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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第44局 日日杯4日目(2015年8月4日火曜)
557/681

545手目 ぐだぐだ

※ここからは、毛利もうりさん視点です。

挿絵(By みてみん)


 えーい、ぜんぜんわからないかたちになってしまった。

 しかも両取り。すでに悪いか。

「両取り逃げるべからず。7三桂成」

「同桂ですじょ」

 ここで5四銀。つっこむ。

 すみれは4五桂で、角を取った。

 同銀引、6五角、4六飛、5四桂。


挿絵(By みてみん)


 ん? 飛車が死んだ? ……死んでない……いや、死んでるか?

 同銀、同銀のあと、5五銀打とされたら、死んでるな。

 しかし、そのまえに6六銀と打てば、回避でき……ダメか。飛車を移動すると、3六飛と走られて、突破されてしまう。

 すみれも、

「これはどうみても後手優勢ですじょ」

 と言った。

 そうかもしれない。

 どこでまちがった? 中央に殺到するのが、よくなかったか?

 反省してもしょうがない。

「とりあえず同銀だ」

 同銀、6六銀で、角銀交換に持ち込む。

 すみれは無視して5五銀打と重ねた。

 もう切るしかない。

「4二飛成」


挿絵(By みてみん)


 同角、6五銀、同桂。

 手順に桂馬が跳ねてきた。

 やはり先手が悪いか。飛車打ちにそこそこ強いのだけが、とりえ。

 反撃しないとどうしようもないが、打つ手もない。

「攻防だ。2五角」

 すみれは首をかしげた。

「それ攻防になってますかじょ?」

 うーん、どうだろう。

 銀は守れているが、角筋はすぐに止まりそうだ。

 とはいえ、ほかに思いつかなかったのだから、しょうがない。

「4三歩ですじょ」

 4六歩がなくなっただけ、よしとしよう。

 私はさらに6九桂と打った。


挿絵(By みてみん)


 後手はなんだかんだで、持ち駒が少ない。

 ムリ攻めをしてもらって、逆転を狙う。

 プロがあいてではないから、有力な作戦だぞ、これは。

 すみれも悩んでいる。

「じょ~……いろんな手がありますじょ……」

 残り時間は、私が8分、すみれが7分。

 案外にいい勝負ではないか?

 アマの対決で、評価値とか意味ないぞ。

 すみれは1分使って、3八銀と打ち込んだ。

 けっこうな直接手だ。

 取ると死ぬので、2八金とかわす。

 3九銀成、3七金、8一飛。


挿絵(By みてみん)


 ん、イヤな手がきた。

 じつはさっきから、そっちのほうが気になっていた。

 大山おおやま康晴やすはるの棋譜でも、アッと驚く飛車の大回転(未遂)があったからな。

「8八歩」

 じらす。

 すみれは2四角と出た。

 4六桂、2八飛、4八金、1五角、2六桂。


挿絵(By みてみん)


「ぐ、ぐだぐだになりましたじょ」

 どうだ、格下には格下の戦い方があるのだ。

 ここですみれは大長考。

 残り1分になるまで考えて、6五の桂馬をさわった。

 さらに数秒悩んで、5七桂成。

 同玉、5六歩、5八玉、4六銀。

 ん? これは? ……同歩に6五桂か?

 そのときは6六銀で、また受けることにしよう。

「同歩」

「5七桂ですじょ」


挿絵(By みてみん)


 うッ、読んでない手がきた。しかし──

「それは筋が悪くないか?」

「結果がすべてですじょ」

 正論……か? 騙されているような気もするが。

 うーむ、どうしたものか。私も時間がない。

 同桂はないだろうから、6六桂と反撃しておこう。

「6五銀ですじょ」

 それは受けるのか。困った。


 ピッ


 私のほうが先に1分将棋。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「4四銀ッ!」


挿絵(By みてみん)


 頭突きで攻める。

「じょ~、これはさすがに読んでないですじょ」


 ピッ


 すみれも1分将棋に。


「4九桂成ですじょッ!」

 受け駒がないから、さすがに攻めてきたな。

 放置は頓死するので、受け……いや、そのまえに王手しておこう。

「4三角成」

 すみれは6二玉と寄った。」

 ここで3八歩と打っておく。

 4八成桂、同玉、6六銀、同歩、2九飛成。


挿絵(By みてみん)


 明らかに遅いのではないか?

 後手の攻めは切れたようにみえる。

「6五桂だ」

 5三馬以下の簡単な詰めろだ。3手。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 すみれは7一玉と逃げた。

 7筋に歩が利くので、7三歩。

 6二金、5三銀成。

 一手一手になってきた。勝利は目前。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「3八成銀ですじょッ!」


挿絵(By みてみん)


 なんだこれは? タダ捨て……6九龍の回り込み?

 6九龍が詰めろだったりするのか?


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「ど、同金」

 すみれは6九龍と回った。

 これは詰めろ……いや、詰めろなわけがない。2八が空いているのだから、助かる。

 私は切り替えて、攻めを読んだ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 6二成銀と入る。同玉は詰みだ。

 8二玉、7二歩成、9三玉。


挿絵(By みてみん)


 詰まないか? それとも詰みを考えないほうがいいか?

 過信せずに後者でいくか。

「8一とだ」

 すみれは前のめりで、私の陣地を見ている。

 7八龍だろうな。

 斜めうしろに利く駒がないから、3七に逃げてオッケー。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


 7八龍、3七玉。

 すみれは8四玉と立った。

 粘る気か。神妙に寄せられて欲しい。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「8二飛」

 8三桂、7三桂成、同玉、7二成銀、8四玉。

 馬が利いているから、入玉もないだろう。

 7三銀、7五玉、6五馬、8六玉。

「これで終わりだな。8七金」


挿絵(By みてみん)


 すみれはのけぞった。

「負けましたじょ」

「ありがとうございました」

 これで初日はつひだ。初勝利。長かった。

「じょ~、どっかでめちゃんこミスりましたじょ」

「じっさいに後手優勢だったのか?」

「一方的に攻めてたから、優勢のはずですじょ」

 すみれによると、8一飛がよくなかった、とのことだった。

 たしかに、本譜でもけっきょく成りこめなかった。

 すみれが代わりに示したのは、すぐに2八飛と打つ手だった。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「これも4八金ではないか?」

「そこで3六飛と切って、同角に4九銀ですじょ」

「……なるほど、6八玉、4八飛成、7九玉、5八銀成で、ほぼ寄りか」

「飛車を切る手が見えなかったのは、不覚でしたじょ」

 飛車を切りたくない気持ち、わかる。

「こちらはどこで間違えたのか、よくわからなかった」

「いつの間にか、すみれがよくなっていましたじょ」

 角銀に両取りをかけられたところだろうか。

 だとすると、かなり前から悪かったことになるな。

「毛利先輩、すみれは疲れちゃいましたじょ。続きは、またあとでやりますじょ」

「私もだ。インタビューを終わらせて、お昼ご飯にしよう」

 一礼して、終わり。

 私はインタビューコーナーへ向かった。

「もしもし」

《Ms.モウリ、nice gameデース》

「キャシーか、おつかれさまだ」

《粘ったかいがありましたネ。とちゅう負けだと思ったヨ》

「やはりそうだったか。どこが悪かった?」

《ワカリマセーン》

 ずっこける。

《Ahaha, sorry, but so complicated...Ms.アワジ、どう?》

 イヤホンの声が変わった。

《おつかれさまです。H庫の淡路あわじです》

「おつかれさまだ」

《今のご質問ですが、解説席でも、よくわからなかったところがあります。飛車を渡した時点では、明確に悪いのではないかと思いますが》

「しかし、あそこは切るしかなかった」

《はい、ただあそこで切るならば、そのまえに角と刺し違えたほうが、よかったのではないかと》


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 なるほど、納得した。

「たしかに、詰んでるなら最初から切れ、という話だな」

《もちろん、金と交換したほうがいい局面もありますが、本譜は角と交換しておいたほうが、安全だったように思います》

「そうだな、あとでもえたちとも、いろいろ話してみる」

《承知しました。4日間、ほんとうにおつかれさまでした》

《See you later》

 インタビュー、終わり。

 私はほかのメンバーをさがした──萌がいないな。

 その代わりに、亜季あきは見つかった。

 ホワイトボードのまえで、結果を眺めていた。

「おーい、亜季、終わったか?」

「あ、毛利先輩、おつかれさまです」

「おつかれさまだ。勝ったぞ」

 亜季は、あ、そうなんですか、と言ったあとで、

「おめでとうございます」

 と返した。

 私は周囲を見回す。

「萌はどうした? 松陰まつかげ嘉中ひろなかもいないが?」

「3人とも、会場を出ました。萩尾はぎお先輩は、決勝の準備ではないですか?」

 そうか、決勝トーナメント組は、ここからが本番だな。

「女子の決勝進出は、だれになった?」

「萩尾先輩、鬼首おにこうべさんが決まりで、磯前いそざき先輩、大谷おおたに先輩、早乙女さおとめさんはプレーオフです。最後はかなり競ったようです」

「男子は?」

「男子もさきほど決まりました。結果は……」

場所:第10回日日杯 4日目 女子の部 17回戦

先手:毛利 輝子

後手:那賀 すみれ

戦型:横歩取り


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲5八玉 △5二玉 ▲3四飛 △8八角成

▲同 銀 △7六飛 ▲7七銀 △2六飛 ▲2八歩 △7二金

▲3六飛 △2四飛 ▲8六飛 △8二銀 ▲6六銀 △4二銀

▲3八金 △3三桂 ▲7七桂 △8三歩 ▲2七歩 △9四歩

▲2八銀 △7四歩 ▲3六歩 △4四歩 ▲8四歩 △同 歩

▲同 飛 △2一飛 ▲3五歩 △4三銀 ▲7四飛 △7三銀

▲7六飛 △7四歩 ▲5六角 △4五歩 ▲8六飛 △4二金

▲9六歩 △8四歩 ▲3七桂 △5四歩 ▲4五桂 △同 桂

▲同 角 △2五飛 ▲3七銀 △3五飛 ▲3六銀 △3一飛

▲6五銀 △8五歩 ▲同 桂 △3七歩 ▲3九金 △7五角

▲7六飛 △5三桂 ▲7三桂成 △同 桂 ▲5四銀 △4五桂

▲同銀引 △6五角 ▲4六飛 △5四桂 ▲同 銀 △同 銀

▲6六銀 △5五銀打 ▲4二飛成 △同 角 ▲6五銀 △同 桂

▲2五角 △4三歩 ▲6九桂 △3八銀 ▲2八金 △3九銀成

▲3七金 △8一飛 ▲8八歩 △2四角 ▲4六桂 △2八飛

▲4八金 △1五角 ▲2六桂 △5七桂成 ▲同 玉 △5六歩

▲5八玉 △4六銀 ▲同 歩 △5七桂 ▲6六桂 △6五銀

▲4四銀 △4九桂成 ▲4三角成 △6二玉 ▲3八歩 △4八成桂

▲同 玉 △6六銀 ▲同 歩 △2九飛成 ▲6五桂 △7一玉

▲7三歩 △6二金 ▲5三銀成 △3八成銀 ▲同 金 △6九龍

▲6二成銀 △8二玉 ▲7二歩成 △9三玉 ▲8一と △7八龍

▲3七玉 △8四玉 ▲8二飛 △8三桂 ▲7三桂成 △同 玉

▲7二成銀 △8四玉 ▲7三銀 △7五玉 ▲6五馬 △8六玉

▲8七金


まで151手で毛利の勝ち

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