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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第49局 オープンキャンパス(2015年8月7日金曜)
614/683

602手目 下町

 神崎かんざきさんのアクロバット行動から、1時間後。

 私たちは正門の前にいた。

「じゃ、がんばってね~」

 森本もりもとさんは、わざわざここまで見送ってくれた。しかも、スポーツ施設を回ったあと、学食でいっしょに食事もしてくれた。とはいえ、森本さんがアルバイトをさぼりたかっただけなんじゃないかな、という気も。

 私と神崎さんは、カレーをチョイスした。森本さんは、もっと別のを食べたら、と言ってくれたけど、私は、カレーが好きなので、と言ってごまかした。八ツ橋やつはしと食べ比べをするのが、真の目的。結論からいうと、味は微妙に違いつつ、まあこんなものかな、というチープ感は、同じだった。学食ごとの特徴って、そんなにないのかしら。

 私たちは森本さんに手を振って、駅のほうへと向かった。

「すまぬ、最近、体がなまっていてな」

 そういう問題じゃないでしょ。

 森本さんがスルーしてくれたから、よかったようなものを。

「して、見学はこれで終わりか」

「そうね、ここからはフリー」

「ならば、観光しか手はあるまい」

 その通りッ!

 東京観光第2弾へ、出発ッ!


 ○

   。

    .


 というわけで、やってまいりました。浅草です。

「一時間もかかるとは、東京の地理は、げに複雑怪奇」

 ですね。こんなにかかるとは思わなかった。

 乗り継いで乗り継いで、ようやく到着。

 駅を出たときの第一印象は、これが下町かあ、だった。

 建物が古いわけじゃないんだけど、昔からあるんだろうなあ、って感じ。渋谷とか原宿みたいに、どこかの段階で人工的に発展させました、という雰囲気がなかった。

 とりま、浅草寺へ。

 有名な雷門を通って、お土産物屋さんを左右に見つつ、お寺へ到着。お寺と言っても、わりと派手。赤い壁に、すごくおっきな屋根がついていた。あと、線香の匂いがすごい。

 神崎さんは、黒い屋根を見上げながら、

「ひぃちゃんと来たときのままだな」

 と、感慨深げだった。

 こういうところで拝んでいる大谷おおたにさん、サマになってそう。

 私も列にならんで、お賽銭さいせんを放った。

 志望校に合格しますように、と。

 合格祈願のお守りも買って、そのあとはお菓子を物色。

 いろいろあるけど、全体的に和菓子が中心だった。

 どら焼き、きんつば、雷おこし、人形焼。

 私たちは人形焼を単品で買って、食べてみた。

 カステラに、あんこを入れて焼いたお菓子だ。

 名前には聞いていましたが、どれどれ。

 もぐもぐもぐ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………むッ、これはッ!

 神崎さんは、

「もみじまんじゅうのぱちものではないか」

 とつぶやいた。

 いや、神崎さん、それは東京のひとにケンカを売り過ぎ。

 落ち着いて。

 とはいえ、H島県民としては、第一感、


 もみじまんじゅうに似ている


 というのも事実。

 ただし……ちょっと違うのよね。

 生地の食感は、もみじまんじゅうのほうが薄い。

 あんこも、味わいがなんとなく異なっていた。こっちのほうが、濃いような。

 まあ、これはこれで美味しい。焼き立てだし。

 安くてお土産にちょうどよさそうだったけど、地元の銘菓と似てるから、保留。

 そのあと私たちは、スカイツリーへ移動した。

 浅草へ行ったらスカイツリーでしょ、やっぱり。

 下から見ると、めちゃくちゃ高かった。

 そして、入場チケットも高い。

 展望デッキの当日券は、2100円。

 展望回廊も入れると、3100円。

 神崎さんは、

「拙者がおぶって登ろうか」

 と提案した。

 遠慮しておきます。

 そもそも周囲から丸見えでしょ。

 今夜のニュースで流れてしまう。

 とはいえ、払って登るかというと、それも微妙。

 正確に言うと、このタイミングで登る必要はないかな、と。

 理由は、ふたつ。ひとつは、大学に合格したら、いつでも来れるから。これを神崎さんに伝えたら、そういうのは大抵行かずに終わる、と言われた。ちょっと正論。

 もうひとつの理由は、東京の夜景を見たいから。こっちのほうが重要。SNSにアップされている写真や動画だと、夜のほうがキレイかな、と思った。これはひとそれぞれだとしても、私はそうだった。

 というわけで、今回はパス。

 下から見上げて、土産話にする。

 そのまま東京ソラマチへ移動。

 スカイツリーのすぐ下にある、グルメとショッピングの通りだ。

 私と神崎さんは、雑貨屋さんを中心に回った。

 んー、このソールサンダル、かわいい。

「神崎さん、こういうの似合わない?」

「かかとが高い靴は履かぬ」

 いやいや、似合ってるかどうかですよ。

 他の棚も見てみる。

「このサングラス、UVカットに良さそう」

 鏡のまえで、かけてみる。

 ちょっと横に細い。もっと大きめのほうが、よさそう。

「神崎さんは、どう?」

 かけてもらう。

 神崎さんは、鏡で確認したあと、私のほうへ顔を向けた。

「どうだ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………殺し屋に見える。

 インチキハリウッド映画に出てくる、ジャパニーズニンジャガールみたい。

 神崎さんは、本物のニンジャガールだけど。多分。

裏見うらみ殿、どうだ」

「あ、うん、似合ってる」

 ウソじゃない。

 かっこよすぎるというか、なんというか。

 私たちはそのあと、スイーツを食べた。

 甘味処のお店で、きな粉餅とお汁粉を注文。

 店内は、いたって簡素。木製のテーブルと椅子が並んでいるだけで、和風のお店です、というアクセントはなかった。浅草でいくつか覗いてみたときと、違う。あのときは、壁に竹のデザインなんかがあって、インバウンド向けのアピールかな、というお店もちらほら。

 きな粉餅は、ザ・きな粉餅。まったく奇をてらっていない。

 お汁粉には、ソフトクリームが乗っていた。

 それぞれシェアして食べる。

 ふむふむ、なかなか美味しいですね。

 ひとつだけ気になる点があるとすれば、ソフトクリームの甘みだった。

 あんこを圧倒している気がする。

 神崎さんも、同じ意見だった。

 半分くらい食べて、私は、

「神崎さん、全部食べれる?」

 とたずねた。

「どうした、口に合わぬか」

「お夕飯が入らなくなりそう」

 なるほど、と、神崎さんは言った。

「ならば、ありがたくいただこう」

 神崎さんは、両方の残りを、ぺろりとたいらげてしまった。

 ありがとうございます。

 お店を出て、散策。

 別の雑貨屋さんに寄ったり、お洋服を見たりしながら、押上駅へ到着。

 カラフルな改札のまえで、私は交通系ICカードを出した。

「神崎さんは、どうやって帰るの?」

「甘味を食べたゆえ、すこし運動したい。走って帰る」

「へ?」

「では、裏見殿、今日も楽しかったぞ。さらば」

 神崎さんは、ハッと声をあげて、その場から掻き消えた。

 近くにいた家族連れの女の子が、もろに目撃。

 大声で、

「爸爸、日本真的存在忍者啦!」

 と叫んだ。

 なに言ってるのかわかんないけど、裏見香子、退散。

 押上から浅草線で三田へ、三田から私鉄に乗り換えて、武蔵小山へ。

 伯母さんの家に帰ってみると、英断だったことが発覚。

 夜はお寿司だったのだ。危ない危ない。

 スーパーじゃなくて、お寿司屋さんで買って来たものらしかった。十二貫入り。

 私はシャワーを浴びて、おじさんの帰りを待ってから、食事。

 んー、マグロが力入ってる。

 お茶も美味しい。

 私が舌鼓を打っていると、伯母さんは、

「香子ちゃん、どの大学にするか、決まった?」

 とたずねてきた。

 私はニガ笑いしながら、

「いえ、まだ迷ってます。それに、合格しないと入れないので」

 と答えた。

「それもそうか……ねえ、あなた、なにかアドバイスはないの?」

 イクラを食べようとしていたおじさんは、手をとめた。

「私が通ってたときと、時代が違うからなあ」

 はぐらかそうとしているわけじゃ、ないみたい。

 というのも、やけにマジメに考えている表情だったからだ。

 おじさんは、

「とりあえず、八ツ橋も都ノみやこのも、西のほうにあるからね。住むんだったら、新宿より西側になる。八ツ橋なら、三鷹、吉祥寺あたりまで、都ノだったら、調布あたりまで」

 と付け加えた。

 私は、東京の地理がまだ頭に入っていなかったから、

「それは、どういう意味ですか?」

 とたずねた。

「かよいやすい範囲だよ。あとで調べてみるといい」

 食事を終えたあと、私は歯をみがいて、おじさんの言う通りに調べてみた。

 なるほどな、という結論に。

 こういうエリア的な考えは、地方民だと難しい。

 もうちょっと分析しないとダメかなあ。

 そんなことを考えながら、私は深い眠りについていた。

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