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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第46局 決勝トーナメント・準決勝(2015年8月4日火曜)
591/682

579手目 準決勝の総括

※ここからは、内木うちきさん視点です。

 さあ、いよいよクライマックスへ。

 と、その前に、準決勝の総括、しちゃいましょう。

 今回は将棋仮面が抜けて、私と伊吹いぶきさんで担当。

 まずは、石鉄いしづちvs吉良きらから。

 大盤の前に立って、あいさつ。

「内木レモンです。決勝開始まで、少々お時間があります。準決勝の振り返りを担当させていただきますので、よろしくお願い致します」

 私は一礼。

 一方、伊吹さんは、手を大きく振って、

「みなさん、よろしくお願いしまーす」

 とアピール。

 私は大盤のほうへ向きなおった。

 局面は、すでにできあがっている。

 プレーオフの総括と同じで、ポイントだけ押さえていく形式だ。

「それでは、石鉄選手と吉良選手の対局からです。大盤解説で盛り上がった局面は、省かせていただきますので、ご了承ください」

 休憩時間は短いから、さくさくいく。


【石鉄vs吉良 135手目】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、

「びっくり、この手が疑問だったみたいです」

 と切り出した。

 私は、

「パッと見で悪手、というわけではなさそうですが」

 と返した。

「そうなんですよねえ。でも正解は、7一角と一回打って、8二金に8七銀でした。石鉄くんにインタビューしたところ、7一角は見えていたそうですが、8七銀は盲点になっていたようです。思い浮かばなかった、と言ってました」

 ここまではシナリオ通り。

 アドリブへ移行する。

 とはいえ、ふたりで好き勝手に解説すると、めちゃくちゃになる。

 だから、片方が聞き手、もう片方が解説役を引き受けることに。

 もちろん、ずっと聞き手だと面白くない。

 交互にやることになった。

 今回は私が聞き手。じゃんけんで負けたから。

 私は、

「8七銀と打つのは、なぜですか? 8八銀成で、引っ張り出されますよね?」

 と質問した。

「以下、7七金、同桂、8九金、9七玉で、手詰まりになるからでーす」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、7七の地点をゆびさして、

「本譜の7七銀は、8八銀成、同玉に、6七金と絡む手が生じちゃいました。7八の地点が空いているから、受けになっていないんです」

 と説明した。

「なるほどぉ、そこで7一角としても遅かった、というわけですか」

「ですです」

 金の離れ打ちを見つけた吉良先輩がお見事、という印象。

 お次は、鬼首おにこうべvs大谷おおたに


【鬼首vs大谷 117手目】

挿絵(By みてみん)


 今度は私が解説役。

「この対局は、評価値の変動が派手な一戦でしたね」

 伊吹さんは、

「ですねー、じつはこの時点だと、大谷さん優勢です」

 と、かぶせてきた。

 こら、解説は私。

 まあ、あんまり揉めてもしょうがないから、スルーしておく。

 90手目あたりから、ずーっと大谷先輩が有利を拡大していた。

 大盤解説のほうは、そういう雰囲気じゃなかったと記憶している。

 私は、7五に桂馬を置いた。

「これが疑問手で、一気に形勢が逆転しました」

「この手はさっきの7七銀とは違って、大盤でも不評だったみたいですぅ」

 打ちたくなる気持ちはわかる。

 角筋を止めていて、6七の金に利いている。

 いかにも攻防。

 だけど、8六の角は、寄せと関係がなかった。

 大谷先輩も、時間が残っていれば気づいたと思う。

 伊吹さんは、

「ちなみに、正解はなんだったんでしょうか?」

 と訊いてきた。

「6九銀とひっかけてもよかったですし、5九金とべったり貼り付けてもよかったです。最善は、おそらく6五桂と打つ手です」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、

「詰めろですねえ」

 と、ひとことでわかりやすく説明。

「はい、6三歩成、同玉、6四銀、5二玉、6九歩と打ち直すことになりますが、4七銀と絡んでいって、後手勝勢です。5八に紐づいていないのが、大きいんですね」

 それでは、早乙女さおとめvs萩尾はぎおへ。


【早乙女vs萩尾 103手目】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは腕組みをした。

「うーん、難しい対局でしたね、どうまとめましょうか」

 私が解説役でも、そうなる。

 この対局は、ほんとうに難しかった。

 とりあえず、会話の糸口をつなげておく。

「早乙女選手の早投げが印象的でした」

「6六桂の意味については、大盤で散々やったので、今回は省略しましょうか。本局のポイントは、評価値が互角の段階で、先手の指す手が難しくなってしまったことですね」

「と言いますと?」

 伊吹さんは、大盤をゆびさした。

「この7七桂の時点なら、評価値はほぼ互角です。が、AIの推奨手を指していくと、だんだん後手に振れてしまいます。一例として、8五桂、8六銀打、9五香に、8二歩も考えられました」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、すらすらと並べながら、

「これも、7一飛、7二歩、9一飛と位置調整したあと、9五香、同飛、9六歩、7七桂成、同銀、8六桂と進めていって、後手がよくなっていきます」

 と締めくくった。

「いわゆる水平線効果というやつでしょうか?」

「そうとも言えそうです」

「では、本譜の進行そのものは、最善だった、と?」

「最善の定義次第ですね~」

 その逃げ方はズルいでしょ。

 最後に、捨神すてがみvs囃子原はやしばら


【捨神vs囃子原 112手目】

挿絵(By みてみん)


 私が再度解説役。

「本局は、終盤が大盛り上がりでしたね」

「会場では、先手負けっぽい空気でした。まさか詰まないとは~という感じです」

「そのあたりは、葦原あしはら選手たちが解説してくださいました。そこで触れられなかったポイントだけ、ご紹介します。本譜は同角でしたが、いろいろありそうな局面です」

「レモンちゃんなら、どうしますか~?」

 これも半分茶番なんだけど、ちょっと悩む仕草。

「そうですね……飛車先が重くなったので、2六か4六へ、角を引きたいです」

「ふむふむ」

 ちなみに、この手は対局中に見えてましたからね? ほんとですよ?

 4六角以下は、3四香、7五角と、金をイジメる進行。

 2六角の場合は、2四香で角に当てる順が生じる。でも痛くない。

 どちらも先手持ちになる。

 つまり、捨神先輩のミスは、ここで同角と強く取ってしまったことだ。

 私は、もうひとつ、囃子原先輩のミスへと移った。


【捨神vs囃子原 149手目】

挿絵(By みてみん)


 私は持ち駒の銀を手にした。

 3七にそえる。

「囃子原選手は、ここで単に3七銀と打ち込んだほうが、よかったみたいです。局後のインタビューでも、そうおっしゃっていました」

「本譜は逆転してたんですかね?」

「逆転はしていません。ただ、勝ち筋が細くなってしまいました。3七銀と突っ込んで、1八玉、3八馬、同金、1五歩と端攻めに持ち込んだほうが、先手は苦しかったです」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 伊吹さんは、

「2六銀と受けたら、1七銀で困りますね」

 と補足した。

 同玉は1六歩で論外として、同銀も1六歩で厳しい。

 以下、同銀、1七歩、同玉、1六香、同玉と吊り出される。

 私はマイクを持ちなおした。

「それでは、全体的な感想へ移りたいと思います。伊吹さん、準決勝をご覧になられて、いかがでしたか?」

「いやあ、さすがにレベルが高かったですね。長手数の詰みもありましたし、奇手も出ましたし、奇跡的な不詰みもありました。4つの大盤を回るのは大変でしたが、解説の選手のみなさんの読みも、すごかったです」

 けっこういいコメント。

 伊吹さんは、私のほうにも感想を求めた。

「大盤解説を担当してくださった選手のかたがたに、あらためて感謝いたします。私たちの質問にも、丁寧に答えていただきました。また、観客席のみなさまにも、この場を借りて御礼申し上げます」

 かるく会釈をした。

 会場から拍手が起こる。

 最後は、決勝へ向けての意気込みを。

「伊吹さん、決勝についてなにかコメントはありますか?」

「それって勝敗予想ですか?」

「あ、勝敗予想は、ちょっと控えていただけると……」

「ぶっちゃけ、ここまできたら体力勝負なんじゃないですかねえ。休憩時間も、そんなに長くないですし。いずれにせよ、いい将棋が見られたら、それでオッケーだと思います」

 ですね、はい。

 私も似たようなコメントをしておいた。

 というわけで、いよいよ決勝戦。

 休憩時間はまだあるので、みなさん、ごゆるりと。

 以上、現場からでした。

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