表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
59/682

47手目 高校生男子の部A3回戦 奥村vs根津(1)

※ここからは、奥村おくむらくん視点です。

挿絵(By みてみん)


 いやあ、喰った、喰った。

 たまには都会でファーストフードっちゅうのも、おつだべ。

奥村(おくむら)先輩、おごってくれて、ありがとうございます」

「先輩が後輩におごるのは、あたりまえだべ」

 (わたる)っちに後輩ができたら、おごってやってくんろ。

「それにしても、優勝は、かなり厳しいですね……」

「アッハッハ、うえのほうは、暇をもてあました神々のあそびだべ」

 おらたちは、気楽に指すべ。

「次は兎丸(うさまる)のチームだね。わくわくするよ」

 このヤマアラシみたいな髪をした野生児は、ゲンキっちだべ。

 北東ブロックの1年では、一番つよいべ。

 ちなみに、次の当たりは、ちゃーんと調べてあるべ。

 おらvs根津(ねづ)っち、亘っちvs(きよし)っち、ゲンキっちvs兎丸っち。

 いいとも悪いとも言えない当たりだべ。

「おれっち、うさぎ狩りは得意なんだ。まかせてよ」

「兎丸っちは、うさぎの皮をかぶった狼だべ。気をつけるべ」

 あのさわやかスマイルの下には、するどい牙があるべ。おらには分かる。

《これより、午後の部をおこないます。選手は着席してください》

「よっしゃ、狩りの時間だべ」

 テーブルへむかうと……だれもいないべ。おじけづいたべか?

「あ、奥村先輩、こんにちは」

 おっと、あらわれたべ。

 このバンダナにそばかすの男前が、根津っちだべ。

「今日はよろしくお願いします」

「中堅同士、しょっぱい将棋を指すべ」

 駒を並べるべ。このときが、意外と楽しかったりするべな。

「根津っち、調子はどうだべ?」

「まずまずですね」

 根津っちは2連勝してるべからな。

 おらは、1回戦に(すばる)っちと当たったのが痛かったべ。

《振り駒をしてください》

「奥村先輩、どうぞ」

「やらせてもらうべ」

 しっかりかきまぜるべ。

「ほりゃ……歩が3枚、おらたちが奇数先だべ」

「1年生、偶数先」

 中堅同士の戦いに、先後あんまり関係ないべ。

《対局準備の整っていないところはありますか?》

 ないべ、ないべ……ん? 女子のほうが騒がしいべ。ごきぶりでも出たべか?

「あれ? 西野辺(にしのべ)先輩のチームが、いないですよ?」

 根津っちのコメントにつられて、女子のほうをみてみたべ。

 ……ほんとにいないべ。3つとも椅子が空いてるべ。

「2連敗して、棄権したべか?」

「棄権なら、事前に連絡してると思いますが」

 茉白(ましろ)っちなら、しない可能性もあるべ。

「もう29分ですね」

「だったら、不戦勝だべ」

 うらやましい……とは思わないべ。将棋指さない将棋祭りは、たのしくないべ。

 

 ドタドタドタ

 

 ん? だれだべ? ろうかは走っちゃダメだべ。

 と思ったら、茉白っちたちが飛び込んできたべ。

「ま、間に合った……ッ!」

「誰よッ!? 1時半集合とか言ってたのッ!?」

「あんたでしょッ! 髪お化けッ!」

 集合時間と開始時間を、まちがえたらダメだべ。

 うらやまの猿でもわかるべ。

《ほかに準備のととのっていないところは、ありますか?》

 今度こそ、ないべ。

《では、始めてください》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いするべ」

 7六歩だべ。

「3四歩です」

 6六歩、8四歩、6八飛、6二銀。


挿絵(By みてみん)


 普通だべな。

「王様を囲うべ。4八玉」

 4二玉、3八玉、3二玉、2八玉。

「5四歩、と……奥村先輩と指すのは、ひさしぶりですね」

「そりゃそうだべ。去年は中学と高校で会えなかったべ。7八銀」

 中高合同の大会は、ないべからな。

 根津っちのいる七日市(なのかいち)市と、おらの三好(みよし)市は、遠いから交流もないべ。

「3八銀としないんですね……これは、アレですか」

 そうだべ、アレだべ。

 8五歩、7七角、5二金右、6七銀、5三銀、4六歩。


挿絵(By みてみん)


 あんま考えてないけど、おらたちのレベルじゃ、どうせとがめきれないべ。

 序盤はテキトーでいいんだべ。

 3三角、5八金左、2二玉、3六歩。

 ほーら、根津っちも、さんざん焦らしてるべ。

「1二香です」

「5六銀だべ」

 4四歩、1八香。振り穴だべ!

「ぼんちっち先輩との研究成果を、みせてやるべ!」

「あ、そういえば、凡地(ぼんち)先輩、来てないんですね」

「ぼんちっち先輩は、ワイン祭りのてつだいで、来れないべ」

 農業は一家総出だから、たいへんなんだべ。

「なるほど、ぜひお会いしたかったんですが……1一玉」

 1九玉。相穴だべな。

 2二銀、2八銀、3一金、3九金、4三金。


挿絵(By みてみん)


 ここで9八香とあがっておくべ。

「それにしても、けっこうな面子がそろいましたよね、今日は」

 7四歩

「んだべ、もうちょっと戦力ばらけたほうが面白いべ」

 7八飛。

「どこが優勝すると思いますか?」

 5一角。

「もちろん、おらたちのところだべ……と言いたいけんども、ムリだべな」

「81Boysとプレアデスのどっちかだと思うんですけど」

 とかなんとか言いながら、根津っちのチームも2連勝だべ。

「そういや、ちょうどそのふたつが当たってるべ」

「あ、そうですね」

 これは、みものだべ。

「ちょっくら、観に行ってくるべ」

「え? 対局中ですよ?」

「大丈夫だべ、時間はたっぷりあるべ」

 おらが9分、根津っちが8分、余裕だべ。

 よっこらしょと。

 

 81Boysとプレアデスは、運営席のまんまえだべ。

 順番にみていくべ。


【先手:六連(むつむら)(すばる) 後手:捨神(すてがみ)九十九(つくも)

挿絵(By みてみん)


 まさに頂上決戦だべ。

 九十九っちの角交換型振り飛車に、昴っちの居飛車。予想どおりだべな。

 これは、6五歩、同歩、同銀、7三桂と仕掛けたようにしかみえないべ。

 5六銀、8四歩、8八玉。しばらくは駒組みが続きそうだべ。

 後手は、すきがあれば6二飛と回りてえとこだな。

 お次は、(さとる)っちと(とおる)っちだべ。


【先手:御城(ごじょう)さとる 後手:並木(なみき)(とおる)

挿絵(By みてみん)


 矢倉は将棋の純文学だべ。

 と言いたいけんど、先手の形は、なんだか変わった純文学だべ。

 普通なら、悟っち有利だべが……並木(なみき)ブーストがあるべ。

 (とおる)っちは、連勝すればするほど、棋力があがるべ。

 今2連勝だから、レーティングで+300〜+400くらいいってるべ。

 インチキだべ。

 最後は、勇人(はやと)っちたちだべな。


【先手:大文字(だいもんじ)勇人(はやと) 後手:魚住(うおずみ)太郎(たろう)

挿絵(By みてみん)


 アッハッハ、こういうのが見たかったんだべ。

 居飛車穴熊vs四間飛車。アマチュアの花形だべ。

 最近はプロだとめったにみれなくなって、さみしいべな。

 それにしても、こいつはどうすんだべ。6六角、3六歩みたいな展開か?

 そこから2六飛と浮いて……おっと、いけないべ。観戦し過ぎたべ。

 おらが席にもどると、局面はそのまんま。あたりまえだべ。

 3分使っちまったけんど、いいもんがみれたべ。

「どうでしたか?」

「持ち時間減らさずに状況だけ訊くのは、せこいべ」

「あ、すみません」

 根津っちは、すなおだべな。

「冗談だべ。九十九っちのところが角交換型振り飛車、悟っちのところが矢倉、太郎っちのところがイビ穴に四間飛車だったべ……4五歩」


挿絵(By みてみん)


 もう仕掛けるべ。

「角道を開けずに仕掛けるんですか……」

「銀はちゃんと利いてるべ」

 根津っちは、ちょっくら考え始めたべな。

 おらも続きを考えるべ。あんま深く読んでないっちゅうのが真相だ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 よく分かんないべ。

 4八飛とも回れねえし、ちょっと早まったかもしれないべ。

「同歩と取りますね」

「同銀だべ」

 7三角(いいところに出られちまったべな)、5六銀、4四銀。

「6五歩だべ。間に合ったべ」


挿絵(By みてみん)


 田植えと角道開けは、タイミングが大事だべ。

「奥村先輩だけ、一方的に攻めてますね……」

 そうでもないべ。どこをどうみたら、そうなるんだべ。

「桂馬も跳ねられないし……8六歩と突いておきます」

 あんれ? 8筋から攻めてくるべか? ムリだべ。

「同歩だべ」

「3三金」

 ん……こいつは、おらのセンサーに引っかかるべ。

 ただの手待ちじゃないべ。なんかあるべ……ああ、4二飛だべ。


挿絵(By みてみん)


 (※図は奥村くんの脳内イメージです。)


 8六歩と突いたのは、このとき8六角とあがれないようにするためだべ。

 根津っちも、なかなか深謀遠慮だべな。

 おらもちょっくら考えないといけなくなったべ。8八飛、4二飛は、速度負けしてる気がするべな。8八飛、4二飛、8五歩、4五銀、同銀、同飛、4七歩……あんれ? 意外と止まってるべか? だけど、ここは根津っちを信頼したほうがよさそうだべ。おらが離席しているあいだに、いろいろと考えたはずだべ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、ちがうべ。8八飛と回ったら、4二飛とはしてこないべ。

 5五歩、4七銀(6七銀だべか?)、4五歩くらいで、押さえられて困るべ。

 コレに対処するには……4八金だべか?

 5五歩、4七銀、4五歩、3七金で間に合って欲しいべ。

 ただ、7筋が薄くなるのも気になるべ。わけわかんなくなってきたべ。

 

 ピッ


 しかも30秒将棋だべかッ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ