44手目 高校生男子の部A2回戦 六連vs三国(2)
ボードのうえが飽和したら攻める。
それが僕のジャスティス。
「ほお、気性が荒いな……同歩」
同金、3五歩、2六金。まずは棒金の形に移行。
「このまま金銀交換でもいいが……いや、マズいか。2四歩」
それを待ってた。
「3六歩」
僕は、歩を打ち直す。
「ん? 千日手狙いか?」
三国先輩は、そこでハッとなった。
「し、しまった、同歩、3五歩か」
ピッ。ここで三国先輩が30秒将棋。
「くッ、これは避けられんッ! 同歩ッ!」
3五歩、2三銀、3六金。
位を奪還した。
「ほ、本格的にやることがなくなったか……」
三国先輩は、盤面におおいかぶさる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5一銀ッ!」
3七桂、5二銀。銀の組み替えか。手待ちにみえる。
後手がパーミッション系のデッキなら警戒するところだけど、これは将棋。
カウンター魔法もドローエンジンもライフゲインもない。純粋な殴り合い。
「4五歩」
たたみかける。
同歩、同桂、2二角、6五桂。
この形で最強の、W桂馬跳ね。さらに角筋も通す。
ここで、僕も30秒将棋になった。
「む、角交換させてくれるのか」
三国先輩は、8八角成と飛び込んだ。
同金、6四角。これは4六歩で、冷静に止める。
僕が一番恐れないといけないもの、それは、飛車を渡すこと。先手陣は、飛車の打ち込みに弱過ぎる。逆に、飛車さえ渡さなければ、暴れてもいい形。2八にいる飛車が取られることは、まずありえない。取られるとしたら、相当なうっかりだ。
「桂馬がまえに出過ぎだぞッ! 4四歩ッ!」
「5三桂右成」
同銀、同桂成、同角。桂馬2枚と銀の交換。普通なら損だ。
「カードゲームには、等価交換という概念がないのか?」
「あります。むしろ、カード・アドバンテージは、重要な概念です」
「だったら、駒は大切にしないといかんぞ。なぜ駒損する?」
「それは……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
「対戦ゲームの本質は、勝利条件の達成であって、コレクションではないからです」
決められたライフの削減。相手のライブラリーアウト。あるいは、カードに書かれた特殊な勝利条件を満たすこと。自己のライブラリーアウトから特定のカードを揃えるまで、様々だ。でも、将棋のそれはシンプル。相手の王様を寄せること。
「駒得は裏切らない。同歩」
「2四歩」
僕が打った歩を、三国先輩はすぐに取ろうとした。
けど、指が離れるまえに、サッともどした。
「と、取れない……だと……?」
バレた。取ったら、5一角。
(※図は六連くんの脳内イメージです。)
「い、1二銀」
これで、あの銀はリタイア。
フィールドにあるカードでも、ロックしてしまえば使えない。同じように、盤上の駒が戦力になるとは限らない。もとになる知識は、小学生のころから持っている。
「5二角」
敵陣に角を打ち込んで、浸蝕を始める。
8二飛、6一角成、6四桂。
このままだとジリ貧だから、さすがに反撃してきた。
4七銀は5五桂で追撃される。
「5五銀」
まえへ。
「つ、強い……だが、最善……」
三国先輩は、5四歩、6六銀引と押さえてから、4五歩。
これは、はっきり遅い。
「5二銀」
4二金引が絶対だから、6三銀成にほぼ0手で移れる。
本譜も、そのとおりに進んだ。
「うぬぬ……ひねり出せ、俺……」
三国先輩は、歯を食いしばって読む。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6五歩だッ!」
ん? これは? 7七銀、4四角、6四成銀……8五桂?
そこから6六歩、7七桂成、同金、6六歩、同銀、同角、同金、8七飛成。
これでも勝ちな気がする……ただ、龍は怖い……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6五同銀ですッ!」
ひるまない。
6六歩、同銀、4四角、6七歩。こっちのほうが安全だ。
不思議なことに、攻めていたほうが守れるという局面は、たしかに存在する。
「うッ……このままでは攻めが止まる……」
止まったら3四桂で勝ち。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6六角ッ!」
切ってきた。同歩、5五桂。
4七銀と6七銀を同時には防げない。けど、防ぐ必要もない。
「6四銀」
じっと桂馬を回収しておく。
三国先輩は、4七銀。次に5九桂で完封ペースだから、しかたがない。
僕は6八玉と逃げて、3六銀不成に5五銀、同歩、6四角。
「は、8四飛か? しかし、5一馬で……」
8四飛は5一馬、8三飛、3四桂が詰めろ。
3三銀と重ねても5二成銀とすり寄って勝ち。同金と取れない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
三国先輩は、9二飛を選択した。
「3四桂」
これがどうしても痛打。僕は、終局の手応えを感じた。
あとは、暴発して駒を渡しまくったりしなければいい。
「さ、3三銀……」
「2三桂」
単に4二桂成よりも、こっちのほうが確実。
同銀、同歩成、同金、2四歩。これを同銀なら4二桂成、同金なら2二歩。
とにかく、清算を急がないのがポイント。駒は渡さない。
「き、金を取らないのか……2二金」
三国先輩は、2四歩に力なく金を引いた。
ここでようやく4二桂成と反転。同銀、5二成銀。
4一金は同成銀、同玉、5一金、3一玉(同銀は3一金の一手詰み、3二玉はまず2三銀と打って、同金、同歩成、同玉、3四馬、2二玉、2三金、3一玉、3二金打まで)、4一金打、3二玉、2三銀、同金、同歩成、同玉、3四馬、2二玉、2三金まで。
「欲に駆られず、壁金を利用した寄せか……投了する」
「ありがとうございました」
一礼して終了。僕の役目は果たせた。
あとは、並木くんか大文字先輩が勝てばOK。
だけど、そのまえに感想戦だ。
三国先輩は、しばらく目を閉じて、頭のうしろをこつこつと叩いた。
「ふーむ、うまくやられてしまったな」
「序盤は、三国先輩のほうが、うまく立ち回っていたと思います」
「その実感はあったんだが……やっぱり、7三桂で勝負か」
僕たちは、中盤までもどした。
「このタイミングで、7三桂ですか?」
「いくつかある気がする……第一候補は、ここだ」
「5六銀右と出ます」
僕は、銀を進出させる。後手が油断したら、そのうち6五桂だ。
「本譜は4四歩で攻めっ気がなくなった。2三歩にしてみるか」
これは、6五桂と跳ねるよりも、右を動きたくなる。
「4五銀、同銀、同歩だと?」
「それは8九銀、7九金、8七飛成」
そうか、8九に銀を打てるのか。
「4五歩と伸ばすと、どうします?」
「それが一番無難でめんどうか……」
三国先輩は、ふたたび髭をなでた。
《70分が経過しました。これより5分切れ負けになります》
どうやら、午前の部はあと10分で終わりみたいだ。
「ふぅ、あと10分か……さっさと8五桂から交換するのは、どうだ?」
同桂、8八角成、同金、8五飛。
「5五角なら、4四角で消せるな。9一角成には8八角成だ」
僕は30秒ほど考えて、7七桂と打った。
「む……中途半端に8二飛なら、5五角か……8一飛」
「7二角」
僕の角打ちに、三国先輩はウーンとうなった。
「厳しいな……俺のほうが全体的に悪いということか……8五桂から暴れるなら、3六歩、同歩、7五歩、同歩、8五桂と、全部からめたほうが良かったかもしれん」
【参考図】
「それは成立してないと思います」
「なんでだ? 同桂、8八角成、同金、8五飛、7六角には、7五飛があるぞ?」
「1一角成、7九飛成の瞬間、2一飛成で詰みます」
三国先輩は、あたまを掻きながら、大声で笑った。
「こいつはうっかりした」
「ですから、本譜と同じように、2三歩が必要だと思います」
「勘で打った2三歩、まぐれ当たりとは痛快だ」
そのひとことに、僕はチラリと、女子のエリアを見やった。
「どうした? かわいい子でもいるのか?」
「……女子には、とても勘のいい選手がいるそうですね」
僕のつぶやきに、三国先輩はこくりとうなずいた。
「ああ、獄門の神崎だろ」
「強いんですか?」
三国先輩は、ちょっと驚いたような顔をした。
そのあいだも、8五桂に代えて、2三歩と打ち直す。
「もちろん。10秒将棋なら県内で最強。指したことないのか?」
「……ありません。ほかにも、強い3年生がいると聞きました」
「ああ、桐野、吉備、裏見、南海、乃々村、凡地……たくさんいるぞ」
僕は、女子のほうを眺めつつ、4五歩を決めた。
「4五歩か……3六歩、同歩、7五歩、同歩、8五桂、同桂、8八角成、同金、8五飛、7六角、7五飛、7七歩、6四桂とするが、どうだ?」
【参考図】
「なるほど……7七歩のところで6五歩と打っても、8四桂ですか」
「ハハハ、女に気が散ってるから、そういうことになるんだぞ」
気が散っていたわけじゃない。ただ……いや、反論はよそう。
「8五桂の筋があるなら、本譜よりもイヤですね。おとなしく6六歩ですか」
「そうだな。こうしておけばよかった。6六歩なら、3六歩からの攻めはない」
このあたりは、また要検討だ。
《全試合が終わりました。ただいまより、昼食休憩に入ります》
終了のアナウンス。
《午後の対局は、13時30分から開始します。遅れないようにご注意ください》
会場内に、話し声と椅子をひく音が木霊する。
「どうやら、終わったみたいだな。解散するか。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
僕が席を立つと、すぐに並木くんが話しかけてきた。
「おつかれさま」
「おつかれ。どうだった?」
「僕も大文字先輩も勝ったよ」
3−0か……これで首位。第2ラウンドは、僕らにツキがあった。
それに、並木くんが勝ったのは大きい。彼にはアレがあるからね。
「ようやく終わったか」
扇子でパタパタと仰ぎながら、大文字先輩が現れた。
「メシは、どうする?」
そう言えば、昼食休憩だった。大会中は、どうも空腹を忘れてしまう。
水筒に入れてきたアイスコーヒーがあれば、夕方まではもちそうだ。
「コンビニ定跡でいいんじゃないですか?」
と並木くん。
コンビニは、ちょっと……。
「僕の知ってる店があるんで、そこにしませんか?」
「うーむ、六連の知ってる店は、高そうだからなあ」
大文字先輩は、扇子でポンと肩を叩いた。
「1時間しかないから、あんまりゆっくりできないよ」
並木くんも、遠回しに反対。
それも、そうか。1時間後に再開だから、実質的には50分くらいしかない。
「大会の日は、コンビニ争奪戦になるんだ。早く行かないとなくなるよ」
ここは、並木くんたちの言うとおりにしよう。続きは、また午後に。
場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生男子の部Aクラス 2回戦
先手:六連 昴
後手:三国 義明
戦型:縦歩取り
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲2六飛 △8五飛 ▲9六歩 △6二銀
▲7七桂 △8六飛 ▲4八玉 △9四歩 ▲3八銀 △4一玉
▲3九玉 △4二銀 ▲1六歩 △3一玉 ▲3六飛 △4四角
▲8七歩 △3五歩 ▲2六飛 △8四飛 ▲4六歩 △3三銀
▲2八飛 △3四銀 ▲4七銀 △5二金 ▲6八銀 △4二金右
▲4八玉 △7四歩 ▲6六歩 △同 角 ▲6七銀 △3三角
▲3八金 △2三歩 ▲5六銀右 △4四歩 ▲4七金 △1四歩
▲5八玉 △4三金直 ▲3六歩 △同 歩 ▲同 金 △3五歩
▲2六金 △2四歩 ▲3六歩 △同 歩 ▲3五歩 △2三銀
▲3六金 △5一銀 ▲3七桂 △5二銀 ▲4五歩 △同 歩
▲同 桂 △2二角 ▲6五桂 △8八角成 ▲同 金 △6四角
▲4六歩 △4四歩 ▲5三桂右成△同 銀 ▲同桂成 △同 角
▲2五歩 △同 歩 ▲2四歩 △1二銀 ▲5二角 △8二飛
▲6一角成 △6四桂 ▲5五銀 △5四歩 ▲6六銀引 △4五歩
▲5二銀 △4二金引 ▲6三銀成 △6五歩 ▲同 銀 △6六歩
▲同 銀 △4四角 ▲6七歩 △6六角 ▲同 歩 △5五桂
▲6四銀 △4七銀 ▲6八玉 △3六銀不成▲5五銀 △同 歩
▲6四角 △9二飛 ▲3四桂 △3三銀 ▲2三桂 △同 銀
▲同歩成 △同 金 ▲2四歩 △2二金 ▲4二桂成 △同 銀
▲5二成銀
まで127手で六連の勝ち




