47手目 高校生男子の部A3回戦 奥村vs根津(1)
※ここからは、奥村くん視点です。
いやあ、喰った、喰った。
たまには都会でファーストフードっちゅうのも、おつだべ。
「奥村先輩、おごってくれて、ありがとうございます」
「先輩が後輩におごるのは、あたりまえだべ」
亘っちに後輩ができたら、おごってやってくんろ。
「それにしても、優勝は、かなり厳しいですね……」
「アッハッハ、うえのほうは、暇をもてあました神々のあそびだべ」
おらたちは、気楽に指すべ。
「次は兎丸のチームだね。わくわくするよ」
このヤマアラシみたいな髪をした野生児は、ゲンキっちだべ。
北東ブロックの1年では、一番つよいべ。
ちなみに、次の当たりは、ちゃーんと調べてあるべ。
おらvs根津っち、亘っちvs潔っち、ゲンキっちvs兎丸っち。
いいとも悪いとも言えない当たりだべ。
「おれっち、うさぎ狩りは得意なんだ。まかせてよ」
「兎丸っちは、うさぎの皮をかぶった狼だべ。気をつけるべ」
あのさわやかスマイルの下には、するどい牙があるべ。おらには分かる。
《これより、午後の部をおこないます。選手は着席してください》
「よっしゃ、狩りの時間だべ」
テーブルへむかうと……だれもいないべ。おじけづいたべか?
「あ、奥村先輩、こんにちは」
おっと、あらわれたべ。
このバンダナにそばかすの男前が、根津っちだべ。
「今日はよろしくお願いします」
「中堅同士、しょっぱい将棋を指すべ」
駒を並べるべ。このときが、意外と楽しかったりするべな。
「根津っち、調子はどうだべ?」
「まずまずですね」
根津っちは2連勝してるべからな。
おらは、1回戦に昴っちと当たったのが痛かったべ。
《振り駒をしてください》
「奥村先輩、どうぞ」
「やらせてもらうべ」
しっかりかきまぜるべ。
「ほりゃ……歩が3枚、おらたちが奇数先だべ」
「1年生、偶数先」
中堅同士の戦いに、先後あんまり関係ないべ。
《対局準備の整っていないところはありますか?》
ないべ、ないべ……ん? 女子のほうが騒がしいべ。ごきぶりでも出たべか?
「あれ? 西野辺先輩のチームが、いないですよ?」
根津っちのコメントにつられて、女子のほうをみてみたべ。
……ほんとにいないべ。3つとも椅子が空いてるべ。
「2連敗して、棄権したべか?」
「棄権なら、事前に連絡してると思いますが」
茉白っちなら、しない可能性もあるべ。
「もう29分ですね」
「だったら、不戦勝だべ」
うらやましい……とは思わないべ。将棋指さない将棋祭りは、たのしくないべ。
ドタドタドタ
ん? だれだべ? ろうかは走っちゃダメだべ。
と思ったら、茉白っちたちが飛び込んできたべ。
「ま、間に合った……ッ!」
「誰よッ!? 1時半集合とか言ってたのッ!?」
「あんたでしょッ! 髪お化けッ!」
集合時間と開始時間を、まちがえたらダメだべ。
うらやまの猿でもわかるべ。
《ほかに準備のととのっていないところは、ありますか?》
今度こそ、ないべ。
《では、始めてください》
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いするべ」
7六歩だべ。
「3四歩です」
6六歩、8四歩、6八飛、6二銀。
普通だべな。
「王様を囲うべ。4八玉」
4二玉、3八玉、3二玉、2八玉。
「5四歩、と……奥村先輩と指すのは、ひさしぶりですね」
「そりゃそうだべ。去年は中学と高校で会えなかったべ。7八銀」
中高合同の大会は、ないべからな。
根津っちのいる七日市市と、おらの三好市は、遠いから交流もないべ。
「3八銀としないんですね……これは、アレですか」
そうだべ、アレだべ。
8五歩、7七角、5二金右、6七銀、5三銀、4六歩。
あんま考えてないけど、おらたちのレベルじゃ、どうせとがめきれないべ。
序盤はテキトーでいいんだべ。
3三角、5八金左、2二玉、3六歩。
ほーら、根津っちも、さんざん焦らしてるべ。
「1二香です」
「5六銀だべ」
4四歩、1八香。振り穴だべ!
「ぼんちっち先輩との研究成果を、みせてやるべ!」
「あ、そういえば、凡地先輩、来てないんですね」
「ぼんちっち先輩は、ワイン祭りのてつだいで、来れないべ」
農業は一家総出だから、たいへんなんだべ。
「なるほど、ぜひお会いしたかったんですが……1一玉」
1九玉。相穴だべな。
2二銀、2八銀、3一金、3九金、4三金。
ここで9八香とあがっておくべ。
「それにしても、けっこうな面子がそろいましたよね、今日は」
7四歩
「んだべ、もうちょっと戦力ばらけたほうが面白いべ」
7八飛。
「どこが優勝すると思いますか?」
5一角。
「もちろん、おらたちのところだべ……と言いたいけんども、ムリだべな」
「81Boysとプレアデスのどっちかだと思うんですけど」
とかなんとか言いながら、根津っちのチームも2連勝だべ。
「そういや、ちょうどそのふたつが当たってるべ」
「あ、そうですね」
これは、みものだべ。
「ちょっくら、観に行ってくるべ」
「え? 対局中ですよ?」
「大丈夫だべ、時間はたっぷりあるべ」
おらが9分、根津っちが8分、余裕だべ。
よっこらしょと。
81Boysとプレアデスは、運営席のまんまえだべ。
順番にみていくべ。
【先手:六連昴 後手:捨神九十九】
まさに頂上決戦だべ。
九十九っちの角交換型振り飛車に、昴っちの居飛車。予想どおりだべな。
これは、6五歩、同歩、同銀、7三桂と仕掛けたようにしかみえないべ。
5六銀、8四歩、8八玉。しばらくは駒組みが続きそうだべ。
後手は、すきがあれば6二飛と回りてえとこだな。
お次は、悟っちと通っちだべ。
【先手:御城悟 後手:並木通】
矢倉は将棋の純文学だべ。
と言いたいけんど、先手の形は、なんだか変わった純文学だべ。
普通なら、悟っち有利だべが……並木ブーストがあるべ。
通っちは、連勝すればするほど、棋力があがるべ。
今2連勝だから、レーティングで+300〜+400くらいいってるべ。
インチキだべ。
最後は、勇人っちたちだべな。
【先手:大文字勇人 後手:魚住太郎】
アッハッハ、こういうのが見たかったんだべ。
居飛車穴熊vs四間飛車。アマチュアの花形だべ。
最近はプロだとめったにみれなくなって、さみしいべな。
それにしても、こいつはどうすんだべ。6六角、3六歩みたいな展開か?
そこから2六飛と浮いて……おっと、いけないべ。観戦し過ぎたべ。
おらが席にもどると、局面はそのまんま。あたりまえだべ。
3分使っちまったけんど、いいもんがみれたべ。
「どうでしたか?」
「持ち時間減らさずに状況だけ訊くのは、せこいべ」
「あ、すみません」
根津っちは、すなおだべな。
「冗談だべ。九十九っちのところが角交換型振り飛車、悟っちのところが矢倉、太郎っちのところがイビ穴に四間飛車だったべ……4五歩」
もう仕掛けるべ。
「角道を開けずに仕掛けるんですか……」
「銀はちゃんと利いてるべ」
根津っちは、ちょっくら考え始めたべな。
おらも続きを考えるべ。あんま深く読んでないっちゅうのが真相だ。
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………………
よく分かんないべ。
4八飛とも回れねえし、ちょっと早まったかもしれないべ。
「同歩と取りますね」
「同銀だべ」
7三角(いいところに出られちまったべな)、5六銀、4四銀。
「6五歩だべ。間に合ったべ」
田植えと角道開けは、タイミングが大事だべ。
「奥村先輩だけ、一方的に攻めてますね……」
そうでもないべ。どこをどうみたら、そうなるんだべ。
「桂馬も跳ねられないし……8六歩と突いておきます」
あんれ? 8筋から攻めてくるべか? ムリだべ。
「同歩だべ」
「3三金」
ん……こいつは、おらのセンサーに引っかかるべ。
ただの手待ちじゃないべ。なんかあるべ……ああ、4二飛だべ。
(※図は奥村くんの脳内イメージです。)
8六歩と突いたのは、このとき8六角とあがれないようにするためだべ。
根津っちも、なかなか深謀遠慮だべな。
おらもちょっくら考えないといけなくなったべ。8八飛、4二飛は、速度負けしてる気がするべな。8八飛、4二飛、8五歩、4五銀、同銀、同飛、4七歩……あんれ? 意外と止まってるべか? だけど、ここは根津っちを信頼したほうがよさそうだべ。おらが離席しているあいだに、いろいろと考えたはずだべ。
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…………………
………………
あ、ちがうべ。8八飛と回ったら、4二飛とはしてこないべ。
5五歩、4七銀(6七銀だべか?)、4五歩くらいで、押さえられて困るべ。
コレに対処するには……4八金だべか?
5五歩、4七銀、4五歩、3七金で間に合って欲しいべ。
ただ、7筋が薄くなるのも気になるべ。わけわかんなくなってきたべ。
ピッ
しかも30秒将棋だべかッ!?




