48手目 高校生男子の部A3回戦 奥村vs根津(2)
これは、まいったべ。考えがまとまらないべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
あちゃー、受けちまったべ。このへんが、おらの弱いところだべな。
けんど、人間、自分の性格に逆らってもしょうがないべ。ここから盛り返すべ。
「4二飛」
「7五歩だべ」
4六歩(根津っちらしい踏み込みだべ)、7四歩、8二角、3七金。
次で歩を取れれば優勢だべが……。
「5五歩」
まあ取らせてくんねえべな。
6七銀、4五銀。
かなり押さえこまれたべ。でも、根津っちは攻め駒がないから、五分だべ。
そう思わないと、やってらんないべな。
「4八歩」
「鉄板ですか……」
ピッ。ここで根津っちも秒読みに入ったべ。
「……手がない」
ほんれみろ。やりすぎだったべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
よっしゃ。ひるんだべ。反撃開始だべ。
「6六角だべ!」
この一手で、飛車先がとおるべ。
「しまった。こんなことなら、角を切っておくんだった」
それはそれで、全然違う展開になってそうだべ。たらればだべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5六歩ッ!」
手がなくて困ったような歩突きだべ。
これは取って5二飛がめんどいから、すぐには取らないべ。
7三歩成、同角、5六銀、同銀、同歩、5七歩。
5六同銀のところは、同歩だったべか? いまいち分かんなかったべ。
あと、よくよく考えたら、7三同角のところで5七歩成が、けっこうキツかった気がするべな……まあ、指しちまったもんは、しょうがないし、感想戦で検討するべ。
「持ち駒が腐るまえに打つべ。5三銀」
「また露骨ですね……」
露骨のなにが悪いべ。
受けらんなきゃ、それまでよ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
4五飛と浮いたべな。
ここでちょっと考えたいんだべが、時間が……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7三飛成だべッ!」
根津っちが悲鳴をあげたべ。
「ええッ!? 切るんですかッ!?」
使えない角と飛車の交換だけんども、しかたないべ。
同桂、5四角。この角の位置がいいと思うんだべが。
「引く……いや、引いたら角を切られる……」
んだんだ。4一飛は、3二角成、同金、5二金だべ。
おらの穴熊は手つかずだから、どうとでもなるべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4七歩成ッ!」
ん? その歩成、意味あるべか? ……同歩だべ。
「6五飛ッ!」
……あ、やっちまったべ。そのスライドがあったべか。
これは飛車角交換に応じるしかないべ。
同角、同桂、7一飛、6九飛。攻め合いなっちまっただ。
「根津っちのほうが、寄りやすいべ! 2二角成だべ!」
同金上、3一銀。これでどうだべ。
根津っち、受けがぺらぺらで困ってるんじゃないべか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「は、8二角」
罠にはまったべ。
2二銀成、同金、7八飛成。
5九飛成は4九金打で、龍の身動きがとれないべ。
「ご、5九飛成、4九金打、7七桂成、同桂、9九龍?」
あ……そんな手があるべか。読んでなかったべ。
いんや、でも、7九歩で止まって……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3九飛成ッ!」
取ってくれたべ。これでひと安心……じゃないべ!
これ、絡みつかれてるべ!
「そ、それは勝負をあせってるべ。ど、同銀だべ」
「奥村先輩、声震えてますよ……4九金」
5二飛、3七角成、同桂、6六角。
攻防に打たれちまったべ。次に5八歩成で終わりだべ。
「けんど、これは消せるべ! 5五角!」
「……あ、これが詰めろか」
根津っちも見落としだべな。おたがい、しょっぱい将棋だべ。
同角、同歩。
……………………
……………………
…………………
………………
おら、気づいちまっただ……根津っちの王様は、この時点ですでに詰めろだべ!
3九金なら、2二飛成、同玉に3一角と打って、同玉(3三金は4四金、2四玉、2五金までだべ)、7一龍、2二玉、3二金(ずばり妙手だべ)、同玉、6二龍以下だべ。
根津っち、気づかんでくんろ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
気づかれたべ。
「これは受けになってるようにみえないべ! 4四角だべ!」
3三銀、同角成、同桂、7一龍。鬼より怖い2枚飛車だべ。
2一金打……あんれ? こっからどうするべ?
おらの王様は、詰めろにはなってないべが……安全策で2八銀だべか?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2八銀だべ!」
「あ、逃げましたね。1五角です」
これも厳しいべ。2九金、3七角成(!)、同銀、2五桂打、2八銀、4八金。
これは、何手スキだべか? 詰めろじゃないこたぁ、確かだべが……。
「1五角、さっきのお返しだべ」
しかも金当たりだべ。
「んー、5八歩成」
根津っちの王様は、大丈夫だべか? なんか寄りそうな気がするべ。
まず、ああして、こうして、ほんで……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「最後くらいスッパリと決めるべ! 2二飛成!」
さあ、寄るかどうか、続きを読むべ。
……………………
……………………
…………………
………………
やんべ、微妙に難しいべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同銀ッ!」
3二銀、3一角、2一銀成、同玉。
ここで、4二銀成としたいんだべが、3二飛の強気な受けがあるべ。
まあ、それでも勝ってるとは思うけんども……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4二金と打つべ」
こっちのほうが手堅いべ。
「あう、これが詰めろか」
放置なら、3一金、同銀、同龍、同玉、4二角、2一玉、3二金、同玉、3三角行成、2一玉、2二銀までだべ。簡単な詰みだべな。
「……3二飛」
これが、よく分かんないべ。詰みはないべか?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「ここでムチャしてもしょうがないべ! 4三金打だべ!」
完璧な寄せだべ。でも、必至じゃないべ。
「お、思い出王手もできない……負けました」
大自然の勝利だべ。
「ありがとうございましただべ」
何手指したんだべ? チェスクロで確認するべ……123手。ひふみんだべ。
根津っちは、バンダナの位置をなおすと、ハァーっとため息をついたべ。
「いやあ、最後、酷かったですね」
「こっちに飛車打ってれば、一手差だべ?」
3二飛と打たずに7九飛なら、詰めろでかたちづくりになってたべ。
「どこらへんが悪かったですか?」
「分かんねーところが多過ぎるべ。7三歩成に5七歩成は、あったべか?」
「ああ、そこ迷いました」
局面をもどすべ。
「8二と、6七とは、さすがに先手がマズいべ」
「ええ、5七同角、7三角ですよね。次に、本譜の5六銀ができません」
むずかしい手を指してくるべ。やっぱり将棋は紙一重だべ。
5二飛と寄られてもめんどうだし、7三角に5六歩とするべ。
「それは5五歩と打ちたくなりますね」
同歩、5六歩、6六角。
「あれ……意外と止まる……」
「5二飛と寄るべか? こっちは指す手がないべ」
「9六歩とか手待ちして、5五角、同角、同飛ですか?」
「これは先手が厳しいべ」
とは言ってみたものの、そうでもないべか?
「7一飛成、5七歩成、8一龍、6七と、9一龍がみえますね」
「待つべ。7一飛成と走らずに、6六銀もないべか?」
「6六銀……あ、こんな飛車当たりがあるんですか」
飛車引いて、5五歩、5七歩成、同銀、5五飛、6六角だべ。止まってるべ。
「いやあ、5七歩成でもダメなんですか……根本的に駒組み間違えましたね」
「どう指しても一局だべ。指し継いだら、根津っちが勝つかもしれないべ」
ところで、チームはどうなってるべか?
「ちょっくら、ほかを観てきてもいいべか?」
「あ、そうですね、応援に行きましょう」
亘っちのところは……終わってるべ。
まだやってるのは、ゲンキっちのところだべな。
おらは3番席に移動して、観戦中の亘っちに話しかけたべ。
「どうなってるべか?」
「すみません、負けちゃいました」
亘っち負けか。潔っちには勝って欲しかったんだべが、しょうがないべ。
ゲンキっちの応援をするべ。
【先手:里見ゲンキ 後手:古谷兎丸】
ん? これは、どっちが勝ってるべ?
兎丸っちは穴熊だけんども、ゲンキっちもすぐには寄らんような……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同飛」
銀を取ったべ。同龍は4二金打だべが──
「同龍ッ!」
ゲンキっち、ちゃんと29秒まで考えるべ。小学生のくせが抜けてないべ。
4二金打、4三龍、同金、3二金は、ほんとにからみつけてるべか?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4六香」
え? 受けないべか?
「これはゲンキっちにチャンスがきたべ」
「先手玉、大丈夫ですかね? 香成りあるんですが……」
亘っちは、なにを心配してるべか?
さすがにこれは詰ま……ん、待つべ。ああして、こうして……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「に、2二龍ッ!」
切っちゃったべ。っていうか、これ先手は詰めろになってるべ。3九角、同玉、4九香成から、2八玉、3九銀、1八玉、2八金までだべ。詰ますか受けないといけないべ。でも、うまい手があるべか?
7二飛、4二飛。
ここで、ゲンキっちは頭を掻きむしったべ。
「せ、攻めも受けもない!」
ああ……ジリ貧だべ……ゲンキっち、がんばるべ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同飛成ッ!」
「同金」
「3九金ッ!」
4九香成、同銀、同金、同金、同馬、3八金。
4九同銀のところを6一飛でも、詰めろになってないからおなじことだべ。
《これより、5分切れ負けになります。スタッフの指示にしたがってください》
スタッフが、素早くチェスクロを交換したべ。
ゲンキっちがボタンを叩いて再開。
4:59 4:58 4:57
「5分あれば十分かな。3八同馬」
どうみても詰んでるべ。
同玉、6八飛、4八香、2八金。
送りの手筋だべな。決着がついたべ。
「うぅ……負けました」
「ありがとうございました」
ゲンキっち、がっくりだべ。よくがんばったべ。
「ハァ……なんか、おれっちがずっと悪かったね」
「そうかな? 途中でかなり盛り返された気がしたけど」
感想戦が始まったべ。
と言っても、ほとんど時間ないべな。あと15分くらいで第4ラウンドだべ。
5分前には組み合わせ出るし、ちょいと休憩したいんだべが……ん?
「亘っち、あそこにあるのは、なんだべ?」
「あそこって、どこですか?」
「入り口のところだべ。メイドさんがいるべ」
これが噂にきく、メイド喫茶っちゅーやつだべか?
「ちょいと声かけてみるべ」
「あ、先輩、あんまりへんなことしないほうが……」
近づいてみると、なかなかめんこいお姉さんだべ。
髪型が変わってるべな。猫耳みたいだべ。
「そこのおふたりさん、駒桜市特製、駒桜スイーツは、いかがですか?」
ああ、お菓子の売り子さんだべ。
肩から掛けてる箱のなかに、おいしそうなもんがたくさんはいってるべ。
「この丸っこいケースは、なんだべか?」
「駒桜プリンですよ。イチゴで色をつけてあります」
「こっちは?」
「駒桜ロールケーキです。これもイチゴクリームで、桜色を真似ています」
駒桜市っちゅーのは、桜がどえれぇキレイらしいべ。一度、行ってみたいべ。
ちなみに、三好も山桜がキレイだから、ぜひ観光に来てほしいべ。
「おいくら円だべか?」
「プリンは250円、ロールケーキは、ひと切れ300円です」
「やっぱ、都会のスイーツは、いい値段がするべな」
「いえいえ、本物の高級プリンは、1個500〜600円しますよ」
そりゃすごいべ。田舎のばーちゃんが作ってくれる大福は、タダだべ。
「この看板に書いてある八一ってのは、なんだべ?」
将棋の升目とおんなじだべ。
「これは八一です。駒桜にある喫茶店ですので、ぜひお立ちよりください」
なるほんなあ、こいつは宣伝になるべ。
「今日は観光も兼ねてるべ。プリンを1個くんろ。スプーン3本でも、ええだか?」
「はいはい、どうぞどうぞ」
ちょいと貧乏っちいけんど、みんなで分けるべ。
さあ、脳に糖分入れて、第4ラウンド、はりきっていくべ。
……と、うしろにお客さんがきたべ。わきによけ……ああッ!? こいつは!
場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生男子の部Aクラス 3回戦
先手:奥村 邦広
後手:根津 迅八
戦型:先手四間飛車穴熊vs後手居飛車穴熊
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲6八飛 △6二銀
▲4八玉 △4二玉 ▲3八玉 △3二玉 ▲2八玉 △5四歩
▲7八銀 △8五歩 ▲7七角 △5二金右 ▲6七銀 △5三銀
▲4六歩 △3三角 ▲5八金左 △2二玉 ▲3六歩 △1二香
▲5六銀 △4四歩 ▲1八香 △1一玉 ▲1九玉 △2二銀
▲2八銀 △3一金 ▲3九金 △4三金 ▲9八香 △7四歩
▲7八飛 △5一角 ▲4五歩 △同 歩 ▲同 銀 △7三角
▲5六銀 △4四銀 ▲6五歩 △8六歩 ▲同 歩 △3三金
▲4八金寄 △4二飛 ▲7五歩 △4六歩 ▲7四歩 △8二角
▲3七金 △5五歩 ▲6七銀 △4五銀 ▲4八歩 △3二金引
▲6六角 △5六歩 ▲7三歩成 △同 角 ▲5六銀 △同 銀
▲同 歩 △5七歩 ▲5三銀 △4五飛 ▲7三飛成 △同 桂
▲5四角 △4七歩成 ▲同 歩 △6五飛 ▲同 角 △同 桂
▲7一飛 △6九飛 ▲2二角成 △同金上 ▲3一銀 △8二角
▲2二銀成 △同 金 ▲7八飛成 △3九飛成 ▲同 銀 △4九金
▲5二飛 △3七角成 ▲同 桂 △6六角 ▲5五角 △同 角
▲同 歩 △3一銀 ▲4四角 △3三銀 ▲同角成 △同 桂
▲7一龍 △2一金打 ▲2八銀 △1五角 ▲2九金 △3七角成
▲同 銀 △2五桂打 ▲2八銀 △4八金 ▲1五角 △5八歩成
▲2二飛成 △同 銀 ▲3二銀 △3一角 ▲2一銀成 △同 玉
▲4二金 △3二飛 ▲4三金打
まで123手で奥村の勝ち




