579手目 準決勝の総括
※ここからは、内木さん視点です。
さあ、いよいよクライマックスへ。
と、その前に、準決勝の総括、しちゃいましょう。
今回は将棋仮面が抜けて、私と伊吹さんで担当。
まずは、石鉄vs吉良から。
大盤の前に立って、あいさつ。
「内木レモンです。決勝開始まで、少々お時間があります。準決勝の振り返りを担当させていただきますので、よろしくお願い致します」
私は一礼。
一方、伊吹さんは、手を大きく振って、
「みなさん、よろしくお願いしまーす」
とアピール。
私は大盤のほうへ向きなおった。
局面は、すでにできあがっている。
プレーオフの総括と同じで、ポイントだけ押さえていく形式だ。
「それでは、石鉄選手と吉良選手の対局からです。大盤解説で盛り上がった局面は、省かせていただきますので、ご了承ください」
休憩時間は短いから、さくさくいく。
【石鉄vs吉良 135手目】
伊吹さんは、
「びっくり、この手が疑問だったみたいです」
と切り出した。
私は、
「パッと見で悪手、というわけではなさそうですが」
と返した。
「そうなんですよねえ。でも正解は、7一角と一回打って、8二金に8七銀でした。石鉄くんにインタビューしたところ、7一角は見えていたそうですが、8七銀は盲点になっていたようです。思い浮かばなかった、と言ってました」
ここまではシナリオ通り。
アドリブへ移行する。
とはいえ、ふたりで好き勝手に解説すると、めちゃくちゃになる。
だから、片方が聞き手、もう片方が解説役を引き受けることに。
もちろん、ずっと聞き手だと面白くない。
交互にやることになった。
今回は私が聞き手。じゃんけんで負けたから。
私は、
「8七銀と打つのは、なぜですか? 8八銀成で、引っ張り出されますよね?」
と質問した。
「以下、7七金、同桂、8九金、9七玉で、手詰まりになるからでーす」
【参考図】
伊吹さんは、7七の地点をゆびさして、
「本譜の7七銀は、8八銀成、同玉に、6七金と絡む手が生じちゃいました。7八の地点が空いているから、受けになっていないんです」
と説明した。
「なるほどぉ、そこで7一角としても遅かった、というわけですか」
「ですです」
金の離れ打ちを見つけた吉良先輩がお見事、という印象。
お次は、鬼首vs大谷。
【鬼首vs大谷 117手目】
今度は私が解説役。
「この対局は、評価値の変動が派手な一戦でしたね」
伊吹さんは、
「ですねー、じつはこの時点だと、大谷さん優勢です」
と、かぶせてきた。
こら、解説は私。
まあ、あんまり揉めてもしょうがないから、スルーしておく。
90手目あたりから、ずーっと大谷先輩が有利を拡大していた。
大盤解説のほうは、そういう雰囲気じゃなかったと記憶している。
私は、7五に桂馬を置いた。
「これが疑問手で、一気に形勢が逆転しました」
「この手はさっきの7七銀とは違って、大盤でも不評だったみたいですぅ」
打ちたくなる気持ちはわかる。
角筋を止めていて、6七の金に利いている。
いかにも攻防。
だけど、8六の角は、寄せと関係がなかった。
大谷先輩も、時間が残っていれば気づいたと思う。
伊吹さんは、
「ちなみに、正解はなんだったんでしょうか?」
と訊いてきた。
「6九銀とひっかけてもよかったですし、5九金とべったり貼り付けてもよかったです。最善は、おそらく6五桂と打つ手です」
【参考図】
伊吹さんは、
「詰めろですねえ」
と、ひとことでわかりやすく説明。
「はい、6三歩成、同玉、6四銀、5二玉、6九歩と打ち直すことになりますが、4七銀と絡んでいって、後手勝勢です。5八に紐づいていないのが、大きいんですね」
それでは、早乙女vs萩尾へ。
【早乙女vs萩尾 103手目】
伊吹さんは腕組みをした。
「うーん、難しい対局でしたね、どうまとめましょうか」
私が解説役でも、そうなる。
この対局は、ほんとうに難しかった。
とりあえず、会話の糸口をつなげておく。
「早乙女選手の早投げが印象的でした」
「6六桂の意味については、大盤で散々やったので、今回は省略しましょうか。本局のポイントは、評価値が互角の段階で、先手の指す手が難しくなってしまったことですね」
「と言いますと?」
伊吹さんは、大盤をゆびさした。
「この7七桂の時点なら、評価値はほぼ互角です。が、AIの推奨手を指していくと、だんだん後手に振れてしまいます。一例として、8五桂、8六銀打、9五香に、8二歩も考えられました」
【参考図】
伊吹さんは、すらすらと並べながら、
「これも、7一飛、7二歩、9一飛と位置調整したあと、9五香、同飛、9六歩、7七桂成、同銀、8六桂と進めていって、後手がよくなっていきます」
と締めくくった。
「いわゆる水平線効果というやつでしょうか?」
「そうとも言えそうです」
「では、本譜の進行そのものは、最善だった、と?」
「最善の定義次第ですね~」
その逃げ方はズルいでしょ。
最後に、捨神vs囃子原。
【捨神vs囃子原 112手目】
私が再度解説役。
「本局は、終盤が大盛り上がりでしたね」
「会場では、先手負けっぽい空気でした。まさか詰まないとは~という感じです」
「そのあたりは、葦原選手たちが解説してくださいました。そこで触れられなかったポイントだけ、ご紹介します。本譜は同角でしたが、いろいろありそうな局面です」
「レモンちゃんなら、どうしますか~?」
これも半分茶番なんだけど、ちょっと悩む仕草。
「そうですね……飛車先が重くなったので、2六か4六へ、角を引きたいです」
「ふむふむ」
ちなみに、この手は対局中に見えてましたからね? ほんとですよ?
4六角以下は、3四香、7五角と、金をイジメる進行。
2六角の場合は、2四香で角に当てる順が生じる。でも痛くない。
どちらも先手持ちになる。
つまり、捨神先輩のミスは、ここで同角と強く取ってしまったことだ。
私は、もうひとつ、囃子原先輩のミスへと移った。
【捨神vs囃子原 149手目】
私は持ち駒の銀を手にした。
3七にそえる。
「囃子原選手は、ここで単に3七銀と打ち込んだほうが、よかったみたいです。局後のインタビューでも、そうおっしゃっていました」
「本譜は逆転してたんですかね?」
「逆転はしていません。ただ、勝ち筋が細くなってしまいました。3七銀と突っ込んで、1八玉、3八馬、同金、1五歩と端攻めに持ち込んだほうが、先手は苦しかったです」
【参考図】
伊吹さんは、
「2六銀と受けたら、1七銀で困りますね」
と補足した。
同玉は1六歩で論外として、同銀も1六歩で厳しい。
以下、同銀、1七歩、同玉、1六香、同玉と吊り出される。
私はマイクを持ちなおした。
「それでは、全体的な感想へ移りたいと思います。伊吹さん、準決勝をご覧になられて、いかがでしたか?」
「いやあ、さすがにレベルが高かったですね。長手数の詰みもありましたし、奇手も出ましたし、奇跡的な不詰みもありました。4つの大盤を回るのは大変でしたが、解説の選手のみなさんの読みも、すごかったです」
けっこういいコメント。
伊吹さんは、私のほうにも感想を求めた。
「大盤解説を担当してくださった選手のかたがたに、あらためて感謝いたします。私たちの質問にも、丁寧に答えていただきました。また、観客席のみなさまにも、この場を借りて御礼申し上げます」
かるく会釈をした。
会場から拍手が起こる。
最後は、決勝へ向けての意気込みを。
「伊吹さん、決勝についてなにかコメントはありますか?」
「それって勝敗予想ですか?」
「あ、勝敗予想は、ちょっと控えていただけると……」
「ぶっちゃけ、ここまできたら体力勝負なんじゃないですかねえ。休憩時間も、そんなに長くないですし。いずれにせよ、いい将棋が見られたら、それでオッケーだと思います」
ですね、はい。
私も似たようなコメントをしておいた。
というわけで、いよいよ決勝戦。
休憩時間はまだあるので、みなさん、ごゆるりと。
以上、現場からでした。




