場合じゃない。
「どっちにする?」
と尋ねた。
その質問には、意味がなくなっていた。
箕辺先輩は、もう見当たらない。
捨神先輩にするしかない。
あたしたちは、また尾行を始めた。
捨神先輩の足取りからして、目的地があるっぽい。
お店の前で立ち止まったりは、まったくしなかった。
そのまま直行した先は──え、銀行?
捨神先輩は日傘をたたむと、自動ドアをくぐった。
あたしは、
「こ、これは、身代金目的の誘拐ッ!?」
と青くなった。
「さすがにそれはないと思います」
「だとすれば……イジメでカツアゲ?」
「び、びみょうにいやらしい可能性を突いてきますね」
捨神先輩は、わりとすぐに出てきた。
お財布をポケットに入れているところからして、ATMを使ったっぽい。
天堂の不良グループが、飛瀬先輩を脅迫していて、間接的に捨神先輩と箕辺先輩が、助けようとしている? ありうる。
ここは助太刀だ。
と思った瞬間、見知った顔があらわれた。
来島先輩だった。
来島先輩は、捨神先輩に声をかけた。
ふたりは、なにやら話を始めた。
捨神先輩の顔が、見る見るくもった。
そのタイミングで来島先輩は、ゆびを3本立てた。
なにかを渡すように催促する仕草をした。
すると、捨神先輩は財布をとりだして、お札をさし出した。
来島先輩、なにやってんのッ!?
「あわわわ……来島先輩、カワイイ顔して不良の元締めだっていう噂は、本当だったんだぁ……」
「た、たしかに、カタギとは思えないガンの飛ばし方をしてましたが、即断はよくないですよ」
そ、その通り。
ここは真相を解明しよう。
とかなんとか思ってるうちに、先輩たちは別々の方向に去った。
あたしたちは、捨神先輩と来島先輩の、どちらを尾行するか迷った。
二手に分かれることに。あたしが来島先輩、もみじちゃんが捨神先輩。
来島先輩は、大通りからそれて、すこし細い道に入った。
トラックは通れるけど、二車線になってないくらいの道。
こそこそと、電柱の影に隠れながら追跡──あれ?
十字路で、見失ってしまった。
さっきまで、前を歩いてたはずなんだけど。
「福留さん」
「うわぁッ!?」
ふりかえると、来島先輩が立っていた。
キャラクターフードの下から、じっとこちらを見ている。
ど、どこに隠れてたの?
「福留さん、さっきから私のあと、つけてなかった?」
「つけてませんッ!」
「ふーん……」
めっちゃ睨まれてる。
命だけはご勘弁を。
「ところで、夏休みの練習会、どうなってる?」
「え……あ、はい、調整中です」
「今からじゃ間に合わないと思うよ?」
わ、話題は変わったけど、なんだか詰められてる。
あたしが言葉に困っていると、来島先輩は、
「カンナちゃんに、一回相談したほうが、よくない?」
と言った。
あ、ここはチャンス。
「と、飛瀬先輩、どこにいます?」
「……それ私に訊いても意味なくない?」
「もしかしたら知ってるかな……と」
「……缶詰にでもなってるんじゃない?」
ひぃいいいいいいいいいいッ!
ミンチにしたってことですかぁああああああああッ!
「あわわわ……」
あたしはその場で失神した。
真相編に続く・・・




