564手目 インタビュータイム
※ここからは、葉山さん視点です。
だーッ、決勝トーナメント進出の選手に、取材だーッ!
私はホテル内を右往左往。
みんなどこにいるのか、まったく把握できていない。
犬井くんは、
「自然体の状態で、インタビューする……っていう葉山さんの企画、けっこう冒険だよね」
と煽ってきた。
今それを言わないで。犬井くんも同意したでしょ。
ようするに、こう。選手が会場から出て来た瞬間、インタビューをかける。これなら楽勝。だけど、対局直後で、気持ちがまとまってないだろうし、長い時間をかけられない、という問題があった。複数の選手が同時に出てきたら、順番待ちになってしまう。それに、なんだか杓子定規になりそう。
というわけで、あとから見つけ出してインタビュー、という作戦。だけど、居場所がわかんないから、まずは捜さないといけない。
犬井くんはスマホを見て、
「とりあえず、剣さんと連絡取れた。囃子原くんは、最上階の展望台にいるみたい」
と教えてくれた。
「了解ッ!」
エレベーターで上がる。
そんなに大きくないけど、そこそこの広さのある展望台。
背もたれのない、ソファー型の椅子が、いくつか置かれていた。
半円筒形で、ガラス窓がぐるりと半周している。
いるかな……あ、いたいた。
何人かのお客さんに混じって、タブレット作業をしていた。
邪魔しちゃ悪いかな……でも、すぐに話しかけないと、うしろがどんどん詰まる。
私は思い切って声をかけた。
「囃子原くーん」
囃子原くんは、タブレットから顔を上げずに、
「剣から、話は聞いている。始めてくれたまえ」
と返してきた。
いやあ、プレッシャー。
ひとまず、囃子原くんの正面に座った。
「えー、お取込み中のところ、すみません……決勝トーナメントに向けて、コメントをいただきたいかな、と」
「予選をトップで通過できたのは、僥倖だ。負けにした局面も、何度かあったように思う。決勝トーナメントのメンバーは、強豪ぞろいだ。どの選手と当たっても、厳しい戦いが予想される。一局一局、よい将棋を指したい……このような感じで、いいかね?」
うわあ、超テンプレじゃん。
用意してたっぽい。
でもこれは、予想の範囲内。
テンプレ質問だったから、テンプレ回答になるわけだよね、うん。
「ここからは、突っ込んだ質問しても、いいですか?」
「してみなければ、わからないな」
じゃあ、しちゃいます。
「捨神くん、吉良くん、それから石鉄くんと鳴門くんのどっちか、この3人と戦う可能性があるわけですが、対策はもう練ってます?」
囃子原くんは、タブレットをひざのうえに置いた。
「ほんとうに突っ込んだ質問だな」
答えにくいのは、わかる。
会場の出口で訊いたら、はぐらかされたはず。
ただ、このシチュでも、答えてもらえないかもしれない。
私は、おとなしく待った。
「僕に選択権があるわけではない。特に先手番のときは、後手次第だ」
「後手番でなにかやりたいな、と思うものは?」
「吉良くん、石鉄くん、鳴門くんがあいてなら、7六歩、8四歩の出だしから、角換わりを予定している。もっとも、受けてくれれば、だが」
あ、そこまで教えてくれちゃうんだ。
ちょっと驚いた。それが顔に出たのか、囃子原くんは笑って、
「あくまでも予定だ。仮にきみたちが漏らしたとしても、これ自体が情報戦とも言える」
とからかってきた。
「いえ、絶対漏らしません」
「世の中に絶対はない」
ぐぅ、そう言われると反論できない。
「ちなみに、捨神くんあいてだと?」
「角交換型四間が本命だ。僕が急戦にするか、持久戦にするかだな」
「どっちにします?」
囃子原くんは、ここで初めて考えた。
そうだな、と言って、展望台から、外の風景を眺める。
「……穴熊など、どうだろう」
ふーん、と思ったら、犬井くんが割り込んだ。
「角交換型四間に穴熊って、そこそこ珍しくないですか?」
囃子原くんは、
「珍しいほうが、観客も飽きなくていい」
と返した。
犬井くんは、
「そうですね……今のがブラフじゃなければ、ですが」
と、なんだか危ない会話。
あんまり深堀りしないほうが、いいかも。次の質問、行ってみよう。
私は手帳をめくった。
「決勝トーナメントのあいてには、予選で勝った選手と、負けた選手がいますよね。決勝トーナメントで再戦するとき、どういう風に感じますか?」
これも会場の出口では、聞けない質問だと思う。
囃子原くんは、ちょっと余裕のある笑みをみせた。
「特になにも」
むむむ、それは虚勢? それとも本音?
「本当に気になりません? スポーツでも、予選で勝ったあいてに、決勝で負けたら、いろいろ言われますよね? 野球のクライマックスシリーズとか……あれは予選と決勝って関係じゃないかもしれませんが、似たような感じじゃないですか?」
囃子原くんは、ふむ、とひと呼吸おいて、
「日日杯の方式については、昔からいろいろと言われている」
と、すなおに認めた。
「ですよね。総当たり→トーナメントの方式って、そんなに多くないと思います。例えば野球なら、総当たりのあと、もう一度番勝負ですし、サッカーワールドカップは、リーグ戦のほうが総当たりじゃないです。総当たりにした時点で、もう決着ついちゃってるんじゃないかな、という気もするんですが……」
囃子原くんは、いい質問だ、と言ってくれた。
「とはいえ、そこまで考えているなら、なぜ総当たり→トーナメント方式でやっているのかも、おおよそ察しがついているのではないかね?」
「あ、はい……イベントとして工夫した結果、ですよね。総当たりでトップを決めるのは、ぶっちぎられたとき、とちゅうでダレます。クライマックスシリーズの導入は、そういう理由でしたし……ワールドカップのほうは、リーグの偏りが不平等、っていう批判があります。あっちのリーグで2位になるほうが、こっちのリーグで3位になるより簡単じゃん、っていうケース、毎回あります」
「そう、そして最初からトーナメントだと、1回戦で強豪同士がぶつかったとき、困る。あらゆる方式には、それぞれ固有のデメリットがあるわけだ」
「だから、再戦については気にしない、と?」
「そうだ」
なるほどね。
私はメモをとった。
「ありがとうございました。決勝トーナメント、がんばってください」
そのあとは、ホテルの内外を走り回って、ノルマをこなす。
インタビューの結果は、似たり寄ったりな部分と、はっきり違った部分とに分かれた。手帳をまとめると、こんな感じ。
【吉良義伸(K知)】
取材時刻 12:41 取材場所 ホテル内のレストラン
①決勝トーナメントへの意気込み
やるだけのことはやる 勝負は水物 優勝は当然目指す
②決勝トーナメントの秘策
言えるわけないだろ
③予選との関係
決勝トーナメントは決勝トーナメント
と言いたいが 予選でやり残したことはある
〔葉山メモ〕捨神くんのこと?
【捨神九十九(H島)】
取材時刻 13:19 取材場所 ホテル近くの喫茶店
①決勝トーナメントへの意気込み
決勝のことは考えていない 目の前の対局に全力を尽くす
②決勝トーナメントの秘策
ない 自分の戦法は決まってる いつも通りやるだけ
③予選との関係
予選は反省点が多かった 集中力不足
決勝トーナメントは恥ずかしくない将棋を指したい
〔葉山メモ〕質問の意図があまり伝わらなかったかも?
【萩尾萌(Y口)】
取材時刻 13:55 取材場所 ホテル近くの公園
①決勝トーナメントへの意気込み
一局一局を大切に……とか言わない 優勝を目指す
②決勝トーナメントの秘策
ある けど教えない
③予選との関係
予選の勝ち負けは関係ない 予選トップも特に意味はない
【鬼首あざみ(O山)】
取材時刻 14:23 取材場所 ホテル前のメック
①決勝トーナメントへの意気込み
気合いは大事だが気合いだけじゃ勝てない
気合いはメンタルケアの問題
〔葉山メモ〕わりとまともなこと言っててびっくり
②決勝トーナメントの秘策
ねーよ
③予選との関係
以前の勝ち負けをどうこう言うやつはアホ
【早乙女素子(H島)】
取材時刻 14:40 取材場所 ホテルの自室
①決勝トーナメントへの意気込み
将棋にメンタル面から挑んだことはない
②決勝トーナメントの秘策
秘策は秘密にするから秘策なのでは?
〔葉山メモ〕はい
③予選との関係
予選は過去の対戦成績 参考程度に
【石鉄烈(E媛)】
取材時刻 14:57 取材場所 ホテルの自室
①決勝トーナメントへの意気込み
対戦相手はみんな格上 とにかく食らいついていきたい
〔葉山メモ〕プレーオフ上がりなのを気にしている?
②決勝トーナメントの秘策
正直もう出し尽くした 小細工なし
③予選との関係
予選の成績は実力を反映していると思う
なかったことにはできない 受け止めて前に行く
残るは大谷さんのみッ! 間に合え、インタビューッ!




