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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第48局 懐かしのメンバー集まれ!(2015年8月8日土曜)
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593手目 驚きの招待状

※ここからは、冴島さえじまさん視点です。

 7月のとある夕暮れどき。

 西日に背中を押されながら、オレは家路についていた。

 東京の日没は、H島よりも早い。

 オレの足もとには、長い影ができていた。

 東京で大学生活を始めてから、4ヶ月弱。まだ慣れない。

 高校と変わらない点があるとすれば、応援団と将棋部の、二足のわらじ。

 応援団は、その延長みたいな雰囲気だ。将棋部は、けっこうちがった。

 自発性があるというか、好き勝手やってるというか。

 まあ、市立いちりつの将棋部も、好き勝手やってたしなあ。

 説明がむずかしい。

 それに、晩稲田おくてだじゃ、レギュラーは無理そうだ。

 中野のアパートへ、ぶらぶら帰っていく。

 都会だねえ。

 ファッションセンスも、なんかちがうし──と、ついたついた。

 5階建ての、ちょっと築年数高めなアパート。

 オートロックでもない。

 入り口から見て左側に、郵便受け。

 今日もチラシが大量だな。

 なになに、ピザ、整体、地域広報。

 ん? なんだ、この封筒?

 よくある茶色いやつじゃなくて、白い封筒だった。

 差出人を見る──お、木原きはらじゃーん。

 MINEで連絡すりゃいいのにな。金の督促か?

 高3のとき、千円借りてそのままだった気がする。

 女子大生は金がないから、まだ返せないぜ。


 まどかちゃん


 やっほー、ゲンキしてる?

 私はゲンキだよ。東京においしいものある? こんど買ってきてね。

 ところで、結婚することになったから、披露宴の招待状を送るよ!

 ゼッタイ来てね~♪


 新郎 菅原道真

 新婦 木原数江


 ○

   。

    .


 真夏の駒桜こまざくら市は、葉桜がキレイだ。

 その枝の下を、オレはちょっと気取ったかっこうで、歩いていた。

 ドレスにしようかなあ、とも思ったが、やっぱ似合わないからな。

 男モノの礼服にした。レンタルスーツ。

 ポケットに手をつっこんで、炎天下を歩く。あちぃ。

 こういうとき、タクシーに乗れるといいんだが……おっと。

 同窓を発見。うしろ姿に見覚えがある。オレと似たようなスーツを着ていた。

「おーい、スネ夫」

 声をかけると、前髪に特徴のある男がふりむいた。

 幸田こうだだ。

 あいかわらず、キザそうな顔してんなあ。

 幸田は前髪を持ち上げながら、

「なんだ、冴島さんか」

 と返した。

「こんにちは、くらい言えよ~」

「きみが言ってないだろ」

「チッ、あいかわらずだなあ」

「きみもね」

 とりあえず、並んで歩く。

 オレは、

「大学、どう?」

 とたずねた。

「1年生だから、まだ特に、って感じ。冴島さんは?」

「部活で死ぬ」

「辞めたらいいんじゃないの?」

 おまえなあ、そういうことを言うかね。

「スネ夫も部活忙しいっしょ」

「え、なんで?」

「将棋部は大会あるじゃん。それとも、関西は年イチ?」

「僕は将棋部じゃないよ」

「……マ? 帰宅部?」

「帰宅部って言い方は、大学生にはないと思うけど……電子工作部」

 おーい、なんだその、趣味と実益を兼ねたようなチョイスは。

 ちょっとショックなんだが。

 将棋はもうやめたの?、とオレは訊いた。

 スネ夫は、ややあきれぎみに、

「やってるよ、趣味で。むしろ、冴島さんはよく将棋部に入ったね」

 と返した。

「そりゃ高校のとき、将棋部だったからな」

「晩稲田だと、レギュラーきつくない?」

「ベンチにも意味があるんだよ。わかるかあ?」

 応援団の活動で、いろんな試合を観てきた。

 ベンチはやっぱり大事。

 応援の密度がちがうし、なにかあったときのバックアップ体制もちがう。

 精神論じゃないぜ。組織論ってやつだ。

 くどくど説明していると、スネ夫は、

「それにしても、菅原すがわらくんと木原くんが結婚とはね。冴島さんは、知ってた?」

 と、話題を変えてきた。

「知ってたって、なにを?」

「高校のときから付き合ってた、って」

「いや……だけど、カレシがいるとは、言ってたんだよなあ*」

「そうなの?」

 そーなの。あいてがみっちーとは、思わなかったが。

 そのあとオレたちは、適当な話をしながら、会場へ向かった。

 地元でそこそこ有名な、レストランに到着。

 レストランウェディングだね。

 オレはネクタイをなおした。

「よし」

 ドアを開ける。

 鈴が鳴った。正装した店員さんが出てくる。

「いらっしゃいませ」

 招待状を見せる。

 そのまま奥へ案内された。

 店内は洋風で、明るいブラウンの木造りだった。

 天井からは、小さなシャンデリア。壁には鏡がいくつかみえる。

 棚には、高級そうなワイン。銘柄はわかんねえ。

 それを通り過ぎて、ドアを開けると、広めの個室に出た。

 白いテーブルクロスのかけられた、長方形のテーブル。

 花が飾ってあった。披露宴用だろうな。ずいぶん凝ってる。

 壁には、なんかの風景画。これは常設か。

 先に到着しているメンバーもいた。

 おとなしい赤のドレスを着た女と、メガネをかけたスーツの男。

 女のほうは甘田かんだ、男のほうは千駄せんだ

 甘田はこっちを見るや否や、ニヤケ顔で、

「まどかちゃんじゃーん!」

 と言って、くねくねしながらすり寄ってきた。

「おひさー、ゲンキしてた?」

「ああ、ゲンキだぞ。そっちは?」

「ぼちぼち」

 なんだよ、ぼちぼちって。

「甘田、O阪化したかあ?」

「いや、O阪の大学じゃないんだけど……」

 ん? そうだったか?

 まあいいや。

 オレは、

「今日は、だれが呼ばれてるんだ?」

 と訊いた。甘田は、知らないと答えた。

 すると、千駄が、

「同学年の将棋関係者だけらしい」

 と教えてくれた。

 マジ? 限定しすぎじゃね?

 大川おおかわ先輩も裏見うらみも呼んでないってこと?

 つっても、この部屋じゃあ、10人くらいしか入んないもんな。

「確定情報?」

「菅原くんから、そう聞いた」

 確定情報っぽい。

 オレたちはそのあと、立ったまま雑談をした。

 大学生活のこと、最近見たドラマ、SNSのネタ。

 将棋部の後輩が、なにをしているのか。

 4人とも、今回の結婚式には、驚いていた。

 そして、将棋を続けているのは、4人の中でオレだけだった。

 甘田はお笑い研究会、千駄はアーチェリー部に所属しているらしい。

 なんかショックだなあ。

 しばらくして、ほかのメンバーも到着。

 傍目はため三宅みやけ姫野ひめのの順。

 傍目は、薄いグリーンのドレス、三宅はリクルートスーツ。

 姫野は、ばっちり高級そうなブルーのドレスだった。

 甘田と傍目のドレスは、レンタルっぽいんだよね。姫野だけ浮いてる。

 姫野は開口一番、

「遅くなり、失礼いたしました」

 と言った。

 オレは、

「よお、姫野、ゲンキしてたか?」

 とたずねた。

「はい、冴島さんも、お元気そうでなによりです」

「姫野は将棋部か?」

「はい……唐突なご質問ですね」

「ほかのやつらは、将棋部じゃないらしいぜ」

 姫野は、知っている、と答えた。

「ストーカーかよ」

「強豪大の将棋部のメンバーは、おおよそ押さえると思いますが……」

 んなわけないだろ。

 千駄は腕組みをして、

「このようすだと、関西の次期会長は、姫野くんかな」

 と笑った。

「それは上層部が決めることです」

「たしかに……さて、新郎新婦のご入場は、いつなんだろう?」

 千駄の問いかけに、幸田は、

「そもそも、これって披露宴なの? 会食に見えるけど?」

 と訊き返した。

「会食も立派な披露宴だ。結婚式、とは言ってないからね」

 そのときだった。

 入り口のほうから、

「会食みたいな披露宴で、悪かったな」

 という声が聞こえた。

 ふりかえると、背の低いヤンキー男が立っていた。

 菅原すがわらだ。モーニングコートを着ていた。

 オレたちは、順番にあいさつした。

 幸田は、

「べつに会食を非難したわけじゃないからね」

 と釈明。口はわざわいのもとだぜ。

 ひと通りあいさつが終わったあと、菅原は、

「よく来たな。遠かっただろ」

 と言った。

 千駄は、

「おめでたい席に呼んでもらえて、うれしいよ。ところで、木原さんは?」

 とたずねた。

「もうすぐ来る……と、来た」

 ドアの向こうに、かわいいピンクのドレスを着た、木原があらわれた。

「おっは~、みんなひさしぶり~」

 これまた順番にあいさつする。

 オレが最後。

「今回は、おめでとさん」

「まどかちゃんも、ありがとね。今日は、あたしたちの3回目の披露宴だけど、一番楽しみにしてたよ」

 ??? 3回目?

 オレは、どういう意味だ、とたずねた。

「呼びやすいひとから、順番にパーティーしてるの」

 どうやら、披露宴というよりも、結婚おめでとうパーティーのようだ。

 木原の地元の友だちが1回目、みっちーの地元の友だちが2回目、で、今回は県外に出た友だち。どれも少人数で、アットホームな雰囲気。

 そういうの、いいねえ。

 オレが関心していると、木原はお腹をさすって、

「赤ちゃんのために、お金を貯めないといけないからね」

 と言った。

「……おめでた?」

「そうだよ」

「何ヶ月?」

「5ヶ月目」

 幸田は、くしで前髪をそろえながら、

「卒業で張り切りすぎたみたいだね、菅原くん」

 と言った。

 菅原は顔を赤くした。

「いいからさっさと席につけッ! ……って、駒込こまごめが来てないじゃないかッ!」

*96手目 思い悩む少女

https://ncode.syosetu.com/n8275bv/106


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

3年3ヶ月に渡って続いた日日杯編は、前回で終わりです。

3位決定戦の結果は、みなさんのご想像にお任せします。

ここからは日常編にもどります。しばらく話題が転々としたあと、将棋大運動会編か、囃子原くん主催の特大イベント編に入る予定です。このふたつは、ふたたび長期連載になるかと思います。前回の大運動会は、駒桜市のメンバーが中心でしたが、今回はこれまでの登場人物全員から、27名を選抜します。8チーム+お邪魔虫チーム(前回の桐野、吉備、神崎トリオのポジション)です。

それでは、香子ちゃんの1コ上世代のお話を、お楽しみください。

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